体位ドレナージ(体位排痰法)とは?
体位ドレナージ(体位排痰法、postural drainage)は、重力を利用して気道分泌物を末梢から中枢側へ移動させ、喀出しやすくする気道クリアランスの方法です。ポイントは、教科書どおりの頭低位を再現することではなく、分泌物が貯留している部位と患者の耐容性から体位を選び、ハフィング(FET)や咳までつなげることです。
この記事では、適応の確認、禁忌・注意点、体位の選び方、実施中の観察、修正・中止の判断、記録方法までを、ベッドサイドで使いやすい順番で整理します。PEPやACBTなど、他の排痰手技との詳しい比較は別記事で扱います。
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まず確認する5ステップ|体位だけで終わらせない
体位ドレナージは、患者を特定の姿勢にするだけの手技ではありません。適応を確認する → 対象区域と体位を選ぶ → 反応を見る → FET・咳で排出する → 再評価するまでを一続きで考えると、実施目的と中止・変更の判断が明確になります。
- 適応を確認:分泌物貯留があり、自力だけでは十分に排出できないか確認する
- 体位を選択:画像・聴診などから対象区域を考え、患者が耐えられる体位を選ぶ
- 反応を確認:呼吸状態と、分泌物が中枢側へ移動する反応を見る
- 排出につなげる:ハフィング(FET)や有効な咳で分泌物を排出する
- 再評価:効果と負担を確認し、継続・体位変更・別手技・中止を判断する

適応|疾患名より「分泌物と排出能力」で判断する
体位ドレナージを検討する中心的な条件は、気道分泌物が貯留しており、自力だけでは十分に排出できないことです。「COPDだから」「術後だから」「長期臥床だから」という疾患名や状態だけで、一律に行うものではありません。
- 喀痰があり、自力の咳だけでは十分に排出できない
- 画像や聴診などから分泌物の局在が推定できる
- 体位によって分泌物の移動が期待できる
- FETや咳につなげられる、または必要時の吸引など排出手段を確保できる
気管支拡張症など、継続的な気道クリアランスが必要となる患者では、体位を利用した排痰を他の気道クリアランス手技と組み合わせる選択肢があります。
一方、分泌物貯留が明確でない場合は、「無気肺がある」「術後である」という理由だけでルーチンに追加するのではなく、まず分泌物の有無と排出能力を評価します。
禁忌・注意|頭低位が使えない場合は修正版を考える
体位ドレナージでは、体位そのものへの耐容性と、特に頭低位によるリスクを確認します。頭低位が適さない、または耐えられないからといって、すべての体位ドレナージができないわけではありません。頭低位を使用しない修正版の体位を検討できる場合があります。
| 確認項目 | 注意する状況 | 対応の考え方 |
|---|---|---|
| 呼吸・循環 | 呼吸状態や循環動態が不安定、体位変換で明らかに悪化する | 全身状態の安定化を優先し、実施可否を再検討します。 |
| 頭低位 | 頭低位を避ける必要がある、または頭低位で呼吸困難や不快感が増える | 頭低位を使用しない修正版へ変更します。 |
| 逆流・悪心 | 胃食道逆流症状、悪心、嘔吐リスクがある | 頭低位を避けます。体位で症状が増悪する場合は、座位で行える他の気道クリアランス手技も検討します。 |
| 疼痛・整形外科 | 術後、骨折、脊椎・関節の問題などで目的体位を安全に保持できない | 疼痛や術式上の制限を確認し、無理な体位を避けます。 |
| 喀血 | 喀血が持続している、または増加している | 原因と全身状態を確認し、気道クリアランス方法を再評価します。 |
中止・修正の判断|数値1つではなく基礎値と症状を見る
体位ドレナージ中に呼吸・循環状態が悪化した場合は、その体位を続けることを優先しません。患者ごとの基礎値、設定されている目標酸素化、症状の変化を合わせて判断します。
| 項目 | 確認する変化 | 対応 |
|---|---|---|
| 酸素化 | SpO₂が基礎値や個別の目標範囲から明らかに低下する、体位を戻しても回復しにくい | 体位を戻し、酸素化と全身状態を再評価します。 |
| 呼吸 | 呼吸困難の増悪、呼吸数増加、会話困難、呼吸仕事量の増加 | 中断または体位を修正し、楽な姿勢へ戻します。 |
