高齢者の低栄養は「栄養 × 機能 × 再評価」を同時に設計すると回しやすくなります
高齢者の低栄養では、「何 kcal・何 g/kg/日から始めるか」だけでなく、「どの機能指標で効いているか」を同時に決めないと、食事・ ONS ・運動が別々に走りやすくなります。本記事は PT が初回 1 週間で決めるべき 栄養目標・運動目標・再評価の型 を、現場で使いやすい順番で整理します。
ここで扱うのは 栄養計画の立て方と追い方 です。スクリーニングツールの細かな比較や GLIM 診断フローの深掘りは別記事にゆずり、このページでは「何を集めるか → 何から始めるか → どこで見直すか」を 1 本線で固定します。全体像から先に整理したい方は、リハ栄養の進め方 もあわせて確認してください。
評価や再評価の型は、個人の努力だけでなく、学び方や相談できる環境でも安定度が変わります。今の職場で「見本が少ない」「相談しにくい」と感じるなら、先に学び方と働き方の土台を整理しておくと動きやすくなります。
PT キャリアガイドを見る実務フロー(初回 1 週間)
Day 0–2:まずは GLIM の材料をそろえます。体重変化、 BMI 、筋量 proxy 、摂取量、炎症・疾患負荷を確認し、 GNRI 、食事聞き取り、嚥下・咀嚼、併存症までを最初に押さえます。機能は握力、 5 回椅子立ち上がり、歩行速度などでベースラインを作り、「栄養だけ」「運動だけ」に分断しないことが重要です。
Day 3–7:次に、体重・歩行・ ADL の目標を決め、エネルギーとたんぱくの暫定設定を行います。食事、 ONS 、食形態、間食、運動療法(レジスタンス+歩行)を組み合わせ、摂取実績・体重・疲労感・機能の変化 を見ながら修正します。最初から完璧を狙うより、「小さく始めて毎週直す」ほうが現場では回りやすいです。
エネルギーとたんぱくの設定
エネルギー:原則は 間接熱量測定 が最適です。機器がなければ推定式で BEE を算出し、TEE = BEE × 活動係数 × ストレス係数 で見積もります。体重増加を狙う場合は、成人で概ね 7,500 kcal/kg を目安にしつつ、現場では 1 日あたり 200 ~ 750 kcal 程度の上乗せから始め、浮腫・摂取実績・体重推移で微調整します。
たんぱく:高齢者では 1.0 ~ 1.2 g/kg/日、疾患時は 1.2 ~ 1.5 g/kg/日、重症や著明な低栄養では最大 2.0 g/kg/日までを文献範囲で検討します。エネルギー不足が残ると筋同化が進みにくいため、まずエネルギー不足を是正 しつつ、運動療法、とくにレジスタンストレーニングと併用するのが基本です。
参考の根拠(要点)
- 間接熱量測定がゴールドスタンダードで、推定式には過小・過大推定のリスクがあります。
- ONS は少なくとも 400 kcal/日・たんぱく 30 g/日を目安に継続し、体重・食欲・機能で再評価します。
- 体重増加のエネルギーコストは成人で概ね 7,500 kcal/kg が目安ですが、高齢者では幅があるため、経過で補正します。
KPI(毎週・毎月)と見直しの目安
低栄養の栄養計画は、立てることよりも 追い方を固定すること が重要です。数値を増やしすぎると続かないため、現場では「栄養 2 つ・機能 2 つ・リスク 1 つ」くらいから回し始めると運用しやすくなります。
とくに、体重だけ増えて ADL が伸びない、摂取量は入っているのに疲労が強い、といったズレを早く拾えるかがポイントです。月 1 回の大きな再設定の前に、週 1 回のミニ再評価 を入れておくと、食事・ ONS ・運動の方向修正がしやすくなります。
| 領域 | 指標 | 追う頻度 | 見直しの目安 | PT の具体策 |
|---|---|---|---|---|
| 栄養 | 体重・体重変化 | 週 1 回 | 減少が続く、または浮腫が増える | 摂取実績、水分、排泄、活動量を再確認し、評価条件をそろえる |
| 栄養 | 摂取量・食事完食率 | 毎日 | 必要量に届かない状態が続く | ONS ・間食・食形態・食事時間帯を栄養部門と再設計する |
| 機能 | 握力 | 週 1 ~ 2 回 | 改善が乏しい、疲労が強い | 負荷量、実施タイミング、摂取直後の運動可否を見直す |
| 機能 | 5 回椅子立ち上がり・歩行速度 | 週 1 ~ 2 回 | 立ち上がりや歩行が頭打ちになる | 下肢筋力だけでなく、息切れ、食後低血圧、疼痛も併せて確認する |
| リスク | 浮腫・起立性低血圧・不整脈所見 | 毎日 | 増悪がみられる | 栄養増量や運動負荷の上げ幅を緩め、医師へ所見を共有する |
| ADL | BI / FIM | 2 ~ 4 週ごと | 体重は増えるが生活動作が伸びない | 筋力訓練中心から、食事・移乗・歩行など生活課題へ配分を変える |
記録シートダウンロード
初回評価から月次再評価までを 1 枚で共有したい方向けに、A4 記録シート PDF を用意しました。体重、摂取量、機能、再評価メモを同じ紙面で追いたいときに使いやすい構成です。
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CKD 併存時の注意(非透析)
CKD では一律のたんぱく制限は推奨されず、重症度、サルコペニア、 PEW の有無をふまえて個別化します。KDOQI 2020 では、代謝安定時の CKD G3–G5(非透析)で 0.6–0.8 g/kg/日 が選択肢ですが、筋量や機能低下がある場合は、優先課題が「腎保護」だけでなく 栄養不良の是正 になることがあります。
