MWST と WST の違い・使い分け(先に全体像)
ベッドサイドで素早く誤嚥リスクを見極めるために、MWST(改訂水飲みテスト)と WST(30 mL/3oz・100 mL 系)の違い・使い分けを 1 ページに整理します。本記事は「どちらを、どこまで実施するか」という意思決定に特化し、具体的な手順やスコアの詳細は 改訂水飲みテスト/水飲みテストのやり方・評価・中止基準 に譲ります。
- MWST:冷水 3 mL でむせ・湿性嗄声・呼吸変化などを観察。低侵襲で安全寄りで、陰性なら段階的漸増に進みやすい。
- WST:30 mL~3oz(約 90 mL)一気飲み、または 100 mL/TWST 系。負荷は高めで陽性は拾いやすい一方、全例には適用できない。
- 共通の限界:いずれも silent aspiration を見逃しうる 検査であり、疑わしい症例では VFSS/FEES へ速やかに移行する。
MWST と WST の比較(ひと目で整理)
| テスト | 主目的 | 用量 / 手順の骨子 | 観察・判定 | 主なメリット | 注意 / 限界 |
|---|---|---|---|---|---|
| MWST | 少量水での嚥下安全性の一次確認 | 冷水 3 mL を口腔底へ → 嚥下 → 必要に応じて唾液嚥下を追加 | むせ・湿性嗄声・呼吸変化・SpO2 低下(任意) | 低侵襲・準備が容易・段階的漸増が可能 | silent aspiration を拾い切れない/スコア法・カットオフは施設差あり |
| WST(30 mL/3oz/100 mL 系) | 連続嚥下の安全性と持久性の確認 | 30 mL or 3oz を一気飲み、または 100 mL をできるだけ速く連続飲水 | 連続嚥下の可否・むせ・中断・湿性嗄声 | 短時間で“危険サイン”を拾いやすい/実施が単純 | 負荷が高く適応選別が必須/silent aspiration の見逃しあり |
場面別:どこまで実施するかの目安
- 急性期・肺炎後直後:まずは RSST・咳反射・呼吸状態を確認し、MWST の 3 mL までで止めることが多いです。陽性や強い疑いがあれば WST は行わず VFSS/FEES を検討します。
- 回復期・経口摂取再開期:MWST で少量安全性を確認し、呼吸予備能や全身状態が許せば WST で連続嚥下を追加評価。ここでの陽性は「食形態や一口量の見直し」「VE/VF での再評価」につなげます。
- 維持期・在宅:在宅では肺炎既往や家族の観察所見(食後の咳・痰・倦怠感)を重視しつつ、MWST のみでフォローすることも少なくありません。WST はバイタルや介助体制を整えた場で慎重に検討します。
患者因子からみたテストの選び方
- 呼吸機能が脆弱:高度 COPD・在宅酸素・頻回の咳嗽がある場合は、MWST のみまたは RSST・VE/VF 優先。WST の「一気飲み」は避けるのが無難です。
- 認知機能・理解力:指示理解が不十分な症例は、WST で「一気飲み」が成立しません。MWST や RSST、実際の食事場面の観察で評価軸を組み立てます。
- 既往歴:反復性肺炎、明らかな silent aspiration 疑いがある場合は、ベッドサイド評価の陰性結果を過信せず、早めに VFSS/FEES を主評価に切り替える前提で MWST・WST を位置づけます。
- 筋力・持久力:サルコペニア・フレイルが強い患者では、WST は「持久力テスト」としての負荷が過大になることがあります。少量での MWST と、歩行・ADL など他の負荷テストとのバランスを見ます。
適応・禁忌 / 安全管理(共通)
- 禁忌寄り:臥位での意識障害、持続する湿性嗄声、著明な呼吸不安定、重度の咳嗽発作、急性期の循環不安定などでは MWST・WST ともに慎重適応または実施見送りを検討します。
- 原則:十分な背もたれと足底接地を確保した座位で実施します。パルスオキシメータは任意ですが、装着する場合は体動によるアーチファクトに注意します。
- 中止基準:激しいむせ込み、窒息感、SpO2 の急低下、顔色不良、強い苦悶表情などが出現したら即時中止・安静化し、必要に応じて医師へ報告します。
- 次段:陽性または疑わしい場合は、RSST・咳反射・嚥下誘発性などの補助所見を組み合わせ、VE/VF へ連結するか、食形態・一口量の調整にとどめるかをチームで検討します。
MWST / WST 手順の「ここだけは外せないポイント」
MWST(改訂水飲みテスト)のポイント
- 座位・頭部正中位・口腔内清潔を確認し、冷水 3 mL を舌前方または口腔底に静かに滴下します。
- むせ・湿性嗄声・呼吸努力の変化を観察し、必要時 SpO2 を併記します(例:96→94%)。
