NPI-NH 運用プロトコル(施設実装マニュアル)
NPI-NH は、病棟・老健・特養などの 施設場面での BPSD を、スタッフ観察を主情報源として評価するための面接手順です。本記事では、NPI/NPI-NH のドメインや点数の解釈そのものではなく、「施設で どう運用するか」に特化して手順をまとめます。スケールの基本(12 ドメイン・頻度×重症度・合計点 120/144 など)は、NPI/NPI-NH 総論記事 を参照ください。
ねらいは、日勤・夜勤の観察ログを集約しながら、同じ手順・同じ様式で NPI-NH を回せるようにすることです。ここに書かれているのは「施設用の運用プロトコル」であり、「評価スケールそのものの解説」ではありません。
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導入準備(観察ログとルール決め)
NPI-NH 導入時の「現場の詰まりどころ」は、評価そのものよりも 前段の準備と分担 です。最初にここを整えておくと、その後のカンファや記録がスムーズになります。
- 観察収集:日勤・夜勤それぞれから、具体例を最低 1 件ずつ集めます(時間帯・状況・誘因・対応・結果までセットで)。
- 対象整理:高頻度の行動(例:夕食前の易刺激性、夜間の徘徊など)を列挙し、「今回の評価で必ず拾いたい行動」を決めます。
- 役割分担:面接(質問役)/記録(書記)/タイムキーパーを決めておき、評価のたびに人が入れ替わっても役割構成は固定します。
- 施設ルール:10 ドメイン運用か 12 ドメイン運用か、再評価の間隔(例:1〜2 週間)をチームで決めておきます。
- 内部連携:共有フロー(申し送り → カンファ → 実装)の流れを事前に確認し、「NPI-NH をどこで使うか」を明らかにしておきます。
面接スクリプトの作り方(逐語訳しないコツ)
NPI-NH の設問は原著がありますが、逐語転載は避け、施設のスタッフが使いやすい「要点スクリプト」に落とし込むのが実務的です。以下は「妄想ドメイン」を例にしたテンプレートです。
- 有無の確認:「最近、『〜だと思い込む』『根拠のない確信』のような様子はありましたか?」
- 具体例の深掘り:「一番最近の出来事はいつ・どこで・誰と・何がきっかけでしたか?」
- 頻度・重症度:「1 週間のうちどのくらい起きますか(0〜4)? 生活やケアにどのくらい影響しましたか(0〜3)?」
- 誘因メモ:「時間帯・環境・スタッフの関わり方で変化はありましたか? 次に気をつけたいポイントはありますか?」
他のドメインも、有無→代表的な具体例→頻度→重症度→誘因メモ の順番は共通にしておくと、評価者が変わっても問い方の癖がつきにくくなります。
記録フォーマット(A4 テンプレの使い方)
記録のバラつきを抑えるには、施設共通の A4 テンプレ を 1 つ決めてしまうのが近道です。このプロトコルでは、次のようなフォームを想定しています。
- 行単位:1 ドメインを 1 行にし、「有無 → 代表的具体例 → 頻度 → 重症度 → 介護者負担 → ドメイン合計」の欄を横一列に並べる。
- 列単位:右端に「再評価用の列」を設け、1〜2 週間後の再測を同じ用紙に追記できるようにする。
- ヘッダー:10 ドメイン運用か 12 ドメイン運用か、合計点の上限(120/144)をシート上部に明記する。
院内配布向けのノンスタイル版テンプレート(HTML)は、アップロード後に以下リンクの URL を自施設のものに差し替えて運用してください。
多職種カンファでの使い方(非薬物的介入)
NPI-NH の点数は、「カンファレンスでどこを議論するか」を決める材料として使います。ここでは非薬物的介入を前提に、シンプルな運用の型を示します。
- 優先度決定:ドメイン点が高い 1〜2 つに絞り、「今回の介入ターゲット」を決める(例:易刺激性・夜間行動)。
- 介入設計:環境(音・光・待機時間)/関わり方(声かけのタイミング・選択肢提示)/活動(回想・作業・運動)などから、まず 1 つだけ実装する。
- 記録統一:電子カルテの定型文に「ドメイン名/誘因/実施した対応/結果」の 4 点をテンプレ化し、誰が書いても同じ構成になるようにする。
- 現場の詰まりどころ:「いろいろ良さそうな介入を全部盛りにしてしまう」ことが多いので、1 回のサイクルでは介入は 1 つだけに絞るルールを先に決めておきます。
再評価サイクル(1〜2 週間で回す)
再評価は「スコアをもう一度取ること」ではなく、「介入の当たり外れを判定する」ために行います。次の 3 点を意識してサイクルを回します。
- 同一条件で再測:できるだけ同じスタッフ構成・時間帯を意識し、初回と同じ手順で NPI-NH を実施する。
- 点推移の可視化:ターゲットにした 1〜2 ドメインの点推移を 折れ線グラフ などで可視化し、増減をチームで共有する。
- 介入の微調整:効果が乏しければ介入を 1 つだけ変更し、同時に複数を変えない。うまくいった場合は、同じパターンを他利用者にも水平展開する。
参考文献(代表)
- Wood S, Cummings JL, Hsu M-A, et al. The Neuropsychiatric Inventory—Nursing Home version (NPI-NH). Am J Geriatr Psychiatry. 2000;8(1):75–83. https://doi.org/10.1097/00019442-200002000-00010
- Cummings JL, Mega M, Gray K, et al. The Neuropsychiatric Inventory. Neurology. 1994;44(12):2308–2314. https://doi.org/10.1212/WNL.44.12.2308


