MWST と WST の違い【比較と使い分け】

栄養・嚥下
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MWST と WST の違い・使い分け(先に全体像)

ベッドサイドで素早く誤嚥リスクを見極めるために、MWST(改訂水飲みテスト)と WST(30 mL/3oz・100 mL 系)の違い・使い分けを 1 ページに整理します。本記事は「どちらを、どこまで実施するか」という意思決定に特化し、具体的な手順やスコアの詳細は 改訂水飲みテスト/水飲みテストのやり方・評価・中止基準 に譲ります。

  • MWST:冷水 3 mL でむせ・湿性嗄声・呼吸変化などを観察。低侵襲で安全寄りで、陰性なら段階的漸増に進みやすい。
  • WST:30 mL~3oz(約 90 mL)一気飲み、または 100 mL/TWST 系。負荷は高めで陽性は拾いやすい一方、全例には適用できない。
  • 共通の限界:いずれも silent aspiration を見逃しうる 検査であり、疑わしい症例では VFSS/FEES へ速やかに移行する。

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MWST と WST の比較(ひと目で整理)

MWST と WST の比較(2025 年版・成人ベッドサイド)
テスト 主目的 用量 / 手順の骨子 観察・判定 主なメリット 注意 / 限界
MWST 少量水での嚥下安全性の一次確認 冷水 3 mL を口腔底へ → 嚥下 → 必要に応じて唾液嚥下を追加 むせ・湿性嗄声・呼吸変化・SpO2 低下(任意) 低侵襲・準備が容易・段階的漸増が可能 silent aspiration を拾い切れない/スコア法・カットオフは施設差あり
WST(30 mL/3oz/100 mL 系) 連続嚥下の安全性と持久性の確認 30 mL or 3oz を一気飲み、または 100 mL をできるだけ速く連続飲水 連続嚥下の可否・むせ・中断・湿性嗄声 短時間で“危険サイン”を拾いやすい/実施が単純 負荷が高く適応選別が必須/silent aspiration の見逃しあり

場面別:どこまで実施するかの目安

  • 急性期・肺炎後直後:まずは RSST・咳反射・呼吸状態を確認し、MWST の 3 mL までで止めることが多いです。陽性や強い疑いがあれば WST は行わず VFSS/FEES を検討します。
  • 回復期・経口摂取再開期:MWST で少量安全性を確認し、呼吸予備能や全身状態が許せば WST で連続嚥下を追加評価。ここでの陽性は「食形態や一口量の見直し」「VE/VF での再評価」につなげます。
  • 維持期・在宅:在宅では肺炎既往や家族の観察所見(食後の咳・痰・倦怠感)を重視しつつ、MWST のみでフォローすることも少なくありません。WST はバイタルや介助体制を整えた場で慎重に検討します。

患者因子からみたテストの選び方

  • 呼吸機能が脆弱:高度 COPD・在宅酸素・頻回の咳嗽がある場合は、MWST のみまたは RSST・VE/VF 優先。WST の「一気飲み」は避けるのが無難です。
  • 認知機能・理解力:指示理解が不十分な症例は、WST で「一気飲み」が成立しません。MWST や RSST、実際の食事場面の観察で評価軸を組み立てます。
  • 既往歴:反復性肺炎、明らかな silent aspiration 疑いがある場合は、ベッドサイド評価の陰性結果を過信せず、早めに VFSS/FEES を主評価に切り替える前提で MWST・WST を位置づけます。
  • 筋力・持久力:サルコペニア・フレイルが強い患者では、WST は「持久力テスト」としての負荷が過大になることがあります。少量での MWST と、歩行・ADL など他の負荷テストとのバランスを見ます。

適応・禁忌 / 安全管理(共通)

  • 禁忌寄り:臥位での意識障害、持続する湿性嗄声、著明な呼吸不安定、重度の咳嗽発作、急性期の循環不安定などでは MWST・WST ともに慎重適応または実施見送りを検討します。
  • 原則:十分な背もたれと足底接地を確保した座位で実施します。パルスオキシメータは任意ですが、装着する場合は体動によるアーチファクトに注意します。
  • 中止基準:激しいむせ込み、窒息感、SpO2 の急低下、顔色不良、強い苦悶表情などが出現したら即時中止・安静化し、必要に応じて医師へ報告します。
  • 次段:陽性または疑わしい場合は、RSST・咳反射・嚥下誘発性などの補助所見を組み合わせ、VE/VF へ連結するか、食形態・一口量の調整にとどめるかをチームで検討します。

