- 脳卒中の高齢者にVRリハを使うなら「始める条件」と「止める条件」を先に決める
- 結論|VRは追加の反復枠。最も安全に課題が成立する条件から始める
- どこで止めるか|VR酔い・姿勢の破綻・不安や混乱を見逃さない
- 誰から始めるか|年齢より「課題理解・姿勢・操作・症状」を確認する
- どのVRを選ぶか|没入度とゲーム性を混同しない
- VRで何が期待できるか|通常リハへの「追加練習」として考える
- 何分行うか|「標準時間」より耐容性と反復量で調整する
- 1セッションの回し方|準備 → 反復 → 再評価を固定する
- 何を記録するか|「量・質・安全」の3方向で残す
- 現場の詰まりどころ|機器より「目的・難度・安全・記録」で止まりやすい
- よくある質問(FAQ)
- 次の一手|機器選択は親記事、在宅運用はテレリハ記事で確認する
- 参考文献
- 著者情報
脳卒中の高齢者にVRリハを使うなら「始める条件」と「止める条件」を先に決める
脳卒中のVRリハビリテーションは、通常のリハビリを置き換えるためのものではなく、上肢運動やバランス課題などの反復量を増やす補助手段として活用できます。ただし、高齢者ではVR酔い、ふらつき、視覚的不快感、疲労、操作の難しさなどによって継続できないことがあります。
このページでは、脳卒中の高齢者へVRを導入するときに迷いやすい「誰なら始められるか」「どこで中止するか」「次回どう調整するか」を中心に整理します。特定の機器や時間を一律に当てはめるのではなく、安全に課題を反復できる条件を患者ごとに決めることが基本です。
結論|VRは追加の反復枠。最も安全に課題が成立する条件から始める
VRを導入するときは、まず何の反復を増やしたいのかを1つ決めることが重要です。上肢なら到達・把持・操作、バランスなら荷重移動など、通常リハで増やしたい課題とVR内の課題を対応させます。
高齢であることだけを理由に「非没入型」「座位」「○分」と固定する必要はありません。一方、VRへの耐性や姿勢保持能力が十分に分からない初回は、安全を確保しやすい姿勢と低い課題負荷から試し、反応を確認しながら段階的に広げる方法が実務的です。
開始前には、少なくとも課題理解・姿勢保持・機器操作・開始前の症状を確認します。使用するVR機器固有の注意事項や禁忌については、製品の取扱説明書と施設内手順も確認してください。

どこで止めるか|VR酔い・姿勢の破綻・不安や混乱を見逃さない
VRを開始する前に、何が起きたら中断するかを決めておきます。VR特有の問題として確認したいのは、めまい、吐き気、頭痛などのサイバーシックネス、視覚的不快感、姿勢の不安定化、強い疲労、不安や混乱の増強です。
症状が出た場合は、無理に続けて慣らすのではなく、いったんVRを中断して安全な姿勢で状態を確認します。次回実施する場合は、姿勢、視覚刺激、課題難度、実施時間、表示方式などを見直します。
スマートフォンでは表を横スクロールできます。
| 確認する変化 | その場の対応 | 次回の見直し |
|---|---|---|
| めまい・吐き気・頭痛など | VRを中断し、症状の推移を確認する | 刺激量・実施時間・表示方式を見直す |
| ふらつき・姿勢保持の破綻 | 課題を中断して転倒を防ぐ | 座位への変更、支持物・介助方法を再検討する |
| 強い疲労・不快感 | 休止または終了して状態を確認する | 課題量・休憩・難度を見直す |
| 不安・混乱・課題理解の低下 | いったんVR環境から離れて状態を確認する | 指示や画面情報を単純化し、課題負荷を下げる |
| 頸部痛など装着に伴う不快感 | 装着状態と姿勢を確認し、中断する | 機器・装着方法・実施姿勢を見直す |
なお、VR実施中に生じたすべての体調変化を「VR酔い」と判断してはいけません。VRとは別の医学的問題が疑われる場合は、通常のリハビリと同様に施設の中止・報告・緊急対応基準を優先します。
誰から始めるか|年齢より「課題理解・姿勢・操作・症状」を確認する
高齢であること自体をVRの適応・非適応の境界にするのではなく、そのVR課題を安全に成立させられるかを確認します。
- 課題理解:指示を理解し、開始・終了や中断の合図を共有できるか
- 姿勢保持:画面やHMDへ注意が向いても、必要な座位・立位を安全に維持できるか
- 視覚・感覚:VR刺激によってめまい・不快感などが増えないか
- 操作:コントローラーや手の動作認識などを課題遂行に必要な範囲で扱えるか
- 疲労・不安:開始前から強い疲労や不安、体調不良がないか
認知機能、視覚機能、運動麻痺などの影響は、使用するVRシステムや課題によって異なります。「脳卒中だから」「高齢だから」と一律に除外するのではなく、必要な支援を含めて課題が成立するかを確認します。
どのVRを選ぶか|没入度とゲーム性を混同しない
