SF-36 の使い方と読み方( 8 尺度・採点 )

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SF-36 とは?(目的・所要時間)

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SF-36 は、健康関連 QOL36 項目・ 8 尺度で評価する代表的な患者報告アウトカム( PROM )です。自己記入式の SF-36 評価用紙を用い、所要はおおむね 5〜10 分。慢性疾患、術後、回復期リハなど幅広い集団で信頼性・妥当性が検証されており、研究と日常診療のどちらでも使いやすい尺度です。

解釈の基本は、まず 8 つの下位尺度プロフィールを並べて「どの領域が凹んでいるか」を確認し、必要に応じて PCS/MCS (身体・精神の 2 合成)で全体傾向を補うことです。SF-36 の点数表示は直感的な 0–100 に加え、群間比較に強い NBS (平均 50・ SD 10 ) を用いると、変化量や群差の意味づけがしやすくなります。PROM の全体像と運用の型は 健康関連 QOL( HRQOL )と PROM の選び方 にまとめています。

SF-36 の使い方(配布→回収→採点→説明の 6 ステップ)

「 SF-36 使い方」で迷うポイントは、尺度そのものより運用(誰が・いつ・どこで回すか)にあります。まずは次の 6 ステップを“型”として固定すると、回収率と活用率が上がります。

  1. 目的を 1 行で説明:生活への影響( QOL )を見える化して、目標と優先度をそろえる
  2. フォームを決める:標準(過去 4 週)か急性(過去 1 週)を選び、同一患者は同じ版で追う
  3. 配布の場面を固定:初回評価・退院前など「節目」に絞り、配布担当を決める
  4. 回収時に欠測チェック:未回答が多い尺度がないか確認し、欠測ルールを施設内で統一
  5. 採点→可視化: 0–100 とプロフィール(棒グラフ等)を優先し、必要時に NBS/ PCS・ MCS を併読
  6. 説明→次の一手:凹み 1 つを「困る場面」に翻訳し、次回の再評価日(節目)を決める

患者さんへの説明テンプレ(そのまま使える 2 行)

  • 「この用紙は、体の状態が生活にどれくらい影響しているかを整理するためのものです。」
  • 「答えにくい項目は無理せず空欄でも大丈夫なので、まず今の状態を教えてください。」

SF-36 の 8 下位尺度(略号と意味)

下表は SF-36 の 8 つの下位尺度の早見表です。各尺度は該当項目の向きをそろえた上で平均化し、 0–100 に換算します(高いほど良好)。大まかに 身体側( PF 〜 GH )精神側( VT 〜 MH ) に分かれるとイメージしておくと、プロフィールで凹凸を見たときに「身体の問題か/メンタルの問題か」が整理しやすくなります。

SF-36: 8 下位尺度と略号の対応(成人・臨床早見)
略号 日本語名称 主な内容
PF 身体機能 歩行・階段・持ち上げなど日常の身体活動。SF-36 身体機能の中核となる下位尺度。
RP 日常役割機能(身体) 身体的問題による仕事・家事の制限
BP 体の痛み 疼痛の強さ・活動への影響
GH 全体的健康感 現在の健康観・将来見通し
VT 活力 活力・倦怠感(疲れやすさ・気力の低下)
SF 社会生活機能 健康問題による対人・社会活動の制限
RE 日常役割機能(精神) 精神的問題による役割遂行の制限
MH 心の健康 不安・抑うつ・心理的安寧

SF-36 の採点方法( 0–100 ・ NBS ・ PCS/MCS )

手順の要点:① ネガティブ項目は反転し「高いほど良い」に統一 → ② 尺度ごとに平均化(欠測は施設内ルールで統一) → ③ 0–100 に換算、という流れで SF-36 の点数を出します。8 下位尺度をレーダー図や棒グラフで並べると、患者さんにも「どこが下がっているか」が視覚的に伝わりやすく、 QOL の説明や共有がスムーズになります。

群間比較や施設内ベンチマークには NBS ( Norm-Based Scoring )が有用です。さらに PCS/MCS を算出して全体傾向を俯瞰し、プロフィールと併読します。単一の「トータルスコア」よりも、領域別の弱点把握+ 2 合成の組み合わせで読む方が、介入方針の具体化に直結しやすい読み方です。

NBS( Norm-Based Scoring )の読み方(目安)

NBS は各尺度を平均 50・ SD 10 に規格化した指標です。実務上は 50 を基準線として「どの尺度が相対的に低いか」を素早く把握します。たとえば 40 前後は「平均との差でおよそ 1 SD 低い」目安として扱いやすく、“どの下位尺度が目立って低いか” を見るのに向きます。

一方で、NBS に絶対的なカットオフがあるわけではありません。対象集団や目的(研究・臨床)により意味づけが変わるため、まずは 凹み尺度 → 困る場面に翻訳して説明し、次回の再評価で変化量を追う運用が安全で実用的です。

