- 褥瘡治療に必要な栄養素(結論:まずは「総エネルギー」と「蛋白」を外さない)
- なぜ栄養で褥瘡が治りやすくなるのか?(炎症・筋分解・摂取不足のループを切る)
- まず決める「最低ライン」:エネルギー・蛋白・水分(目安を決めて“不足”を可視化)
- 栄養素は「役割」で整理する(蛋白/アルギニン/亜鉛/抗酸化)
- ONS(経口栄養補助食品)を“いつ・何の目的で”入れるか
- 評価から介入へつなぐ:スクリーニング→診断→計画( PT / OT が迷わない形)
- 現場の詰まりどころ:栄養介入がうまく回らない “あるある” と対策
- よくある質問(FAQ)
- おわりに(栄養は「必要量→差分→手段」の順で整えると、褥瘡ケアが回り出す)
- 参考文献
- 著者情報
褥瘡治療に必要な栄養素(結論:まずは「総エネルギー」と「蛋白」を外さない)
褥瘡( Pressure Injury )の治療で栄養を考えるとき、最初に押さえるべきは「必要量(特に総エネルギーと蛋白)を満たせているか」です。ビタミンや亜鉛より先に、食事量・体重変化・浮腫をセットで確認し、足りない分を“手段(間食・強化食品・ONS・経腸)”で埋めると迷いが減ります。
栄養は除圧・体位管理と同じく、創部への酸素供給と組織修復を支える土台です。褥瘡と低栄養をまとめて整理した全体像は 褥瘡と低栄養の関係(メカニズムと体位交換) に集約しています。
なぜ栄養で褥瘡が治りやすくなるのか?(炎症・筋分解・摂取不足のループを切る)
褥瘡があると、炎症と疼痛、活動低下、食欲低下が重なり、筋分解(異化)が進みやすくなります。ここで「摂取不足」が続くと、創部の修復材料(アミノ酸)とエネルギーが不足し、治癒が長引きやすくなります。
現場では“サプリを足す”より、①摂取量(摂取率)②体重(または浮腫を含めた体重の意味づけ)③蛋白の入口(食事で足りない分の埋め方)を、まず同じフォーマットで追うのが安全です。栄養の情報がそろうほど、除圧・起居動作・歩行練習の強度設計も安定します。
まず決める「最低ライン」:エネルギー・蛋白・水分(目安を決めて“不足”を可視化)
栄養介入は、目標が曖昧だと「何をどれだけ足すか」が決まりません。褥瘡では、一般に総エネルギーと蛋白をやや高めに見積もり、摂取量との差分を埋めていく考え方が基本になります(心不全・腎不全などは個別調整が前提です)。
次の表は“最初のたたき台”です。体格や病態、浮腫、腎機能、炎症の有無で振れ幅が出るため、最終判断は医師・管理栄養士・ NST と共有して決めます。
| 項目 | 目安 | 現場での使い方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 総エネルギー | 30–35 kcal / kg / 日 | 「必要量 − 実摂取量」を差分で出し、間食・強化・ ONS で埋める | 肥満・高度炎症・活動量、呼吸仕事量で調整 |
| 蛋白 | 1.25–1.5 g / kg / 日 | 食事で不足するなら、蛋白強化・ ONS・経腸を検討 | 腎機能・肝機能、透析の有無で調整 |
| 水分 | 30 mL / kg / 日(または 1 mL / kcal ) | 脱水・便秘・発熱・下痢があれば見直す | 心不全・腎不全・浮腫では制限が必要 |
栄養素は「役割」で整理する(蛋白/アルギニン/亜鉛/抗酸化)
栄養素の議論は細かくなりがちですが、褥瘡では「創を作る材料(蛋白)」「治癒に関わる代謝(アルギニン等)」「コラーゲン合成・免疫(亜鉛・ビタミン類)」の 3 軸で整理すると、チーム内の共通言語が作りやすくなります。
ただし、微量栄養素は“不足が疑われる状況”で効果が出やすく、全員に一律で足すより、食事・採血・病態から必要性を見立てて使うほうが安全です。
| 栄養素 | 主な役割 | 食品の例 | 注意点(例) |
|---|---|---|---|
| 蛋白(アミノ酸) | 組織修復の材料、免疫、筋量維持 | 肉・魚・卵・乳・大豆、蛋白強化食品 | 腎機能低下では調整が必要 |