| 循環・自覚症状 | 胸痛、動悸、めまい、冷汗、失神前症状など | 中止して全身状態を確認します。 |
| 消化器 | 悪心、逆流感、嘔吐 | 中止または体位を変更し、頭低位は避けます。 |
| 疲労 | 咳や呼吸による疲労が強まり、有効な排痰を続けられない | 休息または終了し、次回の方法や実施量を調整します。 |
ポイント:SpO₂の絶対値だけで全患者共通の中止ラインを設定するのではなく、基礎疾患、平常値、酸素療法、個別に設定された目標範囲、症状の変化を含めて判断します。
肺葉・区域別ポジショニング|固定ポーズではなく対象区域から考える
体位ドレナージでは、画像所見や聴診などから分泌物が貯留している区域を推定し、対象となる気管支肺区域から中枢側へ分泌物が移動しやすい体位を選びます。
CTなどの画像所見が利用できる場合は、対象となる気管支肺区域を確認したうえで体位を選ぶと、単に「右肺だから左側臥位」と決めるより選択根拠が明確になります。
| 対象 | 基本的な考え方 | 調整ポイント |
|---|---|---|
| 上葉 | 座位、セミファウラー、仰臥位などから対象区域に合わせて調整 | 上葉内でも肺尖区・前区・後区で適する方向は異なります。 |
| 右中葉 | 左側臥位からやや後方へ回旋した体位を検討 | 枕で体幹を支え、呼吸や疼痛を悪化させない範囲で調整します。 |
| 左舌区 | 右側臥位からやや後方へ回旋した体位を検討 | 頭低位を使用できない場合は、耐容性をみながら体位を修正します。 |
| 下葉 | 側臥位、腹臥位などから対象区域に合わせて選択 | 上区・前肺底区・外側肺底区・後肺底区など、区域によって体位を調整します。 |
この表は「この肺葉なら必ずこの体位」という固定的な採用表ではありません。対象区域、患者の可動性、疼痛、呼吸困難、逆流などを合わせて調整してください。
体位ドレナージの手順
実施のポイントは、体位を作ったあとに分泌物の移動を評価し、有効な呼気と咳までつなげることです。
0)実施前評価
- 分泌物の有無・量・性状
- 画像・聴診などから推定される貯留部位
- 自力での喀出能力
- SpO₂、呼吸数、脈拍などの基礎値
- 呼吸困難、疼痛、悪心、逆流症状
- 目的体位を安全に保持できるか
1)対象区域に合わせて体位を作る
目的区域を決めたら、枕やクッションを使用して体位を安定させます。患者が力を抜いて呼吸できることを優先し、呼吸困難や疼痛が増える場合は、角度を浅くする、頭低位を外す、別の気道クリアランス手技へ変更するなどの調整を行います。
2)分泌物が移動する反応を確認する
すぐに体位を変更するのではなく、患者が耐えられる範囲で呼吸を続けながら反応を観察します。咳が誘発される、分泌物音が中枢側へ変化する、喀痰が上がってくるなどの変化があれば、次の排出操作へつなげます。
ただし、「何分待てば必ず分泌物が移動する」という固定時間では判断しません。分泌物量や粘稠度、患者の疲労、体位への耐容性によって調整します。
3)ハフィング(FET)・咳へつなげる
分泌物が中枢側へ移動したら、ハフィング(forced expiration technique:FET)や有効な咳につなげます。体位ドレナージだけで終わらせず、移動した分泌物を実際に排出できるかまで確認します。
自力での排出が難しい患者では、必要に応じて吸引など別の排痰手段を検討します。
4)再評価して継続・変更・終了を決める
1つの体位が終わったら、分泌物量、呼吸状態、疲労、SpO₂、呼吸困難などを再評価します。反応が乏しければ、単純に体位数を増やすのではなく、対象区域、体位、他の気道クリアランス手技との組み合わせを再検討します。
実施時間は患者ごとに調整します。気管支拡張症に対するBTSガイドラインでは、気道クリアランスの1セッションについて、一般に最低10分から最大30分程度を目安とし、その後も明瞭なハフィングや咳が得られるまで、または疲労が始まるまで継続する考え方が示されています。ただし、これはすべての疾患・すべての患者に一律適用する時間ではありません。
うまく排痰できないときの3つの確認ポイント
体位ドレナージで痰が出ない場合は、すぐに「体位が間違っている」と判断するのではなく、対象区域・体位への耐容性・排出の出口を確認します。
