筋肉量と四肢周径の評価ガイド【下腿周囲長・上腕周囲長・上腕筋囲】

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四肢周径で「筋肉量の代理」を評価する実務ガイド(CC・AC・MAMC・大腿周径)

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四肢周径は、機器がなくても筋量の「代理指標」を得られる現場適合性の高い方法です。下腿周囲長( calf circumference: CC )はサルコペニアの症例抽出( case-finding )に有用で、上腕周囲長( AC )と上腕三頭筋皮下脂肪厚( triceps skinfold: TSF )から算出する MAMC( = AMC )は上腕の筋量推定に役立ちます。一方で、測定手技の標準化と再現性の確保が不十分だと誤判定につながります(浮腫・麻痺・装具の影響に要注意)。本稿では臨床で迷わないよう「測る場所・手順・カットオフ・ありがちなミス」を 1 枚に整理しました。関連する評価の全体像は 評価ハブ も合わせてご覧ください。

位置づけ( GLIM / AWGS と四肢周径)

GLIM 2019 は筋量低下の判定に画像・ BIA などを第一選択としつつ、四肢周径や上腕筋囲などの身体計測を「代理指標」として許容しています。AWGS 2019 は CC を症例抽出に推奨し、男性 < 34 cm /女性 < 33 cm を実務目安として提示しています(確定診断には筋力・筋量の併用が必要)。BIA による骨格筋指数( appendicular skeletal muscle index: ASMI )カットオフは 男性 < 7.0 /女性 < 5.7 kg/m²、 DXA は 男性 < 7.0 /女性 < 5.4 kg/m² が目安です。

測定の原則(共通プロトコル)

  • 対象側の選択:麻痺がある場合は非麻痺側を原則とし、同一患者は毎回同側・同肢位で統一します。
  • 肢位:施設標準を明文化(例: CC は立位測定を基本)。やむを得ず変更する場合は、姿勢と理由を記録に明記します。
  • テープ:伸びないメジャーを用い、皮下組織を圧迫しない軽接触で水平に一周させます。
  • 反復測定: 2 回測定し、差が 0.5 cm を超える場合は 3 回目を実施。中央値または平均値で記録します。
  • 浮腫: CC は浮腫で過大評価されやすく、明らかな浮腫時は別日に再測も検討します。

下腿周径( CC: calf circumference )

測る場所:ふくらはぎの最も太い部位をランドマークとし、原則として立位(踵を肩幅・体重を左右均等)で測定します。安全面から座位を選択する場合も、同一患者では姿勢を統一してください。

臨床での読み方: CC は筋量・身体機能との関連が多数報告され、サルコペニアのスクリーニング指標として有用です。AWGS 2019 の目安:男性 < 34 cm /女性 < 33 cm。ただし民族差・肥満・浮腫などで測定性能が変動するため、可能であれば施設内データ( BIA ・ DXA )と突き合わせて校正すると実装力が高まります。

上腕周径( AC )と上腕筋囲( MAMC / AMC )

AC の測り方:肩峰(アクロミオン)と尺骨肘頭を結んだ線の中点をマーキングし、肘を軽度屈曲・リラックスさせた状態で周径を測定します。

MAMC( = AMC )の算出:上腕の筋量推定に用いられる代表的な指標です。

  • 式(単位に注意):MAMC( cm )= AC( cm ) − π × TSF( cm )= AC( cm ) − 0.314 × TSF( mm )
  • 上腕筋面積( AMA ):AMA( cm² )= MAMC² ÷( 4π )。骨成分の補正を行う場合は、男性 −10 cm² 、女性 −6.5 cm² を目安に減算します( Heymsfield ら)。

大腿周径( thigh circumference )の部位選択

大腿周径は、測定部位によって反映する内容が変わります。目的に応じて膝蓋骨上縁からの距離で位置を標準化し、毎回同じ位置・肢位で測定します。

大腿周径の部位と臨床での意味(成人・一般)
部位指定 主に反映するもの 用途の例
膝蓋骨直上/中央( mid-patella ) 関節周囲の腫脹 術後・炎症時の腫脹評価
膝蓋骨上縁 +5〜10 cm 内側広筋・外側広筋の肥大・萎縮 大腿四頭筋トレーニング効果の判定
膝蓋骨上縁 +15〜20 cm 大腿全体の筋量 全体的な筋萎縮の把握

数値の使い分け(要点まとめ)

