
当サイト(rehabilikun blog)にお越し頂きありがとうございます。
サイト管理者のリハビリくんと申します。

理学療法士として以下の経験と実績を持つリハビリくんが解説します♪
この記事のねらい(PT が担う価値)
住宅改修は制度知識だけでは十分ではありません。理学療法士は、動作のボトルネックを特定し、福祉用具との併用や動線全体の連鎖設計に落とし込みます。目的は「転倒予防」「介助量軽減」「自立度改善」を具体化し、図面と現場の差を埋める実測・試行、設置位置のフィッティング、将来変化の見通しまで含めて提案します。
本稿はそのための観点と手順を、現場で使える粒度で提示します。評価→設計→根拠化→申請→フォローの各段で「何を確認し、何を残すか」を明確化し、審査と運用の双方で通用する文書化の型を示します。関連記事は必要箇所に 1 本まで絞って提示します。
対象者評価:まず何を見る?
基本動作(起居・移乗・歩行)の失敗点・代償・介助量を観察します。屋内連続動線(玄関→居室→トイレ→洗面→浴室)で段差・回転半径・掴まり位置・視認性を確認し、目的(転倒予防、介助量軽減、自立度改善)を一文に要約。疾患特性(片麻痺・失調・パーキンソン症状・骨折後など)と日内変動、介助者の力量・時間帯も把握します。
アウトカム設定の根拠として、 TUG や歩行観察、 IADL( Lawton )を併用します。評価所見は後の理由書で使う数値・写真と対応づける前提で記録し、「どの改修が何を改善するか」を結論文で明示します。
実測:寸法・高さ・触れる面の確認
図面に頼らず現場で実測します。出入口の有効幅、敷居段差高、トイレ・浴室・玄関の回転半径、座面・便座高、立ち上がり時に実際に手が出る位置を把握。手すりは手関節高だけでなく“荷重実点”でフィッティングし、下地可否・補強要否を施工者と共有します。
床材は濡れ環境の滑り抵抗と清掃性を両立し、脱衣・洗い場・浴室で役割を分けます。夜間足元灯やコントラストも評価。施工前写真は全景・局所・スケール入り近景の 3 点セットを必須とし、図面・見積との照合ができる命名で管理します。
仕様選定:手すり・段差・床材・扉の要点
手すりは「起立」「方向転換」「移乗」に紐づけ、縦・横・ L 字を組み合わせます。段差は解消に加えて見切り形状と色コントラストでつまずきを予防。床材は場所ごとの滑り特性を定義し、清掃性と耐久性を担保します。扉は引き戸化で通過性を高め、トイレは便器更新+ L 字手すりで立ち座りを連続化します。
仕様は図上判断ではなく、使用者の動作再現(杖・歩行器・シャワーチェアを持ち込んだ想定)で最終確認します。福祉用具サイズ・旋回・介助者動線の干渉を事前に洗い出し、必要に応じて配置や高さを微修正します。
福祉用具との順序設計(併用が基本)
用具で十分な場合は改修を最小限に、構造的バリアが強い区画は改修を優先する“順序設計”が基本です。浴室は「床ノンスリップ+縦横手すり+シャワーチェア導線」、玄関は「式台 or スロープ+手すり+転落防止」、トイレは「便器更新+ L 字手すり+回転半径確保」をセットで設計します。
構成要素を単品ではなく“機能の連鎖”として計画し、動線の連続性と介助のしやすさを担保します。導入後は用具と環境のミスマッチ(高さ・奥行・干渉)を早期に修正できる余地を残します。
理由書の書き方(審査に通る根拠化)
①疾患・障害像と具体的な動作困難、②転倒リスク・介助負担、③提案仕様と設置位置、④期待改善(自立度・安全性・介助時間)、⑤代替案比較、⑥実測値・写真、⑦用具との整合、⑧将来変化への備え——を明記します。
見積は対象工事と対象外工事を分離し、付帯工事は「必要不可欠の範囲」であることを説明します。冒頭に結論文(例:「浴室段差 35 mm 解消と縦横手すりで転倒リスクを低減し、入浴介助時間を 30%短縮見込み」)を置くと伝わりやすくなります。
費用と上限枠の運用(優先順位づけ)
生涯枠を意識して、①転倒リスクが高い区画、②排泄・入浴など QOL 直結、③介助量への影響が大きい箇所の順に配分します。疾患進行や転居の可能性を踏まえ、再施工コストを抑える配置・仕様を選択します。
税控除や他制度を併用しても、目的過剰の仕様は避けます。ピラー記事の申請フロー・受領委任の確認と併読し、費用面の意思決定を支援してください。将来のリセット条件や転居時の取り扱いも事前に共有します。
申請実務の落とし穴(回避チェック)
事前申請が原則で、事後は不支給リスクが高い点に注意。受領委任の有無・要件(登録事業者限定など)は自治体要綱で確認し、着工日・完了日を厳密に管理します。屋外通路や玄関アプローチは目的と範囲の説明が必要です。
温水洗浄便座の追加など機能拡張のみは対象外になりやすいため、対象外工事の分離見積・写真による線引きを徹底します。完了後は領収書・完了写真・図面の整備をチェックリスト化して漏れを防ぎます。
症例別ミニチェック
疾患・症候ごとに“つまずきやすい動作”は異なるため、想定タスクで再現しながら配置と高さを決めます。非麻痺手の把持、方向転換の干渉、短い歩幅での踏み替えなど、身体特性に合わせた微調整が鍵です。
以下は主要ケースでの着眼点です。チェックリストとして使い、必要に応じて写真・動画でビフォーアフターを共有します。導入後の再フィットを前提に、調整余地を残す設計を心がけます。
- 脳卒中(片麻痺):非麻痺手で把持できる縦手すり/方向転換時の干渉/四点杖の旋回スペース/段差と見切り
- パーキンソン病:すくみ足対策の段差徹底解消/連続手すり/粗面床/夜間足元灯/短い歩幅でも踏み替えやすい配置
- 大腿骨近位部骨折後:立ち上がり高の最適化/ベッド→トイレ最短導線/手すり高さの左右差対応
- 認知症合併:高コントラストの視認性/導線表示/直感的な金具/迷走防止の簡易柵
工事後のフォローとアウトカム
工事後は同じタスクで再評価し、 TUG ・転倒件数・介助時間・夜間排泄成功率などを記録します。写真・動画で動作の変化を可視化し、家族・施工者と共有。必要に応じて手すりの再フィットや用具の見直しを行います。
改修は“完了”ではなく“運用開始”。季節変化(結露・滑り)や病状進行も見据え、定期チェックの機会を提案します。変更が必要になった場合は、費用と効果を再評価し、最小コストで最大効果を維持します。