NHPT & Purdue Pegboard の運用を「 1 枚」で標準化する
NHPT( Nine Hole Peg Test / 9 ホールペグ )と Purdue Pegboard は、上肢の巧緻性(速さ・正確さ・両手協調)を短時間で把握できる定番テストです。ただし、セットアップ(姿勢・ボード位置・合図)と例外ルール(落下・無効扱い)がズレると、数値の比較が崩れます。
本記事は「準備 → 実施 → 記録 → 解釈 → 次の一手」までを、現場で迷わない運用プロトコルとして整理します。最後に、現場に 1 枚持っていけば回る日本語版の記録シート( PDF )も用意しました。
この 2 つで何が分かるか
NHPT は、 9 個のペグを挿入し、すべて抜去するまでの所要時間(秒)で巧緻性を評価します。左右別に測れて、介入前後の変化も追いやすいのが強みです。
Purdue Pegboard は、片手(右・左)だけでなく両手協調や系列動作(アセンブリ)も含めて把握できます。復職支援や作業選定では、数値を生活/職務タスク(書字、ボタン、スマホ操作、部品組立など)に翻訳して共有すると意思決定が速くなります。
準備物とセットアップ
再現性は「セットアップの固定」でほぼ決まります。施設内で姿勢・ボード位置・合図を固定し、記録に残してください。
| 項目 | 推奨 | ポイント | 記録に残す欄 |
|---|---|---|---|
| 用具 | 各キット一式(欠品・破損なし) | 穴径差・ペグ欠損があると比較が崩れる | 欠品・破損:なし・あり(内容) |
| 姿勢 | 座位(前腕支持あり推奨) | 肘角度おおむね 90° で固定しやすい | 前腕支持:あり・なし/肘角度 |
| ボード位置 | 胸中央〜やや利き手側 | 位置ズレが一番のノイズになりやすい | 位置メモ(机端から距離など) |
| 合図・計時 | カウントダウン → 開始合図を統一 | 開始/停止の遅れを減らす | タイマー種別/測定者 |
| 例外ルール | 無効扱いの線引きを先に決める | 落下・手順逸脱で平均が歪むのを防ぐ | 無効理由/再試行の有無 |
NHPT:手順・計測・記録
基本は「右 → 左」「各 2〜3 試行」「休息 30〜60 秒」を施設で固定します。落下などの例外ルール(無効扱い)も先に決めておくと解釈がブレません。
- 練習(任意):非計時で 1 回。動作理解を確認。
- 右 → 左の順で各 2〜3 試行。試行間休息は 30〜60 秒。
- 開始合図「用意、始め!」と同時に計時開始。
- 最後のペグ抜去で停止(終了条件を統一)。
- 無効試行:大きな落下、離席、測定トラブルなどは「無効」とし、平均から除外(院内ルール化)。
- 記録:左右別に有効平均(秒)と最良(最小)を残す。
| 手 | 試行 1 | 試行 2 | 試行 3 | 無効(□) | 有効平均 | 最良(最小) |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 右 | ___ | ___ | ___ | □1 □2 □3 | ___ | ___ |
| 左 | ___ | ___ | ___ | □1 □2 □3 | ___ | ___ |
解釈メモ:値は小さいほど良好です。左右差・経時変化をみるときは、利き手/罹患側/疼痛の有無をセットで残し、生活課題(書字、ボタン、スマホなど)へ翻訳して共有します。
Purdue Pegboard:構成・手順・記録
Purdue は「片手」「両手」「アセンブリ」で見えるものが違います。特に復職支援では、職務タスクに近いパートを重視して解釈します。
- 右手( 30 秒):挿入できた個数を記録(落下は不計上)。
- 左手( 30 秒):同様に記録。
- 両手( 30 秒):左右同時操作の合計個数を記録。
- アセンブリ( 60 秒):指定順序の完成ユニット数(点)を記録。
- 各パートは 2〜3 回(施設基準)。合計/平均を算出(必要なら総得点も参考として算出)。
| パート | 試行 1 | 試行 2 | 試行 3 | 合計 | 平均 | 備考 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 右手( 30 秒) | ___ | ___ | ___ | ___ | ___ | 落下:___ |
| 左手( 30 秒) | ___ | ___ | ___ | ___ | ___ | 落下:___ |
