IADと褥瘡の違い|まず「尿・便曝露」と「圧・ずれ」を分けて考える
IAD(Incontinence-Associated Dermatitis:失禁関連皮膚炎)と褥瘡を見分けるときは、見た目だけで決めず、何が皮膚へ加わっていたかから考えます。IADでは尿・便への皮膚曝露、褥瘡では持続する圧迫または圧迫とずれ(せん断)が重要です。
ただし、仙骨部などではIADと褥瘡が同じ場所に併存することがあります。そのため、「IADか褥瘡か」を無理に二者択一するより、尿・便曝露、機械的負荷、分布・境界を確認して仮置きし、判断できない間は皮膚保護と圧・ずれ対策を並行して始めることが重要です。本記事では、30秒早見表、1分鑑別フロー、初期対応、最小7項目の記録方法まで整理します。
IADと褥瘡の違い|30秒早見表
最も重要な違いは、IADは尿・便への皮膚曝露、褥瘡は持続する圧迫または圧迫とずれ(せん断)が原因となることです。部位や境界だけで決めず、原因・分布・機械的負荷を組み合わせて判断します。
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| 観点 | IAD(失禁関連皮膚炎) | 褥瘡(Pressure Injury) |
|---|---|---|
| 原因を考える手掛かり | 尿・便が皮膚へ接触している | 持続する圧迫、または圧迫+ずれが加わっている |
| 分布 | 会陰・肛門周囲・殿部・大腿など、尿・便が接触した範囲に広がる | 仙骨・坐骨・踵などの骨突出部や、医療機器の接触部に局所的に生じやすい |
| 境界 | 不明瞭、まだら、びまん性になりやすい | 局所的な変化として認めることが多い。ただし境界だけでは確定できない |
| 皮膚所見 | 発赤、浸軟、びらん、表皮剝離、疼痛・灼熱感など | 消退しない局所発赤、水疱、深赤色・暗赤色・紫色の変化、組織欠損などを認め得る |
| 深部所見 | 深部組織損傷をIADだけで説明しない | 圧・ずれによって皮下組織や深部組織まで障害されることがある |
| 初期対応の軸 | 尿・便曝露を減らす+やさしい洗浄・乾燥+皮膚保護 | 圧・ずれの低減+体位・支持面・姿勢の見直し |
| 両方あり得る場合 | IADと褥瘡は併存し得ます。原因がはっきりしない発赤では、尿・便曝露と摩擦を減らす皮膚ケアと、圧・ずれ対策を並行して開始し、経時変化で再評価します。 | |

ポイント:「骨突出部だから必ず褥瘡」「びまん性だから必ずIAD」とは決めません。仙骨部では尿・便曝露と圧・ずれが同時に存在することがあるため、原因を2軸で確認することが重要です。
IADか褥瘡か迷ったときの1分鑑別フロー
鑑別では、尿・便曝露 → 機械的負荷 → 分布・境界 → 深部所見の順で確認します。最後まで判断できなくても、必要な初期対応を止めないことが重要です。
- 尿・便が皮膚へ接触している?
尿失禁、便失禁、下痢だけでなく、尿・便が実際にどの範囲へ接触していたかを確認します。 - 圧・ずれが加わっている?
仙骨・坐骨・踵などの骨突出部、臥床時間、座位前滑り、医療機器の当たりを確認します。 - 分布は曝露範囲に沿って広がっている?
会陰、肛門周囲、殿部、大腿などへ広く・まだらに分布する場合はIADを考える手掛かりになります。 - 骨突出部や機器の接触部へ局在している?
局所への持続的な負荷が説明できる場合は褥瘡を考えます。 - 暗赤色・紫色、水疱、壊死など深部損傷を疑う所見はない?
あればIADだけと考えず、褥瘡や他の皮膚障害を含めて評価します。 - 両方の原因がある?
