病的反射とは?成人でみる主要6反射と判定の考え方
病的反射は、錐体路・上位運動ニューロン(UMN)障害を疑うときに確認する神経学的所見の1つです。成人では、反射ごとに刺激方法と陽性基準をそろえ、左右差と他の所見を合わせて解釈することが基本です。Babinskiは母趾背屈を中心に判定し、Hoffmann・Trömnerは単独陽性だけで病的と決めません。
本記事では、Babinski / Chaddock / Oppenheim / Gordon / Hoffmann / Trömnerの主要6反射について、やり方・陽性基準・迷いやすい判定の境界・記録方法まで整理します。小児の原始反射や詳細な病巣局在、頚髄症の確定診断までは扱わず、成人のベッドサイド評価で「どう取って、どう判断し、どう記録するか」に絞って解説します。
病的反射6種類のやり方と陽性基準|早見表
まず確認したいのは「どこを刺激して、何が起きたら陽性なのか」です。 下肢では母趾背屈、上肢では母指を中心とした屈曲反応を確認し、左右を同じ条件で比較します。
| 反射 | 刺激方法 | 陽性基準 | 判定ポイント |
|---|---|---|---|
| Babinski | 足底外側を踵側から前方へゆっくり擦過する | 母趾背屈 | 下肢全体の逃避だけで陽性としない |
| Chaddock | 外果の下〜周囲を後方から前方へ擦過する | 母趾背屈 | 足底刺激で判定しにくい場合の補助にする |
| Oppenheim | 脛骨稜を近位から遠位へ擦過する | 母趾背屈 | 疼痛を生じる強い刺激は避ける |
| Gordon | 腓腹筋を把握して圧迫する | 母趾背屈 | 下腿痛や局所病変があれば他法を優先する |
| Hoffmann | 中指を支持し、爪・末節を下方へ弾く | 母指の屈曲 | 正常でも出現しうるため左右差を確認する |
| Trömner | 中指の手掌側末端を弾く | 母指の屈曲 | 単独陽性だけで病的と決めない |
略語凡例:UMN=上位運動ニューロン、DTR=深部腱反射。
下肢の病的反射:Babinski / Chaddock / Oppenheim / Gordon
下肢の4反射は、刺激方法が違っても母趾背屈を確認する点が共通します。 Babinskiを基本として、反応が読み取りにくい場合にChaddock、Oppenheim、Gordonなどの変法を組み合わせます。
Babinski反射|母趾背屈を中心に判定する
Babinski反射では、患者の足を安定させ、皮膚を傷つけない鈍い刺激物を用いて、足底外側を踵側から前方へゆっくり擦過します。母趾の背屈がみられた場合を陽性とします。
ほかの足趾が開く開扇現象を伴うことがありますが、判定の中心は母趾背屈です。開扇がみられないという理由だけで陰性とはしません。
迷いやすいのは、刺激に対して下肢全体を引き込む逃避反応との区別です。膝や股関節が曲がったことだけで判定せず、母趾がどのように動いたか、刺激に対する反応が再現するかを確認します。反応が不明瞭な場合は、無理に陽性・陰性へ分けず、条件を整えて再評価します。
Chaddock反射|足底刺激で判定しにくいときの補助
Chaddock反射では、外果の下から周囲を後方から前方へ擦過し、母趾背屈がみられるかを確認します。Babinskiと同方向の反応を別の刺激部位から確認できるため、足底への刺激で反応を読み取りにくい場合の補助になります。
Oppenheim・Gordon反射|刺激部位を変えて確認する
Oppenheim反射では脛骨稜を近位から遠位へ擦過し、Gordon反射では腓腹筋を把握圧迫して母趾背屈を確認します。
いずれも反応を強く出すことが目的ではありません。刺激部位に疼痛、皮膚損傷、局所病変などがある場合は無理に行わず、ほかの方法や神経学的所見を優先します。
上肢の病的反射:Hoffmann / Trömner
HoffmannとTrömnerは、陽性だけでUMN障害や頚髄症を確定する所見ではありません。 正常でも反応がみられることがあるため、左右差とDTR、筋緊張、巧緻動作、歩行などを合わせて判断します。
Hoffmann反射|母指の屈曲と左右差を確認する
Hoffmann反射では、患者の中指を支持して手をできるだけ脱力させ、中指の爪・末節を下方へ弾きます。母指が屈曲した場合を陽性として確認します。
必ず両側を同じ条件で比較します。正常でも反応が出現することがあるため、「陽性だった」という事実だけで病的と断定せず、左右差と他の神経学的所見との整合を確認します。
Trömner反射|中指の手掌側から誘発する
Trömner反射では、患者の中指を支持し、中指の手掌側末端を弾いて母指の屈曲を確認します。
Hoffmannと同様に、正常でも出現することがあります。陽性・陰性だけではなく、左右差、DTR、筋緊張、巧緻動作や歩行など、同じ方向を示す所見がそろっているかを確認します。
病的反射の判定で迷う3つの境界
病的反射は「単体の反応」ではなく、全体の文脈で読むことが重要です。 特に迷いやすいのは、Babinskiと逃避反応の区別、Hoffmann・Trömner単独陽性の扱い、病的反射が陰性だった場合の考え方です。

1.Babinski:下肢全体の逃避だけで陽性にしない
刺激に対して膝や股関節が屈曲し、下肢全体を引き込む反応は逃避の可能性があります。母趾背屈がみられているかを中心に確認し、反応が不明瞭なら刺激条件を見直します。
2.Hoffmann・Trömner:単独陽性で病的と決めない
HoffmannとTrömnerは正常でも出現することがあります。左右差があるか、DTRや筋緊張はどうか、巧緻動作や歩行に変化があるかを追加して、総合的に意味づけします。
3.陰性時:UMN障害を完全には除外しない
病的反射が陰性でも、UMN障害を完全に否定できるわけではありません。DTR亢進、筋緊張変化、筋力・感覚障害、巧緻動作や歩行の変化などがあれば、病的反射の結果だけで評価を終了せず、関連所見をそろえて判断します。
病的反射の記録方法|左右差・条件・関連所見を残す
病的反射の記録では、反射名と陽性・陰性だけでなく、左右差・評価条件・関連所見を残します。 初回から条件を簡潔に記録しておくと、次回評価との比較や多職種への共有がしやすくなります。
