褥瘡ハイリスク患者ケア加算とは?
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褥瘡ハイリスク患者ケア加算は、「褥瘡が発生しやすい高リスク患者」を早期に抽出し、予防的な看護と多職種連携を行ったことを評価する入院料加算です。ショック・長時間手術・強度の下痢・医療関連機器など、褥瘡リスクを一気に高める状況が対象になります。
この加算を算定するには、褥瘡対策チームの整備やリスクアセスメントの実施だけでなく、毎年の施設基準の届出・報告が欠かせません。その中核になるのが「褥瘡ハイリスク患者ケア加算に係る報告書(様式 37 の 2 )」です。本記事では、様式の意味と ①〜④ の数え方、ハイリスク 9 項目の整理、月次集計の運用のコツをまとめます。
報告書(様式 37 の 2 )の役割と位置づけ
「褥瘡ハイリスク患者ケア加算に係る報告書(様式 37 の 2 )」は、ハイリスク患者の抽出と予防ケアが日常的に運用されているかを確認するための実績報告です。加算を算定した患者数だけでなく、入院患者全体に対するリスクアセスメント実施状況や、ハイリスク患者の割合もあわせて示す点がポイントです。
実務上は、年 1 回(多くは 8 月頃)に「前年度分の実績」として報告する形になりますが、その裏側には月次の集計やチームカンファレンスが必要です。様式 37 の 2 は単発の書類ではなく、「月次集計 → 年次報告」という流れのゴールとして捉えると運用しやすくなります。
①〜④ の意味とカウントのポイント
様式 37 の 2 では、基本となる 4 つの数値( ①〜④ )を報告します。ここを取り違えると、集計がやり直しになったり、実態と合わない数字が出てしまうので、定義をチームでそろえておきましょう。
| 項目 | 対象となる人数 | カウントのポイント |
|---|---|---|
| ① 入院患者数 | 報告対象期間中に入院していた患者実人数 | 褥瘡の有無に関わらず全入院患者が対象です。同じ患者が期間中に再入院しても 1 名として扱うかどうか、院内ルールを決めておきます。 |
| ② ① のうち褥瘡リスクアセスメント実施人数 | Braden などのリスクアセスメントを実施した患者人数 | 複数回評価していても、 1 患者あたり 1 回としてカウントします。評価ツール名と評価タイミング(入院時・定期など)を記録しておくと、後の監査にも対応しやすくなります。 |
| ③ ② のうち褥瘡ハイリスク項目該当患者数 | ハイリスク 9 項目のいずれかに該当する患者実人数 | 患者単位では 1 名ですが、ハイリスク 9 項目ごとの人数集計では複数回答可です(例: No.3 と No.4 に同時該当なら、両方の項目に 1 名ずつカウント)。 |
| ④ 本加算算定人数 | 実際に加算を算定した患者人数 | 「ハイリスクに該当するが算定していない患者」がどのくらいいるかを把握することで、算定漏れや運用上の課題が見えてきます。 |
① は「母集団」、② は「リスクアセスメントの実施率」、③ は「ハイリスク患者の比率」、④ は「加算算定率」というイメージで捉えると、数字同士の関係がわかりやすくなります。毎月この 4 つを並べて見ることで、「評価はできているが算定につながっていない」「そもそもリスクアセスメントの実施率が低い」といった課題を共有しやすくなります。
ハイリスク 9 項目を臨床イメージで整理する
ハイリスク 9 項目は通知上の文言がやや抽象的で、「どこまで含めるか」が現場で迷いやすいところです。ここでは、理学療法士・看護師がカンファレンスで共有しやすいよう、典型場面と褥瘡リスクの理由をセットで整理します。
| No. | ハイリスク項目 | 典型的な場面 | 褥瘡リスクとなる理由 |
|---|---|---|---|
| 1 | ショック状態 | 敗血症性ショック、心原性ショック、出血性ショックなどで昇圧剤管理中 | 末梢循環が著しく低下し、仙骨・踵など末端部位の血流が保てず、短時間で深い褥瘡が形成され得ます。 |
| 2 | 重度の末梢循環不全 | 重度心不全・末梢動脈疾患・高度浮腫を伴う症例 | 軽度の圧迫でも組織虚血が起こりやすく、通常の体位変換間隔では不十分な場合があります。 |
| 3 | 麻薬等の鎮痛・鎮静剤の持続使用 | ICU での鎮静管理中、持続硬膜外麻酔や PCA 使用中など | 自発的な体位変換や痛みの訴えが減り、長時間同一部位に荷重が集中しやすくなります。 |
| 4 | 6 時間以上の全身麻酔下手術 | 心臓外科・脊椎手術・大血管手術など長時間仰臥位が続く症例 | 長時間の圧迫と体温低下・循環変動が重なり、術後早期から深部組織損傷が顕在化しやすくなります。 |
| 5 | 特殊体位での手術 | 腹臥位・砕石位・側臥位固定など | 通常とは異なる部位(顔面・胸骨・膝・肘など)に圧迫が集中し、予想外の部位に褥瘡が生じるリスクがあります。 |
| 6 | 強度の下痢が続く状態 | 抗生剤関連下痢、化学療法、腸炎などで頻回の水様便が持続 | 便失禁による皮膚湿潤と摩擦が増え、 IAD (失禁関連皮膚障害)を経て褥瘡へ進展しやすくなります。 |
