OHスケールとは
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OH スケールは、1998 年から 3 年間にわたり実施された厚生労働省長寿科学総合研究班の調査を基に開発された、褥瘡発生リスク評価ツールです。
開発者である大浦武彦氏と堀田聰子氏の頭文字を取り、「OH スケール」と呼ばれています。日本人高齢者に多く見られる危険因子を反映しており、臨床現場で簡便に使用できる特徴があります。
評価項目

OH スケールの評価項目は以下の 4 項目により構成されています。
- 自力体位変換能力
- 病的骨突出
- 浮腫
- 関節拘縮
特徴と活用方法
OH スケールは評価項目が少なく、短時間で実施できる点が大きな利点です。さらに、合計点数は褥瘡予防マットレスの選択指標としても活用できます。
例えば、中等度以上のリスクでは減圧効果の高いエアマットレスの使用を検討するなど、介入方針の根拠となります。
ガイドラインでの位置付け
日本褥瘡学会の「褥瘡予防・管理ガイドライン」では、高齢者における褥瘡リスクアセスメント・スケールとして、推奨度 C1(十分な科学的根拠はないが、行うことを考慮してもよい)とされています。
これは、簡便性と高齢者特有の危険因子を反映している点から、特に介護施設や在宅医療などでの活用が期待されます。
評価用紙

OHスケールの評価表をダウンロードできるようにしてあります。評価表が必要な方はこちらからどうぞ☺
評価方法

OH スケールは「自力体位変換能力」「病的骨突出」「浮腫」「関節拘縮」の 4 項目を評価し、褥瘡発生リスクを判定します。各項目は以下の手順で評価します。
自力体位変換能力
対象者本人の力で、身体の向きを変えることを指します。自力体位変換能力の低下が最も大きな褥瘡発生要因となります。
意識的か無意識的かは問わずに、身体に加わった圧力とずれ力に対して有効に体位を変え、軟部組織の血流を改善できるかどうかを判定します。
理由を問わず、まったく自分で動けない場合は「3 点」、動ける場合は「0 点」、その中間が「1.5 点」となります。
採点の注意点としては「できる:0 点」「できない:3 点」の間の状態については全て「どちらでもない:1.5 点」となります。
普段、体位交換を全介助で行っている対象者については「できない:3 点」という判定が多くなると思いますが、本当に全くできていないのか良く考える必要があります。
対象者によっては意識的な動きではなかったにしても、身体の僅かな動きや不随意運動が小さな体位変換や圧分散となり、軟部組織の血流改善に関与している可能性があるため、この部分を意識して評価を行います。
病的骨突出
ADL が低下し、寝たきりの状態に陥ると臀筋の使用頻度が少なくなります。そうすると臀筋が萎縮し、仙骨の骨突出が著明(病的骨突出)になります。
OH スケールの病的骨突出は仙骨部の骨突出の程度で判定します。仙骨部の骨突出の測定方法としては、下図のような専用の判定器を使用すると正確な判定を行うことができます。

健康な状態では,仙骨の中央部は左右の臀筋や皮下脂肪などが骨の突出部よりも飛び出しており、外力が仙骨部に集中しないようになっています。

判定器の真っ直ぐな方を当てたときに中央に空間が観察できる状態を 0 点とします。
そして仙骨を守る臀筋や皮下脂肪が失われ、凹みがなくなった状態(お尻の高低差がなくほぼ平らな状態)を 1.5 点(軽度)とします。
判定器の真っ直ぐではない方を当てたときに、両方の脚がつくような状態を 1.5 点(中等度)とします。
仙骨部が明らかに飛び出していて、骨突出部から左右の 8 cm 離れた部分と 2 cm 以上の高低差がある状態が 3 点(高度)とします。因みに判定器の真っ直ぐではない方を当てたときに、一方の脚でも浮くような状態であると 3 点になります。
仙骨部の骨突出が顕著な場合、この部分には圧迫力やずれ力が集中しやすいため、褥瘡の危険度が高くなります。
浮腫
浮腫を認める場合、その近辺の皮膚は脆弱で傷つきやすいため、褥瘡発生の危険度が高くなります。
身体のいずれかの部位に浮腫を認めるかどうかを判定します。浮腫の後発部位としては、瞼、顔面、上肢、下腿、足首、足背などがあげられます。
これらの部位で浮腫が疑われる部位があった場合、母指の腹で優しく約 5 秒間圧迫し、指を離しても皮膚の圧痕が持続するようであれば、「浮腫あり:3 点」と判定します。
関節拘縮

