Phalen テスト|手根管症候群の入口を最小セットで作る
Phalen テストは、手関節の掌屈位保持で正中神経領域のしびれ・疼痛を誘発し、手根管症候群( CTS )の可能性を絞るための臨床テストです。結論として、Phalen は単独で確定する検査ではなく、入口として使い、確認を 1 本だけ追加する運用が最も再現性を保ちやすいです。
本記事は、①いつ使うか ②どう実施するか ③どう記録するか ④どう誤判定を減らすかに絞って整理します。まずは症状を「分布・時間帯・増悪動作」で 1 行要約し、Phalen の結果を秒数付きで記録する型を固定しましょう。
いつ使う?|分布と夜間増悪が揃う場面で有効
Phalen は、母指〜中指を中心とした正中神経領域のしびれ、夜間〜起床時の増悪、つまみ動作での症状増悪があるときに有効です。反対に、しびれ分布が曖昧で局所痛のみが主訴の場合は、解釈がぶれやすくなります。
実施前は、①症状 1 行要約(分布+時間帯+増悪動作)②手根管部圧痛(参考)③感覚分布(正中/尺骨)を先に確認してから Phalen に進むと、結果を次の介入へつなげやすくなります。
手順|30 秒を基準に、必要時のみ 60 秒へ延長
保持時間は施設ごとに差が出やすいポイントです。運用を安定させるには、まず 30 秒を標準にし、短時間で誘発されるかを確認して、必要時のみ 60 秒まで延長する方法が実務的です。重要なのは、毎回同じ条件で左右差を評価することです。
| 手順 | やること | 観察ポイント | 中止目安 |
|---|---|---|---|
| 1 | 姿勢調整(肩・肘・頸部の力みを抜く) | 別由来の疼痛が混ざらないか | 強い疼痛で保持困難 |
| 2 | 両手関節を掌屈位で合わせる | しびれか局所痛かを分けて聴取 | 症状の急激な増悪 |
| 3 | 30 秒で判定(必要時 60 秒) | 出現までの秒数を記録 | 気分不良・冷汗 |
| 4 | 同条件で左右差を確認 | 分布と左右差の整合性 | 再現性が取れない |
陽性基準|正中神経領域のしびれ再現を主語にする
陽性は、正中神経領域(母指〜中指中心)のしびれ・感覚異常が再現または増悪することです。局所痛のみを陽性に含めると、腱・関節由来の疼痛が混ざり、診断仮説が拡散しやすくなります。
記録は「条件」「秒数」「分布」「左右差」の 4 点を最小セットにすると、再評価時の比較が容易です。
| 項目 | 記載例 | 記録の意図 |
|---|---|---|
| 条件 | 両手掌屈位、保持 30 秒 | 再現性の担保 |
| 結果 | 15 秒で母指〜中指しびれ再現(+) | 何が、いつ出たかを明確化 |
| 左右差 | 右(+)/左(−) | 病歴との整合性確認 |
| 補足 | 局所痛のみ(−)、放散は正中領域 | 偽陽性の混入回避 |
記録シート|Phalen テストの結果を 1 枚で残す
Phalen テストは、条件・秒数・症状分布・左右差がそろっていないと、再評価時に比較しにくくなります。下記の A4 記録シートでは、実施前チェック、誘発症状、左右差、追加確認、次回比較メモを 1 枚にまとめられます。
印刷して使う場合は、検査条件を毎回そろえ、しびれの分布と出現秒数を残しておくと、経過比較や他職種への共有がしやすくなります。
解釈|Phalen 単独で決めず、確認テストを 1 本だけ追加
Phalen は有用ですが、単独で確定診断はできません。病歴と分布に一致するかを軸に、必要最小限の追加所見で判断精度を上げる運用が実務向きです。
具体的には、Phalen 陽性時に Durkan(手根管圧迫)など刺激方向の異なる誘発を 1 本追加し、所見が揃うかを確認します。加えて、頸部由来が疑わしい場合は頸部評価を先に整理すると誤判定を減らせます。関連:評価の全体像(ハブ)
現場の詰まりどころ|迷いを 3 本の導線で戻す
詰まりやすいのは、①痛みとしびれの混同 ②条件不一致による再現性低下 ③陽性所見を次の行動に落とせない、の 3 点です。ここでは検査を増やしすぎず、ページ内の確認ポイントへ戻る導線を固定します。
ここまで整えても毎回同じところで詰まる場合は、書き方や手順だけでなく、教育体制・共通フォーマット・相談相手の有無など、職場環境の影響を受けている可能性もあります。
よくある失敗|OK/NG を記録の型で潰す
代表的な失敗は「局所痛のみを陽性扱い」「保持条件が毎回違う」「肩・肘の緊張を放置」の 3 つです。対策は、しびれを主語に聴取すること、時間を固定すること、同条件で左右差を取ることに集約されます。