- 対象区域が合っているか:画像、聴診、分泌物の変化を再確認する
- 体位を耐えられているか:呼吸困難や疼痛が増える体位は修正する
- 出口があるか:FET、咳、必要時の吸引などへつなげられているか確認する
よくあるミスと修正
| よくあるミス | 問題点 | 修正ポイント |
|---|---|---|
| 頭低位を必須と考える | 逆流や呼吸困難などで継続できないことがあります。 | 頭低位を使用しない修正版の体位を検討します。 |
| 肺葉名だけで体位を決める | 同じ肺葉でも区域によって適する体位が異なります。 | 可能なら画像・聴診などから対象区域まで確認します。 |
| 体位だけで終了する | 中枢側へ移動した分泌物を排出できずに残ることがあります。 | FETや有効な咳までつなげます。 |
| 痰が出ないので体位を次々変える | 対象区域が不明確なまま体位だけ増えることがあります。 | 分泌物の部位と反応を再評価してから変更します。 |
| 数値だけを見て続行する | 呼吸困難、胸痛、めまい、悪心などの悪化を見逃す可能性があります。 | 基礎値と症状の変化を合わせて中止・修正を判断します。 |
記録方法|体位だけでなく「根拠と反応」を残す
体位ドレナージの記録では、実施した姿勢だけでなく、なぜその体位を選び、実施後に何が変わったかを残すと、次回の再評価や多職種での共有につながります。
- 目的:分泌物移動・喀出促進など
- 対象:画像・聴診などから推定した区域
- 体位:側臥位、腹臥位、セミファウラーなど
- 時間:各体位の保持時間と合計時間
- 前後変化:SpO₂、呼吸数、脈拍、呼吸困難など
- 分泌物:量、色、粘稠度など
- 排出方法:FET、咳、吸引など
- 次回:継続する体位、変更点、注意点
記録例
目的:分泌物排出。右中葉領域の分泌物貯留を想定し、左側臥位から軽度後方回旋位で実施。呼吸状態の悪化なし。FET後に粘稠痰を喀出。終了後SpO₂は開始前レベルを維持。次回も同体位を候補とし、分泌物量と呼吸状態を再評価する。
体位ドレナージ記録シートPDF
体位、実施前後の反応、排痰方法、次回の調整点を1枚で記録できるシートです。ベッドサイドで実施内容と再評価項目をそろえたい場合に使用してください。
印刷前に内容を確認したい場合は、下のプレビューを開いてください。
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体位ドレナージのよくある質問
体位や実施時間について迷いやすい点をまとめます。
Q1. 体位ドレナージは何分行いますか?
全患者共通の固定時間ではなく、分泌物量、喀出状況、疲労、体位への耐容性によって調整します。気管支拡張症の気道クリアランスについてBTSガイドラインでは、最低10分から最大30分程度を目安とし、明瞭なハフィングまたは咳が得られるまで、あるいは疲労が始まるまで行う考え方が示されています。
Q2. 頭低位は必ず必要ですか?
必須ではありません。頭低位が適さない、または耐容困難な場合は、頭低位を使用しない修正版の体位を検討できます。逆流症状などが増悪する場合は、座位で行える別の気道クリアランス手技も検討します。
Q3. 体位を変えても痰が出ない場合はどうしますか?
体位を増やす前に、分泌物が貯留している区域が合っているか、体位によって呼吸が崩れていないか、FETや咳など排出の出口が確保されているかを確認します。
Q4. 食後でも体位ドレナージはできますか?
悪心や胃食道逆流が懸念される場合は慎重に判断します。特に頭低位は避け、体位によって悪心・逆流感などが出現する場合は、体位を変更または中止します。
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参考文献
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- Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58(12):2187-2193. doi:10.4187/respcare.02925. DOI / PubMed
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