| アルギニン | 創傷治癒関連の代謝を支える( ONS で使用されることが多い) | 肉・魚・大豆・ナッツ、アルギニン強化 ONS | 病態により適応を検討(チームで判断) |
| 亜鉛 | タンパク合成、免疫、上皮化 | 牡蠣・赤身肉・卵・豆類 | 長期大量投与は銅欠乏などに注意 |
| ビタミン C / A / E | コラーゲン合成、抗酸化、上皮化 | 野菜・果物、レバー、ナッツ類 | サプリは過剰に注意(特に脂溶性) |
| 脂質( omega-3 など) | 炎症の調整、エネルギー補給 | 青魚、えごま油、ナッツ | 出血リスクなど病態で確認 |
ONS(経口栄養補助食品)を“いつ・何の目的で”入れるか
ONS は「通常食では必要量に届かない差分」を埋める手段です。食事摂取率が低い、間食が増やせない、疼痛や疲労で食事時間が保てない、などの場面で導入しやすく、目標(エネルギー・蛋白)を満たすまでの“橋渡し”として有効です。
特に、アルギニン・亜鉛・抗酸化成分を強化した製剤を用いた研究では、褥瘡の治癒を後押しした報告があります。いっぽうで、効果は患者背景や運用(どれだけ継続して摂取できるか)に左右されるため、「導入条件」「モニタリング」「中止条件」までセットで回すことが大切です。
| 場面 | 導入の目安 | 観察( 72 時間〜 1 週) | 再評価のポイント |
|---|---|---|---|
| 摂取量が足りない | 必要量に対して摂取が明らかに不足(摂取率低下、間食困難など) | 摂取率、下痢・便秘、眠気、血糖(必要時) | 差分が埋まったか(量の調整)、継続可能性 |
| 創の治癒が停滞 | 除圧や局所ケアを整えても、創が進まない/悪化する | 創面積・深さ、浸出液、疼痛、発熱 | 栄養だけでなく除圧・体位・感染を再点検 |
| 退院・在宅移行 | 環境変化で食事量が落ちやすい | 体重、食事準備負担、介護力 | “続く形”に単純化(回数・種類・時間帯) |
評価から介入へつなぐ:スクリーニング→診断→計画( PT / OT が迷わない形)
「 Alb が低い=低栄養」と単純化すると、炎症や水分バランスの影響で誤解が起きやすくなります。現場では、体重変化(%)・摂取量・浮腫・筋量や筋力、活動性を合わせて“栄養関連リスク”を見立て、必要なら GNRI や GLIM の枠組みに接続していく流れが運用しやすいです。
GNRI を病棟・在宅で回す具体手順は GNRI の運用フローと判定のコツ(病棟・在宅) にまとめています。褥瘡では「除圧・体位」と並走して、栄養の再評価間隔(例: 1–2 週、 2–4 週)も最初から決めておくと、チームでのズレが減ります。
現場の詰まりどころ:栄養介入がうまく回らない “あるある” と対策
栄養は、正しさより「続く設計」が重要です。理想の目標値を立てても、患者さんの嗜好、食事形態、嚥下、疼痛、せん妄、介護力で簡単に崩れます。詰まりどころを先回りして潰すと、褥瘡の改善スピードが安定します。
次の表は、褥瘡ケアで頻出する “ズレ” を OK / NG で整理したものです。新人教育や多職種カンファのチェック項目として使えます。
| 論点 | NG(起きがち) | OK(おすすめ) | 一言対策 |
|---|---|---|---|
| 目標設定 | サプリの話から始める | 必要量( kcal / kg 、 g / kg )→ 差分 → 手段 | 最初に“不足”を数字で出す |
| 評価の軸 | Alb だけで判断 | 摂取量・体重変化・浮腫・筋量 / 筋力も合わせる | 炎症と水分で値が揺れる前提で見る |
| ONS の運用 | 出して終わり(飲めているか不明) | 導入目的・時間帯・量・再評価日をセット | “いつ飲むか”が決まると続く |
| 介入の優先順位 | 栄養だけで改善を狙う | 除圧・体位・局所ケアとセットで最適化 | 創の停滞は「栄養以外」も再点検 |
よくある質問(FAQ)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Alb が低いと、必ず低栄養ですか?
