嚥下障害の多職種連携とPT評価ガイド【T位置・GS×POS】

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摂食・嚥下
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リハビリくん
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サイト管理者のリハビリくんと申します。

この記事の内容
  1. 摂食・嚥下障害は“安全”と“摂取量・服薬・QOL”を同時に達成する必要があり、一職種では完結しません。
  2. 理学療法士(PT)は姿勢・呼吸・体幹制御を整え、相対的喉頭位置(T位置)GSグレードで運動学的ボトルネックを可視化します。
  3. 作業療法士(OT)は上肢機能と食事動作等、言語聴覚士(ST)は口腔・嚥下機能とVFSS / FEES連携等を担い、看護・栄養・歯科・薬剤・介護が並走して方針を更新します。
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理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪

リハビリくんの実績
  1. rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設
  2. 2025 年 9 月時点:193 記事公開(月間 3 万 PV)
  3. 実務経験(医療機関、介護福祉施設、訪問リハビリ等)
  4. 講師活動(脳卒中、褥瘡等をテーマに複数回講演)
  5. 脳卒中 認定理学療法士
  6. 褥瘡 創傷ケア 認定理学療法士
  7. 3 学会合同呼吸療法認定士
  8. 福祉住環境コーディネーター 2 級

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チームで設計する嚥下支援(総論)

働き方に迷ったら 転職ガイド もどうぞ。

評価は「観察→スクリーン→(必要時)VFSS/FEES→方針→再評価」の反復です。PT は姿勢・呼吸—嚥下同調、頸部機能を整え、T位置(形態)×GS(機能)で介入優先度を決めます。

OT は食具・環境・一口量・休憩の行動設計、ST はスクリーニング統括と食形態(嚥下調整食分類2021)提案、看護は口腔ケア標準化とサイン監視、栄養は摂取量・水分の最適化、歯科は義歯・咬合、薬剤は剤形・副作用点検を担います。

カンファレンスで「誰が・何を・いつまでに・どう測るか」を合意し、短いサイクルで修正します。

POS(姿勢管理)を嚥下安全の土台に

嚥下は口腔・咽頭の局所問題だけでなく、骨盤・体幹・頸部の座位姿勢に強く影響されます。骨盤後傾や前方頭位は喉頭挙上と上部食道括約筋の開大を阻害し、誤嚥・残留を助長します。

まず骨盤ニュートラル+足底全接地を確保し、座面高=下腿長、座面奥行は膝窩 2 – 3 指空け、背もたれ角は後傾を抑えつつ安定が得られる角度に調整します。頸部は軽度屈曲〜中間位で、必要に応じチンタック45° リクライニング座位チルトを選択し、疲労なく再現できる“続く姿勢”を作ります。

関連記事:呼吸評価の基礎

PTの中核評価①:相対的喉頭位置(T位置)

  • T位置=GT/(GT+TS)
  • GT=オトガイ–甲状軟骨上端
  • TS=甲状軟骨上端–胸骨上端

頸部最大伸展位でテープ計測します。若年平均は約 0.34、高齢では 0.41 程度が報告され、臨床では<0.34(上方偏位)>0.47(下方偏位)を外れ値の目安に全体像を捉えます。下方偏位は頸前筋弱化や嚥下誘発遅延、上方偏位は頸部筋緊張・可動域制限の関与が疑われます。

いずれも姿勢・頸部機能の修正で変えられる指標として扱い、スクリーンや臨床所見と統合して判断します。

測り方・記録

  • 体位:座位または臥位で頸部最大伸展位/肩リラックス
  • 計測:GT, TS を各2回測り平均、T=GT/(GT+TS)
  • 記録例:GT5.2cm, TS7.5cm, T=0.41(中間〜下方寄り)

参考:吉田2003吉田2010

PTの中核評価②:GSグレード(舌骨上筋群筋力)

背臥位で頸部を他動最大前屈位にし、「下顎を引いて保持」を指示し、頭部の落下程度で 4 段階(近年は5段階案も)評価します。検者間信頼性は高く、嚥下障害群で低下しやすい指標です。

GS低下+T位置下方は舌骨上筋群の筋力寄与が大きく、CTAR/頭挙上系などの強化を優先します。GS低下+T位置上方は頸部筋緊張是正・ROM改善と座位支持の最適化を先行し、条件(粘度・一口量)を合わせます。

測り方・記録

  • 体位:背臥位/頸部他動最大前屈位→保持を指示
  • 判定:頭部の落下角・時間でグレード化(例:Gr.2=保持困難)
  • 記録例:GS Gr.2(保持2秒未満)

参考:Shiozu 2015/学会抄録(修正GS)

ベッドサイド・スクリーニングの使い分け

PT/OT/STの共通言語として、RSST(30秒≥3回で陰性目安)、MWST(3 mLで 1 – 5 点・4 点カットオフ報告あり)、3oz WST(一気飲み不可・中断・咳で陽性)、GUSS(誤嚥リスクと推奨食形態を段階表示)、EAT-10(自記式10項目)を状況で選択します。スクリーンは診断ではないため、陽性=即禁食ではなく、まず姿勢・酸素化・一口量・粘度など修正可能因子を整えて再評価し、不一致や高リスクは VFSS/FEES へ接続します。

