頸静脈評価(JVP)は右房圧・うっ血をみるベッドサイド所見です
頸静脈評価(JVP)は、右内頸静脈の拍動上端を観察し、右房圧上昇や全身うっ血の可能性を捉える身体所見です。まず30–45°を出発点に右内頸静脈を確認し、胸骨角からの高さと呼吸による変化をみます。見えにくい場合は体位を調整し、座位簡便法やHJRを補助的に使います。
重要なのは、JVPだけで心不全の診断や離床可否を決めないことです。PT・OT・STが使う場合は、「うっ血を疑う所見があるか」「前回から変化したか」「他の呼吸・循環所見と整合するか」を確認し、再評価やチーム共有につなげます。本記事では、JVPの見方から記録の型までを整理します。

JVPの見方|30–45°から右内頸静脈の最上点を測る
JVPは、30–45°を出発点に右内頸静脈の拍動上端を確認し、胸骨角からの垂直距離を測るのが基本です。30°や45°に固定することよりも、静脈拍動の最上点が確認できる体位へ調整し、その角度も記録することが重要です。
| 項目 | 確認すること | 記録すること |
|---|---|---|
| 体位 | 30–45°を出発点に、静脈拍動の上端が見える角度へ調整する | ベッド角度(例:35°) |
| 観察側 | 右内頸静脈を基本に確認する | 右頸部で観察 |
| 頸部 | 首を過度に回旋させず、胸鎖乳突筋を緊張させない | 観察困難なら条件も残す |
| 照明 | 皮膚表面の微細な拍動が分かる方向から光を当てる | 再評価時も可能な範囲で条件をそろえる |
測定は5ステップで行う
- 上体を30–45°程度に起こし、頸部をリラックスさせる
- 右胸鎖乳突筋周囲に伝わる内頸静脈の拍動を探す
- 静脈拍動の最も高い位置を確認する
- 胸骨角を基準に、最上点までの垂直距離をcmで測る
- 吸気で高さが低下するかを確認し、体位角度とともに記録する
一般的なベッドサイド評価では、胸骨角から3cmを超える高さはJVP上昇の目安です。胸骨角から右房までを約5cmとして換算すると約8cmH₂Oに相当しますが、この距離には体格や体位による誤差があります。そのため、1回の数値だけで病態を決めず、同じ測定方法での経時変化も合わせて確認します。
頸静脈と頸動脈を見分ける
JVPで避けたいのは、頸動脈の拍動を静脈拍動と誤認することです。1つの特徴だけで決めず、拍動の形、触知、呼吸や体位による変化を組み合わせて確認します。
| 確認点 | 内頸静脈拍動 | 頸動脈 |
|---|---|---|
| 拍動 | 複数の波として見えることがある | 明瞭な単一拍動として感じやすい |
| 触知 | 通常は明瞭に触れない | 拍動を触知できる |
| 呼吸 | 通常は吸気で低下する | 呼吸による高さの変化は乏しい |
| 体位 | 上体の角度によって見える高さが変化する | 体位で拍動位置が大きく上下しにくい |
見えにくいときは座位法・吸気反応・HJRで補う
標準法だけで判断しにくい場合は、座位での簡便評価、吸気に対する反応、HJRを追加します。いずれもJVPだけで診断するための手技ではなく、右房圧上昇や全身うっ血の可能性を補足する所見として使います。
座位簡便法|右鎖骨上に内頸静脈拍動が見えるか
座位で右内頸静脈の拍動が右鎖骨より上に明らかに見える場合は、高いJVPを疑う所見になります。通常法より簡便で、心不全患者を対象とした研究でも、高い静脈圧を拾う方法として検討されています。
一方、座位で見えないから正常とは限りません。座位法は著明に高いJVPを拾いやすい反面、軽度〜中等度の上昇を見逃す可能性があります。見えない場合は「正常」と決めつけず、標準法へ戻るか、同条件で経時的に確認します。
吸気反応|通常は吸気でJVPが低下する
通常は吸気に伴ってJVPが低下します。反対に、吸気でJVPが上昇する、または十分に低下しない反応は異常な吸気反応として捉え、右心系の充満障害などを考える手掛かりになります。
この反応だけで病態を確定せず、「吸気で低下:有/無」のように観察結果を残し、他の循環・呼吸所見と合わせて共有します。
HJR|腹部圧迫でJVP上昇が持続するかを確認する
HJRは、腹部を一定時間圧迫して静脈還流を増やし、JVP上昇が持続するかを確認する手技です。文献ではhepatojugular reflux、abdominojugular refluxなどの名称が使われますが、ここでは腹部圧迫に対する頸静脈の反応として整理します。
- JVPを観察できる体位を整え、圧迫前の高さを確認する
- 上腹部を一定の圧で約10秒間持続圧迫する
- 圧迫によるJVP上昇量と、その上昇が持続するかを確認する
