このプロトコルでできること
本ページは、AWGS2019 に基づくサルコペニア評価を「疑いから確定診断まで」一気通貫で回すための運用プロトコルです。SARC-F/ふくらはぎ周囲径(CC)で抽出し、握力・歩行速度・5回立ち上がり・SPPB で機能を確認し、ASMI(DXA/BIA)で確定する流れを 1 枚のシートに整理しています。
急性期・回復期・在宅のいずれでも使えるよう、ベッドサイドでのチェック欄と判定ロジック、よくある測定ミスの OK/NG 早見をセットにしました。診断基準の詳細やカットオフの根拠と組み合わせることで、実装と学習を往復しながら運用できます。
運用フロー(スクリーニング→測定→判定)
- 抽出(スクリーニング): SARC-F(≥4 点)または CC(男 <34 cm/女 <33 cm)が陽性なら「サルコペニア疑い」として 2 へ進みます。SARC-CalF を併用しても構いません。
- 機能(筋力×身体機能): 握力(男 <28 kg/女 <18 kg)、通常歩行速度 <1.0 m/s、SPPB ≤9 点、5回立ち上がり ≥12 秒のいずれかを確認します。すべて陰性でも、フレイル感や転倒歴などから臨床的に怪しければ 3 へ進みます。
- 筋量(ASMI): DXA または BIA の ASMI を用いて、DXA:男 <7.0/女 <5.4、BIA:男 <7.0/女 <5.7 を目安に筋量低下の有無を判定します。同一機器・同一条件で再検しやすいよう、測定日時と機種名を記録します。
- 確定診断と重症度: 「低筋量」+「低筋力」または「低身体機能」がそろえばサルコペニア確定、3 要素すべてが低下していれば重症サルコペニアと判定します。診断後は転倒リスクや栄養状態(GNRI など)も併せて評価します。
ベッドサイド・チェックリスト
病棟ラウンドやリハカンファレンスでそのまま使えるよう、評価の抜け漏れを防ぐチェック欄をまとめています。必要に応じて施設名や記録者欄を追記してください。
- □ SARC-F:合計( 点)/ SARC-CalF:合計( 点)
- □ CC:右( cm)/ 左( cm)
- □ 握力最大:右( kg)/ 左( kg)
- □ 歩行速度:6 m( 秒)→( m/s)
- □ SPPB( 点)/ 5xSTS( 秒)
- □ ASMI:DXA( kg/m²)または BIA( kg/m²)
- □ 判定:非該当 / サルコペニア / 重症サルコペニア
よくあるミス(OK/NG 早見)
| 場面 | OK | NG |
|---|---|---|
| 握力 | 肘 90°・手関節軽度背屈で姿勢を統一し、左右 2〜3 回ずつ測定して最大値を採用 | 立位/座位が混在、試行 1 回のみ、利き手のみで判定 |
| 歩行速度 | 助走・減速路を確保し、6〜10 m の区間を 2 回測定して平均を算出 | 計測区間が短い、1 回だけ測定、途中で会話や方向転換が入る |
| 5回立ち上がり | 座面高を 40〜45 cm 程度に統一し、腕組み・ノンストップで 5 回連続立ち上がり | 手押しや反動を許可、座面高が毎回異なる、途中で一時停止 |
| ASMI | 同一機器・同一条件(測定時間帯・食事/点滴状況)で縦方向の変化を追跡 | 機種を変えて単純比較、測定条件が毎回ばらばら |
| CC | 最大周径部を水平に計測し、浮腫が強い場合は別日に再測定して補足 | メジャーが斜めになっている、測定時間帯が毎回異なる |
現場の詰まりどころ
AWGS2019 を回そうとして止まりやすいポイントは「ASMI が取れない」「5xSTS や SPPB を取り切れない」「境界例の扱いが曖昧」の 3 つです。特に、BIA が病棟から遠い/測定のたびに依頼が必要といった運用上のハードルで、筋量評価が先送りになりがちです。
対応としては、①病棟ごとの測定曜日を決めて「まとめ撮り」する、②SARC-F と CC で疑い例リストを事前に作る、③境界例はフレイル・栄養状態・転倒歴を併せて「ほぼサルコペニア」として介入を先行させる、の 3 点をチームで共有しておくとスムーズです。詳細な Q&A は下の「よくある質問」も参考にしてください。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップすると閉じます。
Q1. SARC-F と CC のどちらを優先して使えばよいですか?
SARC-F は自己申告ベースで転倒歴や ADL の困りごとを拾いやすく、CC は筋量の proxy として客観的です。病棟では、まず SARC-F で「困り感」を拾い、ベッドサイドで CC を測る 2 段構えが運用しやすく、両方のどちらか一方でも陽性なら「疑い」としてフローを進める形がおすすめです。
Q2. 歩行速度・SPPB・5xSTS のすべてを取れない患者さんはどう扱えばよいですか?
安全上の理由で立位や歩行が難しい場合は、無理をせず「測定不能」として記録し、その上で握力・CC・栄養状態・活動量などから総合的に評価します。AWGS2019 でも臨床判断を認めており、測定不能だからサルコペニアではない、とは解釈しません。経過とともに測定可能になったタイミングで、5xSTS や SPPB を追加していく運用が現実的です。
Q3. ASMI を BIA のみで追っていても問題ありませんか?
DXA が理想的ではありますが、現場では BIA が主力になることが多いです。重要なのは測定機器と条件を固定し、同じ患者さんを縦方向に追うことです。機種間の絶対値の差よりも、数か月単位での増減や、介入前後の変化幅を重視して評価すると良いでしょう。
Q4. サルコペニア確定後の「栄養評価」はどこまで行えばよいですか?
体重変化(%)、BMI、血液検査(Alb・リンパ球数・CRP など)に加え、既存の栄養スクリーニングツールを 1 つ以上組み合わせると、低栄養/悪液質/単純な減量などの鑑別に役立ちます。サルコペニアの有無だけでなく「なぜ筋量が落ちたのか」を整理することで、運動・栄養・薬剤調整の優先順位をつけやすくなります。
関連リンク
おわりに
サルコペニア評価は「スクリーニング → 機能評価 → 筋量測定 → 栄養評価 → 介入と再評価」というリズムを一度作ってしまえば、病棟や在宅でもルーチンとして回しやすくなります。本プロトコルをベースに、自施設の導線(誰が・いつ・どこで測るか)を書き込みながら、チームでの標準化を進めてみてください。
働き方を見直すときの抜け漏れ防止に、見学や情報収集の段階でも使える面談準備チェック(A4・5分)と職場評価シート(A4)を無料公開しています。印刷してそのまま使えるので、サルコペニア評価の運用体制づくりと並行して、将来のキャリアを整理したいときに活用してみてください(マイナビコメディカルのダウンロードページ)。
参考文献
- Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update. J Am Med Dir Assoc. 2020.
- Li YH, et al. Prognostic value of five-times-sit-to-stand ≥12 seconds. BMC Geriatr. 2024.
- Park TS, et al. Gait speed cutoff of 1.0 m/s in AWGS. Ann Geriatr Med Res. 2024.
- Yamada Y, et al. DXA/BIA-based appendicular skeletal muscle mass cutoffs. J Cachexia Sarcopenia Muscle. 2021.
- Kim HJ, et al. Short Physical Performance Battery and calf circumference cutoffs. BMC Geriatr. 2024.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