四肢周径の閾値・式・確認ポイント(成人・一般)
指標 閾値・式 臨床上の注意
CC(下腿周径) 症例抽出目安:男性 < 34 cm /女性 < 33 cm( AWGS 2019 ) 浮腫・肥満で誤差が増加。肢位・側の統一と再測のルール化が重要。
MAMC( = AMC ) MAMC = AC − π × TSF( cm )= AC − 0.314 × TSF( mm ) TSF の単位に注意( mm → 0.314 倍)。同一点で AC ・ TSF を取得。
AMA(上腕筋面積) AMA = MAMC² ÷( 4π )〔骨補正:男性 −10 、女性 −6.5 cm² 〕 骨補正は研究・専門評価向け。経時比較では同一手順の維持を最優先。
ASMI( BIA / DXA ) BIA:男性 < 7.0 /女性 < 5.7 kg/m²、 DXA:男性 < 7.0 /女性 < 5.4 kg/m² 確定診断・重症度評価は筋力+筋量で判断( AWGS )。

現場の詰まりどころ

  • テープ圧で細く出る:皮膚が白くなるほど押しつぶさない。常に軽接触・水平を意識します。
  • ランドマークずれ: AC はアクロミオン − 肘頭の中点を正確にマーキング。大腿は膝蓋骨上縁からの距離を毎回同じにします。
  • 浮腫を見落とす: CC は浮腫で約 2 cm 増大し得ると報告されています。むくみが強い日は備考欄に明記+別日再測を検討します。
  • 左右・肢位が混在する:施設標準(例: CC =立位・右)を文書化し、例外時は必ず記録に残します。
  • 単位ミス:TSF を mm のまま π に掛けて過大補正してしまうミスが頻回です。0.314 × TSF( mm )を忘れないよう、記録用紙に式を併記しておきましょう。

よくある質問(タップで開閉)

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

CC だけでサルコペニアを診断できますか?

いいえ。CC は症例抽出( case-finding )に優れますが、サルコペニアの確定診断は 筋力(握力・ 5 回立ち上がり)+筋量( BIA ・ DXA ・超音波など) の組み合わせで行います( AWGS 2019 )。

座位・立位・左右で値が変わりませんか?

変わり得ます。 AWGS 以降も、最適な肢位についての完全なコンセンサスは得られておらず、現状では施設標準を統一することが最重要です。やむを得ず変更した場合は、肢位・側・理由を必ず記録してください。

MAMC と AMA、どちらを使えば良いですか?

日常臨床では、計算が簡便で解釈しやすいMAMCが実務的です。AMAは研究や栄養専門評価で有用ですが、骨補正などの仮定が入る点を理解したうえで使い分けましょう。

おわりに

四肢周径は「測りやすいが、解釈が難しくなりやすい」評価です。まずは施設内で肢位・ランドマーク・記録方法をそろえ、測定肢位の統一 → ランドマーク確認 → 実測 → 計算( MAMC ・ AMA 等)→ 経時比較という一連の流れをチームで共有することが出発点になります。

そのうえで、周径だけに依存せず、握力や歩行速度、 BIA ・ DXA など他の指標と組み合わせることで、「筋肉量の代理指標」としての弱点を補いながら、栄養介入や運動療法の効果判定に結びつけていきましょう。周径の小さな変化も、同じ手順で繰り返し測れば、患者さんの努力やチーム介入の成果を共有しやすい“見える化ツール”になります。

参考文献

  1. Chen LK, et al. Asian Working Group for Sarcopenia: 2019 Consensus Update. J Am Med Dir Assoc. 2020;21(3):300–307. doi:10.1016/j.jamda.2019.12.012. PubMed
  2. Cederholm T, et al. GLIM criteria for the diagnosis of malnutrition—A consensus report. Clin Nutr. 2019;38(1):1–9. doi:10.1016/j.clnu.2018.08.002. PubMed
  3. Piodena-Aportadera MRB, et al. Calf Circumference Measurement Protocols for Sarcopenia Screening. Ann Geriatr Med Res. 2022;26(3):214–223. doi:10.4235/agmr.22.0057. PDF
  4. Champaiboon J, et al. Calf circumference as screening for low skeletal muscle mass in Thai older adults. BMC Geriatr. 2023;23:725. doi:10.1186/s12877-023-04543-4. PubMed
  5. Lin YL, et al. SARC-F, SARC-CalF and calf circumference for sarcopenia screening. Nutrients. 2022;14(5):923. doi:10.3390/nu14050923. Link
  6. Geriatr Gerontol Int. Lower-limb edema increases calf circumference by approximately 2 cm; interpret CC with caution under edema. 2019;19:993–998. doi:10.1111/ggi.13743. PubMed
  7. Heymsfield SB, et al. Revised equations for bone-free arm muscle area. Am J Clin Nutr. 1982;36(4):680–690. doi:10.1093/ajcn/36.4.680. PubMed
  8. Zuchinali P, et al. Triceps skinfold as prognostic predictor…( AMC 式の原典 Jelliffe を引用)Arq Bras Cardiol. 2013;100(6):e41–e48. PMC
  9. Japanese Anthropometric Reference Data 2001( JARD 2001 ). 日本栄養アセスメント研究会. 2002. PDF(抄)

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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