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「食べれない?」「食べたくない?」

食べ物を思うように食べたり、飲んだりできなくなることは「(食べたいのに)食べることができない」と「(そもそも)食べたくない」に大別されます。
「(食べたいのに)食べることができない」と「(そもそも)食べたくない」にはそれぞれ特有の原因があり、対処法および介入方法も異なります。
これらは高齢者が多く入院する医療機関では日常的に遭遇する症状となります。効果的な介入が施されないと栄養状態の増悪、合併症の発症にも繋がるため、直接的に生命予後にも関わる重大な問題となります。
以下に「(食べたいのに)食べることができない」と「(そもそも)食べたくない」の原因をあげます。
【(食べたいのに)食べることができない】
- 摂食嚥下障害
- 日常生活動作能力(ADL)の低下
- 社会的要因(介護力不足、経済的要因等)
- 消化管の問題
【(そもそも)食べたくない】
- 味覚や嗅覚の低下
- 視力の低下
- 口腔内のトラブル
- 活動量の低下に伴う必要エネルギー量の低下
- 認知機能の低下
- 精神面の影響
- 薬の多剤服用
- 疼痛
「(食べたいのに)食べることができない」場合の原因の大半は摂食嚥下障害となります。
摂食嚥下障害は単に摂取量の低下を引き起こすだけではなく、誤嚥による肺炎発症リスクを上昇させるため、生命予後にも大きく関わります。
社会的要因では介護力や経済力が関係します。昨今、高齢者世帯の貧困が深刻化していると社会問題になっていますが、日常生活動作能力(ADL)が低下している高齢者に介護力や経済力がなければ食事摂取量は低下すると考えられます。
「(そもそも)食べたくない」要因は加齢に伴う食欲の減退が基盤に存在すると考えられます。歳をとるとさまざまな薬を服用する可能性が高くなりますが、多剤服用も食欲を減退させる原因になると報告されています。
また、加齢は食欲の減退だけに留まらず、味覚や嗅覚の機能低下、視力の低下、口腔内にトラブルが発生しやすくなります。
これらの要因が絡み合い、結果的に空腹感をあまり感じなくなったり、すぐに満腹感を感じたりするようになると、「(そもそも)食べたくない」という状態を引き起こします。
高齢者の食欲低下
基本的な考えとして、歳を取ると若い時と比較して活動性が低下するため、消費するエネルギー量が減少します。そうすると、食欲自体も低下していき、それに伴い食事量も減少します。
また、活動性の低下によるものだけではなく、味覚や嗅覚、視覚の低下、うつ状態、基礎疾患、服薬薬剤などによっても食欲は低下すると考えられます。
高齢者の食欲の低下は、低栄養を招き、サルコペニア、転倒、虚弱、免疫能の低下、感染症(肺
炎)、現病悪化のリスク要因となり、短期間のうちに死亡に至るようなこともあります。
これらのことから、栄養介入を「する」「しない」に関わらず、高齢者の食欲を評価することは重要な評価の 1 つになります。
しかし、食欲の評価方法としては、単に食欲の「有り・無し」を尋ねるか、関連した 2、3 個程度の質問項目のみで構成されたものがほとんどであり、信頼性・妥当性が認められた質問票が見当たらないということが課題となっていました。
そこで、2005 年に Margaret-Mary GW Wilson et al が食欲に関連深い 8 項目の質問から構成された Council on Nutrition Appetite Questionnaire(CNAQ)を開発しました。
CNAQ(Council on Nutrition Appetite Questionnaire)は 8 項目という簡便さを持ち合わせながら、妥当性が認められた質問票になります。
CNAQ-J とは?食欲チェックリスト

2005 年に Margaret-Mary GW Wilson et al によって開発された CNAQ ですが 2017 年には Tokudome らによって CNAQ-J(日本語版CNAQ)が開発されています。
先行研究によると、「CNAQ-J で食欲低下ありと判定された者は 3 か月間の体重減少者の割合が有意に高い」「CNAQ-J による食欲の評価は、要介護高齢者の 1 年累積生存率と有意に関連している」と報告されています。
これらのことから、 CNAQ-J は低栄養や体重減少が起こる前段階である「食欲低下」を早期に判定することが可能であり、かつその妥当性が証明されたスクリーニング法といえます。
CNAQ-J により食欲を評価することは、要介護高齢者の生活の質の維持向上、ならびに予後の改善に繋がる可能性があります。
CNAQ-J 評価項目

