大腿骨近位部骨折×骨粗鬆症の栄養管理| Ca・たんぱく質・ビタミン D・ K の 4 本柱

栄養・嚥下
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大腿骨近位部骨折と骨粗鬆症の栄養管理| Ca・たんぱく質・ビタミン D・ K を「 4 本柱 」で回す

骨折後の回復は「運動」だけでなく、栄養の立て直しで伸びしろが変わります。 評価 → 介入 → 再評価の臨床フローを見る( #flow )

大腿骨近位部骨折の多くは骨粗鬆症を背景に起こり、低栄養・サルコペニアを合併していることが少なくありません。手術に加えて、炎症・安静・疼痛による食事量低下が重なると、ADL 回復の速度や再転倒・再骨折リスクに直結します。

本稿は、骨粗鬆症の栄養管理を Ca(カルシウム)・たんぱく質・ビタミン D・ビタミン K 4 本柱で整理し、GLIM などの栄養評価、CKD/ステロイド/ワルファリン症例の注意点、そして PT が 10 分で回せる指導 3 ステップまでを 1 ページにまとめます。

まず押さえる:大腿骨近位部骨折で押さえたい栄養評価( 5 分 )

骨折後リハビリでは、最初に「いま、栄養リスクがどれくらい高いか」をざっくり把握します。ポイントは、① 直近 3–6 か月の体重変化 ② 食事摂取量(主食・主菜・乳製品・大豆など)③ 炎症・疾患負荷(感染・手術・ステロイド等)④ 活動性(屋外歩行・買い物など)の 4 点です。

精度を上げたいときは、GLIM のフェノタイプ(体重減少・低 BMI・筋肉量低下)エティオロジー(食事量低下・疾患負荷)で整理します。大腿骨近位部骨折では「慢性的な痩せ+急性の食事量低下」が重なりやすいため、退院後の転倒・再骨折予防まで見据えて、栄養状態の見直しをルーチン化しておくのが安全です。

骨粗鬆症の栄養は「 4 本柱 」で考える

骨強度は「骨密度 × 骨質」で決まり、食事は両者に影響します。PT が患者指導でまず押さえるのは、① Ca ② たんぱく質 ③ ビタミン D ④ ビタミン K の 4 本柱です。日本では Ca とビタミン D が不足しがちで、日光曝露の減少や魚食の低下が背景にあります。

数値目標は年齢・体格・疾患で調整しますが、一般的には Ca は成人で 650–750 mg/日、ビタミン D は 9.0 μg/日(成人の目安量)、高齢者のたんぱく質は少なくとも 1.0 g/kg/日を確保する方針が現実的です。ビタミン K は定量目標よりも「日差を小さくする」運用が重要になります。

栄養目標と食品の置き換え目安( 2025 版 )

前提として、医師の指示や腎機能・服薬により摂取量は調整します。本節は「何を、どれくらい食べればよいか」を即答できる形に落とすための早見です( CKD/ワルファリン等は後述)。

骨粗鬆症の栄養目標と 1 日の置き換え目安(成人の目安)
栄養素 目標量の目安 主な食品例 置き換えの目安(例)
Ca(カルシウム) 男性 750 mg / 女性 650 mg 牛乳・ヨーグルト、干しエビ、小松菜、木綿豆腐 不足 200 mg → 牛乳 180 g 又は ヨーグルト 170 g 又は 木綿豆腐 230 g
ビタミン D 9.0 μg(成人の目安量) 鮭・サバ・イワシ、きくらげ、干し椎茸 鮭 切身 1 切(約 100 g)で 10 μg 前後
ビタミン K 十分摂取(定量目標なし) 納豆、ほうれん草、ブロッコリー 納豆 1 パック(約 45 g)/日 をまず習慣化(※ワルファリンは「一定量」)
たんぱく質 高齢者は ≥ 1.0 g/kg/日 魚、肉、卵、乳、大豆 毎食 25–30 g のたんぱく質食品を「 1 皿」足す(例:魚 100 g)

Ca と D は相補関係にあり、D が不足すると Ca 吸収が低下します。血清 25(OH)D は 20 ng/mL 未満で欠乏、20–30 ng/mL 不足、30 ng/mL 以上で充足とする国内判定が広く用いられます。

