腱反射は何のために行う?(反射検査の目的と全体像)
腱反射(深部腱反射)は、「末梢神経 → 脊髄 → 中枢」を結ぶ反射弓がどの程度保たれているかを簡便にみる検査です。すなわち、腱反射は何のために行い、何がわかるかという問いに対して、「 UMN / LMN 鑑別」「病変の広がりや重症度の推定」に答える評価といえます。
本稿では、腱反射のやり方(実施環境・打鍵のコツ)から、深部腱反射の種類、病的反射、 UMN / LMN 鑑別、反射検査の評価用紙・書き方(記録テンプレ)までを順に整理します。院内標準化や学生・新人教育で、そのまま共有しやすい構成を意識しています。
腱反射の生理と UMN / LMN の基礎
腱反射は「受容器 → 求心路 → 脊髄中枢 → 遠心路 → 効果器」で構成される反射弓の働きによって生じます。ふだんは大脳皮質などからの下行性抑制により、過度な反応が出ないように制御されていますが、この抑制が外れると反射は亢進し、クローヌスや病的反射が出やすくなります。
UMN 障害では筋緊張増加(痙縮)・ DTR 亢進・病的反射陽性が典型で、 LMN 障害では筋萎縮・線維束攣縮・ DTR 低下〜消失が主体となり、髄節・末梢神経の支配と一致しやすい点が特徴です。腱反射単独ではなく、筋力・感覚・歩行などの評価と統合してはじめて臨床的な意味を持つことを押さえておきます。
腱反射のやり方(実施環境・姿勢・打鍵の総則)
腱反射のやり方で最重要なのは「脱力位をつくること」です。関節と腱のテンションを抜き、重力に任せてぶら下がる姿勢を確保してから、反射槌の接触面を腱に対しておおむね 45° で軽く弾きます。検査の目的と「痛みは最小限で、すぐ終わる」ことを事前に説明し、不安を和らげてから開始します。
比較は「左右 → 近位遠位 → 上肢下肢」の一定の順番で行い、最初は弱めの打鍵から始めて、必要に応じて 1 段階だけ強度を上げます。疼痛・皮膚障害・術後直後では部位や強度を調整し、動画記録を行う場合は同意を得たうえで、撮影範囲と保存先をチーム内で統一しておきます。
深部腱反射の種類とやり方(上肢)
二頭筋反射:肘関節軽度屈曲位で前腕を支え、肘窩で二頭筋腱を触知して腱直上を軽打します(期待反応=肘屈曲)。腱を指で軽く張り、その上から打つと当てやすくなります。
腕橈骨筋反射:前腕中間位とし、橈骨遠位 1/3 の背側を軽打します(肘屈曲・前腕回外)。橈骨骨膜を強打しないように、反射槌の当てどころを意識します。
三頭筋反射:肩 90° 外転・肘屈曲位で上腕を支え、肘頭上の腱を打鍵します(肘伸展)。肩甲帯がすくんでいると脱力しづらいため、肩を落としてもらってから実施します。
反応が出にくいときは、支え方を変える・前腕をより脱力させる・注意をほかに向けるなどの工夫を行います。痙縮や共同運動が強い場合には、体幹や肩甲帯のポジショニングを見直すだけで誘発しやすくなることも多いです。
深部腱反射の種類とやり方(下肢)
膝蓋腱反射:端座位で下腿をぶら下げ、膝蓋骨直下の膝蓋腱中央を軽打します(膝伸展)。仰臥位では下腿の下にロールを入れて膝屈曲 20〜30° を保ち、大腿四頭筋を十分に脱力させます。
アキレス腱反射:腹臥位または短坐位で足部を軽く背屈位に保持し、アキレス腱を打鍵します(底屈)。足趾を強く握り込まないよう注意し、疼痛を避ける強さで素早く打鍵します。特に高齢者や糖尿病患者では、皮膚障害や痛覚低下の有無も同時に観察します。
Jendrassik 操作と反射誘発のコツ
下肢 DTR で反応が乏しいときは、両手を組み、歯を食いしばらず素早く引き合う Jendrassik 操作を併用します。上肢では軽い握り拳や足踏みなど、別課題に注意を向けることで、反応が誘発されやすくなります。遠隔筋の収縮による脊髄興奮性の変化と、注意の分散の両面から作用すると考えられています。
同一点を続けて連打すると habituation が起き、反応がかえって小さく見えることがあります。打鍵の間隔を空け、角度・強度・接触部位を少しずつ変えながら判定します。過緊張や恐怖心を減らす声かけや、呼気に合わせて打鍵することも、実務上は大きなコツになります。
深部腱反射スコア 0〜4+ の意味(一覧表)
スマホでは表が横に見切れるため、必要に応じて左右にスクロールして確認してください。
| スコア | 所見 | 臨床的意味 | 記録例 |
|---|---|---|---|
| 0 | 反応なし | LMN 障害や末梢神経・筋疾患を示唆 | KJ 0/4、 AJ 0/4 |
| 1+ | 減弱 | 正常差〜軽度低下。左右差と再現性で判断 | KJ 1+/4 |
| 2+ | 正常 | もっとも多いパターン。左右差小・再現性あり | Biceps 2+/4 |
| 3+ | 亢進 | UMN 徴候を示唆。ほかの徴候と併せ解釈 | BR 3+/4 |
| 4+ | 著明亢進(クローヌス) | UMN 徴候が強い可能性。精査を検討 | AJ 4+/4( clonus ) |
