BPSD評価の進め方:症状名より先に、急変・身体・環境要因を確認します
BPSD評価では、最初から「拒否」「興奮」「徘徊」などの症状名を付けて終わらせず、急変や身体的不調、薬剤、環境・ケアの影響を確認し、起きた場面を具体化してから必要に応じて尺度を使います。そのうえで介入内容と変化を記録し、比較の軸をそろえて再評価することが重要です。
この記事では、病棟・施設・外来・在宅でBPSDをどう評価し、次の一手につなげるか迷う医療・介護職向けに、原因候補の確認 → 場面の具体化 → ABC観察 → 必要時のみ尺度 → 介入 → 再評価までを6ステップで整理します。NPIの細かな設問や薬物療法の詳細ではなく、評価を実務で回すための判断順序に焦点を当てます。
認知機能評価全体から選びたい方へ
BPSD評価は6ステップで整理します
BPSD評価は、①急変・身体・環境要因を確認する → ②場面を具体化する → ③ABCで観察する → ④必要時のみ尺度を使う → ⑤介入する → ⑥比較の軸をそろえて再評価する、の順で整理すると次に何をすべきか判断しやすくなります。
尺度はBPSDの原因を診断するための道具ではありません。複数の症状を整理したいときや、症状の程度・介護者への影響・経時変化などを共通の物差しで確認したいときに使い、身体・環境要因の確認や具体的な場面観察と組み合わせます。

ステップ1:急変・身体・環境要因を先に確認する
BPSDらしい変化を認めたときは、認知症による症状と決めつける前に、急な変化や身体的不調、薬剤、環境・ケアの影響を確認します。特に数時間〜数日で出現した変化や、普段と異なる注意・覚醒の変動がある場合は、せん妄を含む急性の問題を考え、必要な医学的評価を優先します。
確認する候補には、疼痛・不快、感染、低酸素、脱水、便秘・尿閉、睡眠の乱れ、薬剤の開始・中止・変更、視覚・聴覚の問題、騒音や刺激量、ケアの方法、コミュニケーションなどがあります。
NICEでも、認知症の人にみられる苦痛や興奮などへ介入する前に、原因候補を構造的に評価し、疼痛、せん妄、不適切なケアなどの臨床的・環境的要因を確認して対応することが推奨されています。
ポイント:ここでいう「まず外す」は、BPSDの除外診断をするという意味ではありません。本人の行動や心理状態へ影響する可能性がある急変・身体・環境要因を先に確認し、対応の優先順位を誤らないための工程です。
ステップ2:場面を具体化する|いつ・どこで・何の前後か
次に、「落ち着かない」「拒否が強い」といった印象語を、観察できる具体的な場面へ置き換えます。BPSDは時間帯、場所、相手、ケア内容、身体状態などによって現れ方が異なるため、「どの場面で起きたか」をそろえることが評価の土台になります。
情報は本人だけでなく、家族・介護者・スタッフなど複数の立場から集めます。ただし、最初から情報を大量に集めるのではなく、今回追う行動を1つ具体的に決めると、その後のABC観察と再評価につながりやすくなります。
- いつ:時間帯、食事前後、ケア前後、疲労が強い時間など
- どこで:病室、デイルーム、トイレ、浴室、自宅など
- 誰と:家族、特定のスタッフ、複数人でのケアなど
- 何の前後:排泄、更衣、入浴、移動、服薬、待機、活動など
たとえば「更衣拒否あり」だけでは、再評価できる情報が不足します。「更衣開始を伝えた直後に大声が出て、上肢を振り払い、ケアを中断した」のように、第三者が見ても同じ行動を想像できる表現へ変えます。
ステップ3:ABCで1エピソードを観察する
場面が具体化できたら、ABC(Antecedent / Behavior / Consequence)を使って、行動の直前・行動そのもの・行動後の対応と変化を整理します。ABCはBPSD専用の診断法ではなく、起きた出来事を同じ形式で観察・共有するための整理方法として使います。
- A:Antecedent(先行事象)=直前の出来事、声かけ、ケア、時間帯、疲労、周囲の刺激など
- B:Behavior(行動)=実際に観察した行動、頻度、強さ、持続時間など
- C:Consequence(結果)=周囲がどう対応し、その後本人がどう変化したか