MWST / WST 手順の「ここだけは外せないポイント」

MWST(改訂水飲みテスト)のポイント

  • 座位・頭部正中位・口腔内清潔を確認し、冷水 3 mL を舌前方または口腔底に静かに滴下します。
  • むせ・湿性嗄声・呼吸努力の変化を観察し、必要時 SpO2 を併記します(例:96→94%)。
  • 陰性の場合のみ 5~10 mL へ段階的に増量し、それでも安全なら「少量水の安全性は概ね保たれている」と解釈します。
  • 点数やスコアリングの詳細(1~5 点)や中止基準は、改訂水飲みテスト/水飲みテストのやり方 で図解しておくとチーム共有しやすくなります。

WST(30 mL/3oz/100 mL 系)のポイント

  • 事前に「途中でつらくなったら止めてよい」と説明し、連続嚥下が成立しそうか大まかに見通しを立てます。
  • 30 mL or 3oz を「できるだけ速く一気に飲んでください」と指示し、連続嚥下の可否・むせ・中断・湿性嗄声を観察します。
  • 飲み切れない、むせる、湿性嗄声が出る場合は陽性として中止し、食形態調整や VE/VF への移行を検討します。
  • 高リスク症例では「WST を無理に行わない」という選択肢も含めて、MWST・実食観察・画像評価の組み合わせで判断します。

記録と解釈(テンプレ)

<記録例>「座位。MWST 3 mL:むせなし・湿性嗄声なし。SpO2 96→95%。5 mL も安全。WST 30 mL:連続嚥下は可能だが、終了後に軽度湿性嗄声。食形態は現在のまま継続とし、VE で精査予定。」

  • MWST は「少量水の安全性」、WST は「連続嚥下と持久性」を主にみていることを明示し、それぞれの結果を分けて記述します。
  • 陰性であっても silent aspiration の可能性 をゼロとはせず、咳反射・喀痰性状・胸部画像・肺炎既往などとセットで解釈します。

よくある質問(FAQ)

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どちらを先にやる?

病棟での初期スクリーニングは、まず MWST(3 mL) から実施し、少量で明らかな問題がなければ必要に応じて WST を検討する流れが安全です。WST 単独をいきなり行うのは、高リスク症例では避けた方が無難です。

SpO2 の低下を判定基準にしてよい?

SpO2 は目安として併用可能ですが、体動によるアーチファクト の影響を強く受けます。主要な判定は、むせ・湿性嗄声・連続嚥下可否など臨床所見に置き、SpO2 は「参考指標」として記録する位置づけが現実的です。

RSST や EAT-10 との使い分けは?

RSST は嚥下反射の惹起性を、EAT-10 は自覚的な嚥下困難感を主に評価するツールです。MWST・WST と完全に置き換えられるものではなく、「少量水の安全性」「連続嚥下」「自覚症状」 を組み合わせて全体像をつかむイメージで運用します。

参考文献

  1. Oguchi N, et al. The modified water swallowing test score is the best predictor of aspiration pneumonia in acute stroke patients. Medicine (Baltimore). 2021. Full textPMC
  2. Suiter DM, et al. Clinical utility of the 3-ounce water swallow test. Dysphagia. 2008. PubMed
  3. Kuuskoski J, et al. The Water Swallow Test and EAT-10 as Screening Tools. Laryngoscope. 2024. Publisher
  4. Lin Y, et al. Modified volume-viscosity swallow test: diagnostic value. Front Neurol. 2022. PMC
  5. Persson E, et al. Repetitive Saliva Swallowing Test: Norms and Clinical Relevance. Dysphagia. 2018. PMC
  6. Donovan NJ, et al. Dysphagia Screening: State of the Art. Stroke. 2013. AHA

おわりに

ベッドサイドでの嚥下スクリーニングは、RSST などの簡便なチェック → MWST 3 mL での少量水評価 → 必要に応じた WST や VE/VF → 食形態・一口量の調整 → 再評価というサイクルで回していくことが、安全と栄養・水分の両立につながります。MWST と WST の役割をチームで共有し、「どこまでベッドサイドで見るか/どこから画像評価に任せるか」をあらかじめすり合わせておきましょう。

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著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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