HADS高値でも、点数だけでPTの中止や負荷変更を決める必要はありません
HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)が高値でも、その点数だけでPTを中止したり、運動負荷や紹介先を決めたりするものではありません。まず確認したいのは、痛み・息苦しさなどの身体症状、不安や恐怖、活動低下など、今日のリハを実際に止めている要因です。
この記事では、HADS高値でリハが進まない日にPTが確認したいことを、①止めている要因 → ②リハへの影響 → ③セッション調整 → ④記録・共有の4ステップで整理します。採点方法ではなく、評価後の実務対応に絞って解説します。
HADS高値の読み方|点数は「追加確認のきっかけ」として使います
HADSは、不安をみるHADS-Aと抑うつをみるHADS-Dからなるスクリーニング尺度です。高値は不安・抑うつ症状を詳しく確認するきっかけになりますが、特定の精神疾患を診断するものではありません。
カットオフの診断精度は、対象集団や目的によって変わります。HADS-Dではカットオフを高くすると特異度が上がる一方で感度が下がることが報告され、HADS-Aについても集団間のばらつきが確認されています。そのため、「何点だからこの対応」と機械的に決めるより、本人の訴えと実際のリハへの影響を合わせて確認することが重要です。
ポイント:HADS高値は、PTの中止基準・運動負荷基準・紹介基準そのものではありません。通常の医学的リスク管理とは分けて考えます。
HADS高値でリハが進まないとき|PTが確認する4ステップ
介入が進まないときは、HADSの数字をさらに細かく読むより、「何が止めているか → どう影響しているか → 今日はどう変えるか → 何を残して共有するか」の順に整理すると、次の行動を決めやすくなります。

① 今日、何が介入を止めているか確認する
最初に、HADS高値をそのまま原因にせず、今日の介入を実際に止めている要因を整理します。特に、身体症状、不安・恐怖、活動低下を分けて確認すると、その後の対応を決めやすくなります。
- 身体要因:痛み、息苦しさ、疲労、不眠、めまいなど
- 不安・恐怖:動くと悪化しそう、転びそう、苦しくなりそうなど
- 活動低下:始める意欲が出ない、活動量が落ちているなど
「今日は何がいちばんつらいですか」「動こうとしたとき、何がいちばん気になりますか」のように、まず1つに絞って聞くと整理しやすくなります。
② 実際のリハへの影響を確認する
次に見るのは、症状や不安が実際の活動にどのような影響を与えているかです。「不安がある」「意欲が低い」という抽象的な表現だけでは、その日の介入方法を決めにくいためです。
確認するポイントは、次の3つに整理できます。
- 開始できない:説明しても端座位や立位へ移れない
- 途中で止まる:症状や恐怖が強くなり、予定量まで継続できない
- 終了後に反動が出る:疲労や症状増悪によって、その後の活動が大きく低下する
ここまで確認すると、「説明を変えるのか」「実施量を下げるのか」「PT以外の調整を先に相談するのか」が見えやすくなります。
③ 今日のセッションを調整する
介入が成立する医学的条件を確認したうえで、必要に応じて最小ゴール・終了条件・実施量と休息を調整します。これはHADS専用の標準プロトコルではなく、その日の状態に合わせてセッションを組み直すための実務上の考え方です。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 調整すること | 具体例 | 確認すること |
|---|---|---|
| 最小ゴール | 端座位、立位、短距離歩行など、試せる単位まで小さくする | 本人が「ここまでなら試せる」と合意できるか |
| 終了条件 | 症状が増えたときに休む・止める条件を先に共有する | 何が起きたら中止・休息するか |
| 実施量 | 予定量にこだわらず、その日の反応を見ながら調整する | 症状、疲労、動作の安定性がどう変化するか |
| 休息 | 必要に応じて実施と休息を細かく分ける | 休息後に再開可能か、症状が残るか |
④ 反応を記録し、必要な情報を共有する
HADS高値の日ほど、記録を「HADS高値」「意欲低下あり」だけで終わらせないことが重要です。次の担当者や多職種が判断できるよう、主症状・実施できた内容・中止または継続した理由を残します。
疼痛、呼吸状態、睡眠、薬剤、病状説明など、PTだけでは調整できない要因が介入を妨げている場合は、HADSの点数よりも具体的に何が起きているかを共有します。
同じHADS高値でも対応は同じではありません|止まる理由で分けます
同じようにHADSが高くても、身体症状が上流にある場合、不安・恐怖が前景にある場合、活動低下が強い場合では、優先して確認することが変わります。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 場面 | 見えやすい反応 | PTが先に確認すること | 次の一手 |
|---|---|---|---|
| 身体症状が強い | 痛み、息苦しさ、疲労などで開始・継続できない | 症状、バイタル、発生条件、医学的リスク | 安全確認と症状調整を優先し、必要時に共有する |
| 不安・恐怖が強い | 「悪くなりそう」「転びそう」と開始前や途中で止まる | 何を怖いと感じているか、どの場面で強くなるか | 見通しと終了条件を共有し、試せる単位へ調整する |
| 活動低下が強い | 開始しにくい、活動量が上がらない | 睡眠、疲労、生活リズム、本人の目標、身体要因 | 実施可能な最小単位から反応を確認する |
重要なのは、HADS-Aが高ければ必ず「恐怖への対応」、HADS-Dが高ければ必ず「意欲への対応」と決めつけないことです。点数は面接の入口として使い、実際の症状と行動からその日の介入を組み立てます。
共有がぶれない3行記録|点数・反応・対応をセットで残します
記録では、HADSの結果だけでなく、何が介入へ影響し、何を変えたらどう反応したかまで残します。長文にする必要はなく、状況・反応・対応の3行にそろえると共有しやすくなります。
- 状況:HADS A=○点/D=○点。本日は(痛み・息苦しさ・不眠・不安など)が介入へ影響。
- 反応:(端座位・立位・歩行など)を○○まで実施し、(症状・恐怖・疲労など)により中断/継続可能。