略語凡例: KJ =膝蓋腱、 AJ =アキレス腱、 BR =腕橈骨、 Biceps / Triceps =上腕二頭筋/三頭筋。施設ごとに表記が異なる場合は、略語・スコア表記を院内で統一しておくと、評価用紙を共有するときにも誤解が生じにくくなります。
病的反射の評価と意義
Babinski (足底外側〜母趾基部への皮膚刺激で母趾背屈・扇状外転で陽性)、 Chaddock (外果周囲刺激)、 Oppenheim (脛骨稜擦過)、 Gordon (腓腹筋把握)、 Hoffmann (中指末節弾打で母指屈曲)、 Trömner (中指掌側叩打で屈曲)などを、対象や状況に応じて使い分けます。
皮膚刺激が強すぎると、逃避反応や疼痛反射による偽陽性が生じます。必ず左右差と再現性を確認し、 DTR ・筋緊張・運動障害など他の所見と組み合わせて「どの経路が侵されていそうか」を推定します。病的反射の有無そのものよりも、所見の組み合わせで重症度や広がりを評価する姿勢が重要です。
UMN / LMN 鑑別の考え方(パターン表)
スマホでは表が横に見切れるため、必要に応じて左右にスクロールして確認してください。
| 所見 | UMN | LMN | 注意 |
|---|---|---|---|
| 筋緊張 | 増加(痙縮) | 低下 | 疼痛・姿勢で変動 |
| DTR | 亢進( 3+ 〜 4+ ) | 減弱/消失( 0 〜 1+ ) | 左右差と再現性を確認 |
| 病的反射 | 陽性になりやすい | 多くは陰性 | 刺激強度による偽陽性 |
| 筋力 | 分布が非髄節性になりやすい | 髄節・末梢神経支配に一致 | MMT は疼痛・努力に影響 |
UMN / LMN は単純な二分ではなくスペクトラムとして捉えます。例えば頚髄症では、上肢に LMN 所見(筋萎縮・ DTR 低下)、下肢に UMN 所見( DTR 亢進・ Babinski 陽性)が混在するなど、上下でパターンが異なることも珍しくありません。腱反射だけでなく、歩行や巧緻運動など機能所見との整合性も必ず確認します。
現場の詰まりどころと対処
「反応が出ない」ケース:脱力不足、腱テンション過多、打鍵位置のずれ、被検者の緊張・恐怖などが多くみられます。体位を再調整し、軽いストレッチや揺らしで脱力を促し、 Jendrassik や別課題で注意を分散させます。それでも出ない場合は、髄節分布・感覚障害・筋萎縮などを含め LMN 障害を疑い、筋力・感覚・神経伸張テストなど別の評価を組み合わせます。
「反応が出すぎる」ケース:力みや疼痛、繰り返し刺激による反応増強が要因になります。声かけや呼吸のリズムを使って脱力を促し、強すぎる打鍵や連打を避けます。左右差は 1 段階以上で臨床的な意味を持ちやすいため、必ず再現性を確認し、歩行・立位バランス・筋緊張などの所見と合わせて解釈します。
見学や情報収集の段階でも抜け漏れを減らしたいときは、面談準備チェック( A4 ・ 5 分)と職場評価シート( A4 )を使うと整理が速いです。ダウンロードはこちら。
ミニケース:脳卒中・頚髄症・末梢神経障害
脳卒中:上肢 BR 3+、下肢 AJ 4+( clonus )、 Babinski 陽性など、複数の UMN 徴候が同じ肢にそろうパターンが典型です。この場合、痙縮への介入や転倒予防を優先し、立位・歩行での安全確保を図ります。
頚髄症:上肢に筋萎縮と BR 低下、下肢に KJ / AJ 亢進と Hoffmann 陽性といった「上肢 LMN × 下肢 UMN 」の混合像がみられます。反射だけでなく巧緻性低下・しびれ・歩行障害なども併せて、脊髄圧迫の有無を疑います。
末梢神経障害:腓骨神経障害で AJ は保たれ、 KJ が低下するといったように、髄節性・末梢神経支配に一致したパターンを示すことが多くなります。局在診断のヒントとして、筋力・感覚・神経伸張テスト所見と組み合わせて判断します。
反射検査の評価用紙と書き方(記録テンプレ)
反射検査の書き方の一例を、 SOAP 形式で示します。評価用紙や電子カルテのテンプレートを作成するときのベースとして活用できます。
S:膝痛のため検査に警戒あり。目的と方法を説明し、不安はやや軽減。
O: Biceps 2+/4(左右差なし)、 BR 2+/4、 Triceps 1+/4(右)・ 2+/4(左)、 KJ 3+/4(両側)、 AJ 2+/4、 Babinski 陰性。誘発条件: Jendrassik なし。
A:下肢優位の DTR 亢進を認め、 UMN 徴候を示唆(歩行時の膝伸展優位パターンと一貫)。
P:歩行時転倒リスク評価と痙縮管理を実施し、 1 週間後に反射・歩行パターンを再評価。
院内では、略記( KJ 、 AJ 、 BR など)とスコア、左右差、誘発条件、疼痛の有無、動画記録の有無などを項目化し、テンプレート化しておくと便利です。同じフォーマットで記録することで、担当者が変わっても所見の比較がしやすくなります。
