ロートンの尺度(Lawton IADL)評価方法と解釈【“1 点の境目”を表で可視化】
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IADL(手段的日常生活動作)とは
IADL( Instrumental Activities of Daily Living /手段的日常生活動作)は、買い物・料理・洗濯・掃除・金銭管理・服薬管理・電話・交通機関の利用など、在宅自立と社会参加に不可欠な「応用的 ADL 」です。ADL が自立でも IADL に難しさがあれば、地域生活や復職に支障が生じます。評価には身体機能だけでなく、記憶・注意・遂行機能・判断力といった認知機能、そして住環境や支援体制の影響を踏まえる必要があります。
Lawton(ロートン)IADL 尺度の基本
- 目的:在宅生活の自立度・生活管理力・社会参加可否を簡便に把握。
- 構成:歴史的には男性 5/女性 8 項目だが、近年は性別に関わらず 8 項目で運用する場面が増加。
- 採点:各項目 0–1 点、合計 0–8 点(点が高いほど自立)。厳密な「カットオフ」は固定されておらず、項目の中身の解釈が最重要。
- 活用:退院支援、介護サービス調整、認知症スクリーニング、経時的フォローなど。
Lawton IADL の評価方法(項目別の境目・観察ポイント)
本文に設問全文は掲載せず、臨床で迷いやすい「1 点の境目」を私見で要約して示します。施設の様式・運用があればそちらを優先してください。
| 項目 | 項目の趣旨(要約) | 1 点の目安(境目の考え方) | 0 点の例 | 観察・確認ポイント |
|---|---|---|---|---|
| 電話の使用 | 連絡先の把握から発信・通話までを自力で完了できるか | 必要な相手に自分で検索→発信→用件伝達まで遂行 | 受けるだけ/番号準備を他者に依存 | 連絡先検索→発信→伝達まで模擬で連続評価 |
| 買い物 | 日用品の選択・会計・持ち帰りまでの一連の遂行力 | 計画〜購入〜会計〜帰宅を独力で一貫して行える | 少額のみ可/常時付き添いが必要 | 品目選択、決済(現金・キャッシュレス)、袋詰め |
| 食事の準備 | 安全に配慮し適切な食事を準備・配膳できるか | 献立立案〜調理〜配膳まで自立(継続可能) | 材料準備があれば可/温めのみ等の部分的遂行 | 火気・刃物の扱い、衛生、栄養バランス |
| 家事 | 住環境を基準以上の清潔に維持できるか | 清掃・片付け等をおおむね自立で継続 | 全般的に介助が必要/関与しない | 週次ルーティン実施、清潔度の維持 |
| 洗濯 | 選別→洗い→乾燥→収納の一連を自己管理 | 各工程を自分で段取りし完了できる | 簡易すすぎのみ/ほぼ他者依存 | 洗剤計量、設定、干す・畳む・収納 |
| 交通機関の利用 | 単独での移動計画と実行(自家用車または公共交通) | 一人で運転可、または公共交通を自立利用(※付き添いがあれば公共交通可も 1 点扱いの運用あり) | 常時付き添い必須/外出自体を行わない | 行先設定、乗換、支払い、時間管理、安全意識 |
| 服薬管理 | 薬の仕分け・時刻管理・服用を自己責任で遂行 | 分包やピルケース準備も含め自分で管理・服用 | 準備されれば服用可/自己管理は不可 | 頓用・中止指示の理解、リマインダー活用 |
| 金銭管理 | 家計・支払い・銀行手続き等の管理能力 | 小口〜大口まで概ね自立処理が可能 | 大口は介助必須/管理困難 | 予算立案、請求書処理、詐欺リスク対応 |
採点と結果の読み方
| 合計点 | 解釈の目安 | 推奨アクション |
|---|---|---|
| 6–8 点 | 概ね自立。弱点項目のリスク管理を優先。 | 服薬・金銭など高リスク領域の教育/見守り設計 |
| 3–5 点 | 部分的介入が必要。認知・環境因子の影響が示唆。 | ICF に基づく環境整備、代償手段(配食・家事支援) |
| 0–2 点 | 生活全般の支援設計が必要。安全管理を最優先。 | 多職種連携(ケアマネ・薬剤師・家族会議・地域資源) |
固定のカットオフ値はありません。合計点だけでなく、同じ 0 点でも内容差が大きい(例:買い物は「少額のみ可」も 0 点)点に注意し、下位項目の中身を介入に直結させます。
評価の落とし穴とコツ
- 自己申告の偏り:家族・介護者の情報と実場面観察で補完(過大/過少評価に注意)。
- 性別項目の扱い:現代の生活実態に合わせ、原則 8 項目で男女同一の採点運用を検討。
- 認知機能の影響:MMSE/MoCA などの結果を併読し、遂行機能・注意・見当識を確認。
- 環境因子:交通事情・店舗距離・電子決済可否など、環境で点が左右されうる。
- 安全重視:服薬・金銭・外出は事故/逸失リスクが高い。先に安全対策を設計。
臨床での使い方(場面別)
- 退院支援:弱点項目に応じて配食・訪問調理・家事援助、服薬支援(アラーム/一包化)を手配。
- 認知症スクリーニング:早期の IADL 低下は軽度認知障害の兆候。経時評価で変化を把握。
- 介護保険・サービス調整:ケアプラン説明の根拠として記録票を添付。
評価用紙・ダウンロード
印刷用の評価表は院内様式を優先してください。サイト掲載のシートが必要な方は こちらから取得できます(A4/余白 10–12 mm/ヘッダ・フッタ非表示で印刷可)。
ミニ FAQ(判定の境目)
付き添いがあれば電車に乗れる人は 1 点?
「交通機関の利用」は付き添いがあれば公共交通で移動できるケースも 1 点に含める運用が広く見られます。安全面の付記を記録に残しましょう。
家族がピルケースを用意すれば 1 点?
いいえ。服薬管理は「仕分け〜時刻管理まで本人が自立」で 1 点です。「準備されれば服用できる」は 0 点扱いにします。
性別で項目数を変える必要はありますか?
歴史的運用は男性 5/女性 8 項目ですが、現代の生活実態を踏まえ原則 8 項目で男女同一の採点を推奨します(施設規程に従ってください)。
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まとめ
Lawton IADL は在宅自立の鍵である「生活管理力」を短時間で把握できる実用指標です。合計点に頼らず下位項目の内容を読み解き、安全対策・環境整備・認知的支援に直結させることで、退院後のつまずきを予防できます。
参考文献
- Lawton MP, Brody EM. Assessment of older people: self-maintaining and instrumental activities of daily living. Gerontologist. 1969;9(3):179–186. PubMed
- 町田綾子, 鳥羽研二, 櫻井孝, 鷲見幸彦. 手段的日常生活動作を用いた軽度認知症スクリーニング項目の検討. 日本老年医学会雑誌. 2013;50:266–267.
- 角 徳文. ADL・IADL の評価尺度. 総合リハビリテーション. 2017;45(8):853–855.
- 溝部聡士. IADL のアセスメントツールと使い方. リハビリナース. 2019;12(2):127–133.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


