骨粗鬆症の栄養管理|大腿骨近位部骨折で迷わない 4 本柱
結論:大腿骨近位部骨折後の栄養管理は、まず「 Ca ・たんぱく質・ビタミン D ・ビタミン K 」の 4 本柱をそろえ、次に「食べられる形」「薬剤・病態の例外」「再評価で追う項目」を固定すると運用が安定します。骨粗鬆症の一般論だけで終わらせず、骨折後の回復と再骨折予防につながる説明まで落とし込むのが本記事の役割です。
この記事で答えるのは、①何を優先して食べるか ②どこまで PT が説明してよいか ③ CKD ・ステロイド・ワルファリンで何に注意するか、の 3 点です。あわせて、外来・病棟で使いやすい A4 記録シート PDF も掲載しました。詳細なエネルギー計算、 ONS の製品選定、術後の時系列管理は親記事に委ね、本記事では「食事設計と患者指導」に絞って整理します。
まず押さえる:骨折後の栄養評価( 5 分 )
骨折後リハビリでは、最初に「いま栄養リスクが高いか」を短時間で把握します。入口として見るのは、① 直近 1〜6 か月の体重変化 ② 最近の食事量低下 ③ 低 BMI や筋量低下の手がかり ④ 炎症・手術・感染・併存症の負荷、の 4 点です。ここが曖昧だと、食事指導が“良い話”で終わって再評価につながりません。
精度を上げたいときは、GLIM の考え方で「フェノタイプ(体重減少・低 BMI ・筋肉量低下)」と「エティオロジー(摂取低下・疾患負荷)」を整理します。大腿骨近位部骨折では、もともとの痩せやサルコペニアに、術後の疼痛・炎症・安静による摂取低下が重なりやすいため、“骨粗鬆症の食事”だけでなく“低栄養の是正”も同時に見ます。
骨粗鬆症の栄養は「 4 本柱 」で考える
PT が患者説明でまず押さえるのは、① Ca ② たんぱく質 ③ ビタミン D ④ ビタミン K の 4 本柱です。骨強度は骨密度だけでなく骨質にも左右されるため、 Ca だけ増やせば十分という話ではありません。骨折後は「食べられないのに筋は落ちる」が起きやすく、再転倒・再骨折予防のためにも、骨と筋の両方を支える視点が必要です。
実務では、 Ca とビタミン D をセットで考え、たんぱく質は“毎食で切らさない”、ビタミン K は“急に増減させない”運用が回しやすいです。高齢者のたんぱく質は一般に 1.0〜1.2 g /kg /日 が出発点で、低栄養リスクや急性疾患を伴う場合は 1.2〜1.5 g /kg /日 を検討します。ただし、腎機能や病態で個別化が前提です。
目標量と食品の置き換え目安
前提として、医師の指示や腎機能・服薬により目標量は調整します。本節は「何を、どれくらい意識すればよいか」を即答できる形に落とすための早見です。数字を暗記するより、“不足しやすい柱を 1〜2 個だけ補う” 使い方を想定しています。
| 栄養素 | 目安 | 主な食品例 | 置き換えの考え方(例) |
|---|---|---|---|
| Ca(カルシウム) | 高齢者では概ね 男性 700〜750 mg / 女性 600〜650 mg を出発点にみる | 牛乳・ヨーグルト、木綿豆腐、小松菜、しらす、小魚 | まず「乳製品 1 回/日」を固定し、不足が大きければ豆腐・青菜を追加する |
| ビタミン D | 成人の目安量 9.0 μg /日 | 鮭、サバ、イワシ、卵、きのこ類 | 魚を週数回で終わらせず、毎日〜隔日で入る形に近づける |
| ビタミン K | “毎日少しずつ” を基本にする | 納豆、ほうれん草、小松菜、ブロッコリー | 青菜や大豆食品を途切れさせない。ただしワルファリンでは自己判断で増減しない |
| たんぱく質 | 高齢者 1.0〜1.2 g /kg /日、低栄養リスクが高ければ 1.2〜1.5 g /kg /日を検討 | 魚、肉、卵、乳製品、大豆製品 | 毎食に主菜 1 皿を置き、朝食の欠落を作らない |
重要なのは、 Ca だけ、ビタミン D だけの単独発想にしないことです。骨折後は食事量そのものが落ちやすいため、まず総摂取量を戻し、その上で 4 本柱の不足を埋める順番にすると失敗しにくくなります。
1 日モデル(和食ベース)
患者説明に使いやすい、和食ベースの 1 日例です。ポイントは 4 本柱を別々に考えず、 1 食の中で “重ねて確保する” ことです。咀嚼・嚥下・食欲に配慮が必要な場合は、刻み・軟菜・とろみ・量の分割などで「続けられる形」に寄せます。
| タイミング | 食事例 | 狙い |
|---|---|---|