NEJMの手技では、JVPが4cmを超えて上昇し、その上昇が10秒間の腹部圧迫中持続する場合を異常としています。HJRの判定方法には文献による違いがあるため、施設で統一した方法がある場合は、その基準を優先してください。
圧迫中に痛みや呼吸苦、表情の明らかな悪化が生じた場合は中止します。HJRを実施できない場合でも、標準法、呼吸反応、他のうっ血所見を使って評価を続けます。
JVP記録シートPDF|体位・呼吸反応・HJRまで1枚で残せる
JVPは、測定値だけでなくどの体位・どの条件で観察したかを残すことで再評価しやすくなります。体位角度、観察側、呼吸性変動、HJR、必要時のPOCUS所見まで1枚で記録できるA4シートを用意しています。
PDFをここでプレビュー表示する
JVPが高いとき|単独で離床可否を決めず他の所見を確認する
JVP上昇は右房圧上昇や全身うっ血を疑う重要な所見ですが、JVPだけを理由に「離床できる」「リハビリを中止する」「運動強度を下げる」と決めるものではありません。新たな上昇や前回からの悪化を認めた場合は、呼吸状態、症状、血圧、SpO₂、浮腫、体重変化などを追加確認します。
| 所見 | 考えること | 次に確認すること | PT・OT・STの対応 |
|---|---|---|---|
| JVP上昇 | 右房圧上昇・全身うっ血の可能性 | 呼吸苦、RR、SpO₂、血圧、浮腫、体重変化 | 単独で負荷を決めず、他所見と前回値を確認する |
| 座位でも右鎖骨上に可視 | 著明に高いJVPの可能性 | 安静時症状、呼吸循環所見、前回との変化 | 新規・悪化所見ならチームへ共有する |
| HJR異常 | 右房圧上昇を支持する所見 | 標準法のJVP、呼吸状態、浮腫など | 単独所見にせず、他所見との整合性を確認する |
| 吸気で低下しない・上昇する | 異常な吸気反応 | 症状、呼吸循環所見、既往・検査情報 | 新たな所見なら共有し、原因評価につなげる |
| 毎回結果が異なる | 観察条件や誤認の影響 | 角度、観察側、頸部緊張、拍動の同定 | 条件をそろえて再評価する |
心不全の所見を複数組み合わせて整理したい場合は、フラミンガム基準の判定と使い方も参考になります。ただし、フラミンガム基準やJVPだけで現在の心不全診断や離床可否を確定するものではありません。
JVPの記録|体位・高さ・呼吸反応を同じ型で残す
JVPの再評価では、単に「JVP高値」と書くより、体位、観察側、高さ、呼吸反応をセットで記録した方が次回の比較がしやすくなります。数値を取れなかった場合も、何をどの条件で確認できたかを残します。
| 項目 | 記載例 |
|---|---|
| 体位 | 半坐位35° |
| 観察側 | 右内頸静脈拍動を観察 |
| 高さ | 胸骨角+2cm |
| 座位簡便法 | 座位・右鎖骨上の静脈拍動:可視なし |
| 呼吸反応 | 吸気で低下あり |
| HJR | 腹部10秒圧迫:持続上昇なし |
| 併読所見 | RR、SpO₂、血圧、浮腫、体重、呼吸苦などの変化 |
| POCUS | 実施した場合のみ、施設の記録方法に従って併記 |
記録例:「半坐位35°、右内頸静脈。JVPは胸骨角+2cm、吸気で低下あり。HJRで持続上昇なし。前日と比べ著変なし。」
POCUSはJVPが見えにくい場合の補助として使う
視診によるJVP評価が難しい場合は、施設の運用や実施者の習熟度に応じてPOCUSで内頸静脈や下大静脈などを確認する方法があります。さらにVExUSは複数の静脈血流を組み合わせて全身静脈うっ血を評価する方法ですが、視診によるJVPそのものと同じ評価ではありません。
この記事ではPOCUSやVExUSの詳細な撮像・判定方法までは扱わず、JVPが観察困難な場合に追加評価を検討する位置づけとします。
JVPで迷いやすい4つの場面
JVPは知識だけでなく、観察条件や拍動の同定によって結果が変わります。うまく評価できない場合は、数値を無理に出すのではなく、体位・観察側・頸部の緊張・拍動の同定へ戻って確認します。
| 迷う場面 | 起きている可能性 | 見直すポイント |
|---|---|---|
| 45°で見えない | JVPが低い、高すぎる、または視認困難 | 角度を上下させ、座位法も追加する |
| 拍動は見えるが自信がない | 頸動脈との誤認 | 触知、呼吸反応、体位による変化を確認する |
| 担当者ごとに値が違う | 体位や観察条件の不一致 | 角度・観察側・測定基準を記録する |
| JVPだけ悪化している | うっ血変化または測定誤差 | 再測定し、症状・RR・SpO₂・血圧・浮腫・体重と照合する |
JVP評価でよくある質問
Q1.45°でJVPが見えない場合は正常ですか?