| 7 | 極度の皮膚脆弱 | 高齢の重度フレイル、ステロイド長期使用、 GVHD 、黄疸など | ごく軽い剪断やテープ固定でも表皮剥離が起こりやすく、防水シーツやスライディングでの工夫が必須となります。 |
| 8 | 医療関連機器の長期・持続使用 | マスク型 NPPV 、酸素カニューレ、弾性ストッキング、シーネやギプス固定など | 機器接触部位の局所圧迫が続き、「医療機器関連圧迫損傷」という形で褥瘡が生じるため、パッドや当て物の工夫が重要です。 |
| 9 | 既に褥瘡を有し、危険因子を伴う状態 | 既存褥瘡に加え、病的骨突出・浮腫・皮膚湿潤などを合併 | 既に脆弱な皮膚・軟部組織に追加のストレスがかかるため、悪化・新規発生の双方に注意が必要です。 |
9 項目のうち複数に該当する患者は、集計上は① 患者数: 1 名、③ ハイリスク患者数: 1 名ですが、項目別集計では該当する番号すべてに 1 名ずつカウントします。月次カンファレンスでは、「どの項目が多いか」「病棟や診療科で傾向が違うか」を確認して、重点的な対策を決めていくと効果的です。
月次集計の流れとチーム内の分担
年 1 回の報告書だけで考えると負担が大きく感じますが、実務としては「月次で軽く回す仕組み」を作っておくのが現実的です。特に、褥瘡対策チーム(専任看護師・リンクナース・リハ・栄養など)の役割分担を明確にしておくと、集計漏れや担当者依存を防げます。
一例として、次のような流れが回るとスムーズです。① 入院患者一覧からリスクアセスメント実施状況を抽出し、② 褥瘡対策チームでハイリスク 9 項目の該当を確認、③ 算定患者をレセプト点検と照合し、④ 月次カンファレンスで数字と事例を振り返る、というサイクルです。この積み重ねが、そのまま様式 37 の 2 に転記できる「年次実績」になります。
集計ヘルパー A4 シートの使い方
rehabilikun blog では、様式 37 の 2 に対応した「月次集計ヘルパー A4 シート( HTML )」を作成しました。印刷して手書きで運用しても、ブラウザで開いて画面上の補助として使っても構いません。
構成は、①〜④ のサマリー表、ハイリスク 9 項目別の人数、患者単位のハイリスク一覧の 3 ブロックです。月末に各病棟から情報を集め、このシートに転記しておくと、年次報告の際に様式 37 の 2 へほぼそのまま写すだけで済みます。
褥瘡ハイリスク患者ケア加算 集計ヘルパー A4( HTML )を開く
最初から完璧を目指す必要はなく、「まずは 1 か月分だけ埋めてみる」「多かった項目・病棟をカンファレンスで共有する」といった小さな一歩から始めていくのがおすすめです。半年ほど続けると、施設としての課題や強みが数字に表れてきます。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q. 記録が不十分で ①〜④ の数字があいまいなとき、どうすればよいですか?
まずは「今後の記録方法」を先に整え、そのうえで過去分は可能な範囲で遡って集計するのが現実的です。電子カルテや褥瘡ラウンド記録から、リスクアセスメント実施日・ハイリスク該当の有無・加算算定日を拾えるか確認しましょう。どうしても欠損が大きい期間については、施設内で経緯を共有し、褥瘡対策委員会の議事録などに残しておくと、後の監査でも説明しやすくなります。
Q. ハイリスク該当が「ほとんど 0 」または「極端に多い」場合は問題ですか?
極端な数字は、「評価の抜け」または「基準が広すぎる」サインかもしれません。例えば、 ICU を有する急性期病院で 1 年間ハイリスク該当がほぼ 0 であれば、長時間手術やショック症例の拾い方を見直す必要があります。一方で、ほとんどの入院患者がハイリスクにカウントされている場合は、項目の解釈が広すぎるか、リスクアセスメント自体の運用に課題があることが多いです。病棟ごとの傾向を比較しながら、チームで基準をそろえていきましょう。
Q. 月の途中で入退院や病棟転棟があった患者は、①〜④ をどのようにカウントすればよいですか?
基本的には、「その月のあいだに対象病棟に在院したかどうか」で整理し、①〜④ すべて患者実人数でカウントするのが分かりやすいです。例えば、同じ月内に一般病棟から対象病棟へ転棟した患者は、対象病棟の①(入院患者数)として 1 名、リスクアセスメントを実施していれば②、ハイリスク該当があれば③、加算を算定していれば④にも 1 名として反映します。
再入院や他病棟とのまたがりが多い施設では、「同一患者が同じ年度内に複数回対象期間に入院した場合はどう扱うか」など、院内でルールを文書化しておくことが大切です。ルールを決めたら、月次集計ヘルパー A4 シートや様式 37 の 2 の備考欄に簡単に記録しておくと、翌年度以降の再現性と説明のしやすさが高まります。
おわりに
褥瘡ハイリスク患者ケア加算に係る報告書は、「書類作成」のためではなく、日常のリスクアセスメントと予防ケアがどれだけ機能しているかを映し出す鏡のような存在です。①〜④ の数字の背景にある患者像やチームの動きを丁寧に振り返ることで、褥瘡対策の弱点と強みが浮かび上がってきます。
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著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