| 朝 | 納豆ご飯+豆腐と小松菜の味噌汁+ヨーグルト | K + Ca + たんぱく質をまとめて確保する |
| 昼 | 鮭の塩焼き+ひじき煮+青菜のおひたし | D + たんぱく質 + Ca を足す |
| 間食 | 牛乳 1 杯、またはヨーグルト 1 個 | Ca を“確実に”上乗せする |
| 夜 | 鶏むね肉の主菜+ブロッコリー+きのこ汁 | たんぱく質を切らさず、 K と D の底上げも狙う |
OK / NG 早見表(摂り方のコツ)
| テーマ | OK(推奨) | NG(控える) | 理由・補足 |
|---|---|---|---|
| Ca × D | 乳製品・魚・日中活動をセットで考える | Ca だけ増やして安心する | D が不足すると Ca 利用効率が落ちやすい |
| たんぱく質 | 毎食に主菜 1 皿を置き、朝食でも切らさない | 夕食だけでまとめて摂る | 骨折後は筋量低下も進みやすく、配分が大切 |
| ビタミン K | 青菜・大豆食品を習慣化する | ワルファリン中に納豆・青汁・サプリを自己判断で追加する | 薬剤との相互作用があり、摂取パターンを急に変えないことが重要 |
| 加工食品 | 未加工の魚・肉・乳・大豆を基本にする | 加工食品・清涼飲料に偏る | 塩分やリン添加の過多で全体設計が崩れやすい |
病態・薬剤別の注意( CKD / ステロイド / ワルファリン )
骨折後は「良かれと思って足した食品」が、病態や薬剤で逆効果になることがあります。CKD ではリン・カリウム・たんぱく質の調整が必要になることがあり、食材の一般論をそのまま当てはめない配慮が必要です。とくに加工食品由来のリンは見落としやすく、“乳製品を増やす” 指導も腎機能しだいで修正が必要になります。
ステロイド使用中は骨折リスクが上がりやすく、 Ca ・ビタミン D ・たんぱく質の確保はより重要になります。一方、ワルファリンはビタミン K を多く含む食品や健康食品との相互作用に注意が必要で、少なくとも納豆・クロレラ・青汁は自己判断で追加しない方が安全です。ここは「ゼロにする」よりも、「主治医・薬剤師の指示を優先し、食習慣を大きく変えない」と伝えるほうが実務的です。
PT の患者指導 3 ステップ(外来・病棟 10 分)
現場で回る形にするコツは、「聞く項目を固定」→「目標を 1 つだけ決める」→「再評価で追う項目を固定する」の順番です。初回から全部を変えようとすると続きません。まずは 1 週間で変化を見られる小さな目標に落とします。
| ステップ | やること | 聞き方の例 | 記録に残す最小セット |
|---|---|---|---|
| ① 聞く | 体重変化、食事量、乳製品・魚・青菜・大豆の頻度を確認する | 「最近 1 か月で体重は減っていませんか?」 「牛乳やヨーグルトはどのくらい続けられそうですか?」 |
体重変化、摂取低下の有無、頻度の低い食品群 |
| ② 決める | 不足が大きい柱を 1 つだけ決める | 「まずは乳製品 1 回/日からでどうですか?」 | 目標 1 つ、続けにくい理由 1 つ |
| ③ 残す | 再評価日と確認項目を固定する | 「次回は体重と、実際に何日できたかを一緒に見ましょう」 | 再評価日、体重、食事量、実施率 |
病棟では、歩行訓練や階段練習の流れで食事量を確認し、外来では自主練の確認と合わせて「何が続いたか」を聞くと自然です。栄養指導を別枠にしすぎず、リハの再評価と同じタイミングに載せると運用が止まりにくくなります。
記録シートダウンロード
外来・病棟で「栄養リスク → 不足の柱 → 例外確認 → 今日の目標 → 再評価」を 1 枚で回したいときは、以下の A4 記録シートを使うと共有が早くなります。患者説明の内容をそのまま記録へつなげやすい構成です。
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日本データから見た食材選びのヒント
日本のコホート研究では、閉経後女性において納豆の習慣摂取が骨粗鬆症性骨折リスク低下と関連した報告があります。日常に取り入れやすい食材として説明しやすい一方、観察研究であり因果を断定するものではありません。また、ワルファリン症例にはそのまま当てはめず、薬剤条件を先に確認します。
乳製品摂取増と骨折リスク低下の関連を示した日本データもあり、 Ca の供給源として「牛乳またはヨーグルトを 1 回/日」は実務的な提案です。患者さんにとっては、難しい栄養素の話よりも「今日から何を足すか」が決まるほうが行動に移りやすいです。