| 両手( 30 秒) | ___ | ___ | ___ | ___ | ___ | 同時性:あり・なし |
| アセンブリ( 60 秒) | ___ | ___ | ___ | ___ | ___ | 手順ミス:あり・なし |
※ 総得点(参考)=右+左+両手+アセンブリ。意思決定は「内訳+観察メモ」を優先します。
測定者用スクリプト(読み上げ例)
スクリプトは施設基準に合わせて最小限編集し、文面を固定します(測定者間の再現性を上げる)。
| 場面 | 文言(例) |
|---|---|
| NHPT:教示 | 「合図で始めます。できるだけ速く、正確に行ってください。最後のペグを抜き終えたところで止めます。」 |
| Purdue:片手/両手 | 「合図で開始し、 30 秒間続けます。入った個数を数えます。落とした分は数えません。」 |
| Purdue:アセンブリ | 「 60 秒間、見本の順序で組み立ててください。完成ユニット数を数えます。」 |
よくある失敗と対策
“評価値”より先に、“評価条件”が崩れるのが定番の落とし穴です。NG を固定し、記録に残して再現性を上げます。
| NG(よくある失敗) | 対策 | 記録ポイント |
|---|---|---|
| ボード位置が毎回違う | 肘 90°・胸中央基準で固定。可能なら写真で再現。 | ボード位置/椅子高さ/机距離 |
| 開始合図が曖昧/停止が遅れる | カウントダウン →「始め!」で統一。タイマー種別も固定。 | 測定者/タイマー種別 |
| 落下の扱いが測定者ごとに違う | 院内ルール化(例:完全落下が一定回数以上なら無効)。 | 無効理由/再試行の有無 |
| 疲労・疼痛で後半に低下 | 休息 30〜60 秒。疼痛増悪や NRS 上昇時は中止検討。 | 休息時間/疼痛 NRS |
現場の詰まりどころ
“測り方”より“どう使うか”で詰まりやすいポイントを先回りで整理します。
| 詰まりポイント | 背景 | 整理の視点 |
|---|---|---|
| 「どのくらいなら良好か」が分からない | 年齢・利き手・疾患で巧緻性が大きく変わる | 文献値+施設蓄積で「自施設リファレンス」を作る |
| 左右差の解釈が曖昧 | 利き手差と罹患側・疼痛が混在しやすい | 利き手・罹患側・疼痛の有無をセットで記録し、日常課題と照合 |
| 疲労や注意低下で成績がぶれる | 試行数や休息が測定者ごとに違う | 試行数・順序・休息をプロトコル化し、迷いは FAQ に集約 |
| 結果を目標に落とし込めない | 数値だけでは生活課題との結び付きが弱い | 結果を「書字・ボタン・スマホ・職務タスク」へ翻訳して記録 |
評価の型を整えたら、次は記録 → 共有の型です。引き継ぎ・説明で迷うときは、面談準備のチェックリストも参考になります:マイナビコメディカルの無料ダウンロード
記録用紙(日本語 PDF)
現場に 1 枚持っていけば、実施 → 記録 → 集計までが止まらない “運用・記録シート” を用意しました(日本語版)。
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参考文献
- Mathiowetz V, Weber K, Kashman N, Volland G. Adult norms for the Nine Hole Peg Test of finger dexterity. Occup Ther J Res. 1985;5:24-38. DOI: 10.1177/153944928500500102
- Wang YC, Bohannon RW, Kapellusch J, Garg A, Gershon RC. Dexterity as measured with the 9-Hole Peg Test across the age span. J Hand Ther. 2015;28(1):53-59. DOI: 10.1016/j.jht.2014.09.002
- Chen CCJJ, Bode RK. A pilot study for test–retest reliability of the Purdue Pegboard Test. J Mot Learn Dev. 2015;3(2):151-158. DOI: 10.1123/jmld.2015-0004
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


