歩行アウトカム評価とは?|目的に合わせて5種を使い分ける
歩行アウトカム評価とは、歩行能力を速度・距離・時間・スコアなどで数値化し、介入前後の変化を同じ条件で追跡する方法です。「歩ける・歩けない」だけでは捉えにくい変化も、目的に合った指標を選ぶことで、治療方針や再評価、多職種への共有に結びつけやすくなります。
基本は、10m歩行で速度、6分間歩行で耐久性、TUGで起立・方向転換を含む移動能力を確認します。多課題下の歩行安定性を詳しくみたい場合はFGA、6分間の実施が難しい場合は2分間歩行を検討します。
A4記録シート(PDF)
歩行アウトカム評価では、測定値だけでなく、靴・装具・補助具・介助量・コース・声かけなどの条件を一緒に残すことが重要です。院内で同じ条件を共有しやすいように、5種の結果と固定条件を1枚にまとめた記録シートを用意しています。
歩行アウトカム評価
A4記録シート
10m歩行・6分間歩行・2分間歩行・TUG・FGAの結果と測定条件を記録できます。
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歩行アウトカム指標の選び方
評価名から選ぶのではなく、今回の再評価で何を確認したいかから決めます。目的を速度・耐久性・起居移動・歩行安定性のいずれかに絞ると、必要な評価を選びやすくなります。

迷った場合は、まず次の3つを基本セットとして考えます。
- 10m歩行:歩行速度の変化を確認する
- 6分間歩行:歩行耐久性や活動耐容能を確認する
- TUG:起立・歩行・方向転換・着座を含む移動能力を確認する
屋外歩行や頭部運動、障害物、速度変化などで不安定さがみられる場合はFGAを追加します。6分間の連続実施が難しい場合は、耐久性を確認する代替手段として2分間歩行を検討します。
評価前に固定する条件
評価の数値を前回と比較するには、測定方法をそろえる必要があります。少なくとも、次の条件は毎回記録してください。
- 靴・装具・補助具
- 介助量と介助位置
- コース長と床面
- 開始方法と合図
- 練習・本番の試行回数
- 声かけと休憩の扱い
- 酸素投与条件と自覚症状
歩行アウトカム評価5種の使い分け早見表
5種の評価は、同じ歩行能力を重複して測るものではありません。それぞれ確認する目的が異なるため、患者の課題と再評価したい内容に合わせて選択します。
| 評価 | 主にみる能力 | 主な結果 | 向いている場面 | 固定する条件 |
|---|---|---|---|---|
| 10m歩行 10MWT |
歩行速度 | 時間、速度 m/s |
短時間で歩行速度の変化を追いたい | 助走、減速区間、開始方法、補助具、試行回数 |
| 6分間歩行 6MWT |
歩行耐久性 活動耐容能 |
歩行距離 m |
持久性や連続歩行能力を確認したい | 回廊長、声かけ、休憩、酸素、自覚症状 |
| 2分間歩行 2MWT |
短時間での歩行耐久性 | 歩行距離 m |
6分間の実施負担が大きい | コース、声かけ、休憩、補助具、測定時間 |
| TUG | 起立・歩行・方向転換・着座 | 完了時間 秒 |
基本的移動能力を短時間で確認したい | 椅子、開始合図、手の使用、補助具、旋回条件 |
| FGA | 多課題下の歩行安定性 | 10項目 30点満点 |
歩行中にどの課題で崩れるか確認したい | 説明、デモ、課題順、練習、採点基準 |
10m歩行(10MWT)
10m歩行は、歩行速度を短時間で数値化したい場合に適しています。結果をm/sで記録すると、介入前後の変化や歩行能力の経時的な推移を比較しやすくなります。
歩行速度は、次の式で求めます。
歩行速度(m/s)=計測距離(m)÷所要時間(秒)
たとえば、10mを8秒で歩いた場合は、10÷8=1.25m/sです。ただし、施設によっては助走区間と減速区間を設け、中央の一定区間だけを計測する方法もあります。どの方法を採用する場合も、途中で条件を変えないことが重要です。
10m歩行で固定する項目
- 快適歩行か最速歩行か
- 静止状態から開始するか、歩行中に計測を開始するか
- 助走区間と減速区間の長さ
- 杖・歩行器・装具・靴の条件
- 練習回数と本番回数
- 採用する値が平均値か最速値か
