Dynamic Gait Index(DGI)とは?
DGI は、歩行中の外的要求(速度変更・頭部運動・障害物回避・方向転換など)に対するバランス応答を 8 課題で評価するスケールです。日常歩行に近い状況での転倒リスクの見立てや、介入前後の変化把握に適しています。評価の全体像と位置づけは 評価ハブ も参照してください。
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DGI の特長と適用範囲
- 対象:高齢者、脳卒中、パーキンソン病、前庭障害などの動的バランス評価
 - 構成:8 課題 × 0–3 点(高いほど良好)、総点 24 点
 - 用途:転倒リスクの層別化、訓練ゴールの共有、退院判定の参考
 - 所要時間:10–15 分程度(環境準備含む)
 
実施手順(標準化のポイント)
- 環境準備:直線歩行路(≥6 m)、段差/障害物、ターン用スペース、メトロノーム等を用意。
 - 教示の統一:課題ごとに簡潔な文言を固定(「合図で開始」「できるだけ普段どおり」など)。
 - 安全管理:介助レベルと補助具は最初に決めて一貫運用。必要ならセーフティハーネス。
 - 採点の流儀:最良試行ではなく代表試行で採点。迷う場合は保守的に。
 - 記録:課題別スコアと観察メモ(ふらつき、二重課題時の変化、代償の有無)を残す。
 
8 課題の概要(観察の要点)
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| 課題テーマ | 主な動作 | 観察ポイント | 3 点の目安 | 0–1 点の目安 | 
|---|---|---|---|---|
| 平地歩行 | 通常歩行 | 速度・歩隔・アームスイング・ふらつき | 安定し歩行補助なし | 著明な不安定/介助または停止 | 
| 速度変化 | 速く/遅く | 速度切替の遅れ・歩容の崩れ | 切替が滑らかで安定 | 切替に著明なふらつき/停止 | 
| 左右への頭部回旋 | 歩行中に頭部左右回旋 | 視線逸脱、歩行線の乱れ | 進路維持、ふらつきなし | 進路大きく逸脱/著明な不安定 | 
| 上下への頭部運動 | 上を見る/下を見る | 前庭誘発での不安定 | 安定して歩行継続 | 歩行中断/介助必要 | 
| ターン | 180° 回転 | 分割ターン化、ふらつき、旋回時間 | 一連動作で安定回転 | 多段化・よろめき・停止 | 
| 障害物跨ぎ | 床上物品跨ぎ | 足先の引っかかり、減速量 | 引っかかりなし、速度保つ | 引っかかり/大きく減速 | 
| 障害物回避 | 周回・すり抜け | 進路選択、接触、速度制御 | 接触なし、進路滑らか | 接触/停止/介助 | 
| 階段昇降 | 手すり有無で昇降 | 段リズム、支持の必要度 | 手すり不要で安全 | 強い支持/不安全感 | 
スコアリングと解釈
| 総点(/24) | 解釈の目安 | 臨床メモ | 
|---|---|---|
| 22–24 | 動的バランスは概ね良好 | 環境負荷を上げて能力上限を確認 | 
| 20–21 | 境界域(状況により転倒リスク) | 難課題での破綻点を同定し介入へ | 
| ≤19 | 転倒リスク高の目安 | 補助具・住環境調整と併行して訓練 | 
※ カットオフは対象集団や研究により差があります。施設内の基準と併用してください。
品質管理(落とし穴と対策)
- 教示のばらつき:文言・合図・試行数を固定。採点は代表試行で。
 - 補助具の変更:途中で変更しない。必要時は「補助具あり条件」で通す。
 - 安全優先:介助レベルを事前決定。危険兆候(過度のよろめき等)で即中止。
 - 学習効果:再評価間隔と順序を統一。動画記録が比較に有用。
 
判定・記録の型(コピペ可)
| 項目 | 所見例 | 
|---|---|
| 総点 | 19/24(速度変化・頭部上下で低下) | 
| 補助具 | T杖(右)で実施、介助なし | 
| 観察 | ターンで分割化と減速、障害物回避で接触あり | 
| まとめ | 動的バランスに課題。転倒リスク高の可能性あり。段階的負荷と環境調整を計画。 | 
DGI と FGA の使い分け(早見)
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| 項目 | DGI | FGA | メモ | 
|---|---|---|---|
| 課題数 | 8 | 10 | FGA は課題を拡張し天井効果を抑制 | 
| 対象の幅 | 高齢者・脳卒中・前庭など | DGI と同等〜やや広い | 施設の慣れと評価目的で選択 | 
| 所要時間 | 10–15 分 | やや長め | 運用体制に合わせて使い分け | 
| 天井効果 | 出やすいことがある | 出にくい | 高機能者は FGA が有利 | 
| 臨床の導入容易性 | ◎ | ○ | まず DGI、慣れたら FGA 併用も | 
ケース別の読み取り(3 例)
| ケース | 観察 | 解釈と次の一手 | 
|---|---|---|
| 脳卒中・右片麻痺 | ターンで分割化、障害物回避で接触 | 方向転換・狭路歩行の課題。段階負荷+進路予告の練習を計画 | 
| パーキンソン病 | 速度変化で遅延、上下頭部で減速 | 二重課題や視覚キューを併用。段差・障害物での“止まらない”方略を練習 | 
| 前庭障害 | 頭部回旋・上下で著明な不安定 | 前庭誘発の段階負荷、視線安定化訓練、必要に応じ環境調整 | 
導入チェックリスト(現場用)
- 歩行路・障害物・階段の準備は毎回同一
 - 補助具条件・介助レベルを事前に固定
 - 教示文は印刷して読み上げて統一
 - 代表試行で採点、観察メモを必ず併記
 - 再評価日は順序・環境を完全一致
 
よくある質問(Q&A)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
DGI は何点満点?
総点は 24 点(8 課題 × 0–3 点、数値が高いほど良好)です。
DGI のカットオフは?
≤19 点を転倒リスク高の目安とする報告が多いです(対象や文献で差があるため、施設内基準と併用)。
FGA との違いは?
FGA は DGI を改訂し課題数を増やして天井効果を抑制しています。高機能者や微妙な変化を追う場面では FGA が有利なことがあります。

  
  
  
  
