10 m 歩行(快適/最大)と 6MWT の違い【比較・使い分け】
結論:短い距離で「速さ( m/s )」をみるなら 10MWT 、一定時間で「歩けた距離( m )」をみるなら 6MWT が向きます。 10MWT はスピード=転倒・ ADL の“即戦力指標”として扱いやすく、 6MWT は持久性・歩行耐久=生活内の移動量(買い物・通勤・院内移動など)の見立てに強いです。
どちらも「歩く」を測るテストですが、見ている能力(スピードか、耐久か)が違うため、同じ患者でも結論がズレます。この記事は、検査の目的→選択→実施→記録→再評価まで“使い分けの型”に落とし込みます。
まずは違いを 1 分で把握【比較】
迷ったら「アウトカムが m/s なのか、 m なのか」を先に固定するとブレません。 10MWT は 歩行速度(速度容量)、 6MWT は 歩行耐久(運動耐容能・疲労の出方)を反映しやすい指標です。
| 観点 | 10MWT(快適/最大) | 6MWT |
|---|---|---|
| 主アウトカム | 歩行速度( m/s ) | 歩行距離( m ) |
| みたい能力 | スピード(加速・推進・バランス・歩隔の調整) | 持久性(心肺・疲労・筋持久・休息戦略) |
| 臨床の強み | 短時間で、転倒・ ADL の“今”の指標にしやすい | 生活内移動(病棟内・屋外)を“続けられるか”に近い |
| 弱点 | 耐久・疲労の影響が出にくい(短距離のため) | 環境(コース長・ターン回数)で距離が揺れやすい |
| 向く場面 | 歩行再獲得直後〜退院前のスピード評価、転倒リスクの説明 | 退院後の外出・通勤・買い物、院内長距離移動の見立て |
どっちを選ぶ?最短フロー【使い分け】
「患者さんのゴール」と「意思決定(何を決めたいか)」に合わせると、テスト選択が一発で決まります。下の表は、現場でよくある分岐をそのまま入れています。
| いま決めたいこと | 推奨 | 理由(評価のねらい) | 併用すると強い補助 |
|---|---|---|---|
| 病棟内の歩行自立度/転倒リスクの説明 | 10MWT(快適) | 普段速度は“日常の歩き”に近く、短時間で繰り返しやすい | TUG / BBS / FGA |
| 「急げるか」=横断歩道・危険回避の余力 | 10MWT(最大) | 最大速度は“余力”の指標になり、改善の感度も出やすい | 反応時間・二重課題歩行 |
| 退院後の外出(買い物・通院)を続けられるか | 6MWT | 疲労と休息戦略が入るため、生活内移動の現実に近い | Borg / mMRC / SpO2 |
| 介入の短期効果を見たい( 1–2 週単位) | 10MWT 優先 | 実施負荷が小さく、測定誤差を抑えて追跡しやすい | 歩数・活動量計 |
| “速いけど続かない”/“遅いけど止まらない”の鑑別 | 両方(セット) | スピードと耐久を分けてみると、ボトルネックが特定できる | 筋持久( 5STS など) |
10MWT の実施手順(快適/最大)
ポイント: 10MWT は「どこを計測区間にするか」で結果が変わります。加速・減速を含めるか、中央だけを計測するかを施設内で固定し、記録に“手順の型”として残しましょう(手順差は速度に影響し得ます)。
Academy of Neurologic Physical Therapy( ANPT )のコアアウトカム資料では、 10 m の歩行路を確保し、中央区間(例: 2 m 〜 8 m の 6 m )を計時する方法が示されています。
| 項目 | 推奨の固定 | 記録メモ(後で再現できる書き方) |
|---|---|---|
| 計測区間 | 中央区間を計時(例: 6 m or 10 m ) | 「 2–8 m を計時」など、数値で残す |
| 速度条件 | 快適/最大を分ける | 指示文を固定(快適=普段、最大=できるだけ速く) |
| 補装具・歩行補助具 | 同一条件で再評価 | 例: T 字杖、短下肢装具、監視レベル |
| 計測回数 | 2 回程度の平均(施設で統一) | 「 2 回平均」などルールを明記 |
| 計測方法 | ストップウォッチ or センサーを固定 | 機器名( iPhone タイマー等も含め) |
6MWT の実施手順(安全管理込み)
ポイント: 6MWT は「歩けた距離」だけでなく、途中で止まったか/休んだか/息切れと疲労の推移が臨床での価値です。 ATS のガイドラインは、準備・声かけ・安全管理を含めて標準化することを推奨しています。
| 記録項目 | 最低限 | 余裕があれば | 臨床での読み取り |
|---|---|---|---|
| 総距離 | m | 周回数・ターン回数 | “移動の総量”の指標 |
| 休憩 | あり/なし | 回数・時間 | 疲労・耐久のボトルネックを特定 |
| 自覚症状 | Borg(息切れ/下肢疲労) | 開始・終了で 2 点記録 | “限界因子”が心肺か筋かを切り分ける |
