排痰の叩打法(タッピング)|やり方・叩く場所・振動法との違い

臨床手技・プロトコル
記事内に広告が含まれています。

排痰の叩打法は「強く叩く」のではなく、軽く・狙って・出口につなげます

排痰目的の叩打法( percussion /胸部軽打法/タッピング)は、手をカップ状にして胸壁へリズミカルな刺激を加え、気道分泌物の移動を補助する徒手的な気道クリアランス手技です。ポイントは、強く叩くことではありません。痰の貯留が疑われる部位に対応する胸壁を選び、骨突出部や疼痛部位を避け、患者が苦痛なく受けられる刺激で行うことが基本です。

また、叩打法だけで痰を「出し切る」わけではありません。分泌物が中枢側へ移動したら、ハフィングや咳などの出口手技へつなげます。本記事では成人のベッドサイドを想定し、叩打法の手の形、叩く場所、避ける場所、振動法との違い、実施を控える場面を整理します。

排痰前の評価や手技全体の選び方は、排痰プロトコルで整理しています。本記事では叩打法そのものに絞って解説します。

叩打法のやり方|手の形・叩く場所・強さを先に確認します

叩打法は、①手をカップ状にする、②痰の貯留が疑われる肺区域に対応する胸壁を選ぶ、③骨や疼痛部位を避けて軽くリズミカルに叩く、の3点を押さえます。平手で強く打ちつける手技ではありません。

排痰の叩打法の要点。カップ状の手、背部・側胸部の実施部位、鎖骨や胸骨など避ける場所、振動法との違いを整理した図版
図:排痰の叩打法の要点。実際に叩く部位は、分泌物の貯留が疑われる肺区域に応じて選びます。

手の形|平手ではなく、浅いカップ状にします

指をそろえ、手掌を軽く丸めてカップ状にします。手関節や上肢に過度な力を入れず、胸壁へリズミカルに刺激を加えます。目的は大きな衝撃を与えることではなく、患者が許容できる範囲で機械的刺激を加えることです。

「パチン」と皮膚を平手打ちするような叩き方や、患者が身構えるほど強い刺激は適切ではありません。痛み、防御性収縮、息止めが起こる場合は刺激量を下げるか、別の手技を検討します。

叩く場所|痰の貯留が疑われる肺区域に対応する胸壁を選びます

叩打法は、胸郭全体を漫然と叩くのではなく、聴診、呼吸音、画像情報、痰の絡み方、体位などから分泌物の貯留が疑われる区域を考え、その区域に対応する胸壁上へ行います。成人では背部や側胸部が対象になることがありますが、固定された「叩く場所」があるわけではありません。

叩打法で確認したい部位と刺激の考え方
確認項目 基本的な考え方
手の形 指をそろえ、手掌を浅いカップ状にする
叩く場所 分泌物の貯留が疑われる肺区域に対応する胸壁上の軟部組織
避ける場所 鎖骨、胸骨、脊柱などの骨突出部、疼痛部位、皮膚損傷部位、創部周囲
強さ 疼痛や防御性収縮を起こさず、患者が許容できる範囲へ調整する
実施後 分泌物が移動したら、ハフィングや咳などの出口手技へつなげる

強さ・時間|固定値ではなく、患者の反応で調整します

叩打法の強さや実施時間は、年齢、胸郭の状態、疼痛、骨脆弱性、分泌物の量・性状、患者の耐容性などによって変わります。そのため「何秒叩けばよい」「何分行えばよい」という数字だけで決めるのではなく、短く反応を確認しながら調整します。

痰が出ないから強くする、長く続けるという考え方は避けます。分泌物が動かない場合は、刺激量より先に部位、体位、呼吸パターン、出口手技を見直します。

叩打法と振動法の違い|呼吸との合わせ方が異なります

叩打法と振動法は、どちらも徒手的な気道クリアランス手技ですが、胸壁へ加える刺激の方法が異なります。特に押さえたいのは、振動法は呼気相に合わせて行うのに対し、叩打法を「呼気だけに合わせる手技」と考える必要はないという点です。

