6分間歩行テストとは?やり方・基準値と評価

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6 分間歩行テスト( 6 MWT )の評価と実施手順|心肺・歩行耐久性を 1 回で把握

6 分間歩行テスト( 6 MWT )は、日常生活に近い条件で「どのくらいの速さで・どのくらいの距離を歩けるか」を評価するサブマキシマル運動負荷試験です。特別な機器を用いず、長期フォローでも繰り返し使いやすいため、心不全・ COPD ・間質性肺炎・術後など幅広い患者の運動耐容能評価に用いられます。

一方で、コースの取り方や声かけ、中止基準が曖昧だと距離の信頼性が下がります。本稿では、現場でそのまま使える「準備・標準手順・中止基準・解釈のポイント」を 1 ページに整理し、リハビリ計画へのつなげ方まで解説します。あわせて、「基準値・カットオフ値・ MCID(最小臨床重要差)」や 6 MWT の読み方など、よくある疑問もまとめていきます。

臨床と両立しやすい働き方を整理する(PT キャリアガイドを見る)

6 分間歩行テスト( 6 MWT )とは

6 分間歩行テストは、「決められた直線コースを 6 分間でどこまで歩けるか」をみる簡便な歩行耐久性テストです。トレッドミルや心電図モニターを用いる最大運動負荷試験と比べ、必要な設備が少なく、ベッドサイドに近い環境でも実施できるのが利点です。

評価のアウトカムは基本的に 総歩行距離( 6 minute walking distance: 6 MWD ) です。前後の Borg スケールや SpO2、心拍数の変化を合わせてみることで、「どの程度の負荷で・どのくらい苦しかったのか」を定性的に補完できます。英語名は six-minute walk test(シックス・ミニット・ウォークテスト)、略称は 6 MWT(シックス・エム・ダブリューティー)と読みます。再検査時には、最小臨床重要差( MCID )を意識すると、訓練効果の有無を判断しやすくなります。

6 MWT でわかること・他の指標との違い

6 MWT の特徴は、日常生活の歩行に近い姿勢・速度で評価できる点です。 CPET などの最大負荷試験に比べると生理学的情報は少ないものの、「廊下を何分歩くと息切れするか」といった患者の実感に近い評価が得られます。そのため、リハビリゴールや在宅復帰後の活動量設定に直結しやすい指標です。

同じ運動耐容能評価でも、 ISWT やトレッドミル負荷試験は速度や負荷が段階的に上がる一方で、6 MWT は「患者自身が選ぶ最大持続可能速度」で歩行します。歩行様式や補助具も含めて「ふだんの歩き」が反映されるため、転倒リスクや補助具の妥当性を観察する場としても活用できます。距離だけに注目するのではなく、「どのような歩き方で、その距離に達したのか」まで合わせて評価することが重要です。

準備(環境・物品・前提条件)

コースは屋内の直線 30 m が推奨されます。混雑の少ない硬い床を選び、折り返し地点と 3 m ごとのマーカーを床・壁に表示します。準備物は、計時器、ラップカウンターまたは記録表、 Borg スケール、筆記具、軽量パルスオキシメータ(任意)、必要時の酸素ボンベや延長チューブ、緊急時連絡手段(内線・ナースコールなど)です。

開始前は椅子座位で 10 分程度の安静を保ち、安静時心拍数・血圧・必要に応じて SpO2 を確認します。動きやすい服装・靴を案内し、日常的に使用している杖・歩行器などの補助具は同条件で使用可とします。最近の胸痛・失神・急性心不全増悪などが疑われる場合は主治医と相談し、絶対/相対禁忌に該当しないかを確認してから実施します。

6 分間歩行テストの準備(環境・物品・前提条件) 屋内直線 30 m コースと 3 m ごとのマーカー、必要物品と前提条件をまとめた図。 屋内直線 30 m コース(硬い床・混雑の少ない環境) スタート 折り返し 0 m 3 6 9 12 15 18 21 24 27 30 m ※ 3 m 間隔で床または壁にマーカーを表示 環境 屋内・硬い床 混雑の少ない時間帯 十分な照明・安全確認しやすい位置 物品 計時器・ラップカウンター/記録表 Borg スケール・筆記具 パルスオキシメータ・酸素・連絡手段 前提条件 椅子座位で 10 分安静 安静時 HR / BP / SpO2 を確認 最近の胸痛・失神・心不全増悪は医師と確認

標準手順(やり方マニュアル)

被験者をスタートラインに立たせ、「これから 6 分間歩いていただきます。できるだけ遠くまで、できるだけ速く安全に歩いてください。疲れたら立ち止まっても構いません。再び歩けると感じたら、また歩き始めてください。」と説明します。テスターは横に付き添わず、進行方向とは反対側の側線付近から声かけと安全確認を行います。