PCS/MCS( 2 合成スコア )の使い方

PCS は身体的健康、 MCS は精神的健康の要約です。まず 8 下位尺度プロフィールで「どの領域が特に低いか」を確認し、そのうえで PCS/MCS で全体像を押さえると、説明が「身体側の要因」「メンタル側の要因」に整理しやすくなります。どちらか一方だけを追うのではなく、プロフィール → PCS/MCS → 再びプロフィールの往復で読むイメージが実用的です。

標準フォームと急性フォーム(使い分け)

リコール期間が 標準フォーム=過去 4 週、急性フォーム=過去 1 週で異なります。急性期や短期入院の効果検出には急性フォーム、慢性疾患の経過観察や SF-36 による QOL 評価の定点観測には標準フォームが扱いやすいです。

運用のコツは「同一患者は同じフォーム・同じ条件で追う」ことです。フォームが混在すると変化量の解釈が難しくなるため、施設内で“採用ルール(場面・タイミング)” を決めておくと運用が安定します。

現場の詰まりどころ(どこでつまずきやすい?)

SF-36 は項目数が多く、「時間がない」「採点が面倒」で途中から使われなくなるケースが少なくありません。特に、毎回手計算で 0–100 換算をしようとすると負担が大きく、結果をグラフ化する余力が残らないまま「とりあえずファイルに綴じるだけ」で終わりがちです。

運用を続けるためには、① 用紙と採点シート(または Excel )をセットにしておく ② グラフまで自動で出るフォーマットを用意する ③ 実施タイミングを「入退院時など特定の節目」に絞るといった工夫が鍵になります。「毎回フルセットで完璧に」ではなく、「ここぞというタイミングで確実にプロフィールを取る」ほうが現実的な SF-36 の使い方です。

よくある質問(臨床の疑問に即答)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. 欠測はどう扱う?

A. 欠測の扱いは “毎回同じルール” に揃えるのが最重要です。一般に、同一尺度内で一定数の回答が揃っている場合は、回答済み項目の平均で補完するなどの方法が用いられます。欠測が多い場合は、説明の仕方や環境(照明・時間帯・疲労)に問題がないかを見直し、必要に応じて再実施を検討します。

Q2. 総合点はある?

A. いわゆる 1 つの「トータルスコア」は基本的に想定されていません。推奨されるのは 8 下位尺度プロフィール+ PCS/MCS の組み合わせです。「どの領域がどの程度低いのか」を具体的に示したうえで、「結果として身体側の負担が大きいのか、メンタル側の負担が大きいのか」を PCS/MCS で補足すると、患者さんや他職種にも共有しやすくなります。

Q3. 0–100 と NBS はどう使い分ける?

A. まずは 0–100 でプロフィールの凹凸を示し、「どこが困っているか」を共有するのが実務的です。NBS は群平均との差を読みやすくする規格化スコアなので、研究やベンチマーク、複数時点で“差の意味づけ” を補助したいときに併用します。

Q4. 日本語版・利用条件は?

A. 原票・採点の参照先は複数あるため、使用する版(フォーム)と目的(研究・臨床)に合わせて配布元の最新情報を確認します。原票や採点手順の参照として RAND Health Care が公開されています。規格化スコアやマニュアル体系を含む資料は QualityMetric/ Optum の資料を参照し、実務での利用にあたっては最新版のライセンス条件を必ず確認してください。

おわりに

SF-36 を評価ルーチンに組み込むと、「症状や所見だけでは見えにくい QOL の凹み」を可視化でき、目標設定や介入の説明がぐっと具体になります。特に、プロフィールを経時的に並べることで、介入が患者さんの生活にどの程度フィットしてきたかを、本人・家族・多職種で共有しやすくなります。

現場では、すべての患者さんに毎回実施する必要はなく、入退院時や状態変化時など「節目」を決めて確実にプロフィールを取るほうが続けやすい運用です。本記事をベースに、自施設の SF-36 評価用紙・採点シート・グラフ出力の仕組みを整えておくと、明日からの QOL 評価がぐっと軽く、ブレの少ないものになるはずです。

転職や職場選びで「評価をどう回せる環境か」も含めて整理したいときは、面談準備チェックと職場評価シートもあわせて使うと、条件比較が進めやすくなります。

評価用紙・追加リソース

参考文献

  1. Ware JE Jr, Sherbourne CD. The MOS 36-Item Short-Form Health Survey (SF-36): I. Conceptual framework and item selection. Med Care. 1992;30(6):473-483. DOI: 10.1097/00005650-199206000-00002 / PubMed: 1593914.
  2. Fukuhara S, Bito S, Green J, Hsiao A, Kurokawa K. Translation, adaptation, and validation of the SF-36 for use in Japan. J Clin Epidemiol. 1998;51(11):1037-1044. DOI: 10.1016/S0895-4356(98)00095-X / PubMed: 9817131.
  3. RAND Health Care. 36-Item Short Form Survey (SF-36):Instruments & Scoring. Website.
  4. QualityMetric/ Optum. Norm-Based Scoring (NBS) 解説資料( PDF ). Download.

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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