関節拘縮は、どの部位に発生しているかに関わらず褥瘡発生要因となります。
関節拘縮による直接的な褥瘡発生としては、関節の伸展側が拘縮の影響により関節内部から圧を受けて外傷が発生すること、関節拘縮により下肢が交差することなどで褥瘡が発生することがあります。
また、関節的な要因としては、股関節や膝関節が拘縮することにより、大転子部や仙骨部の骨突出の程度が強くなることや局所圧が高くなることが考えられます。
関節の可動域制限が 一ヶ所でもあれば「あり:1点」、可動域制限がなければ「なし:0点」と判定します。
評価時の総合的注意点
OH スケールは簡便性に優れますが、観察力と経験が結果に大きく影響します。特に「自力体位変換能力」や「骨突出」は主観的になりやすく、可能な限り複数の評価者で確認すると信頼性が高まります。
また、得点は褥瘡予防マットレスの選定やケア方針の決定に直結するため、正確な評価が求められます。
OH スケールのカットオフ値
OH スケールは 4 項目(自力体位変換能力・病的骨突出・浮腫・関節拘縮)の合計点で褥瘡リスクを段階化します。判定は、0 点=危険因子なし、1–3 点=軽度、4–6 点=中等度、7–10 点=高度です。数値は“優先度付けの指標”であり、皮膚所見・支持面・活動性・栄養・疾患特性と統合して解釈します。
実務では、中等度(4 点以上)から積極的介入が妥当です。体位変換の頻度見直し、減圧効果の高いマットレス・クッションの選定、踵免荷とスキンケアの強化をセットで行います。高度(7 点以上)では観察頻度をさらに上げ、局所の除圧を徹底します。評価は「評価 → 介入 → 再評価」のサイクルで運用しましょう。
- 0 点:危険因子なし(教育・自立支援を中心に)
- 1–3 点:軽度(支持面の見直し/ 48 h 以内に再評価)
- 4–6 点:中等度(体位変換 ≤ 2–4 h・減圧デバイスを検討)
- 7–10 点:高度(厳格な除圧・観察頻度増/ 12–24 h 再評価)
OH 以外のリスクアセスメントスケール
本邦では対象や場面に応じて複数のスケールが使われています。対象特性に合わせて“使い分け”ることで、より適切な予防計画につながります。特に ICU・小児・在宅などは、専用スケールの活用が有用です。詳細は当ブログのまとめ記事も併せてご覧ください:褥瘡リスクアセスメントスケールまとめ
関連記事:褥瘡リスクアセスメントスケールまとめ / ブレーデンスケール徹底解説
リスクアセスメントの重要性
褥瘡予防の第一歩は、リスクの早期把握です。OH スケール等で“定量化”することで、ケアの優先順位と内容(支持面・体位変換・踵免荷・スキンケア・栄養)を明確にできます。標準化された評価は、チーム内での共通言語にもなります。
理学療法士は、動作観察や姿勢・活動性の評価を通じて、体圧分散能力やずれ・摩擦の生じやすさを把握できます。状態変化(手術後・発熱・離床度の変化など)や環境変化(マットレス交換・介助体制の変更)をトリガーに再評価し、計画をアップデートしましょう。
まとめ
OH スケールは 4 項目・ 10 点で褥瘡発生リスクを簡便に段階化できるツールです。カットオフは 1–3 点=軽度、4–6 点=中等度、7–10 点=高度。スコアは“判断の材料”として扱い、皮膚所見・支持面・体位変換・栄養と統合してケアを設計します。
臨床では「評価 → 介入 → 再評価」を短周期で回し、特に中等度以上は観察頻度と除圧対策を強化します。対象と場面に応じてブレーデンや K 式等の併用も検討し、チームで標準化を進めましょう。
参考文献
- 岡田 克之. 褥瘡のリスクアセスメントと予防対策. 日本老年医学会雑誌. 2013;50(5):583–591.
- 南 由起子. ブレーデンスケールと OH スケールについて. 泌尿器ケア. 2007;12(11):74–78.
- 三谷 和江. OH スケール. 整形外科看護. 2015;20(10):26–28.