【医療介護のポジショニング】8つのポイント【理学療法士の視点】

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臨床手技・プロトコル
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この記事の内容
  1. この記事は「医療介護のポジショニング」をキーワードに内容を構成しています。
  2. ポジショニングは、医療・介護の現場において褥瘡予防や呼吸・嚥下機能の改善、運動機能維持に直結する重要なケア技術です。
  3. 単に体位を整えるだけでなく、関節拘縮の予防や安楽な呼吸の確保、摂食嚥下動作の安定にも影響を及ぼします。
  4. 理学療法士・作業療法士・言語聴覚士は、解剖学的知識と臨床経験を活かし、個々の症例に応じた最適なポジショニングを提案する役割を担います。
  5. 本記事ではリハビリの視点から 7 つのポイントを解説します。
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リハビリくんの実績
  1. rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設
  2. 2025 年 8 月時点:185 記事公開(月間 3 万 PV)
  3. 実務経験(医療機関、介護福祉施設、訪問リハビリ等)
  4. 講師活動(脳卒中、褥瘡等をテーマに複数回講演)
  5. 脳卒中 認定理学療法士
  6. 褥瘡 創傷ケア 認定理学療法士
  7. 3 学会合同呼吸療法認定士
  8. 福祉住環境コーディネーター 2 級

ポジショニングとは?定義

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ポジショニングとは、対象者の身体を安楽かつ安全に保持し、二次的な合併症を予防するための体位調整を指します。理学療法の臨床においては、単に楽な姿勢をとるだけでなく、褥瘡の予防、拘縮の抑制、呼吸循環機能の維持、嚥下や発声の安定化など多面的な目的を担います。

定義にはいくつかの表現がありますが、共通して「安楽性の確保」と「機能障害の予防」を強調しており、静的ではなく動的な過程として捉えられます。したがって、ポジショニングは一度設定して終わりではなく、対象者の状態変化に応じて継続的に再評価・調整する必要があります。

ポジショニングに求められる役割と目的

ポジショニングは「楽な姿勢をとるための補助」ではなく、全身管理の一部として必須のケアです。臨床においては、以下のような複合的な目的を満たすことが求められます。

褥瘡予防と皮膚保護

褥瘡の主因は骨突出部への持続的圧迫と、摩擦・ずれによる血流障害です。ポジショニングでは、圧迫の分散・ずれ力の解放・皮膚観察との併用が不可欠です。特に 30 °側臥位は仙骨部圧迫を軽減でき、国際ガイドラインでも推奨されます。さらに、体圧分散マットレスや専用クッションを適切に使用し、点ではなく面で支える工夫を加えることで皮膚損傷を効果的に予防できます。

呼吸・循環機能の安定化

仰臥位は横隔膜の動きを制限し、無気肺や誤嚥リスクを高めます。ファウラー位や側臥位は呼吸筋活動を助け、換気効率を改善します。また、下肢挙上位は静脈還流を促進し、浮腫や循環不全の改善に有効ですが、心不全症例では過剰な前負荷となるため注意が必要です。ポジショニングは呼吸循環リハビリテーションの一環としても位置づけられます。

関節拘縮・筋緊張の予防

長時間の不動は関節構造や筋組織の変化を招き、2 − 3 日で拘縮が始まることが報告されています。適切なアライメント保持と定期的な体位変換は、筋緊張の均衡を保ち、運動器機能の維持につながります。また、重力を利用したポジショニングにより、過剰な緊張を抑制し、機能改善を補助する効果も期待されます。

安楽性とQOLの向上

ポジショニングは「予防」のみならず、疼痛や不快感を軽減し、睡眠や休息の質を高める役割も担います。特に長期臥床患者にとって、安楽な姿勢が心理的安定や生活の質に直結します。対象者一人ひとりの症状や生活背景を考慮した個別性の高い体位調整が重要です。

継続的評価と動的プロセス

ポジショニングは一度設定して終わる「静的」なものではなく、再評価を繰り返しながら最適化する「動的プロセス」です。皮膚・筋緊張・呼吸循環状態を観察し、必要に応じて調整を加えることで、常に対象者に適した姿勢保持を実現できます。

ポジショニングの基本 8 ポイント

寝姿勢のポジショニングを行ううえで重要となるのは、ポジショニングの基本となる 8 つのポイントを意識できるかどうかです。

体位保持は単に「姿勢を整える」ことではなく、褥瘡予防・呼吸循環の安定・拘縮防止・安楽性の確保など、多面的な目的を達成するための基盤となります。これらの視点を欠いたポジショニングは、かえって皮膚損傷や不快感を助長し、対象者の QOL 低下につながりかねません。