高齢者を対象とした研究では、歩行速度の変化について、約0.05m/sが小さな意味のある変化、約0.10m/sが大きな変化の目安として示されています。ただし、疾患、病期、歩行条件によって解釈は変わるため、すべての対象者に一律で当てはめるものではありません。
6分間歩行(6MWT)
6分間歩行は、6分間で歩いた総距離から歩行耐久性や活動耐容能を確認する評価です。短距離の歩行速度だけでは分かりにくい、持続的な歩行能力、息切れ、下肢疲労、休憩の必要性を確認できます。
標準的な運用では、直線の回廊、決められた折り返し位置、一定の声かけを用います。院内で十分な回廊長を確保できない場合でも、毎回同じコースを使用し、コース長や折り返し回数を記録することで比較しやすくなります。
6分間歩行で記録する項目
- 総歩行距離
- 回廊長と折り返し方法
- 休憩回数と休憩時間
- 酸素投与の有無と流量
- SpO₂、脈拍、血圧などのバイタル
- 息切れと下肢疲労
- 補助具、装具、介助量
6分間歩行の臨床的に意味のある変化量は、対象疾患や集団によって異なります。複数集団を対象とした報告では、おおむね14~30.5m程度の範囲が示されていますが、単一の数値をすべての患者に当てはめることはできません。距離だけでなく、自覚症状、休憩、酸素条件、介助量の変化も合わせて判断します。
補足:2分間歩行(2MWT)
2分間歩行は、6分間の連続歩行が身体的・時間的に難しい場合に検討できる歩行耐久性の評価です。高齢者や長期療養環境などで、短時間に反復評価を行いたい場面にも利用されています。
ただし、2分間歩行は6分間歩行と測定時間が異なるため、結果をそのまま同じものとして扱うことはできません。初回から2分間歩行を選択した場合は、その後の再評価でも同じ方法を継続します。
- 6MWTと2MWTを途中で入れ替えない
- 毎回同じコースを使う
- 声かけと休憩の扱いを固定する
- 歩行距離だけでなく症状も記録する
Timed Up & Go(TUG)
TUGは、椅子から立ち上がり、3m歩き、方向転換して戻り、再び着座するまでの時間を測定する評価です。歩行速度だけでなく、立ち上がり、加速、減速、方向転換、着座を含む基本的移動能力を短時間で確認できます。
測定値は秒で記録しますが、時間だけでなく、どの動作で時間を要したか、ふらつきや介助が生じたかを観察することが重要です。
TUGで確認する動作
- 立ち上がり時の手の使用
- 歩行開始時の安定性
- 歩幅と歩行速度
- 方向転換の歩数とふらつき
- 椅子への接近方法
- 着座時の制御
TUGで固定する項目
- 椅子の種類と座面高
- 肘掛けの有無
- 手を使用してよいか
- 開始合図と計測開始時点
- 補助具と装具
- 方向転換する位置と向き
- 練習回数と本番回数
TUGには転倒リスクを判断するためのさまざまなカットオフ値が報告されていますが、年齢、疾患、生活環境、対象集団によって値は異なります。単独の時間だけで転倒の有無を決めず、歩行観察、転倒歴、認知機能、環境因子などと合わせて判断してください。
Functional Gait Assessment(FGA)
FGAは、平地歩行だけでなく、速度変化、頭部運動、方向転換、障害物、狭い支持基底面、閉眼歩行、後ろ向き歩行、階段などを含む10項目で歩行安定性を評価します。各項目を0~3点で採点し、合計30点で記録します。
単純な歩行速度やTUGだけでは説明しにくい「頭を動かすとふらつく」「障害物で足が止まる」「速度を変えられない」といった課題を項目別に整理できる点が特徴です。
FGAが向いている場面
- 屋外や人混みで歩行が不安定になる
- 頭部運動を加えるとふらつく
- 方向転換や障害物で歩行が崩れる
- 歩行速度は保たれているが転倒不安がある
- 訓練すべき歩行課題を具体化したい
22点以下は地域在住高齢者の転倒リスク分類に用いられる代表的な目安の一つです。ただし、この値をすべての疾患や年齢層へ一律に適用することはできません。対象集団を確認し、項目別の低下内容と合わせて解釈します。
FGAで固定する項目
- 説明方法とデモンストレーション
- 課題の実施順序
- 練習試行の有無
- 補助具の使用条件
- 介助と見守りの基準
- 採点基準のチーム内共有
測定の落とし穴と標準化のポイント
歩行アウトカム評価で最も避けたいのは、測定条件が変わっているのに数値だけを比較することです。前回より結果が良くなっていても、補助具、声かけ、コース、介助量などが異なれば、介入による変化とは判断しにくくなります。
