この記事の目的と前提
本記事は、誤嚥性肺炎を予防するために病棟や在宅で毎日まわせる 実務バンドル を提示します。単発介入では抜け漏れが起こるため、体位・口腔・早期離床・呼吸訓練・水分栄養 をまとめてチェックし、所見と結果を 日内・日跨ぎ で比較する設計にします。各要素は小さく素早く、チームで同時に進めるのがコツです。
評価や安全判断は施設の運用に従い、急変時は医師へ速やかに共有します。スクリーニングは サイレント誤嚥プロトコル と連動し、RSST・MWST・WST の結果を 体位・覚醒度・口腔所見 とセットで解釈します。
予防は“バンドル”で回す:7 要素の全体像
誤嚥は 覚醒・姿勢・唾液性状・咳嗽力 の影響を強く受けます。したがって予防は、①体位最適化(摂食・安静・睡眠)②口腔ケアの質とタイミング③早期離床と日中活動(+ 2–3 Ex / 日)④呼吸再調整と咳嗽力訓練⑤水分・栄養の最適化⑥服薬影響の点検⑦気道クリアランス習慣化――の 7 要素 を毎日チェックします。
各要素は 小さな成功を積み上げる のが現実的です。例:ヘッドアップ 30–45°/軽度前屈、口腔ケア前後で湿声比較、午後の座位延長 10 分、呼吸数・ SpO2 の再評価……など。所見と再評価を 1 行で残すと多職種と共有しやすくなります。
主要 5 コンポーネント:実践ポイント
体位最適化: 摂食は軽度前屈、安静時はヘッドアップ 30–45°、睡眠時は上体挙上を基本に胸郭の自由度を確保します。口腔ケア: 看護・歯科衛生とタイミングを合わせ、舌苔・乾燥・義歯適合を観察し、ケア前後で湿声や咳の変化を比較します。
早期離床・活動: 日中活動を少しずつ増やし、週目標は 23 Ex / 週 を参考に設計。呼吸訓練: 呼吸再調整・胸郭可動・咳嗽力強化を短時間で反復。水分栄養: 脱水は唾液粘稠化→嚥下負担増へ直結。在宅向け栄養スクリーニング も併用します。
毎日まわす予防バンドル・チェックリスト
下表は成人高齢者の予防実装を想定したチェックリストです。所見 → 介入 → 再評価 を 1 行で残し、日内で 2 回以上の再評価を推奨します。該当しない項目は “ / ” でスキップし、連続未達が続く項目に的を絞って改善します。
要素 | 目的 | 日次チェック項目 | PT 介入例 | 再評価の目安 |
---|---|---|---|---|
体位 | 誤嚥リスクを下げる姿勢の確保 | 摂食時 前屈/安静時 HU 30–45°/睡眠時 上体挙上 | 座位安定化・体幹支持・ポジショニング調整 | 湿声・呼吸数・ SpO2 の改善 |
口腔ケア | 誤嚥内容物の細菌負荷を下げる | 舌苔/乾燥/義歯適合/ケア前後の声質比較 | ケア前の体位作り・ケア後の声質再確認 | 湿声↓・咳発現↓・摂食時むせ↓ |
早期離床・活動 | 覚醒度と呼吸機能の底上げ | 日中座位・立位・歩行の合計時間/午後傾眠の是正 | 座位延長 10 分・立位 5 分・歩行 5 分などの微増 | 昼夜逆転改善・日中覚醒↑・夜間むせ↓ |
呼吸訓練 | 換気・排痰・咳嗽力の改善 | 呼吸数/努力感/咳の質/胸郭可動 | 呼吸再調整・胸郭モビライゼーション・咳嗽訓練 | 呼吸数↓・痰量/粘稠度改善・声質クリア |
水分・栄養 | 唾液性状と筋力維持 | 摂取量/水分タイミング/食形態・蛋白量 | 水分計画・栄養職との同調・間食/間飲の提案 | 口腔乾燥↓・RSST 改善の傾向 |
安全・中止基準(要点)
以下に該当したら 即時中止 し、体位を整えて休息 → 再評価。必要に応じて医師へ連絡します。基準は施設運用に従ってください。①強い呼吸苦/チアノーゼ②著明な SpO2 低下③持続する湿性嗄声・咳発作④意識レベル低下・協力困難⑤本人・家族の不安増悪。
スクリーニングや運動負荷中は、mMRC・Borg で主観的負担を併記します。6 MWT のような歩行負荷は急性期の増悪時に無理をせず、覚醒度・呼吸安定を優先します。
家族説明テンプレ(200 字)
「誤嚥性肺炎は、むせが目立たない サイレント誤嚥 が背景にあることが多いです。予防は 1 つではなく、姿勢・口腔・日中の活動・呼吸・水分栄養 を毎日少しずつ整える “バンドル” で行います。食事は軽く前かがみ、日中は座る時間を増やし、口の中をきれいに保ちます。咳や声の濡れ、息切れの変化に気づいたら早めにスタッフへお知らせください。」
記録・共有の型(1 行様式)
「所見 → 判断 → 介入 → 再評価」の順で 1 行記録。例:
「湿声↑・口腔乾燥・RSST 低調 → 誤嚥リスク高 → 体位前屈+ケア連携+咳嗽訓練 → 湿声↓・ SpO2 95 %」。
夕回り前に 30 秒で口頭共有し、看護のケア時間と PT の再評価時間を合わせます。