骨粗鬆症の栄養管理|大腿骨近位部骨折後に迷わない食事設計
結論:大腿骨近位部骨折後の栄養管理では、まず食事量・体重減少・低栄養リスクを確認し、そのうえでCa(カルシウム)・ビタミンD・たんぱく質・ビタミンKの4要素を整理します。ただし、4つを同じ優先度で扱うわけではありません。骨粗鬆症の栄養療法ではCaとビタミンDを確認し、骨折後の回復では食事量とたんぱく質を切らさないことが重要です。
この記事では、大腿骨近位部骨折患者への食事の声かけを行うPTを想定し、①何をどれくらい意識するか ②PTがどこまで説明できるか ③CKD・ステロイド・ワルファリンでは何に注意するか、まで整理します。外来・病棟で「栄養リスク→不足する要素→例外→目標→再評価」を確認できるA4記録シートPDFも掲載しています。エネルギー必要量の算出、ONSの製品選定、術後の時系列管理は親記事に分け、本記事では「食事設計と患者指導」に絞ります。
骨粗鬆症の栄養は4要素を「同じ優先度」にしない
患者説明ではCa・ビタミンD・たんぱく質・ビタミンKの4要素で整理すると分かりやすいですが、それぞれの役割は異なります。最初に食事量と低栄養リスクを確認し、骨粗鬆症の栄養療法としてCa・ビタミンD、骨折後の回復を支える要素としてたんぱく質、食事全体で不足を避ける要素としてビタミンKを整理すると、優先順位をつけやすくなります。

| 栄養素 | 位置づけ | 確認の目安 | PTが見るポイント |
|---|---|---|---|
| Ca(カルシウム) | 骨粗鬆症の栄養療法で優先して確認する | 骨粗鬆症治療では700〜800 mg/日を目安にする | 乳製品・大豆製品・小魚・青菜などが日常的に入っているか |
| ビタミンD | Caの利用と骨・筋の両面から確認する | 骨粗鬆症治療では15〜20 μg/日を目安にする | 魚を食べる頻度や日中活動が極端に少なくないか |
| たんぱく質 | 骨折後の筋量・身体機能回復を支える | 高齢者では少なくとも1.0 g/kg/日を基準に病態で個別化する | 主菜が毎食あるか、特に朝食で抜けていないか |
| ビタミンK | 骨の健康を支える食事の一要素として確認する | 食事全体で不足を避ける | 青菜・大豆食品の摂取と、ワルファリン使用の有無を確認する |
特に混同しやすいのがビタミンDです。「日本人の食事摂取基準(2025年版)」では18歳以上の目安量は9.0 μg/日ですが、骨粗鬆症治療では15〜20 μg/日の摂取が示されています。数字を患者へ伝える場合は、「一般的な食事摂取基準なのか、骨粗鬆症治療として確認する量なのか」を区別します。
食事を変える前に低栄養リスクを確認する
大腿骨近位部骨折後では、「骨に良い食品」を追加する前に、食事そのものが十分に入っているかを確認します。直近の体重減少、食事量低下、低BMIや筋量低下の手がかり、手術・感染・炎症などの疾患負荷があれば、4要素だけを追加しても全体の不足を補えないためです。
GLIMでは、体重減少・低BMI・筋肉量低下などのフェノタイプ基準と、食事摂取量減少・吸収不良、炎症・疾患負荷などのエティオロジー基準を組み合わせて低栄養を診断します。PTが単独で栄養診断を完結させるのではなく、体重・食事量・身体機能の変化を拾い、多職種による評価へつなげるための視点として活用します。
食事量そのものが大きく落ちている場合は、「Caを増やす」「魚を増やす」といった個別の栄養素よりも、まず食べられる量を確保する視点が優先されます。疼痛、悪心、便秘、疲労、食形態、嚥下機能など、摂取低下の背景もあわせて確認します。
Ca・ビタミンD・たんぱく質を食事へどう置き換えるか
数字だけを伝えても患者は行動へ移しにくいため、「不足している食品群を何で補うか」まで落とし込みます。最初からすべてを変えるのではなく、不足が大きい1〜2項目を見つけ、最初の行動目標は1つに絞ると再評価しやすくなります。
| 栄養素 | 主な食品例 | 患者説明の例 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| Ca | 牛乳、ヨーグルト、豆腐、小松菜、しらす、小魚 | 「Caを含む食品が毎日入っているか見てみましょう」 | CKDなどでは乳製品や大豆製品を単純に増やさない |
| ビタミンD | 鮭、サバ、イワシ、卵、きのこ類 | 「魚を食べる日が週に何回あるか確認しましょう」 | 食事だけでなく日照・活動状況も関係する |
| たんぱく質 | 魚、肉、卵、乳製品、大豆製品 | 「毎食、主菜が1品あるか確認しましょう」 | 急性疾患・低栄養・CKDなどでは必要量を個別化する |
| ビタミンK | 納豆、小松菜、ほうれん草、ブロッコリーなど | 「野菜や大豆食品が極端に少なくないか確認しましょう」 | ワルファリン使用中は一般的な食事指導をそのまま適用しない |