  1. 姿勢の捻れや傾きがないように体位を整える
  2. 頭部→上半身→下半身の順序で体位変換を行う
  3. 点ではなく面で支える
  4. 物品の使用方法を適切に
  5. 背抜きを徹底して実施する
  6. 重力を利用したポジショニングを立案する
  7. 適度に関節を動かす機会をつくる
  8. 呼吸・嚥下への配慮を行う

ここでは、臨床現場で理学療法士をはじめとする医療従事者が実践すべき基本の 8 ポイントを整理し、その意義と具体的な工夫を解説します。

姿勢の捻れや傾きがないように体位を整える

寝姿勢において最も重要なのは、身体の捻れや傾きを最小限に抑え、自然な正中位を保つことです。私たちが日常生活で行う動作は、本来「正常姿勢制御機構」によって支えられています。

これは筋緊張の調整、相反抑制の働き、共通の動作パターンによって成り立ち、重力下での安定性や巧緻動作の基盤となるものです。しかし、麻痺や拘縮、変形があるとこの機構が十分に働かず、身体の一部に捻れや偏りが生じます。その状態が持続すると血流障害や栄養供給の低下を招き、筋・関節の硬化や動作制限といった悪循環に陥ります。

したがって、可能な範囲で正中位に近づけるようにアライメントを調整することが不可欠です。対象者の状態に応じ、無理のない姿勢修正を行うことが理学療法士に求められます。

頭部→上半身→下半身の順序で体位変換を行う

体位変換を行う際は、必ず「頭部→上半身→下半身」の順序で調整することが基本です。人間の身体は頭部・胸部・腹部・四肢に分節され、それぞれが連動して動きを構成しています。

特に頭部は全ての動きの主導役を担い、胸部は上肢や体幹の安定性を制御し、骨盤は下肢の動きをコントロールします。このため、ポジショニングにおいて頭部の位置をまず適切に整えることが、その後の体幹や下肢の安定性につながります。

順序を誤ると捻れや不自然な緊張を生じ、安楽性や予防効果が低下する可能性があります。したがって、体位調整は「上から下へ」の流れを意識し、身体の連動性を考慮した介入を行うことが重要です。

点ではなく面で支える

ポジショニングにおいては「点」ではなく「面」で身体を支えることが重要です。その目的は大きく 2 つあります。

ひとつは体位の安定性を確保することです。姿勢の安定には、身体の重心線が支持基底面に含まれているかどうかが関与します。基底面が狭いと重心が外れやすく不安定になりますが、広い面で支えることで安定性が向上します。

もうひとつは圧分散です。高齢者では痩せにより仙骨部などの骨突出が目立ちやすく、接触面が狭いと局所圧が集中し褥瘡のリスクが高まります。マットレスやクッションを活用して接触面を広く確保することで、圧力が分散され皮膚損傷を防ぐことができます。

したがって、寝姿勢を整える際には、安定性と圧分散の両面を意識して「面」で支えることが基本となります。

物品の使用方法を適切に

寝姿勢の安定や圧分散を図るためには、ポジショニングクッションなどの補助物品が有効です。特に、高齢者で痩せによる骨突出が顕著な場合や、変形・拘縮・麻痺により正常なアライメント保持が困難な場合には、その必要性が高まります。

しかし、物品はただ使用すればよいわけではなく、使用方法の適切さが重要です。クッションを深く入れすぎると局所圧が集中し、逆に浅すぎるとずれ落ちて意味を失うことがあります。また、形状や素材に加え、当て方や挿入の深さにも配慮が必要です。

不適切な使用は、かえって疼痛や筋緊張の亢進を招きます。したがって、物品を適切に活用することで、姿勢保持の質を高め、対象者の安楽性と安全性を両立させることができます。

褥瘡予防の観点でポジショニングを行う場合、クッション等の物品の理解も重要ですが、体圧分散マットレスについての知識も欠かすことができません。このテーマについては、他の記事で更に詳しくまとめておりますので、こちらの記事もご覧になって頂けると幸いです☺️ 【体圧分散マットレスの種類と選び方についての記事はこちらから

背抜きを徹底して実施する

体位変換時には必ず摩擦力(ずれ力)が生じ、これは褥瘡の重要なリスク要因となります。この摩擦力に対する代表的な介入が「背抜き」です。

日本褥瘡学会では背抜きを「ベッドや車椅子などから身体を一時的に離し、ずれを解放する手技」と定義しています。臨床では、ベッドの頭側を挙上する際に生じる背面の摩擦を軽減する目的で行われることが多いですが、実際には頭部を下げる時や仰臥位から側臥位へ体位変換する時など、あらゆる場面で摩擦力は発生します。

そのため、本来はあらゆる体位変換で背抜きを行う必要があります。ポジショニングにおいても背抜きを徹底することで、摩擦力の軽減、皮膚損傷の予防、さらに安楽性の向上を実現できます。

