MFES(Modified Falls Efficacy Scale)で転倒恐怖感を“現場仕様”に評価する方法

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MFES(Modified Falls Efficacy Scale)で転倒恐怖感を“現場仕様”で評価する

MFES(Modified Falls Efficacy Scale)は、日常活動を「転倒せずにできる自信」で 0〜10 点評価し、14 項目の合計(0〜140)で転倒恐怖感(fear of falling)の強さをとらえる自己記入式スケールです。点が高いほど自己効力感が高く、転倒恐怖感が低い状態を示します。MFES は理学療法・作業療法・訪問リハなど幅広い場面で使いやすい転倒恐怖感評価の 1 つであり、本記事では臨床での運用を意識して、手順・採点のコツ・アプローチへのつなげ方を整理しました。MFES 評価用紙(スコア記録シート)と実施メモは文末の「ダウンロード」から取得できます。

理学療法士のキャリアガイドを見る(評価設計の型)

実施の前提(3 ステップ)

  1. 説明の統一:「0=まったく自信がない/10=完全に自信がある。最近の生活を思い浮かべて答えてください。」と最初に伝えます。
  2. 回答のルール:各項目を 0〜10 の整数で自己評価。未経験・該当なしは空欄のままにし、備考へ理由を記録。
  3. 合計と比較:合計 0〜140。再評価は同条件(説明・環境)で行い、個人内の経時変化を中心に解釈します。

項目テーマ(言い換え例|設問本文は記載しません)

下記は臨床で運用するための「活動テーマ」例です。公式の設問本文ではありません。記録シートの 1〜14 に対応させて使ってください。

MFES の活動テーマ(臨床での言い換え|成人・2025年版)
No. 活動テーマ(例) 想定シーンのヒント
1屋内の移動(短距離歩行)部屋から部屋へ、向きを変える・家具回避
2椅子の立ち座りひじ掛けの有無・座面高さは普段どおり
3ベッド上の起居・移乗寝返り→端座位→立位の一連
4トイレ動作便座への移乗・立位保持・後始末
5入浴・シャワー段差の出入り・浴槽縁・濡れた床
6更衣下衣の着脱・片脚立位になる瞬間
7整容・洗面洗面台前での前傾・片手作業
8高所の物を取る(上方リーチ)戸棚・クローゼットの上段
9簡単な調理・配膳湯沸かし・鍋の移動・台所の回遊
10来客・電話応対で玄関へ移動急いで向かう・開閉操作
11屋外の平地歩行家の周囲・近所の歩道
12買い物(軽い荷物の持ち運び)店内歩行・レジ周辺・バッグ片手
13道路の横断信号の時間・往来・注意配分
14公共交通・段差対応バス段差・電車の乗降・不整地

※研究目的の使用では、公式の設問文・翻訳版の指示に従ってください。本表は臨床での説明・記録補助のための「言い換え例」です。

採点をブレさせない“アンカリング”

  • 0 点:転倒せずに行える自信がまったくない(強い不安・回避)。
  • 5 点:場合によってはできる(条件次第/迷いがある)。
  • 10 点:転倒せずに確実に行える自信がある(普段どおり)。

最初に上の 3 点を共有し、患者さん自身の言葉で再確認します(例:「玄関まで急いで向かうのは…?」→「7 点くらいなら」)。

採点のコツ(面接フレーズ付き)

  • 最近の実感で:「ここ 1〜2 週間の感じでお答えください。」
  • 状況を具体化:「いつもの靴・いつもの階段を想像してください。」
  • 社会的望ましさを抑える:「高い点が良い・悪いはありません。今の“正直な自信”で。」
  • 欠測の扱い:未経験・該当なしは空欄。備考に 未実施・環境なし 等を記録。
  • 代理回答:家族の補助は可。ただし本人の主観を優先して確認。

結果の読み方(転倒恐怖感評価としての勘所)

  • 合計点↑=自己効力の向上。同時に「屋外系(No.11–14)」の伸びは生活圏拡大のサインです。
  • 機能とのギャップを見る:筋力やバランス機能が保たれているのに MFES の点数が低い場合、心理的要因や環境要因に由来する転倒恐怖感が強いと考えられます。
  • 再評価間隔:外来・訪問は 2〜4 週、入院は病期区切りや退院前後で再評価すると、介入効果と生活範囲の変化が追いやすくなります。

このように MFES は転倒恐怖感評価として、機能評価と組み合わせることで「できる力」と「やろうとする自信」のギャップを可視化し、転倒恐怖感へのアプローチ(教育・環境整備・段階的な行動練習)につなげやすい尺度です。

屋外系のミニ事例(転倒恐怖感アプローチの実装ヒント)