患者説明に使えるシンプルな 1 日例です。術後・退院後を想定し、 Ca・ D・ K・たんぱく質を同時に確保する構成にします。咀嚼・嚥下に配慮が必要な場合は、刻み/とろみ等で「続けられる形」に寄せます。

骨折後の 1 日モデル(和食ベース:例)
タイミング 狙い(どの柱?)
納豆ご飯+小松菜の味噌汁+ヨーグルト K + Ca + たんぱく質
鮭の塩焼き 100 g+ひじき煮+豆腐の小鉢 D + たんぱく質 + Ca
間食 牛乳 200 mL(又はヨーグルト) Ca を「確実に」足す
鶏むね 100 g の生姜焼き+ブロッコリー胡麻和え+きのこ汁 たんぱく質 + K(※食べやすさ優先で調整)

OK / NG 早見表(摂り方のコツ)

骨粗鬆症予防:食事の OK / NG と理由
テーマ OK(推奨) NG(控える) 理由・補足
Ca × D 魚+乳製品の組合せ/屋外の短時間日光 D 不足のまま Ca だけ増やす D 不足は Ca 吸収低下と PTH 上昇に繋がりやすい
ビタミン K 納豆+青菜を「一定量」続ける ワルファリン中の摂取量が日によって大きく変動 K 変動は INR 不安定化。ゼロではなく「安定」を目指す
リン 未加工の魚・肉・乳で確保 加工食品・清涼飲料の過剰 無機リン添加は吸収率が高く、 Ca 代謝に悪影響が出やすい
塩分 減塩の醤油・味噌を活用 カップ麺・漬物の常用 高 Na は Ca 排泄↑/生活習慣病悪化で運動継続も難しくなる

病態・薬剤別の注意(必ず個別化)

骨折後は「良かれと思って足した食品」が、病態や薬剤で逆効果になることがあります。CKD はリン・カリウム制限や活性型 D の管理が必要で、食品添加由来のリンは吸収率が高い点に注意します。ステロイド( GIOP )は骨折リスクが高く、 Ca・ D の確保は基本方針になります。

ワルファリンはビタミン K を「ゼロ」にするのではなく、毎日ほぼ一定量で安定させる運用が重要です。大腿骨近位部骨折では複数の病態を抱えることも多いため、血液データや処方内容を確認し、管理栄養士・主治医と方針をすり合わせたうえで「続けられる範囲」に落とし込みます。

PT の患者指導 3 ステップ(外来・病棟 10 分 )

現場で回る形にするコツは、「聞く項目を固定」→「目標を小さく決める」→「置き換えを 1 つだけ出す」の順番です。初回から盛り込みすぎず、まず 1 週間の再評価が回る設計にします。

PT の 10 分指導: 3 ステップ(骨折後・骨粗鬆症)
ステップ やること( 1 分〜 ) 聞き方の例 記録に残す最小セット
① スクリーニング 体重変化/食事量/乳・魚・納豆の頻度/日光曝露 「最近 1 か月で体重は?」
「牛乳・ヨーグルトは週に何回?」
体重(いつから)+摂取量(ざっくり)+該当食品の頻度
② 目標設定 4 本柱のうち「不足が大きい 1〜2 個」だけ決める 「 Ca は 1 日 1 回、乳製品を足せそう?」 目標(例:乳製品 1 回/日)+障害(例:下痢が不安)
③ 置き換え処方 不足を具体化(不足 200 mg → 牛乳 180 g 等) 「朝にヨーグルト 1 個なら続けられる?」 やること 1 つ+再評価日+再評価項目(体重/食事量)

病棟では、歩行訓練や階段練習の流れで「今日の食事はどうでしたか?」「乳製品はどのくらいなら続けられそうですか?」と確認し、退院後の再骨折予防につながる行動変容を小さく積み上げるイメージで関わると回しやすいです。

納豆と乳製品の日本コホート(実務での使いどころ)

閉経後女性で、納豆の習慣摂取が骨粗鬆症性骨折リスク低下と関連(交絡調整後)した報告があります。豆腐など他の大豆食品とは異なる所見で、MK-7( K2 )の関与が示唆されます。日常で取り入れやすい 1 食材として説明しやすい知見です。Kojima 2020