叩打法と振動法の違い
比較 叩打法( percussion ) 振動法( vibration )
手の使い方 手をカップ状にして、胸壁へリズミカルに軽い打撃を加える 手掌を胸壁へ接触させたまま、細かな振動を加える
呼吸との関係 自然呼吸を妨げないように行い、呼気相だけへ限定しない 基本的に呼気相へ合わせて振動を加える
共通する目的 分泌物の移動を補助し、最終的に咳・ハフィング・吸引などの排出手段へつなげる 分泌物の移動を補助し、最終的に咳・ハフィング・吸引などの排出手段へつなげる

叩打法と振動法のどちらか一方が常に優れているわけではありません。患者の病態、痰の状態、疼痛、体位の許容性、本人の希望や反応を踏まえて選択します。

叩打法を使うかは「疾患名」より分泌物と排出能力で判断します

叩打法は、肺炎やCOPDなどの診断名だけを理由にルーチンで行う手技ではありません。検討しやすいのは、気道分泌物の貯留があり、咳だけでは十分に移動・喀出できない場面です。

AARCのガイドラインでは、合併症のない肺炎に対する胸部理学療法や、COPDへの気道クリアランス手技をルーチンで行うことは推奨されていません。一方、症候性の分泌物貯留があり自己排痰が不十分な場合には、患者の耐容性や実際の反応を見ながら気道クリアランス手技を検討します。

叩打法を検討するときの判断整理
状況 考え方
検討しやすい 分泌物貯留が疑われ、咳だけでは十分に移動・喀出できない
優先度が低い 咳で分泌物を十分に喀出でき、追加の徒手手技を必要としない
別手技も検討 叩打法への不快感や疼痛がある、または他の気道クリアランス手技の方が適している

気管支拡張症では気道クリアランス手技そのものは重要な治療戦略ですが、どの手技を選ぶかは個別化が必要です。「排痰=叩打法」と固定せず、その患者が自分で行える方法も含めて選択します。

行わない・慎重に判断する場面|骨・出血・皮膚・疼痛を確認します

叩打法を含む胸部理学療法では、骨折や出血、疼痛などのリスクを考慮します。Merck Manualでは、出血傾向、治療量の抗凝固療法、最近の喀血、肋骨・椎体骨折、骨粗鬆症、体位や徒手操作による不快感などを相対的禁忌として挙げています。

叩打法では胸壁へ直接刺激を加えるため、さらに皮膚損傷や創部、最近の胸部・背部外傷がある部位へ漫然と刺激を加えないことが重要です。

叩打法の開始前に確認したい主な注意点
確認すること 対応
肋骨骨折・強い骨脆弱性 叩打法を安易に実施せず、必要性と代替手段を再検討する
喀血・出血傾向 出血リスクを確認し、実施の可否を医師・チームと共有する
胸部痛・強い圧痛 疼痛部位への刺激を避け、原因評価を優先する
皮膚損傷・創部 直接叩かず、手技や対象部位を変更する
体位や手技への不耐容 無理に継続せず、別の排痰方法を検討する

中止・変更は固定した数値ではなく「介入で悪化したか」を見ます

叩打法固有の中止基準として、すべての患者へ一律に適用できるSpO₂や心拍数の閾値が定められているわけではありません。実際には、基礎値、疾患、医師指示、施設基準を踏まえたうえで、介入によって状態が悪化していないかを確認します。

  • 疼痛:胸部痛、肋骨痛、防御性収縮が出現・増悪する
  • 呼吸:呼吸困難、喘鳴、息止め、呼吸パターンの悪化がみられる
  • 循環・全身:めまい、冷汗、顔色不良など明らかな不耐容がみられる
  • 出血:新たな血痰・喀血がみられる
  • 皮膚:発赤、皮下出血、皮膚損傷が生じる
  • モニタリング:SpO₂やバイタルサインが患者ごとの許容範囲を外れ、休息しても回復しない

