
いつも当サイト(rehabilikun blog)の記事をお読みいただき誠にありがとうございます。また、初めましての方はよろしくお願い致します。サイト管理者のリハビリくんです!
この記事は「咳テスト」をキーワードに内容を構成しております。こちらのテーマについて、もともと関心が高く知識を有している方に対しても、ほとんど知識がなくて右も左も分からない方に対しても、有益な情報がお届けできるように心掛けております。それでは早速、内容に移らせていただきます。
咳テストは不顕性誤嚥のスクリーニングのために開発された検査法になります。現在までの研究で高い精度を示し、不顕性誤嚥のスクリーニングに有用であることが示されています。咳テストを用いることで、咳を誤嚥の徴候(指標)として使えるか否かを判断することが目的となります。
不顕性誤嚥を精査するには VE や VF を実施することが望まれますが、環境や職種によっては実施が困難な場合もあるかと思います。そのような場合に、咳テストはスクリーニングテストとして有効となります。
こちらの記事では咳テストについて、より詳細に解説していきたいと思います!

【簡単に自己紹介】
30代の現役理学療法士になります。
理学療法士として、医療保険分野と介護保険分野の両方で経験を積んできました。
現在は医療機関で入院している患者様を中心に診療させていただいております。
臨床では、様々な悩みや課題に直面することがあります。
そんな悩みや課題をテーマとし、それらを解決するための記事を書かせて頂いております。
理学療法士としての主な取得資格は以下の通りです
登録理学療法士
脳卒中認定理学療法士
褥瘡 創傷ケア認定理学療法士
3学会合同呼吸療法認定士
福祉住環境コーディネーター2級
咳テストとは

咳テストは、霧化した咳誘発物質を吸入させ、咳反射の有無や強さを評価するスクリーニング検査です。特に、不顕性誤嚥(むせない誤嚥)の有無を確認する目的で用いられます。
従来の摂食嚥下スクリーニングでは、不顕性誤嚥が見逃される可能性が指摘されており、実際にベッドサイド評価だけでは約 40 %が見落とされているとの報告もあります。誤嚥性肺炎の予防には、この不顕性誤嚥を早期に検出することが重要であり、そのニーズから咳テストが開発されました。
不顕性誤嚥とは

「不顕性誤嚥(ふけんせいごえん)」は、別名「むせない誤嚥」や silent aspiration(静かな誤嚥) とも呼ばれます。文字通り、誤嚥が生じても咳やむせといった防御反応が現れない状態を指します。
誤嚥と喉頭侵入
まず「誤嚥」とは、嚥下時に食物や唾液などが声門を越えて気道内に侵入することです。健常者では、異物が喉頭に入る「喉頭侵入」が起こると、反射的に咳やむせが生じ、侵入物を排出します。この防御機構によって、誤嚥の多くは回避されます。
不顕性誤嚥の特徴
不顕性誤嚥では、この防御反応が欠如または低下しているため、異物が気道に入り込んでも自覚症状がなく、時間をかけて気道や肺で炎症を引き起こします。発生は食事中だけでなく、特に就寝中に多く、口腔内の唾液が無意識のうちに気道へ流入することで起こります。
発生要因とリスク
健常者でも発生することはありますが、免疫力や口腔衛生状態が良好であれば重大な問題には至りにくいです。しかし、高齢者や要介護者では免疫低下、嚥下反射の遅延、口腔内環境の悪化などが重なり、誤嚥性肺炎の重大なリスク要因となります。
さらに、多剤服用も影響します。睡眠薬、抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬などは中枢抑制により咳反射を鈍化させ、抗コリン薬は口腔乾燥を助長します。これらは不顕性誤嚥のリスクを一層高めます。
臨床的意義
不顕性誤嚥は本人が自覚しにくく、発見が遅れることが多いため、早期発見と評価が重要です。その一つが「咳テスト」であり、嚥下反射や咳反射の機能低下を簡便にスクリーニングできます。リスクの高い患者では、定期的な評価と口腔ケア、嚥下訓練の組み合わせが予防に有効です。
評価方法とカットオフ値

- 準備
超音波式またはメッシュ式ネブライザーにクエン酸溶液(通常は0.8mol/L前後)を入れ、霧化します。
- 実施
霧を口から吸入させ、最低 30 秒間継続します。評価者は、この間に生じる咳やむせの回数をカウントします。
- 判定基準(カットオフ値)
- 2008 年基準:1 分間に 5 回以上で陰性、4 回以下で陽性
- 2012年 Satoら基準(現在主流):30 秒間で 1 回以上咳が出れば陰性(正常)、0 回であれば陽性(不顕性誤嚥疑い)
- 実施環境
2014 年以降は、携帯可能なメッシュ式ネブライザーでも有用性が報告され、病棟・在宅など場所を問わず実施可能になっています。
他の摂食嚥下スクリーニングとの併用
咳テストは咳反射を評価するもので、嚥下反射の評価はできません。そのため、改訂水飲みテスト(MWST)など嚥下反射を評価できるスクリーニングと併用することで信頼性が高まります。
例:MWSTで嚥下反射を評価、咳テストで防御反射を評価
この組み合わせにより、MWST で正常と判定されても見逃される可能性のある不顕性誤嚥を検出できます。
咳反射に影響を及ぼす因子
咳テストはスクリーニングであるため、偽陽性(誤嚥はないのに陽性)や偽陰性(誤嚥があるのに陰性)が発生します。咳反射の閾値に影響を与える要因は以下の通りです。
- 喫煙(喫煙者では咳閾値が上がる)
- 性別(男性より女性のほうが咳閾値が低い)
- 睡眠(就寝時は咳反射が減弱する)
- 加齢(70 歳までは有意に低下しないが、認知機能や活動性の低下により咳反射が低下する)
- 脳血管疾患、パーキンソン病、意識障害、統合失調症(ドパミンの減少により咳反射が低下する)
これらの背景を踏まえ、評価結果は他の情報と併せて総合的に判断する必要があります。
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
咳テストは、不顕性誤嚥の発見と誤嚥性肺炎予防において有用なツールです。
簡便に実施でき、他のスクリーニングと組み合わせることで精度が高まり、リハビリ介入の可否や内容の判断に役立ちます。定期的な評価と口腔ケア・嚥下訓練を組み合わせることで、誤嚥性肺炎の発症リスクを低減できます。
参考文献
- 若杉葉子,戸原玄,中根綾子,後藤志乃,大内ゆかり,三尊伸哉,竹内周平,高島真穂,都島千明,千葉由美,植松宏.不顕性誤嚥のスクリーニング検査における咳テストの有用性に関する検討.日摂食嚥下リハ会誌.2008,12(2),p109-117.
- 水野幸太郎,川野理,深井一郎.摂食・嚥下サポートチームによる周術期嚥下機能評価の意義─不顕性誤嚥性肺炎の予防策─.日呼外会誌 .2011年,25巻,6号,p600-603.
- 三鬼逹人.誤嚥と誤嚥性肺炎の要因 – 誤嚥のタイプと不顕性誤嚥から誤嚥性肺炎の要因を考える.ブレインナーシング.34(2),p178-179,2018.