禁忌・注意
皮膚損傷・術創・感染徴候がある部位では直接刺激を避け、必要に応じて部位をずらすか、代替の所見に切り替えます。疼痛増悪や痙攣誘発の既往がある場合は、強い打鍵や過度の皮膚刺激を避け、事前にリスク説明と同意を得てから最小限の評価にとどめます。
プライバシーの確保と体位保持具の安定は前提条件です。高齢者・骨粗鬆症では関節端への不用意な衝撃を避け、体位変換や端座位をとる前に転落リスクの評価を行います。抗凝固療法中の患者では皮下出血の有無を確認し、打鍵後の皮膚変化にも注意を払います。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
反応が出ないとき、まず何から見直しますか?
最初は「脱力位」と「当てどころ」を疑います。関節角度と腱テンションを抜ける位置に調整し、腱直上に軽く弾く打鍵に戻します。
それでも反応が乏しければ、支え方の変更・注意分散・ Jendrassik などの誘発を追加し、左右差と再現性を確認します。最終的には髄節分布、感覚、筋萎縮などと統合して LMN 所見の可能性も含めて判断します。
左右差はどのくらいで意味がありますか?
目安として 1 段階以上の差は臨床的に意味を持ちやすいですが、単回では決めません。打鍵条件(角度・強度・体位・誘発条件)をそろえて再現性を確認します。
左右差が安定している場合は、筋力・感覚・協調運動・歩行などの所見と整合するかを見て、局在推定と重症度評価に結びつけます。
4+(クローヌス)を見たら、記録はどう書きますか?
スコアは 4+/4 とし、可能であれば「 clonus 」を併記します(例: AJ 4+/4( clonus ))。
重要なのは「どの条件で出たか」です。誘発条件( Jendrassik の有無、足関節背屈位など)と、歩行・立位での危険場面(つまずき、膝折れ、突っ張り)まで含めて共有すると、チームでの対応が揃います。
次の一手
- 神経学的診察をまとめて引く:神経評価ハブ
- 手技だけを最短で確認する:深部腱反射の手順(上肢・下肢)
- 病的反射を使い分ける:病的反射の評価( Babinski ・ Hoffmann など)
参考文献
- Rodriguez-Beato FY, Urribarri O. Physiology, Deep Tendon Reflexes. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025–. PubMed
- Zimmerman B, Menon RS. Deep Tendon Reflexes. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025–. PubMed
- Whitney E, Ishii L. Hoffmann Sign. In: StatPearls [Internet]. Treasure Island (FL): StatPearls Publishing; 2025–. PubMed
- Walker HK. Tendon Reflexes and Reflex Testing. In: Walker HK, Hall WD, Hurst JW, editors. Clinical Methods. 3rd ed. Boston: Butterworths; 1990. Available from: NCBI Bookshelf
- Passmore SR, Bruno PA. Anatomically remote muscle contraction facilitates patellar tendon reflex reinforcement while mental activity does not: a within-participants experimental trial. Chiropr Man Therap. 2012;20(1):29. DOI | PubMed
- Ertuglu LA, Karacan I, Yilmaz G, Türker KS. Standardization of the Jendrassik maneuver in Achilles tendon tap reflex. Clin Neurophysiol Pract. 2017;3:1–5. DOI | PubMed
- Hayes KC, Sullivan J, Gandevia SC. Jendrassik maneuver facilitation and fractionated patellar reflex times. J Appl Physiol. 1972;32(3):290–295. DOI
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