よくある失敗
| 場面 | 避けたい運用 | そろえる方法 | 記録する内容 |
|---|---|---|---|
| 補助具・装具 | 日によって杖や装具が変わる | 常用条件を基本として固定する | 靴、装具、杖、歩行器、介助量 |
| 開始方法 | 静止開始と歩行中開始が混在する | 開始方法と計測区間を統一する | 開始方法、助走、減速区間 |
| 声かけ | 担当者によって励まし方が異なる | 使用する声かけを決めておく | 声かけの有無と内容 |
| 環境 | 回廊長や折り返し位置が変わる | 院内で使用するコースを固定する | 距離、床面、折り返し、混雑 |
| 休憩・酸素 | 休憩や酸素条件を記録しない | 事前に運用ルールを決める | 酸素流量、休憩回数、休憩時間 |
MDCとMCIDの考え方
再評価では、数値が変わったかだけでなく、その変化が測定誤差を超えているか、患者にとって意味のある変化かを考えます。
- MDC:測定誤差を超えたと考えられる最小の変化
- MCID:臨床的に意味があると考えられる最小の変化
MDCやMCIDは、疾患、対象集団、評価条件によって異なります。論文の数値だけで改善・悪化を決めず、介助量、補助具、自覚症状、生活範囲、本人の目標なども合わせて判断してください。
評価を立て直す5ステップ
- 目的を決める:速度、耐久性、起居移動、歩行安定性のどれを確認するか決める
- 基本評価を選ぶ:10m歩行、6MWT、TUGから必要な評価を選ぶ
- 必要時だけ追加する:多課題下の不安定さにはFGA、6分間が難しければ2MWTを検討する
- 条件を固定する:補助具、コース、声かけ、試行回数などを記録する
- 変化を解釈する:数値と症状、介助量、生活場面を合わせて判断する
よくある質問
各質問を押すと回答が開きます。
Q1.歩行アウトカム評価はいつ測定しますか?
基本は、初期評価、介入途中の再評価、退院前や目標変更時などの節目に測定します。毎週、隔週、月1回など、患者の状態と介入期間に合わせて時期を決めてください。比較する場合は、できるだけ同じ時間帯、同じ場所、同じ条件で測定します。
Q2.歩行速度のm/sはどのように計算しますか?
歩行速度は、計測距離を所要時間で割って算出します。10mを8秒で歩いた場合は、10÷8=1.25m/sです。助走区間を除いた6mなどを計測する場合は、実際に時間を測った距離を使用してください。
Q3.歩行速度だけで屋内歩行や地域歩行を判断できますか?
歩行速度による分類は、主に脳卒中者を対象とした研究から示された目安です。0.4m/s未満、0.4~0.8m/s、0.8m/sを超える範囲などが歩行範囲の分類に用いられますが、すべての対象者に共通する基準ではありません。段差、坂道、信号、持久性、認知機能、転倒不安など、実際の生活環境と合わせて判断します。
Q4.6分間歩行用の30m回廊を確保できない場合はどうしますか?
施設内で確保できるコースを1つ決め、コース長、折り返し位置、床面、人通りなどを固定して運用します。標準的な方法と異なる場合は、他施設の基準値との単純比較よりも、院内で同じ条件による経時変化を確認する目的で使用します。6分間の実施が難しい場合は2分間歩行も選択肢になります。
Q5.TUGとFGAはどのように使い分けますか?
TUGは、起立・歩行・方向転換・着座を含む基本的移動能力を短時間で確認したい場合に向いています。FGAは、速度変化、頭部運動、障害物、閉眼歩行など、複数の歩行課題でどこが崩れるかを詳しく確認したい場合に向いています。
まとめ|迷ったら速度・耐久性・起居移動から選ぶ
歩行アウトカム評価は、患者の歩行能力を同じ条件で数値化し、介入前後の変化を確認するために使用します。迷った場合は、10m歩行で速度、6分間歩行で耐久性、TUGで起居移動を確認する基本セットから考えます。
屋外や多課題下での歩行安定性を詳しく確認したい場合はFGA、6分間の実施が難しい場合は2分間歩行を検討します。評価結果を比較できるように、靴、補助具、介助量、コース、声かけ、試行回数などを毎回記録してください。
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