CNAQ-J は食欲に関連深い以下の 8 項目の質問から構成されています。
基本的には質問紙に対し自己記入で回答することを第一選択としますが、認知機能が低下している対象者においては、主たる介護者が評価することもできます。
- 食欲
- 満腹感
- 空腹感
- 食べ物の味
- 若い頃と比較した食べ物の味
- 食事回数
- 食事をした際の気分
- 普段の気分
各質問に対し、1 から 5 の 5 つの選択肢から最も当てはまるものを選択し、8 項目の合計点により状態を判定します。
CNAQ-J 使い方、評価方法

CNAQ-J の使い方についてわかりやすく説明していきます。
【最初の説明】
最近、1ヵ月間の食生活を思い出し、A ~ H の 8 つの質問に対し、1 ~ 5 の 5 つの選択肢から適当なものを 1 つ選択してください。
【A.:食欲はありますか?】
- ほとんどない
- あまりない
- ふつう
- ある
- とてもある
【B:食事をどのくらい食べると満腹感を感じますか?】
- 数口で満腹
- 3 分の 1 ほどで満腹
- 半分ほどで満腹
- ほとんど食べて満腹
- 満腹になることはほとんどない
【C:空腹感がありますか?】
- めったに感じない
- たまに感じる
- 時々感じる
- よく感じる
- いつも感じる
【D:食事の味はいかがですか?】
- とてもまずい
- おいしくない
- ふつう
- おいしい
- とてもおいしい
【E:若い頃と比べて食事の味はどうですか?】
- とてもまずい
- おいしくない
- 変わらない
- おいしい
- とてもおいしい
【F:食事は 1 日何回食べますか?】
- 1 日 1 回未満
- 1 日 1 回
- 1 日 2 回
- 1 日 3 回
- 1 日 4 回以上
【G:食事中に気分が悪くなったり、吐き気を感じることがありますか?】
- いつも感じる
- よく感じる
- 時々感じる
- まれに感じる
- まったく感じない
【H:普段、どのような気持ちですか?】
- とても沈んでいる
- 沈んでいる
- 沈んでもなく、楽しくもない
- 楽しい
- とても楽しい
CNAQ-J は全 8 項目を 1 ~ 5 点の 5 段階で判定する評価尺度になります。そのため、最高得点は 60 点となり、得点が高いほど食欲不振のリスクは低いという解釈になります。
一方、最低得点は 0 点となり、得点が低いほど食欲不振のリスクは高くなります。
CNAQ-J カットオフ値
CNAQ-J は 8 つの質問に回答するだけの簡単な質問票であり、該当する選択肢をチェックし、それに応じて合計点を算出します。
CNAQ-J の合計点は、得点が高いほど食欲不振のリスクは低く、得点が低いほど食欲不振のリスクが高いという解釈になりますが、カットオフ値としては以下のようなものが報告されています。
- 28 点以下:6 ヶ月以内に少なくとも 5 % の体重減少のリスクを示す
- 17 ~ 28 点:頻繁な再評価を必要とする
- 8 ~ 16 点:食欲不振の危険があり栄養カウンセリングを必要とする
まとめ
最後までお読みいただきありがとうございます!
この記事では「食欲チェックリスト(CNAQ-J)」をキーワードに解説させて頂きました。
こちらの記事を読むことで食欲チェックリスト(CNAQ-J)についての理解が深まり、低栄養リスクの早期発見や栄養管理への一助となれば幸いです。是非、最後までご覧になってください!
参考文献
- 井尻吉信.栄養スクリーニングの有用性と課題.臨床栄養.Vol.141,No.4,2022.9(臨時増刊号),p422-427.
- 渡邊裕.徳留裕子.高齢者を対象とした日本語版食欲調査票(CNAQ-J)の信頼性および妥当性の検討.厚生労働科学研究費補助金(長寿科学総合事業)分担研究報告書.
- 要介護高齢者の口腔・栄養管理のガイドライン2017.p41-43.
- 葛谷雅文.“食べない老人”への対応.日本老年医学会雑誌.46巻,1号,2009:1,p15-17.