高齢者のたんぱく質は、健康な場合に1.0〜1.2 g/kg/日、急性・慢性疾患や低栄養リスクがある場合に1.2〜1.5 g/kg/日が提案されています。ただし、これは全員へ一律に処方する数字ではありません。腎機能、疾患、栄養状態、身体活動量などを踏まえ、必要に応じて医師・管理栄養士と調整します。
1日の組み合わせ例|和食ベース
次の献立は、4要素を食事の中でどう組み合わせるかを説明するための一例です。必要エネルギー量や各栄養素の必要量を満たすことを保証する個別の食事処方ではありません。咀嚼・嚥下機能、食欲、腎機能、食事制限などに応じて量・形態・食品を調整します。
| タイミング | 食事例 | 確認できる栄養要素 |
|---|---|---|
| 朝 | 納豆ご飯+豆腐と小松菜の味噌汁+ヨーグルト | たんぱく質・Ca・ビタミンK |
| 昼 | 鮭の塩焼き+青菜のおひたし+副菜 | ビタミンD・たんぱく質・Ca |
| 間食 | 牛乳またはヨーグルト | 食事だけで不足する場合のCa・たんぱく質の補完 |
| 夜 | 鶏肉の主菜+ブロッコリー+きのこ汁 | たんぱく質・ビタミンK・ビタミンDを含む食品 |
骨折後に食事量が落ちている場合は、栄養素だけを足すより「何なら食べられるか」を確認します。1回量を減らして回数を増やす、食べやすい形態へ調整する、食べやすい時間帯を探すなど、総摂取量を戻すための工夫を検討します。
PTが説明できる範囲と、多職種へ相談する境界
PTの役割は、栄養療法を単独で処方することではありません。リハビリテーション中に見える食事量低下・体重変化・身体機能低下を拾い、患者が実行できる行動へ落とし込み、個別の栄養管理が必要な場合は医師・管理栄養士・薬剤師などへつなぎます。
| PTが行いやすいこと | 多職種へ相談すること |
|---|---|
| 体重変化・食事量・主菜・乳製品・魚などの摂取状況を確認する | 個別のエネルギー必要量や厳密なたんぱく質量を設定する |
| Ca・ビタミンD・たんぱく質などの一般的な役割を説明する | CKDでのたんぱく質・リン・カリウムなどの摂取量を決める |
| チームで決めた食事目標が実行できたか確認する | ワルファリンなど薬剤との相互作用を個別に判断する |
| 疼痛、便秘、悪心、疲労、嚥下など食べにくい原因を拾う | 栄養補助食品やサプリメントを独断で選択する |
| 体重・食事量・身体機能の変化を再評価して共有する | 骨粗鬆症薬の開始・中止・変更を判断する |
患者から「この食品をどれだけ食べればよいですか」と聞かれた場合も、一般的な食品例や食事の考え方までは説明できます。一方、腎機能、薬剤、食事制限などの影響がある場合は個別処方へ踏み込まず、現在の指示を確認して多職種へつなぎます。
CKD・ステロイド・ワルファリンでは一般論をそのまま使わない
骨に良い食品であっても、病態や薬剤によっては単純に増やせない場合があります。特にCKD、ステロイド使用、ワルファリン使用がある場合は、一般的な食事指導を行う前に個別条件を確認します。
| 条件 | 注意すること | PTの対応 |
|---|---|---|
| CKD | 病期や治療内容により、たんぱく質、リン、カリウムなどの調整が必要になる | 「乳製品やたんぱく質を増やす」と一律に指導せず、現在の食事指示を確認する |
| ステロイド使用 | 続発性骨粗鬆症や骨折リスクを含めた評価・治療が必要になる | 食事だけで対処せず、骨粗鬆症の評価・治療状況をチームで確認する |
| ワルファリン | ビタミンKを多く含む食品・健康食品との相互作用に注意する | 納豆・クロレラ・青汁などを自己判断で追加せず、医師・薬剤師の指示を優先する |
ワルファリン服用中は、納豆、クロレラ、青汁などが薬の作用へ影響するため注意が必要です。また、ビタミンKを多く含む緑葉野菜を大量に食べ続けることにも注意します。「ビタミンKを含む食品を全部やめる」と自己判断するのではなく、医師・薬剤師から示された指示を優先します。
PTの患者指導は「聞く→1つ決める→再評価」で回す
外来・病棟で運用しやすいのは、「聞く項目を固定する」→「行動目標を1つ決める」→「再評価項目を固定する」という3ステップです。初回から食生活全体を変えようとせず、次回に確認できる小さな目標へ落とします。
| ステップ | やること | 聞き方の例 | 記録すること |
|---|---|---|---|
| ① 聞く | 体重、食事量、主菜、乳製品、魚などの摂取状況を確認する | 「最近、体重や食べる量は減っていませんか?」 | 体重変化、摂取低下、最も不足している項目 |
| ② 1つ決める | 本人が続けられる小さな行動を1つ選ぶ | 「まず朝食に主菜を1品入れるところから始めますか?」 | 目標1つ、続けにくい理由 |
| ③ 再評価する | 次回に同じ項目を確認する | 「次回、何日できたかと食事量を一緒に確認しましょう」 | 再評価日、体重、食事量、実施状況 |
病棟では離床や歩行練習の前後、外来では自主練習の確認時など、既存のリハ評価へ短く組み込むと継続しやすくなります。目標が実行できなかった場合も、単に「続かなかった」で終わらせず、疼痛・悪心・便秘・嚥下・食事形態・時間帯など、実行を妨げている原因へ戻ります。