食塩・カリウム・リンは腎指示を優先します。PT は、むくみ、起立性低血圧、息切れ、運動時の不整脈リスクなど、動いたときに見えやすい変化を日々共有し、運動処方の上げ幅を微調整します。
リフィーディング症候群の回避
長期低栄養の方では、開始直後に急速な増量を行うと、低 P ・低 K ・低 Mg 、心不整脈、浮腫などのリスクがあります。初期は 10–20 kcal/kg/日 程度から始め、 1 ~ 2 日ごとに段階的に増量し、電解質を連日確認しながら、必要に応じてビタミン、とくにチアミン補充を検討します。
高リスク例では NST と連携し、栄養投与だけでなく運動負荷も一気に上げないことが大切です。PT は「栄養が入ったから歩かせる」ではなく、電解質・循環・疲労の安定 を確認しながら負荷を進めます。
ONS・経腸栄養の使い方(要点)
ONS: 400 kcal/日以上でたんぱく 30 g/日相当を 1 か月以上継続し、月 1 回は体重・食欲・機能を再評価します。嚥下障害がある場合はテクスチャ調整品を選び、味や形態のローテーションで継続しやすさを上げます。
経腸:経口摂取が 3 日超見込めない、または 1 週間で必要量の 1/2 未満が続く場合は適応を検討します。PT は摂取量だけでなく、座位耐久性、食事動作、疲労、呼吸状態をセットで見て、「入る栄養」と「使える機能」の両方をチームへ返します。
現場の詰まりどころ:よくある NG と OK
低栄養の栄養計画は、「正しい理論」よりも「現場で続く設計」が大切です。とくに、エネルギー不足を放置したままたんぱくを足す、 CKD だからと一律に制限する、初日から全量投与する、といったズレは起こりやすいポイントです。
迷ったときは、「どこで止めるか」「何を先に直すか」を固定するとブレにくくなります。下の表は、病棟で起こりやすい落とし穴を PT 視点で整理した早見表です。
| NG | なぜ問題? | OK | PT の具体策 |
|---|---|---|---|
| 極端な減塩で食下がり | 総摂取エネルギーが落ちて逆効果になりやすい | 段階的減塩+うま味活用 | 味覚や食べやすさを確認し、病棟へ食事場面の所見を共有する |
| たんぱくだけ先に増やす | エネルギー不足が残ると筋同化が進みにくい | まずエネルギー確保 → たんぱく増量 | 間食・ ONS の時間割を運動スケジュールと一緒に設計する |
| CKD に一律制限 | サルコペニアや PEW を進めることがある | 腎 × 栄養 × 機能で個別化 | 腎・栄養・ PT の週次カンファを定例化する |
| 初日から全量投与・全力運動 | リフィーディングや循環負担の危険がある | 10–20 kcal/kg/日から開始し漸増 | 電解質、バイタル、疲労の変化を日次で追う |
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
アルブミンだけで低栄養を判断してよいですか?
アルブミンは炎症や水分バランスの影響を受けやすく、単独で低栄養を確定する指標ではありません。体重推移、摂取量、筋量 proxy 、筋力、疾患負荷を合わせて判断し、 GLIM の材料として位置づけるとズレにくくなります。
PT が最初に追うべき指標は何ですか?
最優先は、体重推移、摂取量、握力や 5 回椅子立ち上がりなどの機能指標、そして浮腫や起立性低血圧などのリスク所見です。数字を増やしすぎるより、「栄養 2 つ・機能 2 つ・リスク 1 つ」くらいで回し始めるほうが現場では安定します。
CKD があるときは、たんぱくを増やさない方がよいですか?
一律に増やさない・減らすではなく、腎機能、代謝安定性、サルコペニアや PEW の有無で個別化します。筋量や機能が落ちている場面では、腎保護だけでなく低栄養是正の優先度も高くなるため、腎専門医と管理栄養士を交えた調整が前提です。
ONS はいつ導入を検討すればよいですか?
食事だけで必要量に届かない、間食を組んでも不足が埋まらない、体重や機能が落ちている、こうした場面では早めに検討します。導入後は「入れたか」だけでなく、体重、食欲、活動量、機能に変化が出たかまで追うことが大切です。
次の一手
参考文献
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- Volkert D, Beck AM, Cederholm T, et al. ESPEN practical guideline: Clinical nutrition and hydration in geriatrics. Clin Nutr. 2022;41(4):958-989. doi:10.1016/j.clnu.2022.01.024. PubMed / DOI / PDF
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- Chen LK, Woo J, Assantachai P, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update on Sarcopenia Diagnosis and Treatment. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300-307.e2. doi:10.1016/j.jamda.2019.12.012. PubMed / DOI
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