VRは、表示環境によって非没入型・半没入型・完全没入型などに分けて整理できます。一方、エクサゲームやリハビリ用ゲームは「どのような課題を行うか」というコンテンツ側の分類です。
そのため、「HMDかゲームか」という選び方ではなく、どの程度没入させるかと何の課題を反復するかを分けて考えると整理しやすくなります。
スマートフォンでは表を横スクロールできます。
| タイプ | 主な特徴 | 導入時に確認すること |
|---|---|---|
| 非没入型 | モニタなどを見ながら仮想課題を行う | 画面への注意、操作方法、姿勢、代償動作 |
| 半没入型 | 大型画面や動作認識などにより没入感を高める | 視覚刺激、動作範囲、周囲環境との関係 |
| 完全没入型(HMD) | HMDを使用して仮想環境への没入感を高める | めまい・不快感、装着負担、操作性、姿勢安全性 |
選ぶ基準は没入感の高さではありません。到達運動、把持、荷重移動など、その日の目的となる動作を安全に繰り返せるシステムかを優先します。
VRで何が期待できるか|通常リハへの「追加練習」として考える
2025年のCochraneレビューでは、脳卒中後のVR・インタラクティブゲームは、他の介入と比較して上肢機能やバランスをわずかに改善し、活動制限を改善する可能性が示されています。一方、研究によって機器や対象、介入方法が大きく異なり、歩行など一部のアウトカムでは結果が一貫していません。
臨床で特に参考になるのは、VRを通常ケアに追加して総治療時間を増やした場合に、上肢機能への利益が大きかった点です。そのため、VRそのものを目的にするのではなく、「通常リハだけでは不足している反復を増やせるか」という視点で導入を考えます。
また、同レビューでは完全没入型VRを扱った研究はまだ少数でした。完全没入型VRを用いた脳卒中上肢リハの報告でも、使いやすさや参加意欲への可能性が示される一方、研究規模や機器、実施条件にはばらつきがあり、標準化は今後の課題です。
何分行うか|「標準時間」より耐容性と反復量で調整する
VRリハの実施時間は、年齢だけで一律に決められるものではありません。研究では実施時間や頻度に幅があり、対象となる病期、VRの没入度、課題内容、疲労、サイバーシックネスなどを考慮する必要があります。
したがって、「高齢者なら○分」と固定するのではなく、初回や耐容性に不安がある場合は短い試行から反応を確認し、問題がなければ段階的に反復量を増やします。時間だけを見るのではなく、症状・成功率・代償・疲労を合わせて判断します。
1セッションの回し方|準備 → 反復 → 再評価を固定する
VRは設定を自由に変えられるため、目的を決めずに始めると「ゲームを行っただけ」で終わりやすくなります。そこで、1セッションを準備 → 反復 → 再評価の3段階に固定します。
スマートフォンでは表を横スクロールできます。
| 段階 | 確認・実施すること | 記録すること |
|---|---|---|
| 準備 | 体調・症状・姿勢を確認し、その日に増やしたい課題を1つ決める | 開始前状態、目的、姿勢、使用条件 |
| 反復 | 症状・成功率・代償を見ながら課題を反復し、必要に応じて難度を調整する | 時間、回数、成功率、代償、中断の有無 |
| 再評価 | 症状、疲労、代償、課題遂行の変化を確認する | 次回に維持・上げる・下げる条件 |
難度を上げるときは、一度に複数条件を変えるより、到達距離、速度、反復回数、支持面、姿勢などから1つずつ変更するほうが、何が課題遂行へ影響したのか判断しやすくなります。
何を記録するか|「量・質・安全」の3方向で残す
VRを継続的に調整するには、「VRを実施した」だけでは次回の判断につながりません。最低限、量・質・安全の3方向から記録します。
- 量:実施時間、反復回数など
- 質:成功率、動作範囲、代償動作など
- 安全:めまい、吐き気、頭痛、疲労、中断理由など
たとえば、「座位で上肢リーチ課題を実施。20回中16回成功。後半に体幹側屈が増加。めまい・吐き気なし。次回は難度を維持し、代償を再確認」のように残すと、次回に何を調整するか判断しやすくなります。
現場の詰まりどころ|機器より「目的・難度・安全・記録」で止まりやすい
VR導入後に詰まりやすいのは、機器の性能そのものより、何を目的に使うのか、どこまで難度を上げるのか、どこで止めるのか、何を記録するのかが曖昧な場合です。
よくある失敗
- 狙いが複数:上肢・バランス・認知課題を同時に追い、何を評価するか分からなくなる
- 難度が高すぎる:失敗や代償が増えても課題を続けてしまう
- 安全条件が曖昧:ふらつきやVR酔いが出てから中止方法を考える
- ゲーム成績だけを見る:スコアが上がっても、狙った動作の質が改善しているとは限らない
- 記録が残らない:前回の反応が分からず、次回も同じ設定確認から始まる