目的は、本人の行動を「問題行動」としてラベル付けしたり、ABCだけで原因を断定したりすることではありません。どの状況で起きやすく、どの対応のあとに落ち着く・続く・強くなるのかを確認し、介入の仮説を作ることが目的です。
ABCの短い記録例
14時、更衣を始めると伝えた直後に大声と上肢の振り払いあり。更衣を中断して5分休息すると会話可能となった。
ステップ4:必要なときだけBPSD評価尺度を追加する
尺度は毎回必須ではありません。複数の症状を整理したい、チーム内で症状の程度について認識が合わない、介入前後を定量的に追いたいといった場面で追加すると役立ちます。
重要なのは、尺度を使うこと自体を目的にしないことです。まず急変・身体・環境要因と具体的な場面を確認し、そのうえで「何を見える化したいのか」に合わせて尺度を選びます。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 尺度 | 主な特徴 | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| NPI | 本人をよく知る介護者への面接から、複数の神経精神症状を評価する | 在宅・外来など、主介護者から継続した情報を得られる場面 | 情報提供者や正式な実施方法・評価期間を確認して使用する |
| NPI-NH | 施設の看護・介護職員から情報を得るNPIの施設版 | 病棟・老健・特養など、職員観察が中心となる場面 | 対象者の日常を十分に把握している職員から情報を得る |
| NPI-Q | 情報提供者が回答するNPIの簡易版 | 短時間で複数症状と介護者の負担を整理したい場面 | 簡便でも、身体・環境要因や場面分析の代わりにはならない |
| CMAI | アジテーション行動の頻度を評価する尺度 | 焦燥、興奮、攻撃的・反復的な行動などを重点的に追う場面 | BPSD全体の原因を評価する尺度ではない |
| BPSD+Q / BPSD25Q | 国内で開発された、介護者からBPSDと介護負担を評価する質問票 | 国内の介護場面でBPSDを幅広く整理したい場合 | 正式な使用方法を確認し、質問項目や判定を独自に変更しない |
NPI、NPI-NH、NPI-Qの違いを詳しく確認したい場合は、NPIとNPI-NHの違い・使い分けで整理しています。
ステップ5:原因候補に合わせて介入する
介入では、ステップ1〜3で見つかった身体・環境・コミュニケーションなどの要因候補へ働きかけます。点数が高い症状へ機械的に介入するのではなく、「この場面では何が本人の負担になっているのか」という仮説と介入を対応させます。
- 身体要因への対応:疼痛、不快、排泄、睡眠などの評価・対応につなげる
- 環境を調整する:騒音、照明、刺激量、待機時間、人の出入りなどを見直す
- ケア方法を調整する:声かけのタイミング、接触方法、説明量、選択肢などを変える
- 活動を調整する:時間帯、課題量、疲労、本人が成功しやすい活動などを見直す
ABCを使って考える場合は、Aの状況を調整する、本人が取りやすい別の行動を支える、Cにあたる周囲の対応をそろえる、といった形で介入を整理できます。
効果を検証するときは、何を主に変更したのか明確にしておくと解釈しやすくなります。ただし、急変への対応や転倒・自傷・他害など安全上必要な対応を、検証のために1つずつ行う必要はありません。安全確保や医学的対応が必要な場合は、それを優先します。
ステップ6:比較の軸をそろえて再評価する
再評価では、「すべてを同じ条件にする」のではなく、介入前後で比較したい軸をそろえることが重要です。時間帯や環境そのものを介入として変更した場合、それを元に戻して再評価する必要はありません。
まず、何を改善・悪化として追うのかを決めます。対象行動の頻度、強さ、持続時間、本人の苦痛、安全への影響、生活への影響、介護者・スタッフへの負担など、今回の介入目的に合った指標を選びます。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 項目 | 再評価での考え方 | 記録例 |