必ずしも一致しません。 Alb は炎症や水分バランスの影響を受けやすく、低栄養の“補助情報”として扱うのが安全です。体重変化(%)や摂取量、浮腫、筋量・筋力、活動性と合わせて、栄養関連リスクを総合的に判断します。
腎機能が悪い人でも、蛋白を増やしていいですか?
一律には決められません。褥瘡治癒では蛋白が重要ですが、腎機能低下の程度や透析の有無で許容量が変わります。主治医・管理栄養士と目標を共有し、尿量・浮腫・ BUN / Cre などの変化も見ながら調整します。
亜鉛やビタミンは、全員に足した方がいいですか?
不足が疑われる状況(摂取不足、偏食、吸収不良、長期の低栄養など)では検討価値がありますが、全員に一律で足すより“必要性を見立てて”使うほうが安全です。長期大量投与は副作用(例:銅欠乏)にも注意が必要です。
ONS はいつまで続ければいいですか?
「必要量に届いていない差分」を埋めるための手段なので、目標摂取が安定したら段階的に減らす判断になります。創の改善(面積・深さ・浸出液)と、体重や摂取量が両立しているかを見ながら、チームで“減量の条件”も事前に決めておくと運用がブレません。
リハ(運動)と栄養は、どちらを先に考えるべき?
同時に考えるのが基本です。運動で“使う”一方、栄養で“作る”材料が不足していると筋量維持や創の修復が進みにくくなります。食事摂取が不十分な時期は、負荷量を調整しつつ、摂取量を上げる設計(間食・ ONS )を優先して整えます。
おわりに(栄養は「必要量→差分→手段」の順で整えると、褥瘡ケアが回り出す)
褥瘡の栄養は、サプリの細部よりも「総エネルギーと蛋白が足りているか」を起点に、差分を埋める設計へ落とし込むのが近道です。除圧・体位・局所ケアと並走させ、摂取量と創の変化を同じリズムで再評価すると、介入の優先順位がぶれにくくなります。
転職や職場見学の前に、褥瘡・栄養・ NST 連携の“評価ポイント”を短時間で整理したい方は、面談準備チェックと職場評価シートを こちら(ダウンロード) から使えます。
参考文献
- Stratton RJ, Ek AC, Engfer M, et al. Enteral nutritional support in prevention and treatment of pressure ulcers: a systematic review and meta-analysis. Ageing Res Rev. 2005;4(3):422-450. DOI: 10.1016/j.arr.2005.03.005 / PubMed: PMID: 16081325
- Cereda E, Klersy C, Serioli M, et al. A nutritional formula enriched with arginine, zinc, and antioxidants for the healing of pressure ulcers: a randomized trial. Ann Intern Med. 2015. DOI: 10.7326/M14-0696 / PubMed: PMID: 25643304
- van Anholt RD, Sobotka L, Meijer EP, et al. Specific nutritional support accelerates pressure ulcer healing and reduces wound care intensity in non-malnourished patients. Nutrition. 2010;26(9):867-872. DOI: 10.1016/j.nut.2010.05.009 / PubMed: PMID: 20598855
- Volkert D, Beck AM, Cederholm T, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958-989. DOI: 10.1016/j.clnu.2022.01.024 / PubMed: PMID: 35306388
- Langer G, et al. Nutritional interventions for preventing and treating pressure ulcers. Cochrane Database Syst Rev. 2024;Issue 2. Art. No.: CD003216. DOI: 10.1002/14651858.CD003216.pub3 / PubMed: PMID: 38345088
- Keller U. Nutritional Laboratory Markers in Malnutrition. J Clin Med. 2019;8(6):775. DOI: 10.3390/jcm8060775 / PubMed: PMID: 31159248
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