同コホートでは乳製品摂取増と骨折リスク低下の関連も報告されており、 Ca 供給源として「牛乳 or ヨーグルトを 1 回/日」の提案は実務的です。運動とセットで目標化すると、患者さんにもイメージしてもらいやすくなります。Kojima 2023

現場の詰まりどころ(よくある失敗 → 最小の打ち手)

骨折後の栄養で詰まりやすいのは、「やることが多くて続かない」「病態・薬剤で一律指導が崩れる」「再評価が回らない」の 3 つです。ここは原因 → 最小の打ち手 → 記録をセットで固定します。

骨折後栄養で詰まりやすいポイントと対策(実務)
詰まりどころ 起きやすい理由 最小の打ち手 記録のコツ
全部盛りで続かない Ca・ D・ K・たんぱく質を一度に変えようとする 不足が大きい 1〜2 個だけに絞り、置き換えを 1 つだけ出す 「やること 1 つ」+「再評価日」を必ず残す
下痢・食欲不振で止まる 術後の体調や便通で乳製品が合わないことがある 量を半分から/ヨーグルトへ変更/時間帯をずらす(続けられる形に) 中止ではなく「調整して継続」を記録(量・形態・時間帯)
ワルファリンで迷う K を「避ける」指導になりがちで摂取が不安定化 ゼロではなく「一定量」を徹底し、日差を小さくする 納豆・青菜の頻度と量を定型で書く
再評価が回らない 何を追うかが曖昧で、次回に繋がらない 体重・摂取量(ざっくり)・実施率の 3 点だけ固定 「同条件」で追う(いつ・何を・どれくらい)を揃える

面談準備チェック( A4・ 5 分)と職場評価シート( A4 )をまとめて使えるようにしています。印刷してそのまま使えるので、骨折リハの経験整理や説明の抜け漏れ防止にも活用してみてください。ダウンロードページを見る

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

Q1. Ca は牛乳が苦手でも増やせますか?

A. 可能です。乳製品が合わない場合は、量を半分から始めたり、ヨーグルトへ置き換えたり、豆腐・小松菜など「別の Ca 源」を組み合わせます。大事なのは 1 回で完璧を狙わず、続けられる形に調整して再評価を回すことです。

Q2. ワルファリン中は納豆や青菜を避けるべきですか?

A. 「ゼロ」よりも「一定量で安定」が基本です。摂取量が日によって大きく変動すると INR が不安定になりやすいため、頻度と量を固定し、チームで共有できる形に整えます(医師の指示と施設方針を優先)。

Q3. 退院後、まず何から始めればいいですか?

A. まずは「乳製品を 1 回/日」など置き換えを 1 つ決めて、体重と摂取量(ざっくり)を 1 週間後に同条件で確認します。小さな成功を積み上げるほうが、転倒予防の運動も続きやすくなります。

次の一手

  • 次に読む:骨折後の低栄養・サルコペニアを「評価 → 目標 → フォロー」で回す(シリーズ内の総論)
  • 臨床で使う:骨折後の「再評価が回る」記録テンプレ(体重・摂取量・実施率の最小セット)
  • チーム共有:病態・薬剤( CKD / ステロイド / 抗凝固薬 )で変わる注意点の確認フロー

参考文献

  1. 日本骨粗鬆症学会. 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン 2023. 出版物ページ: https://www.josteo.com/publications/guideline/
  2. 厚生労働省. 「日本人の食事摂取基準( 2025 年版 )」策定検討会報告書(全文・正誤反映). 2025. ページPDF
  3. Okazaki R, et al. Assessment criteria for vitamin D deficiency/insufficiency in Japan. J Bone Miner Metab. 2017;35(1):1–5. doi:10.1007/s00774-016-0805-4. PubMed
  4. Volkert D, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958–989. doi:10.1016/j.clnu.2022.01.024. PubMed
  5. Kojima A, et al. Natto intake and osteoporotic fracture risk. J Nutr. 2020;150(3):599–605. doi:10.1093/jn/nxz292. PubMed
  6. Kojima A, et al. Dairy intake and osteoporotic fracture risk in Japanese women. J Nutr Health Aging. 2023;27(3):228–237. doi:10.1007/s12603-023-1898-1. PubMed

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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