尿・便曝露と圧・ずれの両方が存在する場合は、IADと褥瘡の併存を前提に対応します。 - 仮置きする
IAD/褥瘡/併存疑い/その他の皮膚障害として整理し、介入内容と再評価予定を記録します。
判断できないときの原則
原因不明の発赤では、鑑別がつくまで何もしないのではなく、尿・便曝露の低減、摩擦低減、皮膚保護、圧・ずれ低減、体位調整を並行して開始します。皮膚の反応を経時的に確認し、診断を更新します。
IADだけと決めない所見|早めに評価・相談したい赤旗
暗赤色・紫色の局所変化や深部組織損傷を疑う所見がある場合は、単純なIADとして経過を見るのではなく、圧迫損傷や感染、その他の皮膚疾患を含めて再評価します。
- 持続する暗赤色・深赤色・紫色の局所変化
- 血性水疱や急速に変化する水疱
- 壊死組織、深い組織欠損、ポケット・トンネルを疑う所見
- 急速な悪化や強い疼痛
- 膿性滲出、悪臭、周囲の炎症拡大、発熱など感染を疑う所見
- 医療機器の形状や接触部に一致した皮膚障害
医療機器の接触部に一致する場合は、MDRPIの運用ガイドも確認してください。赤旗や急速な悪化がある場合は、予定した再評価時刻を待たず、施設内の手順に沿って医師・皮膚排泄ケア担当者・創傷ケアチームなどへの相談を検討します。
鑑別できないときの初期対応|両方に必要な対策から始める
IADか褥瘡か判断できない場合でも、初期対応は始められます。2026年のIAD Best Practice Updateでも、鑑別が難しい場合は経時的な皮膚反応を確認することが重要とされ、IADへの予防・管理とPressure Injuryへの予防を並行して考える必要があります。
- 尿・便をやさしく除去する
こすらずに汚染を除去し、洗浄後は皮膚をやさしく十分に乾燥させます。 - 皮膚を保護する
尿・便との直接接触を減らすため、施設採用品や製品の使用方法に沿って適切な皮膚保護剤を使用します。 - 必要に応じて皮膚バリアの回復を支える
表皮の状態や使用製品に応じて、皮膚バリアの維持・回復を支えるケアを検討します。 - 圧・ずれを減らす
骨突出部の当たり、体位、支持面、座位前滑り、医療機器の圧迫を確認して修正します。 - 曝露時間を短くする
排泄パターン、交換条件、失禁用品、便後ケアなどを見直します。 - 再評価予定を決める
「いつ・何を比較するか」を記録し、改善が乏しい場合や悪化した場合は診断とケア計画を見直します。
再評価時間の考え方
一律に「24〜48時間で鑑別する」と決めるのではなく、状態に応じて再評価間隔を設定します。適切なIADケアを開始しても1〜2日で測定可能な改善がみられない場合は速やかに再評価し、原因やケア方法を見直します。IADと褥瘡の鑑別が難しいケースでは、適切な介入後の皮膚反応を3〜5日程度観察することで違いが明確になる場合があります。赤旗や急速な悪化がある場合は、それより早く対応します。
IADと褥瘡の観察・記録|最小7項目を同じ順番で残す
鑑別が難しいケースほど、診断名だけを書くのではなく、何を根拠にIAD・褥瘡・併存疑いと考えたかを残します。次の7項目を同じ順番で記録すると、次回評価との比較や多職種での共有がしやすくなります。
- 部位:仙骨部、尾骨部、会陰部、肛門周囲、殿部、大腿など
- 分布:びまん性か、骨突出部・機器接触部へ局在しているか
- 境界:明瞭か、不明瞭・まだらか
- 所見:発赤、浸軟、びらん、表皮剝離、水疱、壊死、色調変化など
- 尿・便曝露:尿、便、両方、下痢、接触範囲・曝露状況
- 機械的負荷:圧、ずれ、座位前滑り、医療機器の当たり
- 介入+再評価予定:実施した皮膚ケア・除圧対策と、次に比較する時刻・日付
記録例:「仙骨〜両殿部にまだらな発赤と浸軟あり。便失禁あり。仙骨中央は骨突出部に一致して局所発赤あり。清潔・乾燥後に皮膚保護、仙骨部の除圧とずれ対策を実施。IAD+圧迫損傷の併存を疑い、次回皮膚観察時に分布・色調・表皮損傷を再評価する。」
IAD・褥瘡の記録シートPDF|7項目を1ページで残す
以下の記録シートは、IADと褥瘡を判断するときに確認したい項目を1枚で記録するためのA4シートです。診断名だけでなく、分布、境界、尿・便曝露、機械的負荷、実施した介入、再評価予定を同じ型で残せます。
プレビュー(タップで開く)
IADと褥瘡の鑑別で起こりやすい失敗
鑑別で特に避けたいのは、見た目だけで決め打ちすることと、診断が決まるまで介入を待つことです。
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| 失敗 | なぜ問題か | 対策 | 記録すること |
|---|---|---|---|