- 陰性の場合のみ 5~10 mL へ段階的に増量し、それでも安全なら「少量水の安全性は概ね保たれている」と解釈します。
- 点数やスコアリングの詳細(1~5 点)や中止基準は、改訂水飲みテスト/水飲みテストのやり方 で図解しておくとチーム共有しやすくなります。
WST(30 mL/3oz/100 mL 系)のポイント
- 事前に「途中でつらくなったら止めてよい」と説明し、連続嚥下が成立しそうか大まかに見通しを立てます。
- 30 mL or 3oz を「できるだけ速く一気に飲んでください」と指示し、連続嚥下の可否・むせ・中断・湿性嗄声を観察します。
- 飲み切れない、むせる、湿性嗄声が出る場合は陽性として中止し、食形態調整や VE/VF への移行を検討します。
- 高リスク症例では「WST を無理に行わない」という選択肢も含めて、MWST・実食観察・画像評価の組み合わせで判断します。
記録と解釈(テンプレ)
<記録例>「座位。MWST 3 mL:むせなし・湿性嗄声なし。SpO2 96→95%。5 mL も安全。WST 30 mL:連続嚥下は可能だが、終了後に軽度湿性嗄声。食形態は現在のまま継続とし、VE で精査予定。」
- MWST は「少量水の安全性」、WST は「連続嚥下と持久性」を主にみていることを明示し、それぞれの結果を分けて記述します。
- 陰性であっても silent aspiration の可能性 をゼロとはせず、咳反射・喀痰性状・胸部画像・肺炎既往などとセットで解釈します。
よくある質問(FAQ)
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どちらを先にやる?
病棟での初期スクリーニングは、まず MWST(3 mL) から実施し、少量で明らかな問題がなければ必要に応じて WST を検討する流れが安全です。WST 単独をいきなり行うのは、高リスク症例では避けた方が無難です。
SpO2 の低下を判定基準にしてよい?
SpO2 は目安として併用可能ですが、体動によるアーチファクト の影響を強く受けます。主要な判定は、むせ・湿性嗄声・連続嚥下可否など臨床所見に置き、SpO2 は「参考指標」として記録する位置づけが現実的です。
RSST や EAT-10 との使い分けは?
RSST は嚥下反射の惹起性を、EAT-10 は自覚的な嚥下困難感を主に評価するツールです。MWST・WST と完全に置き換えられるものではなく、「少量水の安全性」「連続嚥下」「自覚症状」 を組み合わせて全体像をつかむイメージで運用します。
参考文献
- Oguchi N, et al. The modified water swallowing test score is the best predictor of aspiration pneumonia in acute stroke patients. Medicine (Baltimore). 2021. Full text / PMC
- Suiter DM, et al. Clinical utility of the 3-ounce water swallow test. Dysphagia. 2008. PubMed
- Kuuskoski J, et al. The Water Swallow Test and EAT-10 as Screening Tools. Laryngoscope. 2024. Publisher
- Lin Y, et al. Modified volume-viscosity swallow test: diagnostic value. Front Neurol. 2022. PMC
- Persson E, et al. Repetitive Saliva Swallowing Test: Norms and Clinical Relevance. Dysphagia. 2018. PMC
- Donovan NJ, et al. Dysphagia Screening: State of the Art. Stroke. 2013. AHA
関連記事
おわりに
ベッドサイドでの嚥下スクリーニングは、RSST などの簡便なチェック → MWST 3 mL での少量水評価 → 必要に応じた WST や VE/VF → 食形態・一口量の調整 → 再評価というサイクルで回していくことが、安全と栄養・水分の両立につながります。MWST と WST の役割をチームで共有し、「どこまでベッドサイドで見るか/どこから画像評価に任せるか」をあらかじめすり合わせておきましょう。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