骨粗鬆症の栄養フロー記録シート
外来・病棟で「栄養リスク→不足している要素→病態・薬剤の例外→今日の目標→再評価」を1枚で確認したい場合は、以下のA4記録シートを利用できます。患者説明の内容と、次回確認する項目を同じ用紙へ残せる構成です。
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日本データから見た食品選びの補足
日本の閉経後女性を対象としたコホート研究では、納豆の摂取頻度と骨粗鬆症性骨折リスクとの関連が報告されています。ただし観察研究であり、「納豆を食べれば骨折を予防できる」と因果関係を断定することはできません。また、ワルファリン使用中には、この一般的な食品情報をそのまま当てはめないことが重要です。
乳製品摂取と骨粗鬆症性骨折リスクとの関連を検討した日本人女性の研究もあります。患者説明では、特定の食品だけで骨折予防ができるように伝えるのではなく、Caやたんぱく質を含む日常的な選択肢の1つとして乳製品を位置づけます。
骨折後の栄養管理で止まりやすい3つの場面
実務で止まりやすいのは、「全部変えようとして続かない」「病態・薬剤の例外で一般論が使えない」「再評価する項目が決まっていない」の3つです。迷ったときに戻るポイントを決めておくと、食事指導を次回へつなげやすくなります。
| 詰まりどころ | 戻るポイント | 記録すること |
|---|---|---|
| 全部変えようとして続かない | 不足が大きい項目を選び、行動目標を1つにする | 次回までに行うことを1つだけ残す |
| CKD・薬剤で一般論が使えない | 個別条件を確認し、医師・管理栄養士・薬剤師へつなぐ | 確認した制限、相談先、チームで決めた方針 |
| 再評価が止まる | 体重、食事量、目標の実施状況を同じ条件で確認する | 再評価日と前回からの変化 |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 牛乳が苦手でもCaは増やせますか?
A. 可能です。ヨーグルト、豆腐、小松菜、小魚など複数の食品から摂取できます。乳製品だけに固定せず、普段の食事で続けられる食品を選びます。CKDなど食事制限がある場合は、自己判断で食品量を増やさず、現在の食事指示を確認してください。
Q2. ビタミンDは食事だけを確認すればよいですか?
A. ビタミンDは食事に加えて日照による皮膚での産生も関係します。魚を食べる頻度だけでなく、屋内中心の生活になっていないかも確認します。ただし、日照だけで必要量を判断したり、サプリメントを自己判断で追加したりせず、治療中は主治医の方針を優先します。
Q3. ワルファリン中は納豆や青菜を完全にやめるべきですか?
A. 納豆、クロレラ、青汁などはワルファリンの作用へ影響するため、服用中は注意が必要です。また、ビタミンKを多く含む緑葉野菜を大量に食べ続けることにも注意します。一方で、自己判断で食生活全体を大きく変えるのではなく、医師・薬剤師から指示された内容を優先してください。
Q4. 退院後、最初に1つだけ変えるなら何がよいですか?
A. 全員に共通する1つの食品はありません。まず現在の食事を確認し、Caを含む食品が少ない、魚を食べる機会が少ない、朝食に主菜がないなど、最も大きな不足を1つ選びます。ただし、食事量そのものが落ちている場合は、個別の栄養素より先に「食べられる量を確保できるか」を確認します。
次の一手
- 大腿骨近位部骨折のリハ栄養|実務フロー:術後の初期評価、食事・補食・ONS、週次再評価までの全体像を確認する
- 栄養スクリーニングの使い分け:低栄養リスクの拾い上げとGLIMへのつなぎ方を確認する
参考文献
- 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン作成委員会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版. 東京: ライフサイエンス出版; 2025. 出版物ページ
- 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準(2025年版)策定検討会報告書. 2024. ページ / PDF
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- 厚生労働省. 高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別)). 2018. PDF
- 独立行政法人医薬品医療機器総合機構. ワルファリンを飲んでいますが、納豆、クロレラ、青汁などの摂取を避けるように指導されました。なぜ、食べてはいけないのですか? PMDA
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