|---|---|---|
| 対象行動 | 同じ定義で追う | 更衣開始後の大声・上肢の振り払い |
| 尺度・版 | 尺度で前後比較する場合はそろえる | NPI-NHを継続使用 |
| 情報源 | 可能な範囲で条件をそろえる | 日常を把握している担当職員 |
| 評価期間 | 使用する尺度の正式な方法に従う | 尺度で定められた期間 |
| 時間帯・場所・ケア方法 | 介入で変更した場合は固定せず、変更内容を記録する | 午後から午前へ変更 |
| 薬剤・身体状態 | 変化があれば比較時に記録する | 薬剤変更あり、発熱なし |
特に注意したいのは、尺度ごとに情報提供者、実施方法、評価期間が異なることです。独自に「すべて1週間」などへ統一すると、尺度本来の方法から外れる可能性があります。尺度を使った再評価では、正式な実施条件を確認してください。
再評価の要点:対象行動・尺度・情報源・評価期間など比較の軸をそろえ、介入によって変えた時間帯・環境・ケア方法は「変更した条件」として記録します。
架空例:更衣時の拒否を評価から再評価までつなげる
ここでは、6ステップをどのようにつなげるか、架空例で確認します。午後の更衣時に大声と上肢の振り払いがみられ、スタッフ間では「更衣拒否が強い」と共有されている認知症の人を想定します。
- 急変・身体・環境要因を確認:急な意識・注意の変化や発熱はなく、午後になると疲労が強いことを確認した。
- 場面を具体化:午前の更衣では同様の行動が少なく、午後の排泄ケア後に起こりやすかった。
- ABC:A=午後・排泄ケア後に更衣を開始、B=大声と上肢の振り払い、C=更衣中止後に数分で落ち着いた。
- 尺度:今回は対象場面が明確であったため、まず行動記録を優先し、新たな尺度は追加しなかった。
- 介入:主な変更を「更衣を午前へ移す」とし、対象行動の記録方法は変えなかった。
- 再評価:同じ対象行動の定義で頻度を追い、時間帯を変更したことを記録したうえで介入前後を比較した。
この例で重要なのは、「午前に更衣すれば改善する」と一般化することではありません。観察から仮説を立て、何を変えたかを明確にし、その後の反応を確認して次の調整を決めることがポイントです。
BPSD評価でよくある失敗
BPSD評価で詰まりやすいのは、尺度を知らないことより、症状名や点数だけで判断してしまい、具体的な場面と次の介入につながらないことです。
※スマホでは表を横にスクロールできます。
| 場面 | 避けたい評価 | 修正するポイント |
|---|---|---|
| 最初の判断 | 急な変化もすべてBPSDとして扱う | せん妄を含む急変、疼痛、感染、薬剤、環境要因などを先に確認する |
| 場面 | 「拒否」「不穏」「徘徊」だけを記録する | いつ・どこで・何の前後に、どの行動が出たか具体化する |
| ABC | Bだけを記録して原因を推測する | AとCも残し、起こりやすい状況と対応後の変化を見る |
| 尺度 | 点数だけで原因や治療方法を決める | 尺度は症状の整理と変化の可視化に使い、背景要因と併せて解釈する |
| 再評価 | 時間・場所・担当をすべて同じにしないと比較できないと考える | 比較の軸をそろえ、介入として変更した条件は記録する |
記録は「場面・行動・介入・変化」を短くそろえる
BPSD評価の記録では、長い経過を書くことより、何が起き、何を変え、その後どう変わったかを他職種が追えることを優先します。
ABCで観察した内容と介入・再評価をつなげると、申し送りやカンファレンスでも評価の根拠を共有しやすくなります。
記録例
午後の排泄ケア後、更衣開始時に大声・上肢の振り払いあり。疲労の影響を考え、更衣を午前へ変更。変更後も同じ行動定義で頻度を確認する。
尺度を使用した場合は、尺度名と点数だけでなく、情報源、評価期間、介入内容、身体状態や薬剤など解釈に影響する変化も合わせて残します。
よくある質問(FAQ)
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BPSDが急に悪化したとき、最初に何を確認しますか?