| バイタル | HR・ SpO2(可能なら) | 途中経過の変化 | 安全域と運動処方の材料 |
結果の読み方:スピードと耐久を“別物”として説明する
10MWT と 6MWT を混ぜて説明すると、患者さん・家族への説明が難しくなります。おすすめは、 10MWT=「短距離の速さ」、 6MWT=「続けて歩ける量」として言語化し、改善の方向性を一致させることです。
神経疾患領域のコアアウトカムとしても、 10MWT は歩行速度、 6MWT は歩行距離の変化をみる指標として位置づけられています。
現場の詰まりどころ:結果がズレる “ 5 つの罠 ”
比較記事でいちばん大事なのは「どっちが優秀か」ではなく、ズレの原因を潰して再現性を作ることです。ここを押さえると、同じ患者でも評価結果がブレにくくなります。
| 失敗(ズレ) | 起きる理由 | 対策 | 記録の型 |
|---|---|---|---|
| 計測区間が毎回違う( 10MWT ) | 加速・減速が混ざり、速度が変動 | 計測区間( 6 m/ 10 m )を施設で固定 | 「 2–8 m 計時」など数値で残す |
| 声かけが毎回違う(両方) | 指示の強さで最大努力が変わる | 指示文をテンプレ化 | 「快適:普段」「最大:できるだけ速く」 |
| 補助具が変わる(両方) | 支持性が変わり、速度・距離が変動 | 同一条件で再評価 | 杖・装具・監視レベルを固定 |
| コース条件が違う( 6MWT ) | ターンが増えるほど距離が下がりやすい | コース長(例: 30 m )を固定 | 「コース 30 m、ターン多」など残す |
| “距離だけ”で終わる( 6MWT ) | 限界因子(息切れ/下肢疲労)が不明 | Borg と休憩を最低限セットで記録 | 「休憩 1 回 30 秒、下肢疲労優位」 |
よくある質問(FAQ)
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Q1. 10MWT は「快適」と「最大」、どっちを取ればいいですか?
迷ったら両方です。快適は“普段の移動能力”、最大は“余力(危険回避・急げるか)”を反映しやすく、リスク説明と介入方針に直結します。両方が難しい場合は、病棟 ADL の説明が主なら快適、社会復帰や安全行動が主なら最大を優先します。
Q2. 10MWT の計測区間( 6 m と 10 m )はどちらが標準ですか?
文献・施設で複数流派があります。重要なのは同一患者の追跡で手順を固定することです。 ANPT のコアアウトカム資料では、 10 m の歩行路を確保し中央区間(例: 2–8 m の 6 m )を計時する方法が示されています。手順差は速度に影響し得るため、記録に“どこを計時したか”を必ず残します。
Q3. 6MWT は歩行が不安定な患者にも実施していいですか?
安全が最優先です。 ATS のガイドラインに沿って、事前の状態確認(症状・バイタル)と、必要なら監視・休憩を許容した上で実施します。歩行が不安定で危険が高い場合は、まず 10MWT(快適)など短時間のテストで安全域を確認し、段階的に 6MWT を検討します。
Q4. 「速いけど 6 分もたない」場合、何を優先して介入しますか?
このパターンは“耐久”がボトルネックです。 6MWT の記録(休憩・ Borg・ SpO2 )から限界因子を推定し、①ペース配分(休息戦略)②下肢筋持久③心肺負荷のどこに介入すべきかを決めます。 10MWT の最大が保てているなら、スピード練習よりも“続ける練習”が優先になることが多いです。
おわりに:評価は「目的固定→標準化→記録→再評価」で迷いが減る
10MWT と 6MWT は似ているようで、見ている能力が違います。目的を固定→手順を標準化→同じ型で記録→同条件で再評価の順に揃えると、「改善したのに説明できない」状態が減ります。
もし職場の評価運用(誰が・いつ・何を・どう記録するか)が曖昧で詰まっているなら、面談準備チェックと職場評価シートも使える マイナビコメディカルの無料ダウンロード を、評価の型づくりのきっかけにしてみてください。
参考文献
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- Ng SSM, Au KKC, Chan ELW, et al. Effect of acceleration and deceleration distance on the walking speed of people with chronic stroke. J Rehabil Med. 2016;48(8):666-670. doi: 10.2340/16501977-2124 / PubMed: 27534654
- Academy of Neurologic Physical Therapy. CORE MEASURE: 10 METER WALK TEST (10mWT) (PDF). 配布ページ