これらがみられた場合は、刺激量を増やさず中止または変更し、体位、病態、分泌物、咳嗽能力を再評価します。

叩いても痰が出ないときは、強さより「部位・体位・出口」を見直します

叩打法を行っても痰が出ない場合、すぐに強く叩く必要はありません。まず、その分泌物が本当に徒手刺激で移動しやすい状態なのか、狙っている部位や体位が合っているかを確認します。

  1. 部位を見直す:聴診や画像、痰の絡み方から、分泌物が疑われる区域を再確認する。
  2. 体位を見直す:重力や換気を利用しやすい姿勢へ変更できないか検討する。
  3. 出口を作る:痰が中枢側へ動いたら、ハフィングや咳へつなげる。
  4. 排出できない場合:咳嗽能力や吸引の必要性を含め、別の排痰手段を検討する。

ハフィングの肺気量による使い分けや実施方法は、ACBT(ハフィング)の実践手順で詳しく整理しています。

ポイント:「痰が出ない=刺激不足」とは限りません。叩打法は分泌物を動かす補助手段であり、最後はハフィング・咳・吸引などの排出手段まで設計します。

よくある間違い|「平手・全胸郭・強く・出口なし」を避けます

排痰の叩打法で起こりやすい間違いと修正
よくある間違い 修正ポイント
平手で強く叩く 手掌をカップ状にし、疼痛を起こさない刺激へ調整する
胸郭全体を漫然と叩く 分泌物の貯留が疑われる区域と胸壁上の位置を対応させる
骨突出部まで叩く 鎖骨、胸骨、脊柱などの骨突出部を避ける
痛くても続ける 疼痛や防御性収縮は刺激過多や不適応のサインとして再評価する
叩いて終わる 分泌物が移動したらハフィング、咳、必要時は吸引へつなげる

よくある質問(FAQ)

Q1. 叩打法は強く叩くほど痰が出やすくなりますか?

いいえ。必要以上に強い刺激は疼痛、防御性収縮、皮膚トラブルなどにつながります。患者が苦痛なく許容できる範囲に調整し、痰が動かなければ強さより部位・体位・出口手技を見直します。

Q2. 叩打法も呼気に合わせて行うのですか?

振動法は呼気相に合わせて細かな振動を加えるのが基本です。一方、叩打法は呼気相だけに限定する手技ではなく、自然な呼吸を妨げないようにリズミカルに行います。

Q3. 咳で痰を出せる患者にも叩打法は必要ですか?

必ずしも必要ではありません。咳だけで十分に分泌物を移動・喀出できる場合は、叩打法をルーチンで追加する必要性は低くなります。

Q4. 骨粗鬆症や抗凝固療法中でも実施できますか?

骨粗鬆症や出血傾向、治療量の抗凝固療法は胸部理学療法のリスク評価が必要な条件です。必要性、骨折・出血リスク、代替手段を確認し、安易に通常どおりの叩打法を行わないようにします。

次の一手


参考文献

  1. Sasaki M. 呼吸理学療法におけるコンディショニング-排痰法-. 秋田大学大学院医学系研究科保健学専攻紀要. 2019;27(1):89-104. DOI: 10.20569/00005104
  2. Strickland SL, Rubin BK, Drescher GS, et al. AARC clinical practice guideline: effectiveness of nonpharmacologic airway clearance therapies in hospitalized patients. Respir Care. 2013;58(12):2187-2193. DOI: 10.4187/respcare.02925. PubMed: PMID:24222709
  3. Herrero-Cortina B, Lee AL, Oliveira A, et al. European Respiratory Society statement on airway clearance techniques in adults with bronchiectasis. Eur Respir J. 2023;62(1):2202053. DOI: 10.1183/13993003.02053-2022. PubMed: PMID:37142337
  4. Chalmers JD, Haworth CS, Flume P, et al. European Respiratory Society clinical practice guideline for the management of adult bronchiectasis. Eur Respir J. 2025;66(6):2501126. DOI: 10.1183/13993003.01126-2025. PubMed: PMID:41016738
  5. Merck Manual Professional Edition. Chest Physiotherapy. Reviewed July 2026. Merck Manual Professional Edition

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

運営者プロフィール編集・引用ポリシーお問い合わせ