| 項目 | 記録例 | 目的 |
|---|---|---|
| 反射・左右 | Babinski R+/L−、Hoffmann R+/L− | 陽性側と左右差を残す |
| 評価条件 | 仰臥位、脱力確認、刺激部疼痛なし | 次回も条件をそろえる |
| 判定が揺れた所見 | 足底刺激で逃避あり/母趾反応は不明瞭 | 無理な陽性判定を避ける |
| 関連所見 | DTR、筋緊張、筋力、感覚、巧緻動作、歩行 | 単独所見で解釈しない |
| 再評価 | 同体位・同刺激条件で再確認 | 経時変化を比較する |
SOAP例:S)刺激部の疼痛なし。O)Babinski R+/L−、Hoffmann R+/L−。DTR亢進あり、筋緊張増加、右手巧緻動作低下。A)病的反射を含むUMN所見が右優位にみられ、関連所見との整合を確認。P)同条件で再評価し、筋緊張・巧緻動作・歩行の変化を継続して確認する。
病的反射の記録シートPDF
主要6反射の左右判定、評価条件、関連所見、再評価メモを1枚で整理できる記録シートです。 初回評価から「どちら側に出たか」「どの条件で評価したか」をそろえて残しておくと、次回比較や情報共有に使いやすくなります。
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病的反射を実施するときの注意点
病的反射は、評価のために疼痛や皮膚・軟部組織の損傷を生じさせないことが前提です。 刺激部位に皮膚損傷、感染、強い疼痛、局所病変などがある場合は、その部位への刺激を避けます。
| 状況 | 対応 | 考え方 |
|---|---|---|
| 足底の皮膚損傷・感染・強い疼痛 | Babinskiの直接刺激を避ける | 別の誘発法や他所見を優先する |
| 下腿の強い疼痛・局所病変 | Oppenheim・Gordonを無理に行わない | 評価による症状悪化を避ける |
| 体位が不安定 | 安全な姿勢を整えてから実施する | 反応の誘発より安全を優先する |
| 反応が不明瞭 | 刺激を強くせず、条件を整えて再確認する | 判定ブレや逃避との混同を減らす |
実施前に目的と方法を説明し、患者ができるだけ力を抜ける体位を整えます。主治医の指示や院内で定めた評価手順がある場合は、それを優先してください。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。
Babinskiが陰性なら、UMN障害は否定できますか?
いいえ。Babinskiが陰性でもUMN障害を完全に除外することはできません。DTR、筋緊張、筋力、感覚、巧緻動作、歩行など他の神経学的所見を合わせて判断し、必要に応じて同条件で再評価します。
母趾が背屈したものの、ほかの足趾が開きません。Babinski陽性ですか?
判定の中心は母趾背屈です。ほかの足趾の開扇現象は伴うことがありますが、必須ではありません。母趾背屈が明瞭か、刺激条件をそろえて確認します。
Hoffmannが陽性なら、頚髄症と考えてよいですか?
Hoffmann陽性だけで頚髄症を確定することはできません。正常でも出現することがあるため、左右差に加えてDTR、筋緊張、巧緻動作、感覚、歩行などの所見を合わせて評価します。
次の一手|反射全体と神経学的評価へつなげる
病的反射だけで判断を完結させず、反射検査全体の位置づけや、関連する神経学的所見へつなげると評価を整理しやすくなります。
- 反射検査の全体像を見る:DTRを含めた反射検査の進め方と解釈を確認する
- 神経学的評価ハブを見る:感覚・反射・協調性など、次に確認する評価を探す
参考文献
- 日本神経学会. 神経学的検査チャート作成の手引き. 2008. 日本神経学会
- Isaza Jaramillo SP, Uribe Uribe CS, García Jimenez FA, Cornejo-Ochoa W, Alvarez Restrepo JF, Román GC. Accuracy of the Babinski sign in the identification of pyramidal tract dysfunction. J Neurol Sci. 2014;343(1-2):66-68. DOI | PubMed
- Chaiyamongkol W, Laohawiriyakamol T, Tangtrakulwanich B, Tanutit P, Bintachitt P, Siribumrungwong K. The Significance of the Trömner Sign in Cervical Spondylotic Myelopathy Patient. Clin Spine Surg. 2017;30(9):E1315-E1320. DOI | PubMed
- Glaser JA, Curé JK, Bailey KL, Morrow DL. Cervical spinal cord compression and the Hoffmann sign. Iowa Orthop J. 2001;21:49-52. PubMed
- Gruenberger EH, Fridley JS, Yin W, et al. The Hoffmann parallax: a prospective study to determine the benefit of Hoffmann’s sign. Orthop Rev (Pavia). 2023;15:77875. DOI | PubMed
- Jiang Z, Davies B, Zipser C, et al. The value of clinical signs in the diagnosis of degenerative cervical myelopathy: a systematic review and meta-analysis. Global Spine J. 2024;14(4):1369-1394. DOI | PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