タイマーを 6 分に設定し、 1 分ごとに定型文で励ましの声かけを行います。周回するたびにラップ数をカウントし、終了 15 秒前に「まもなく『止まってください』とお伝えします。その場で止まってください。」と予告します。6 分経過時点で「止まってください。」と指示し、その場で静止してもらい、不完全周回は壁マーカーで距離換算します。合計距離( m )を 1 m 単位で記録し、直後に Borg(呼吸・脚)と最小 SpO2(任意)、自覚症状を記入します。

6 分間歩行テストの標準手順(やり方マニュアル) 6 分間歩行テストの流れ(安静・説明・スタート・声かけ・終了合図・記録・中止基準)を示したフローチャート。 10 分安静(椅子座位) HR / BP / SpO2 を確認 説明・同意 「6 分間できるだけ遠くまで…」 スタート合図 タイマーを 6 分に設定 1 分毎の声かけ 周回ごとにラップ数を記録 終了 15 秒前に予告 「まもなく止まってくださいとお伝えします」 6 分で「止まってください」 その場で静止・不完全周回は距離換算 記録 合計距離(m)+ Borg(呼吸・脚)+最小 SpO2・症状 中止基準: 胸痛・耐えがたい呼吸困難・ふらつき・著明な冷汗・蒼白などが出現したら即時中止し、 椅子座位で再評価 → 必要時は医師へ報告

標準フレーズ( 1 分ごとの励まし)

声かけは、距離に直接影響する要素です。施設でフレーズを統一しておくと、評価者が変わっても結果を比較しやすくなります。以下は ATS ステートメントを参考にした日本語訳の一例です。

6 分間歩行テストの標準フレーズ例
タイミング 定型文 ねらい/補足
開始 「できるだけ速く、安全に歩いてください。」 努力水準の統一(最大ではなく“できるだけ速く”)
1 分経過 「順調です。あと 5 分です。」 過度な減速の防止(声のみ、伴走しない)
残り 4 分 「いい調子です。あと 4 分です。」 ペース維持の励まし
残り 3 分 「順調です。半分まで来ました。」 中間点の共有で見通しを持たせる
残り 2 分 「いい調子です。あと 2 分です。」 疲労蓄積時のモチベーション維持
残り 1 分 「順調です。あと 1 分です。」 最後のひと踏ん張りを促す
終了 15 秒前 「まもなく『止まってください』とお伝えします。その場で止まってください。」 安全な停止と距離算定の準備
終了合図 「止まってください。」 不完全周回は壁マーカーで距離換算

距離の評価と基準値・カットオフの考え方

6 MWD は年齢・性別・身長・体重の影響を強く受けるため、絶対値だけでなく予測値に対する割合(% predicted)でみると解釈しやすくなります。健康成人では多くの文献で 6 MWD が概ね 400〜700 m 程度の範囲と報告されており、年齢が高くなるほど距離は短くなる傾向があります(性別・身長・体重も影響因子)

年齢別 6 分間歩行距離の目安(健常高齢者のおおよそのレンジ)
年齢層 男性の目安( m ) 女性の目安( m )
60 代 500〜650 480〜620
70 代 450〜600 430〜560
80 代 350〜500 330〜480

あくまで「健常に近い方の目安」であり、慢性呼吸器疾患・心不全・フレイルなどの患者さんでは、 200〜400 m 程度に分布することも多くなります。疾患ごとの予測式や基準値を用いる場合は、それぞれの原著論文を確認し、「誰を対象に得られた基準値か」を必ず意識しておきましょう。

介入効果の解釈では、最小臨床重要差( MCID )が参考になります。 COPD や心不全などの研究では、6 MWD の MCID はおおよそ 30〜50 m 程度と報告されており、「 20 m 改善では誤差範囲かもしれないが、 50 m 改善なら臨床的にも意味がある」といった判断の目安になります。一方で、距離の伸びが小さくても、「同じ距離で Borg が軽くなった」「 SpO2 の低下が小さくなった」といった変化も、生活上の負担軽減として重要な所見です。

臨床では、「前回から何 m 伸びたか(もしくは低下したか)」と「自覚的な息切れや疲労感の変化」をセットでみることが重要です。測定条件(補助具・酸素・薬剤タイミングなど)を毎回そろえ、再検査時には前回と同じコース・同じ声かけで実施して、変化量の信頼性を高めましょう。

安全管理と中止基準・実施時の注意点

実施中は、表情変化・歩行の乱れ・会話時の息切れなどから症状増悪を早期に察知します。胸痛・耐えがたい呼吸困難・ふらつき・著明な冷汗・顔面蒼白・失神前駆症状などが出現した場合は即時中止し、椅子座位でバイタルを再確認します。必要に応じて医師へ連絡し、その日のリハビリは中止・縮小を検討します。