| NG | 起きる理由 | まず直す 1 点 | OK 記録例 |
|---|---|---|---|
| 局所痛だけで(+) | 痛みとしびれを未分離 | しびれを主語に再聴取 | 母指〜中指しびれ(+)/局所痛のみ(−) |
| 条件が毎回違う | 保持時間の未固定 | 30 秒基準に統一 | 保持 30 秒、15 秒でしびれ(+) |
| 肩・肘が緊張したまま実施 | 姿勢調整不足 | 開始前に脱力確認 | 頸肩緊張なし、同条件で左右差評価 |
回避の手順/チェック|5 分で増やさず決める
- 症状 1 行要約:分布(正中/尺骨)+時間帯(夜間)+増悪動作
- 手根管部圧痛を参考確認
- 感覚分布:母指〜中指(正中)と小指(尺骨)を分ける
- Phalen:30 秒実施、出現秒数を記録
- 確認は 1 本:Durkan など別角度誘発で整合性確認
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Phalen が陽性なら、手根管症候群で確定ですか?
確定ではありません。Phalen は入口として有用ですが、病歴や分布、追加所見を合わせて判断します。実務では Durkan など別角度の誘発を 1 本追加し、所見が揃うかを確認すると判断が安定します。
痛みだけで、しびれは出ません。陽性ですか?
局所痛のみは陽性解釈が難しいです。Phalen の主語は正中神経領域のしびれ・感覚異常です。姿勢と条件を整えたうえで、分布確認を先に行って再評価してください。
保持時間は 30 秒と 60 秒のどちらが良いですか?
運用上は 30 秒を基準に固定し、必要時のみ 60 秒へ延長する方法が再現性を担保しやすいです。最重要は、施設内で同条件を統一することです。
手関節の可動域制限で掌屈位が作りにくいときは?
無理な角度で実施すると別の疼痛が混ざります。分布評価を先に行い、角度依存が比較的少ない確認テスト(例:手根管圧迫)を補助的に使って仮説を整理します。
次の一手|手部テストの全体像へ戻る
- 全体像を整理する:整形外科的テスト一覧(部位別ハブ)
- 手部テストをまとめて確認する:手関節・手部の整形外科テスト(親記事)
参考文献
- D’Arcy CA, McGee S. The rational clinical examination. Does this patient have carpal tunnel syndrome? JAMA. 2000;283(23):3110-3117. doi:10.1001/jama.283.23.3110
- MacDermid JC, Wessel J. Clinical diagnosis of carpal tunnel syndrome: a systematic review. J Hand Ther. 2004;17(2):309-319. doi:10.1197/j.jht.2004.02.015
- Durkan JA. A new diagnostic test for carpal tunnel syndrome. J Bone Joint Surg Am. 1991;73(4):535-538. PubMed
- Wainner RS, Fritz JM, Irrgang JJ, et al. Development of a clinical prediction rule for the diagnosis of carpal tunnel syndrome. Arch Phys Med Rehabil. 2005;86(4):609-618. doi:10.1016/j.apmr.2004.11.008
- Zhang D, Collins J, Earp BE, Blazar P. Accuracy of provocative tests for carpal tunnel syndrome. J Hand Surg Glob Online. 2022;4(2):116-121. PubMed Central
- Phalen GS, Kendrick JI. Compression neuropathy of the median nerve in the carpal tunnel. JAMA. 1957;164(5):524-530. doi:10.1001/jama.1957.02980050014005
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