| びまん性=IADと決める | 尿・便曝露と圧・ずれが同時に存在する場合がある | 曝露と機械的負荷を別々に確認する | 尿・便曝露+骨突出部・圧・ずれ |
| 骨突出部=褥瘡と決める | IADは仙尾部・殿部まで広がることがある | 分布だけでなく、尿・便の接触範囲を確認する | 分布・境界・曝露範囲 |
| 診断が決まるまで待つ | 曝露や圧・ずれが継続すると皮膚障害が悪化し得る | 皮膚保護と圧・ずれ低減を並行して開始する | 実施した介入と変更内容 |
| 毎回違う言葉で記録する | 経時変化を比較しにくい | 最小7項目を固定する | 同じ項目+次回再評価予定 |
IADと褥瘡のよくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。
IADと褥瘡は同時に起こりますか?
起こり得ます。特に仙尾部・殿部では、尿・便への曝露と圧・ずれが同時に存在することがあります。どちらか一方に決め切れない場合は、皮膚保護と圧・ずれ対策を並行し、介入後の変化を再評価します。
びまん性の発赤ならIADと考えてよいですか?
びまん性・不明瞭な分布はIADを考える手掛かりになりますが、それだけでは確定できません。骨突出部への局所的な負荷、医療機器の当たり、暗赤色・紫色などの所見がないかも確認します。
IADか褥瘡か分からない場合、再評価はいつ行いますか?
状態に応じて再評価時期を決めます。適切なIADケアを開始しても1〜2日で測定可能な改善がみられない場合は、原因やケア方法を速やかに再評価します。IADと褥瘡の鑑別が難しい場合は、3〜5日程度の治療反応から違いが明確になることもあります。ただし、深部損傷疑い、感染徴候、急速悪化がある場合は待たずに対応します。
尿・便への曝露がなければIADではありませんか?
IADを考えるうえでは、尿・便への皮膚曝露が重要です。失禁という診断や記録の有無だけではなく、実際に尿・便が皮膚へ接触する状況がなかったかを確認します。曝露で説明できない皮膚障害では、褥瘡、接触皮膚炎、感染、間擦疹など他の原因も検討します。
次の一手
参考文献
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- National Pressure Injury Advisory Panel, European Pressure Ulcer Advisory Panel, Pan Pacific Pressure Injury Alliance. Pressure Injuries/Ulcers: Definition and Etiology. In: Prevention and Treatment of Pressure Ulcers/Injuries: Clinical Practice Guideline. The International Guideline: Fourth Edition. Haesler E, ed. 2025. International Guideline
- Doughty D, Junkin J, Kurz P, et al. Incontinence-associated dermatitis: consensus statements, evidence-based guidelines for prevention and treatment, and current challenges. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2012;39(3):303-315. doi: 10.1097/WON.0b013e3182549118 / PubMed: 22572899
- Edsberg LE, Black JM, Goldberg M, et al. Revised Pressure Injury Staging System. J Wound Ostomy Continence Nurs. 2016;43(6):585-597. doi: 10.1097/WON.0000000000000281 / PubMed: 27749790
- Francis K. Damage control: Differentiating incontinence-associated dermatitis from pressure injury. Nurse Pract. 2019;44(12):12-17. doi: 10.1097/01.NPR.0000586032.38669.63 / PubMed: 31764470
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

