褥瘡治療に必要な栄養素|創傷治癒を支える必要量と ONS

栄養・嚥下
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褥瘡治療に必要な栄養素|まずは「総エネルギー」と「蛋白」の不足を埋める

褥瘡( Pressure Injury )の栄養介入で最初に外したくないのは、「総エネルギー」と「蛋白」です。亜鉛やビタミンの話から入るより先に、まず必要量に届いているかを確認し、不足分を食事調整・間食・強化食品・ ONS ・経腸栄養でどう埋めるかを決めると、現場の判断がぶれにくくなります。

褥瘡の治療は局所ケアだけでは進みません。栄養は、除圧・体位調整・活動量設計と並ぶ土台です。この記事では、褥瘡で押さえるべき栄養素を「必要量」「役割」「不足時の埋め方」の順に整理し、記録シートも使いながらチームで共有しやすい形にまとめます。

褥瘡の栄養介入で使える A4 記録シート PDF

必要量の設定、摂取量との差分、 ONS 導入の判断を 1 枚で整理したいときは、下の記録シートが使えます。カンファレンスや NST 連携の前に、評価条件をそろえて記録しておくと、再評価時の比較がしやすくなります。

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なぜ栄養で褥瘡が治りやすくなるのか?

褥瘡がある患者さんでは、炎症・疼痛・活動低下・食欲低下が重なりやすく、筋分解が進みながら摂取量が落ちることがあります。この状態でエネルギーと蛋白が不足すると、創部の修復材料と活動の燃料が同時に足りなくなり、治癒が長引きやすくなります。

現場で大切なのは、栄養を“栄養部門だけの話”にしないことです。摂取量、体重変化、浮腫、創の変化を同じタイミングで見ていくと、除圧や離床、運動負荷の組み立てまで一貫しやすくなります。

まず決める「最低ライン」:エネルギー・蛋白・水分

栄養介入は、目標が曖昧だと差分が出せません。褥瘡では、まず総エネルギーと蛋白の目安を置き、実際の摂取量との差分を可視化してから、何をどれだけ追加するかを決める流れが基本です。

次の表は、成人の褥瘡で最初に共有しやすい初期設定です。心不全・腎不全・高度肥満・重い炎症などでは個別調整が必要なので、主治医・管理栄養士・ NST とすり合わせて運用します。

褥瘡で最初に決める栄養目標の目安(成人・初期設定)
項目 目安 現場での使い方 注意点
総エネルギー 30–35 kcal / kg / 日 必要量 − 実摂取量を差分で出し、間食・強化・ ONS で埋める 肥満、発熱、高度炎症、活動量で調整
蛋白 1.2–1.5 g / kg / 日 食事で足りない分を、蛋白強化食品・ ONS ・経腸で補う 腎機能、透析、肝機能で調整
水分 脱水を避ける量を個別設定 発熱、発汗、下痢、便秘、利尿薬の影響も合わせて見る 心不全、腎不全、浮腫では制限を含め調整

栄養素は「役割」で整理する

褥瘡で話題になりやすい栄養素は多いですが、実務では「まず蛋白」「不足時に微量栄養素や特殊配合を検討」という順番のほうが運用しやすいです。栄養素ごとの役割を押さえると、なぜ補うのかを多職種で共有しやすくなります。

ただし、微量栄養素は“全員に一律で追加するもの”ではありません。食事内容、偏食、吸収不良、長期の摂取不足、創の停滞などを見ながら、必要性が高いときに選ぶ考え方が安全です。

褥瘡で押さえる栄養素の役割と実務ポイント
栄養素 主な役割 食品・補い方の例 注意点
蛋白(アミノ酸) 組織修復の材料、免疫、筋量維持 肉、魚、卵、乳製品、大豆、蛋白強化食品 腎機能低下では量の調整が必要
アルギニン 創傷治癒に関わる代謝を支える補助候補 肉、魚、大豆、ナッツ、アルギニン強化 ONS 通常食で足りる人に routine で足すとは限らない
亜鉛 タンパク合成、免疫、上皮化 牡蠣、赤身肉、卵、豆類、必要時サプリ 長期大量投与では銅欠乏などに注意
ビタミン C / A / E コラーゲン合成、抗酸化、上皮化 野菜、果物、レバー、ナッツ類 脂溶性ビタミンは過剰摂取に注意
脂質 少量で熱量を補いやすい 油脂、乳製品、ナッツ、脂質を含む ONS 消化器症状や病態に合わせて調整

ONS は「通常食で届かない差分」を埋める手段

ONS(経口栄養補助食品)は、通常食だけでは必要量に届かないときに使う手段です。食事摂取率が低い、少量しか食べられない、食事形態の制約が強い、疲労や疼痛で食事時間が短い、といった場面で導入しやすくなります。

大切なのは、 ONS を“出して終わり”にしないことです。何の差分を埋めるのか、いつ飲むのか、何日後に見直すのかまで決めると続きやすくなります。アルギニン・亜鉛・抗酸化成分を含む製剤は選択肢になりますが、まずは高カロリー・高蛋白で不足を埋める設計が優先です。