急な意識・注意・覚醒の変化、疼痛や不快、感染、低酸素、脱水、便秘・尿閉、睡眠、薬剤変更、環境やケアの変化などを確認します。数時間〜数日で普段と異なる変化が出ている場合は、BPSDと決めつけず、せん妄を含む急性の問題について必要な医学的評価を優先します。
ABCを書ければ、BPSD評価尺度は使わなくてもよいですか?
尺度は毎回必須ではありません。対象行動と背景が具体化でき、チームで共通理解が得られている場合は、観察記録をもとに介入と再評価を進めることもあります。複数症状を整理したい場合や、介入前後を定量的に追いたい場合などに尺度を追加します。
NPI・NPI-NH・NPI-Qはどう選びますか?
本人をよく知る主介護者への面接で詳しく評価するならNPI、施設の職員から評価するならNPI-NH、簡便な情報提供者質問票を使いたい場合はNPI-Qが候補になります。使用前には、それぞれの正式な対象・方法・利用条件を確認してください。
介入前後は時間帯や担当者を完全に同じにする必要がありますか?
必ずしもすべて同じにする必要はありません。対象行動の定義、使用する尺度・版、情報源、尺度で定められた評価期間など、比較に必要な軸をそろえます。時間帯や環境を介入として変更した場合は、その変更内容を記録して前後を比較します。
家族とスタッフでBPSDの評価が違う場合はどうしますか?
どちらかを誤りと決める前に、観察している場面の違いを確認します。在宅と施設、昼と夜、ケア中と自由時間など、条件が違えば行動も異なる可能性があります。「誰が、どの場面を見ているか」を整理すると、症状が出やすい背景を見つける手がかりになります。
まとめ:BPSD評価は「ラベル」ではなく次の一手につなげます
BPSD評価では、症状名や尺度の点数だけを残すのではなく、急変・身体・環境要因を確認し、場面を具体化してABCで観察し、必要時のみ尺度を追加します。そこから本人の状態や背景に合わせて介入し、比較の軸をそろえて再評価します。
再評価で重要なのは、時間帯・場所・担当者をすべて固定することではありません。対象行動、尺度、情報源、評価期間など、介入前後で比較する軸をそろえ、介入によって変更した条件は記録します。
評価領域全体から別の尺度を探したい場合は、評価ハブもあわせて確認してください。
参考文献
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- Kaufer DI, Cummings JL, Ketchel P, Smith V, MacMillan A, Shelley T, et al. Validation of the NPI-Q, a brief clinical form of the Neuropsychiatric Inventory. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2000;12(2):233-239. DOI: 10.1176/jnp.12.2.233
- 繁信和恵, 博野信次, 田伏薫, 池田学. 日本語版NPI-NHの妥当性と信頼性の検討. BRAIN and NERVE. 2008;60(12):1463-1469. DOI: 10.11477/mf.1416100399
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- 内藤典子, 藤生大我, 滝口優子, 伊東美緒, 山上徹也, 山口晴保. BPSDの新規評価尺度:認知症困りごと質問票BPSD+Qの開発と信頼性・妥当性の検討. 認知症ケア研究誌. 2018;2:133-145. DOI: 10.24745/jdcr.2.0_133
- Kales HC, Gitlin LN, Lyketsos CG. Assessment and management of behavioral and psychological symptoms of dementia. BMJ. 2015;350:h369. DOI: 10.1136/bmj.h369
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