参考:ASHA PortalGUSS原著

食形態の合わせ方(嚥下調整食分類2021)

食形態は安全と摂取量の最適点を探る作業です。嚥下調整食分類2021 のコードで粘度・粒子径・水分保持性を明示し、ベッドサイド所見と VFSS/FEES の所見を照合して段階設定します。

とろみはむせの低減に有用ですが、濃度過多は脱水や摂取量低下を招くため、最小限の制限で開始して短期再評価を前提とします。家庭内・施設では食具やトレイ配置、食事導線の調整も同時に行い、摂取環境を一体で最適化します。

参考:嚥下調整食分類2021

カンファレンス運用(SBAR+決定の書式化)

多職種カンファレンスは月 1 回以上(病棟は週次も可)を基本とし、検査(VFSS/FEES)と生活場面の情報を統合して方針を更新します。議事は SBAR で共有し、決定事項は誰が・何を・いつまでに・どう測るかまで書式化します。

臨時開催のトリガーは「誤嚥イベント」「FOIS低下」「完食率急落」「肺炎・脱水疑い」「体位逸脱の持続」など。決定後は 7 – 14 日で再評価し、必要なら条件を微修正します。

決定例:「本日より座位中間位+足底全接地を標準。薄口水→中等度とろみ、一口量 5 – 7 g2 口ごと反復嚥下。PT:体幹・頸部再調整/週 3、OT:先端スプーン手配、本日中、ST:次回 FEES 前のチンタック訓練強化。再評価7日後

参考:保険上の連携要件資料

モニタリング(現場で書ける実務項目)

抽象的な KPI より、誰でも同じように記録できる項目に統一します。食形態は嚥下調整食分類2021コード、経口機能は FOIS で共有します。増悪サインは SBAR の“S”で即共有し、体位・粘度・一口量を速やかに調整します。

項目 観察・測定方法 共有の目安
むせ/咳 1食あたり回数 前週比増、または連日3回以上
食事時間 配膳〜完了(分) 60分超が連日
完食率・飲水 主食/副食%、飲水量(mL) 完食率50%未満、飲水<1000mL/日
体位逸脱 骨盤後傾・前方頭位の逸脱回数 1食で3回以上
FOIS/食形態 FOIS(1–7)、JDD2021コード 低下/降段が出現

期別フロー:急性期→回復期→在宅

急性期:スクリーン+酸素化監視→陽性や所見不一致はVFSS/FEESへ。回復期:最小制限を目標に体位・粘度・一口量・反復嚥下の条件を調整し、訓練(CTAR等)と並行して段階アップ。在宅:口腔ケア・服薬・栄養・脱水の再燃監視と家族教育を継続。いずれの期も、方針は“姿勢⇄機能⇄環境”を往復して微修正します。

記録テンプレ(コピペOK)

  • 体位/支持: ◯◯座位(骨盤◯°・頸部◯°・足底全接地)
  • T位置: GT◯cm、TS◯cm、T=◯◯
  • GS: Gr.◯(頭部落下◯◯)
  • 併用所見: 聲質(湿/乾)、随意咳(強/中/弱)、RSST◯回/30秒、MWST◯点
  • 条件: 食形態JDD2021-◯、とろみ(薄/中/濃)、一口量◯g、反復嚥下(有/無)
  • 計画: 体位◯◯、頸部ROM◯◯、CTAR◯◯、OT環境◯◯、次回再評価◯日後

まとめ

T位置=形態、GS=機能、POS=土台として嚥下を“運動学で読む”と、介入の優先順位が明確になります。多職種カンファレンスでSBAR共有し、「誰が・何を・いつまでに・どう測るか」を書式化。食形態は最小限の制限から始め、短いサイクルで再評価して安全と摂取量を両立させます。

参考文献(外部は新規タブ)

  1. ASHA. Adult Dysphagia Practice Portal. Link
  2. 日本摂食嚥下リハ学会. 嚥下調整食分類2021. Web
  3. Rosenbek JC, et al. Penetration–Aspiration Scale. Dysphagia. 1996;11(2):93-98. PubMed
  4. Martin-Harris B, et al. MBSImP. Dysphagia. 2008;23(4):392-405. Link
  5. Suiter DM, Leder SB. 3-oz Water Swallow Test. Dysphagia. 2008;23(3):244-250. PubMed
  6. Trapl M, et al. GUSS. Stroke. 2007;38(11):2948-2952. AHA
  7. Zhang P, et al. Diagnostic accuracy of EAT-10. Dysphagia. 2022;37:1241-1257. PMCID
  8. 吉田剛ほか. 喉頭位置と舌骨上筋群の筋力—信頼性と有用性. 日摂食嚥下リハ会誌. 2003;7(2):143-150. DOI
  9. 吉田剛. 回復期以降の嚥下運動障害者の相対的喉頭位置. 理学療法学Supplement. 2010;37(Suppl 2). DOI
  10. Shiozu H, et al. Sarcopenia & Swallowing. J Phys Ther Sci. 2015;27(2):393-396. PubMed
  11. 厚生労働省. 摂食嚥下支援に係る連携・会議等資料. PDF

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