ECS(Emergency Coma Scale)とは:評価基準・Ⅲ桁5段階と使い分け
ECS(Emergency Coma Scale)は、JCS の枠組みを保ちながら覚醒の定義を拡張し、Ⅲ桁(痛みでも覚醒しない領域)を5 段階に細分化した意識レベル評価法です。JCS/GCS の長所を活かしつつ、現場での迅速性・再現性・表現力を高める目的で 2003 年に提案されました。本記事では、設計思想・評価基準・記録例・JCS/GCS との使い分けを図解で整理します。
ECSの位置づけ(JCS/GCSとの関係)
JCS は「覚醒(開眼)」依存のシンプルな分類、GCS は E/V/M の 3 要素で詳細に表現できる反面やや複雑です。ECS は JCS の構造を基礎に、覚醒の定義=開眼・発語・合目的動作のいずれかと再定義し、Ⅲ桁の運動反応を細かく表現することで、臨床での伝達精度を高めます。
覚醒の定義と実務の注意
- 覚醒の定義:「自発的な開眼」または「発語」または「合目的動作」のいずれかが観察できれば覚醒あり。
- 刺激の段階化:呼名 → 大声 → 有害刺激(例:爪床圧迫)を短時間で行い、同条件・同刺激で再評価。
- 禁忌・配慮:外傷部位への刺激は避ける/過大刺激は禁止。挿管や失語がある場合は適切に注記。
Ⅰ・Ⅱ桁の簡素化(JCS準拠の再設計)
| 桁 | 定義 | 代表例 | ポイント |
|---|---|---|---|
| Ⅰ桁 | 刺激なしでも覚醒(定義に合致) | 清明/軽度の見当識障害 | 会話の速度・正確さも確認 |
| Ⅱ桁 | 刺激で覚醒(呼名/有害刺激) | 呼名で開眼・応答/有害刺激で反応 | 刺激の種類を併記すると再評価◎ |
Ⅲ桁の5段階(除皮質・除脳を含む)
Ⅲ桁は「痛みでも覚醒しない」状態。ECS はここを 5 段階に細分化し、脳幹障害や運動反応を表現しやすくします。
JCS・GCSとの違いと使い分け
| 項目 | JCS | GCS | ECS |
|---|---|---|---|
| 基本構造 | Ⅰ/Ⅱ/Ⅲ 桁 | E/V/M の 3 要素 | JCS準拠+定義拡張 |
| 覚醒の定義 | 主に開眼 | E(開眼)を明示 | 開眼・発語・合目的動作 |
| Ⅲ桁の表現 | 100/200/300 | M(1–6)で表現 | 5段階(除皮質/除脳含む) |
| 迅速性/再現性 | ◎(簡便) | △(訓練要) | ◎(簡素+表現力) |
| 向く場面 | 初期トリアージ | 詳細評価/外傷 | 初期〜経時比較の橋渡し |
記録と共有(略記・再評価の原則)
- 刺激の明示:呼名/大声/爪床圧迫などを併記(例:
ECS Ⅱ(呼名))。 - Ⅲ桁の段階:例:
ECS Ⅲ-D(異常屈曲)、左右差や瞳孔所見を追記。 - 再評価:同条件・同刺激で時間を固定して比較(施設 SOP に従う)。
ケースミニ問題(ECS)
問題 1:大声呼名では開眼しない。爪床圧迫で右上肢が刺激部位へ手を伸ばすように動く。瞳孔 3/3、対光あり。ECS は?
答え:ECS Ⅲ-B(定位/払いのけ)。刺激部位へ狙う動きがあるため「定位」に該当。
問題 2:強い爪床圧迫で両上肢に伸展優位の反応を認め、呼名・発語なし。ECS は?
答え:ECS Ⅲ-E(伸展/除脳)。伸展反応が優位で、覚醒所見はなし。
FAQ(2問)
鎮静中や挿管中はどう記録する?(Vや発語が評価できない)
ECS は覚醒の定義を拡張しているため、合目的動作の有無と刺激反応で段階化できます。挿管・強鎮静時はその事実を注記し、刺激の種類・左右差・瞳孔所見を併記して、同条件での経時比較を重視します(例:ECS Ⅲ-C;爪床圧迫 5秒;右>左;鎮静下)。
片麻痺がある場合、Ⅲ桁の「定位」や「逃避」はどう判定する?
健側/患側の左右差を必ず併記し、刺激部位に向かう合目的動作の有無で段階化します。患側は定位が困難でも、健側で定位があれば Ⅲ-B(定位) と記録し、「右優位」「左反応乏しい」などを追記。失行や失認が疑われる場合は併記して解釈を補助します。
参考文献
- 高橋千晶, 奥寺 敬. 新しいスケール:Emergency Coma Scale の開発の経緯と有用性の検討. 日本交通科学協議会誌. 2017;16(1):3–. J-STAGE
- Takahashi C, et al. Validation of the Emergency Coma Scale. Am J Emerg Med. 2011;29:196–202. doi:10.1016/j.ajem.2009.09.018
- Teasdale G, Jennett B. Assessment of coma and impaired consciousness. Lancet. 1974;2(7872):81–84. doi:10.1016/S0140-6736(74)91639-0
おわりに
現場では「安全の確保 → 段階刺激 → ECS 段階化 → 同条件で再評価」のリズムが要。ECS を JCS/GCS と適切に使い分ければ、初期評価から経時比較まで一貫した記録が可能になります。以下の配布物も活用し、評価〜共有の精度を高めてください。
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