開始前から終了後までの確認手順
- 目的を決める:今日は何の反復を増やすのか1つに絞る
- 安全を確認する:姿勢保持と中断する条件を決める
- 低い負荷から試す:症状と課題遂行を確認する
- 1条件ずつ調整する:成功率・代償・疲労を見ながら難度を変える
- 次回条件を残す:量・質・安全と、次回に上げる・維持する・下げる条件を記録する
よくある質問(FAQ)
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Q1. 高齢者でもVRリハはできますか?
年齢だけで適否は決まりません。課題理解、姿勢保持、視覚・感覚、操作性、疲労や不安などを確認し、安全に課題を成立させられるかで判断します。
Q2. HMDとモニタ型はどちらから始めるべきですか?
一律にどちらを優先するとは決められません。HMDは高い没入感を得られる一方、めまい・不快感や装着負担、周囲が見えない状態での姿勢安全性を確認する必要があります。患者の目的、姿勢能力、操作性、症状に合わせて選びます。
Q3. VRリハは何分行えばよいですか?
すべての高齢脳卒中患者に共通する標準時間はありません。実施時間だけで決めず、VRの種類、病期、症状、疲労、成功率、代償を確認しながら調整します。初回や耐容性に不安がある場合は短い試行から確認します。
Q4. VR酔いが出たら続けて慣らしてよいですか?
無理に続けず、いったん中断して状態を確認します。次回は表示方式、視覚刺激、姿勢、課題難度、実施時間などを見直し、安全に実施できる条件へ戻します。
Q5. 立位でVRを行ってもよいですか?
立位保持が安全で、VRへ注意が向いても姿勢を保てる場合は選択肢になります。ただし、導入時や姿勢安全性に不安がある場合は座位から確認し、立位へ移行する場合は必要な支持・見守り・介助を設定します。
次の一手|機器選択は親記事、在宅運用はテレリハ記事で確認する
- VR・ロボット・刺激などの使い分けを確認する:脳卒中リハのテクノロジー活用|使い分けと運用
- 在宅での適応・安全・評価・記録を確認する:テレリハビリ運用の型|適応・安全・評価・記録
参考文献
- Laver KE, Lange B, George S, Deutsch JE, Saposnik G, Chapman M, Crotty M. Virtual reality for stroke rehabilitation. Cochrane Database Syst Rev. 2025;6(6):CD008349. DOI: 10.1002/14651858.CD008349.pub5 / PubMed: 40537150
- Lygouras D, Tsinakos A, Vadikolias K, Seimenis I. Exploring Usability and User Engagement in Fully Immersive Virtual Reality Systems for Upper Limb Stroke Rehabilitation: A Scoping Review. Prog Rehabil Med. 2026;11:20260020. DOI: 10.2490/prm.20260020
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- Lin C, Ren Y, Lu A. The effectiveness of virtual reality games in improving cognition, mobility, and emotion in elderly post-stroke patients: a systematic review and meta-analysis. Neurosurg Rev. 2023;46(1):167. DOI: 10.1007/s10143-023-02061-w / PubMed: 37415057
- Cieślik B. Virtual Reality Exergaming in Outpatient Stroke Rehabilitation: A Scoping Review and Clinician Roadmap. J Clin Med. 2025;14(20):7227. DOI: 10.3390/jcm14207227 / PubMed: 41156097
- 大門恭平, 濱嶋真弘, 緒方練人, 大川愛美, 室井明日香, 石川秀雄. リハビリテーション治療におけるバーチャルリアリティの活用. リハビリテーション医学. 2022;59(4):360-365. DOI: 10.2490/jjrmc.59.360
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