正常とは限りません。JVPが低く鎖骨より下にある場合だけでなく、非常に高く観察範囲より上にある場合や、体格・頸部形態によって視認しにくい場合があります。上体角度を調整し、必要に応じて座位簡便法も追加します。
Q2.JVPは何cm以上なら高いと考えますか?
一般的なベッドサイド法では、胸骨角から静脈拍動の最上点までが3cmを超える場合をJVP上昇の目安とします。胸骨角から右房まで約5cmとして換算すると約8cmH₂Oに相当しますが、この距離には個人差や体位による誤差があります。単一値だけで病態を決めず、同じ条件での経時変化も確認します。
Q3.HJRは何cm上がれば異常ですか?
判定方法には文献による違いがあります。NEJMの手技では、腹部圧迫によりJVPが4cmを超えて上昇し、その上昇が10秒間の圧迫中持続する場合を異常としています。施設で統一した方法がある場合は、その基準を優先してください。
Q4.JVPが高ければリハビリを中止しますか?
JVP高値だけで一律に中止とは判断しません。JVPは右房圧上昇や全身うっ血を疑う所見の1つです。呼吸苦、RR、SpO₂、血圧、胸部症状、浮腫、体重変化などを確認し、新規または増悪所見であればチームへ共有して離床・運動の可否を再評価します。
次の一手
参考文献
- Assavapokee T, Thadanipon K. Examination of the Neck Veins. N Engl J Med. 2020;383(24):e132. doi:10.1056/NEJMvcm1806474. PubMed
- Chiaco JMSC, Parikh NI, Fergusson DJ. The jugular venous pressure revisited. Cleve Clin J Med. 2013;80(10):638-644. doi:10.3949/ccjm.80a.13039. PubMed
- Iwata H, Miwa Y, Ikehara Y, Yodoshi T, Ueda S. The clinical value of hepatojugular reflux on congestive heart failure: A meta-analysis. J Gen Fam Med. 2022;23(6):393-400. doi:10.1002/jgf2.574. PubMed
- Beaubien-Souligny W, Rola P, Haycock K, Bouchard J, Lamarche Y, Spiegel R, et al. Quantifying systemic congestion with Point-Of-Care ultrasound: development of the venous excess ultrasound grading system. Ultrasound J. 2020;12(1):16. doi:10.1186/s13089-020-00163-w. PubMed
- Kitai T, Kohsaka S, Kato T, Kato E, Sato K, Teramoto K, et al.; Japanese Circulation Society and the Japanese Heart Failure Society Joint Working Group. JCS/JHFS 2025 Guideline on Diagnosis and Treatment of Heart Failure. Circ J. 2025;89(8):1278-1444. doi:10.1253/circj.CJ-25-0002. PubMed
- Sinisalo J, Rapola J, Rossinen J, Kupari M. Simplifying the estimation of jugular venous pressure. Am J Cardiol. 2007;100(12):1779-1781. doi:10.1016/j.amjcard.2007.07.030. PubMed
- Shako D, Kawasaki T, Kasai K, Sato Y, Honda S, Sakai C, et al. Jugular Venous Pressure Response to Inspiration for Risk Assessment of Heart Failure. Am J Cardiol. 2022;170:71-75. doi:10.1016/j.amjcard.2022.01.037. PubMed
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