重力を利用したポジショニングを立案する

すべての物体は重力の影響を受けており、人の身体も例外ではありません。そのため、ポジショニングでは重力を考慮した体位設定が重要です。

例えば、脳卒中後遺症で右下肢の内転・内旋筋の緊張が高まり、股関節が内転・内旋位、さらに膝関節屈曲を伴う症例では、左側臥位を選択すると緊張を助長する可能性があります。

逆に右側臥位をとることで、重力を利用し外転・外旋方向への力を自然に加えることができ、拘縮予防やアライメント改善につながります。このように、クッションの単純な使用にとどまらず、重力を「味方」にする発想が求められます。

医療や介護現場では常に対象者を見守ることは困難ですが、重力は 24 時間作用し続けるため、その力を利用したポジショニングを立案することが、効率的かつ持続的なケアにつながります。

適度に関節を動かす機会をつくる

関節や筋肉は不動のままでは硬化し、可動域制限や拘縮を招きます。動物実験では、わずか 2 ~ 3 日の固定で組織に拘縮が生じ始めると報告されており、早期からの介入の重要性が示されています。

さらに、長時間の筋緊張は血流を阻害し、酸素不足や乳酸の蓄積を招き、疼痛や精神的不調を引き起こすこともあります。その結果、さらなる過緊張を生じ、悪循環に陥る危険性があります。したがって、どのような状況であっても不動状態を避け、適度に関節を動かす機会を設けることが重要です。

ポジショニングと合わせて関節運動を取り入れることで、循環促進や疼痛予防、QOL の維持にもつながります。

呼吸・嚥下への配慮を行う

ポジショニングでは、呼吸や嚥下の安定にも十分な配慮が必要です。仰臥位は横隔膜の動きを制限しやすく、換気量の低下や誤嚥リスクを高めます。そのため、呼吸状態が不安定な対象者には、30 ~ 45° のファウラー位が有効とされ、肺換気の改善や誤嚥予防につながります。

また、頭頸部のアライメントも嚥下機能に直結します。頭部が過伸展すると嚥下反射が起こりにくくなり、逆に屈曲しすぎると気道閉塞を招く危険があります。適切な頸部ポジションを保つことで、嚥下の安全性を高めると同時に、呼吸の安定化も期待できます。

呼吸・嚥下への配慮を組み込むことで、単なる体位保持にとどまらず、全身管理としてのポジショニングを実践できます。

よくある失敗例と注意点

ポジショニングは正しく行えば大きな効果を発揮しますが、誤った方法はかえって褥瘡や不快感を助長するリスクがあります。

代表的な失敗例として、まずクッションを深く入れすぎることが挙げられます。局所に過度な圧力が集中し、圧迫を助長してしまいます。逆に浅く当てすぎると、時間経過でずれ落ちてしまい意味を失います。

また、背抜きを省略することも大きな問題です。体位変換時に生じる摩擦力(ずれ力)が解放されず、皮膚損傷の原因になります。さらに、体位変換を単なるルーチン作業にしてしまうことも注意が必要です。対象者の皮膚状態や筋緊張を観察せずに行うと、予防効果は大きく低下します。

これらを避けるためには、常に「観察と評価」を基盤にした動的な介入を意識することが大切です。

まとめ

最後までお読みいただきありがとうございます!

ポジショニングは、褥瘡予防や拘縮防止といった身体的管理にとどまらず、呼吸・循環機能の安定化、嚥下の安全性確保、さらに安楽性や QOL の向上に直結する包括的なケアです。本記事で解説した 8 つの基本ポイントを意識することで、体位調整の精度は格段に高まり、対象者の生活を支える力となります。

ただし、クッションの使用法や背抜きの徹底など、実践の質によって効果は大きく変わるため、観察と再評価を欠かさないことが重要です。理学療法士をはじめとする医療従事者は、常に「なぜこの体位なのか」を意識し、エビデンスと臨床経験を統合したポジショニングを実践することが求められます。

参考文献

  1. 玉城有里,林直子,大城祥子,奥間政礎,久手堅みゆき.褥瘡対策において効果的なポジショニングの理解と実践.沖縄赤十字医誌.25(1),2019,p37-40.
  2. 浅田恵子.褥瘡発生予防ケア.昭和学士会誌.第74巻,第2号,2014,p115-119.
  3. 日本褥瘡学会学術教育委員会編:褥瘡予防・管理ガイドライン 第5版,照林社,2022.
  4. European Pressure Ulcer Advisory Panel (EPUAP), National Pressure Injury Advisory Panel (NPIAP), Pan Pacific Pressure Injury Alliance (PPPIA):
    Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. The International Guideline. 2019.
  5. 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会:呼吸リハビリテーションに関するガイドライン 2021.
  6. Bergstrom N, Braden BJ, et al.: The Braden Scale for Predicting Pressure Sore Risk. Nursing Research. 1987.

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