また、テスターが被験者のすぐ横を歩いてペースメーカーになってしまうと、距離が過大評価されることがあります。安全確保が必要な場面を除き、進行方向とは反対側の側線付近から観察・声かけを行うよう心がけます。酸素療法中の症例では、チューブの引っ掛かりやボンベの転倒にも注意が必要です。安静時 SpO2 が低い症例では、 start 前に「どの値まで低下したら中止するか」をチームで共有しておくと安心です。

リハビリ計画への活用と記録のコツ

6 MWT の距離は、単に「良くなった・悪くなった」を判断するだけでなく、具体的な運動処方づくりにも役立ちます。例えば、「 6 分間で 240 m 歩ける患者」に対して、屋外歩行や退院後の買い物の距離をイメージしながら、 1 回あたりの歩行距離や休憩頻度を設定することができます。

記録には、距離だけでなく「補助具・酸素流量・薬剤タイミング」「前後の Borg(呼吸・脚)」「最小 SpO2 や心拍のピーク」「途中中止や立ち止まりの有無・理由」をセットで残しておくと、多職種での共有に役立ちます。経時的にグラフ化すれば、患者へのフィードバックツールとしても有効です。呼吸リハ全体の評価フローを整理しておくと、 6 MWT の位置づけがより明確になります。

6 MWT の評価をチームで共有するために

6 MWT は、評価者が変わっても手順をそろえれば再現性を確保しやすいテストです。一方で、コース長・声かけ・記録項目がバラバラだと、距離の変化が「測定誤差」なのか「リハビリ効果」なのか判断しづらくなります。病棟や施設内で実施プロトコルと記録フォームを統一し、チームで運用していくことが重要です。

特に、心不全や呼吸器疾患では、入退院をまたいだ経過フォローが多くなります。電子カルテ内のテンプレートや紙ベースの記録シートをあらかじめ用意し、誰が測定しても同じフォーマットで残せる仕組みを作っておきましょう。

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おわりに

実地では「コース準備 → 安全確認 → 標準化された声かけ → 距離と症状の記録 → 経時的な比較」というリズムを崩さないことが、6 MWT の信頼性を高める鍵になります。距離だけでなく、補助具・酸素・ Borg や SpO2 の変化をあわせてみることで、患者ごとのリハビリ負荷量や生活目標がより具体的に描けるようになります。

一方で、評価や訓練に時間を割くほど、働き方や職場環境の課題が気になってくることもあります。日々の臨床とキャリアのバランスに迷ったときは、先ほど紹介した面談準備チェックと職場評価シートを活用しつつ、自分に合った職場や働き方を整理しておくと安心です。

参考文献

  1. ATS Committee on Proficiency Standards for Clinical Pulmonary Function Laboratories. ATS statement: guidelines for the six-minute walk test. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(1):111–117. DOIPubMed
  2. Holland AE, Spruit MA, Troosters T, et al. An official ERS/ATS technical standard: field walking tests in chronic respiratory disease. Eur Respir J. 2014;44(6):1428–1446. DOIPubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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よくある質問( 6 分間歩行テスト)

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Q. 6 MWT の読み方は?

A. 日本語では「6 分間歩行テスト」と読みます。英語では “six-minute walk test(シックス・ミニット・ウォークテスト)” と呼ばれ、略記は 6 MWT(6-minute walk test)や 6 MWD(6-minute walk distance)などが使われます。

Q. 補助具や酸素は、ふだん通りに使って実施しても良いですか?

A. はい、日常生活で使用している杖・歩行器・酸素などは、原則として「ふだん通りの条件」で実施することが推奨されます。そのうえで、記録用紙に補助具の種類や酸素流量を明記し、再検査時も同じ条件で行うことで、距離の変化をより正確に評価できます。

Q. コース長が 30 m 取れない場合はどうすれば良いですか?

A. ガイドライン上は直線 30 m が望ましいとされていますが、スペースの制約で難しい場合もあります。その際は 20 m など現実的な長さで設定し、コース長を固定したうえで経時的な比較に用いるのが現実的です。コース長が短くなるほど折り返し回数が増え、方向転換の影響を受けやすくなる点には注意が必要です。

Q. 練習テスト(プラクティステスト)は必須ですか?

A. 研究では練習テストを行うプロトコルもありますが、実臨床では時間や疲労を考慮し、本番 1 回のみとする施設も少なくありません。練習効果が気になる場合は、初回だけ 2 回実施して良い方を採用する、または「初回は練習を兼ねたベースライン」とカルテに明記するなど、施設内で方針を統一しておくと安心です。

Q. 高齢でふらつきが心配な症例でも 6 MWT を行って良いですか?

A. 立位保持が不安定な症例では、事前に起立テストや短距離歩行テストで安全性を確認したうえで、「歩行介助者を別途配置する」「途中で安全に中止できるよう椅子を近くに置く」などの対策が必要です。絶対禁忌や重度の心血管リスクが疑われる場合は、主治医と相談のうえで他の評価手段への切り替えも検討します。

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