  • 平地歩行:家の周囲 100–200 m を週 3 回。最初は同伴・手押し車可→単独歩行へ段階化し、「今日はどこまで行けたか」をログ化して成功体験を積みます。
  • 買い物:カゴの重さ 1–2 kg から。レジ待ち(静止立位)の時間を短→長へ段階化し、「荷物を持った状態でも転倒せずにいられた」経験を繰り返し作ります。
  • 道路横断:横断前の停止→左右確認→一気に横断のリハーサル。信号の残秒表示を確認しながら、「安全に渡り切れた」経験を重ねることで転倒恐怖感の軽減を図ります。
  • 公共交通・段差:最初は手すり必須・1 段ずつ。段差の高さ・段数をログ化し、「この条件なら安全に昇降できる」という MFES スコアの裏づけになる情報を共有します。

現場のワークフロー(5 分版)

  1. 説明(アンカー共有)→ 実施メモを手元に。
  2. 14 項目を 0〜10 で聴取(言い換えテーマで誘導)。
  3. 合計を確認し、低スコアの項目に対し具体的な改善策を 1 つ決める。
  4. 必要に応じ、筋力・バランス・歩行速度などの機能評価を追加し、「機能」と「転倒恐怖感」のギャップを整理する。
  5. 次回の目標と再評価日を記録(MFES 評価用紙/Excel 版だと記録がラク)。

現場の詰まりどころ(よくあるつまずきポイント)

  • 一度きりで終わる:入退院時だけ MFES を取って、その後フォローしないケース。転倒恐怖感は介入で変化しやすいため、数週間〜数か月スパンの追跡が重要です。
  • アンカー説明があいまい:0・5・10 の基準を曖昧にしたまま進めると、日によってスコアが大きくブレます。最初の 1〜2 分を「説明とすり合わせ」にしっかり使った方が、結果は安定します。
  • 「できる/できない」と混同:実際の遂行能力(できるかどうか)の評価と、MFES(転倒せずにできる自信)がごちゃ混ぜになりがちです。あくまで「自信」のスケールであることを繰り返し強調します。
  • カットオフにこだわり過ぎ:研究ごとに示される MFES カットオフ値を、そのまま臨床現場の判定基準として使おうとすると苦しくなります。個人内変化と項目ごとの偏りを見る方が実務的です。
  • チーム共有が不十分:理学療法士だけが MFES を把握しており、看護・介護職に共有されていないケース。屋外歩行や入浴など、MFES の低い項目はチームでリスク共有しておくと、転倒予防アプローチが組みやすくなります。

ダウンロード

※いずれもスコア記録・実施メモ用であり、設問本文は掲載していません(権利に配慮した配布形態)。

よくある質問(FAQ)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

所要時間と準備は?

3〜5 分です。説明スクリプトとアンカーの共有、MFES 評価用紙(記録シート)・筆記具(または Excel)を用意します。理学療法・作業療法・訪問リハなど、どの場面でも同じ手順で実施できるようにしておくと便利です。

支援機器(杖・手すり)がある場合は?

普段と同じ条件を前提に回答してもらいます。環境・支援具込みでの「自信」を評価することで、実際の生活場面に近い転倒恐怖感(fear of falling)の状態を把握できます。

転倒恐怖感の MFES カットオフはありますか?

「この点数以下なら転倒リスク高い」といった一律の MFES カットオフは研究によりばらつきがあり、日常臨床ではあまり実用的ではありません。合計点だけでなく、屋外系や段差・荷物など「不安の源」になっている項目を特定し、個人内の変化や転倒恐怖感アプローチの効果(行動範囲の広がりなど)を見るのがおすすめです。

おわりに

MFES(Modified Falls Efficacy Scale)は、転倒恐怖感という「目に見えにくいリスク」を数値化し、理学療法・作業療法・訪問リハのアプローチにつなげやすくしてくれる評価ツールです。機能評価だけでは見落としがちな「自信のなさ」「行動の萎縮」を拾い上げ、段階的な屋外練習や環境調整に落とし込むことで、転倒予防と生活範囲の拡大の両立を目指しやすくなります。

一方で、こうした評価や転倒恐怖感へのアプローチを現場でしっかり回していくには、リハスタッフの人数・教育体制・他職種連携など、職場環境そのものも重要です。「今の職場で評価やアプローチを十分に活かせているか見直したい」と感じたときは、面談準備チェックリストと職場評価シートをまとめた マイナビコメディカル活用ガイド も参考にしてみてください。

参考文献

  • Hill KD, Schwarz JA, Kalogeropoulos AJ, Gibson SJ. Fear of Falling Revisited. Arch Phys Med Rehabil. 1996;77(10):1025–1029. PubMed
  • Soh SLH, Wong WP, Lee PS, et al. Falls efficacy instruments for community-dwelling older adults: systematic review. BMC Geriatr. 2021;21:689. DOI / PMC

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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