ONS を導入するときの実務フロー(目的・観察・再評価)
場面 導入の目安 観察( 72 時間〜 1 週) 再評価のポイント
摂取量が足りない 必要量に対して摂取が明らかに不足している 摂取率、下痢、便秘、眠気、血糖(必要時) 差分が埋まったか、時間帯と量が合っているか
創の改善が鈍い 除圧・局所ケアを整えても創の変化が乏しい 創面積、深さ、浸出液、疼痛、発熱 栄養だけでなく除圧・感染・体位も再点検する
退院・在宅移行 環境変化で食事量低下が予想される 体重、食事準備負担、介護力、購入継続性 回数・種類・時間帯を単純化して続けやすくする

評価から介入へつなぐ:スクリーニング → 診断 → 計画

褥瘡で栄養を見るときは、数値 1 つで決めないことが大切です。特に Alb は炎症や水分バランスの影響を受けやすいため、体重変化、摂取量、浮腫、筋量や筋力、活動性と合わせて見たほうが実務ではぶれにくくなります。

流れとしては、まずスクリーニングでリスクを拾い、次に包括的評価で原因と重症度を整理し、最後に個別の care plan へ落とし込みます。褥瘡では、栄養の再評価日を最初に決めておくと、除圧や局所ケアとの足並みがそろいやすくなります。

現場の詰まりどころ:栄養介入が回らない “あるある” と対策

栄養は「正しい知識」より「続く設計」で差が出ます。摂取量を見ずにサプリの話から始める、 Alb だけで判断する、 ONS を出して終わる、除圧や感染を見直さない、といったズレが続くと、褥瘡の改善速度が安定しません。

見直す順番は、必要量の設定ONS の導入条件 → 記録シートでの再評価です。全体像から整理し直したいときは、褥瘡と低栄養の関係(メカニズムと体位交換) に戻ると、栄養と除圧を同時に見直しやすくなります。

褥瘡 × 栄養の「よくある失敗」早見( OK / NG と対策)
論点 NG(起きがち) OK(おすすめ) 一言対策
目標設定 栄養素の種類から話を始める 必要量 → 差分 → 手段 の順で決める 最初に不足を数字で出す
評価の軸 Alb だけで判断する 摂取量、体重変化、浮腫、筋量 / 筋力も合わせる 炎症と水分で値が揺れる前提で見る
ONS の運用 出して終わりで、飲めているか不明 目的、時間帯、量、再評価日をセットで決める いつ飲むかまで決めると続きやすい
優先順位 栄養だけで改善を狙う 除圧、体位、局所ケアと同時に最適化する 創の停滞は栄養以外も必ず見直す

よくある質問( FAQ )

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Alb が低いと、必ず低栄養ですか?

必ずしも一致しません。 Alb は炎症や水分バランスの影響を受けやすいため、低栄養の補助情報として扱うのが安全です。体重変化、摂取量、浮腫、筋量や筋力、活動性と合わせて総合的に判断します。

腎機能が悪い人でも、蛋白は増やした方がいいですか?

一律には決められません。褥瘡の修復には蛋白が重要ですが、腎機能低下の程度や透析の有無で許容量が変わります。主治医・管理栄養士と目標を共有し、尿量、浮腫、 BUN / Cre なども見ながら調整します。

亜鉛やビタミンは、全員に足した方がいいですか?

全員に routine で追加するより、不足が疑われるときに選ぶほうが安全です。偏食、長期の摂取不足、吸収不良、創の停滞などを確認し、必要性が高い場面で検討します。

ONS はいつまで続ければいいですか?

目標摂取量に届くまでの“橋渡し”として使い、通常食で必要量を満たせるようになったら段階的に減らす考え方が基本です。創の改善、体重、摂取量がそろって安定しているかを見ながら、減量条件も事前に決めておくと運用がぶれません。

記録シートはどの場面で使うと効果的ですか?

初回評価、 ONS 導入時、創の停滞時、退院前カンファレンスで使いやすいです。評価条件、必要量、摂取量、再評価日を同じフォーマットで残しておくと、多職種での認識差が減りやすくなります。

次の一手

まずは、褥瘡の栄養を「必要量 → 差分 → 手段 → 再評価」の順に固定してください。記事を 1 本読んで終わりにするより、総論と実装記事をセットで見たほうが、現場での再現性が上がります。

全体像に戻る:褥瘡と低栄養の関係
すぐ実装:褥瘡予防の基本フロー

運用を整えたあとに、職場環境の詰まりも点検しておきましょう

褥瘡・栄養・ NST 連携は、知識だけでなく、教育体制・相談しやすさ・記録文化で差が出ます。無料チェックシートで、環境面の詰まりも先に見える化しておくと動きやすくなります。

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参考文献

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  • Cereda E, Klersy C, Serioli M, et al. A nutritional formula enriched with arginine, zinc, and antioxidants for the healing of pressure ulcers: a randomized trial. Ann Intern Med. 2015;162(3):167-174. DOI: 10.7326/M14-0696 / PubMed: PMID: 25643304
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著者情報

rehabilikun

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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