呼吸筋サルコペニアとは(要点)
呼吸筋サルコペニアは、呼吸筋力の低下と呼吸筋量の低下が併存する状態です。診断は段階付け(possible → probable → 確定)で行い、筋力は MIP/MEP、筋量は横隔膜超音波や CT などで評価します。臨床では、まず簡便指標で拾い、確定評価へ進める流れが実用的です。
加齢で何が落ちるか(スクリーニングの着眼点)
加齢に伴い、MIP・MEPの系統的低下、PEFR/CPFの低下、横隔膜厚さ変化率(thickening fraction)の低下が観察されます。値の絶対化より、同一条件での縦比較と症状・機能との統合解釈が重要です。横隔膜 TF は下限目安が報告されていますが、研究間ばらつきに留意して“推移”を重視します。
評価フロー(簡便→確定)
①簡便指標:PEFR/CPF、発声持続時間、SNIP など → ポジティブなら
②確定評価:MIP/MEP(口腔内圧)、横隔膜エコー(厚さ・TF・可動性)。呼吸評価の実務ガイドも併せて参照。
指標 | 主目的 | 現場の使いどころ |
---|---|---|
PEFR/CPF | 咳流量・排痰力の推定 | 感染期の重症化リスク把握、排痰戦略の選択 |
SNIP | 吸気筋力の簡便推定 | MIP 低値時の“真の弱さ”の補助判断 |
MIP/MEP | 確定的な筋力評価 | IMT 初期負荷の設定、縦比較の基準化 |
横隔膜US(厚さ/TF/可動性) | 筋量・機能の複合評価 | 廃用や病態変化のモニタリング、適応/禁忌の判断 |
測定のコツ(ATS/ERS に準拠)
- MIP/MEP:鼻クリップ、漏れ対策、3–5 回の反復で最良値採用。体位は統一。
- SNIP:短く自然な努力で実施(学習効果に配慮)。
- 横隔膜US:同一肋間・同一呼吸相、厚さ変化率(TF)を記録。
介入:IMT(吸気筋トレーニング)の実践方針
標準例:30 呼吸 × 1–2 セット/日・週 5–7 日・6–8 週。初期30–50%PImaxで開始し、RPE 4–6を目安に漸増。歩行・下肢筋トレ・排痰法・栄養と併用し、SpO₂低下・胸痛・失神前駆などは中止。
IMT の詳細手順・増負荷ルールは別記事:IMT 手順と負荷設定【プロトコル】 に集約します。
安全管理(禁忌・中止基準)
- 禁忌例:不安定な循環器疾患、急性呼吸不全、急性胸痛、治療未調整の重度高血圧など。
- 中止:著明な息切れ・SpO₂ 低下・胸痛/失神前駆・重度のめまい・新規不整脈所見。
まとめ
簡便指標で拾い、標準化手順で確定評価。IMT を中心に全身運動・排痰・栄養を組み合わせ、縦比較で“変化”を追う。これが高齢者の呼吸筋サルコペニア対策の最短ルートです。