現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 最小の打ち手)
骨折後の栄養で詰まりやすいのは、「やることが多すぎて続かない」「薬剤・病態の例外で止まる」「再評価が回らない」の 3 つです。先に戻り先を置いておくと迷いが減ります。
| 詰まりどころ | 起きやすい理由 | 最小の打ち手 | 記録のコツ |
|---|---|---|---|
| 全部盛りで続かない | Ca ・ D ・ K ・たんぱく質を一度に変えようとする | 不足が大きい 1〜2 個に絞り、最初の目標は 1 つにする | 「やること 1 つ」+「再評価日」を必ず残す |
| 薬剤の例外で止まる | ワルファリンや CKD で一般論がそのまま使えない | 一般論を上書きせず、主治医・薬剤師と確認した条件を書く | 避ける食品・増減しない食品・相談先をセットで残す |
| 食欲不振で止まる | 術後の疼痛・便秘・悪心で食事量が落ちる | 量を減らして回数を増やす、形態を変える、間食を使う | 中止ではなく「量・形・時間帯の調整」を記録する |
| 再評価が回らない | 何を追うかが曖昧で、次回に繋がらない | 体重、摂取量、実施率の 3 点だけ固定する | “同条件で比較する” を優先する |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 牛乳が苦手でも Ca は増やせますか?
A. 可能です。ヨーグルト、豆腐、小松菜、小魚など複数の食品で補えます。大事なのは「 Ca の多い食品を 1 日に 1 回は確実に入れる」ことです。乳製品が合わない場合は、量を減らす・ヨーグルトへ変更する・他食品を組み合わせる、の順で調整します。
Q2. ビタミン D は食事だけで十分ですか?
A. 食事だけでなく、日中活動や日照も関係します。ただし、高齢者や外出量が少ない方、冬季、屋内中心の生活では不足しやすいため、「魚を食べる頻度」と「外に出る習慣」の両方を確認すると実務で外しにくくなります。
Q3. ワルファリン中は納豆や青菜を完全にやめるべきですか?
A. 自己判断で増減させないことが大切です。少なくとも納豆・クロレラ・青汁は避ける指導が一般的で、その他の食品も主治医・薬剤師の指示を優先します。患者説明では「体に良さそうだから追加する」が最も危ないと伝えると誤解が減ります。
Q4. 退院後、最初に 1 つだけ変えるなら何がよいですか?
A. 迷うときは「乳製品 1 回/日」または「毎食に主菜 1 皿」のどちらか 1 つからで十分です。目標を小さくしたほうが続きやすく、 1 週間後に体重・食事量・実施率を確認しやすくなります。
次の一手
- 大腿骨近位部骨折のリハ栄養|実務フロー:術後 48 時間 → 週次 → 月次の全体設計に戻って確認する
- 栄養スクリーニング使い分け【比較表・配布 PDF ・ GLIM 】:拾い上げツールと GLIM へのつなぎ方を整理する
参考文献
- 日本骨粗鬆症学会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2025 年版. 出版物ページ: https://www.josteo.com/publications/guideline/
- 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準( 2025 年版 )」策定検討会報告書. 2024. ページ / PDF
- Jensen GL, Cederholm T, Correia MITD, et al. GLIM Criteria for the Diagnosis of Malnutrition: A Consensus Report From the Global Clinical Nutrition Community. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 2019;43(1):32-40. doi:10.1002/jpen.1440. PubMed
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- 厚生労働省. 高齢者の医薬品適正使用の指針(各論編(療養環境別)). 2018. PDF
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