- 対応:実施量・終了条件・休息を調整し○○まで可能。○○について多職種へ共有。次回は○○を再確認。
記録のポイント:「不安あり」「意欲低下あり」で止めず、観察できた行動と、介入条件を変えたあとの反応まで残すと再評価につながります。
セッション調整より共有を優先する場面|HADSとは別に安全性を判断します
HADS高値だから緊急対応になるわけではありません。一方で、身体状態や精神状態について安全上の懸念がある場合は、4ステップを最後まで進めることより、施設の手順に沿った報告・相談を優先します。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 場面 | PTで確認すること | 対応 |
|---|---|---|
| 急な身体状態の悪化 | バイタル変化、呼吸苦、胸部症状、意識状態など | 通常の中止基準・施設手順に沿って対応する |
| 強い不安や混乱で介入が成立しない | 発症時期、誘因、行動変化、身体症状 | 医師・看護師などへ状況を共有する |
| 活動低下が持続・悪化している | 睡眠、食事、日中活動、本人の訴え、経過 | 多職種で背景要因と対応方針を共有する |
| 自傷・希死念慮を示す発言や行動がある | その場の安全確保を優先する | HADSの点数にかかわらず、施設の手順に従って速やかに共有する |
HADSは不安・抑うつ症状を捉える尺度であり、安全上の問題をすべて評価できるわけではありません。HADSの結果だけで「問題なし」と判断しないことも重要です。
よくある失敗|HADS高値をそのまま「原因」にしないことが重要です
最も避けたいのは、点数を見た時点で「不安だからできない」「抑うつだから意欲がない」と決めてしまうことです。HADSは入口として使い、実際の身体症状・行動・参加への影響を確認してから対応を決めます。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 場面 | NG | OK |
|---|---|---|
| 原因 | 「HADS高値だから進まない」と決める | 何が実際に介入を止めているか確認する |
| 実施判断 | 点数だけでPTを中止・継続する | 医学的安全性と当日の反応から判断する |
| 負荷 | HADSの点数で実施量や休息時間を固定する | 症状と反応を見ながら調整する |
| 説明 | 安心してもらおうと情報を増やし続ける | 今日行うことと終了条件を簡潔に共有する |
| 記録・共有 | 「HADS高値」「意欲低下」で終える | 主症状・実施内容・反応・対応を残す |
よくある質問(FAQ)
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HADSが高い日は、PTを中止した方がいいですか?
HADS高値だけを理由に一律に中止するものではありません。通常の医学的リスク管理を行ったうえで、身体症状、不安・抑うつ症状、実際の活動への影響を確認し、その日の実施可否と内容を判断します。
HADSが11点以上なら、必ず医師や心理職へ紹介しますか?
点数だけで紹介先を一律に決めるものではありません。HADSのカットオフはスクリーニング上の目安であり、本人の症状、生活やリハへの影響、経過、施設の運用を合わせて判断します。必要に応じて医師、看護師、心理職などへ共有します。
HADS-AとHADS-DでPTの対応を変えた方がいいですか?
A・Dのどちらが高いかは面接の手がかりになりますが、それだけから介入方法を決めることはできません。不安の内容、身体症状、活動低下、睡眠など、実際に介入を妨げている要因を確認して調整します。
「HADS高値」と記録するだけでは不十分ですか?
点数は重要ですが、それだけでは次の担当者が介入条件を判断しにくくなります。主症状、どこまで実施できたか、中断・継続した理由、調整後の反応まで残すと再評価と多職種共有につながります。
次の一手|HADSの評価法と他尺度との使い分けを確認する
この記事では、HADS高値が出たあとのPT対応に絞りました。尺度そのものの採点方法や、PHQ-9・SRQ-Dとの違いを確認したい場合は、役割の異なる記事で整理できます。
参考文献
- Zigmond AS, Snaith RP. The hospital anxiety and depression scale. Acta Psychiatr Scand. 1983;67(6):361-370. doi:10.1111/j.1600-0447.1983.tb09716.x. PubMed
- Hatta H, Higashi A, Yashiro H, et al. Hospital Anxiety and Depression Scale日本語版の信頼性と妥当性の検討:女性を対象とした成績. 心身医学. 1998;38(5):309-315. doi:10.15064/jjpm.38.5_309. DOI
- Brennan C, Worrall-Davies A, McMillan D, Gilbody S, House A. The Hospital Anxiety and Depression Scale: a diagnostic meta-analysis of case-finding ability. J Psychosom Res. 2010;69(4):371-378. doi:10.1016/j.jpsychores.2010.04.006. PubMed
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- Fomenko A, Dümmler D, Aktürk Z, et al. Hospital Anxiety and Depression Scale Anxiety subscale (HADS-A) for detecting anxiety disorders in adults. Cochrane Database Syst Rev. 2025;7(7):CD015456. doi:10.1002/14651858.CD015456. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

