リハビリ中のバイタル異常|まず負荷を止めて患者の状態を確認する
リハビリ中に血圧・脈拍・SpO₂などの異常値や体調変化へ気づいたときは、数値の原因を考え続ける前に、いったん負荷を中断し、患者の安全と症状を確認することが優先です。新人PTが迷いやすいのは、「もう一度測ればよいのか」「看護師へ報告するのか」「そのまま続けられるのか」という初動の順番です。
この記事では、離床・運動中に変化が起きた直後を対象に、中断 → 安全確保 → 患者を確認 → 緊急性を判断 → 必要なら再測定 → 経過をまとめて報告の順で整理します。具体的な中止基準や、その後の軽負荷・再開判断は別記事へ役割分担します。
バイタル異常に気づいた直後は6つの順番で対応する
最初に優先するのは「異常値が本物か」の確認ではなく、患者に負荷をかけ続けないことです。歩行・立位・運動をいったん中断し、転倒や転落を防げる状態を確保してから、症状と全身状態を確認します。

| 順番 | 行うこと | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 1 | 負荷を中断する | 歩行・立位・運動をいったん止める |
| 2 | 安全を確保する | 転倒を防ぎ、その時点で安全を保てる姿勢へ移行する |
| 3 | 患者を見る | 意識、呼吸、胸部症状、顔色、冷汗、めまい、脱力など |
| 4 | 緊急性を判断する | 再測定を待たず応援要請すべき状態ではないか |
| 5 | 必要に応じて再測定する | 測定条件を確認し、開始前値や直前値と比較する |
| 6 | 経過をまとめて報告する | 何をしていたか、症状、数値、対応、回復の有無を伝える |
この順番は、「6項目すべてを終えてから報告する」という意味ではありません。患者の状態によっては、途中で再測定よりも応援要請・報告を優先します。リハビリテーション医療では、有害事象を予防するだけでなく、発生した際の影響を最小限にする安全管理が重要です。1
再測定より応援要請を優先する変化を見逃さない
明らかな急変を疑う症状がある場合は、測定値を何度も取り直すことより、介入中断・安全確保・応援要請を優先します。院内の急変対応マニュアルや連絡体制に従って行動してください。
たとえば、次のような変化は「測定エラーかもしれない」と様子を見る前に、患者の状態を直接確認すべきサインです。
- 開始前と比べて明らかな意識状態の変化がある
- 突然または強い呼吸困難が出現した
- 胸痛・胸部圧迫感など新たな胸部症状がある
- 顔面蒼白、チアノーゼ、冷汗などが出現した
- 急な脱力や著しいふらつきがある
- 新たな著しい頻脈・徐脈、不整脈が疑われ、全身状態にも変化がある
- 休息や姿勢変更後も症状・全身状態が改善しない
重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)では、重症患者のリハビリテーション実施中の中止基準案として、突然の呼吸困難、意識レベル低下、苦悶表情・顔面蒼白・チアノーゼ、冷汗、新たな不整脈などが挙げられています。2
ただし、J-ReCIP 2023は重症患者を対象としたガイドラインです。そこに示された数値や条件を、一般病棟を含むすべての患者へ一律に当てはめるのではなく、病態、医師指示、開始前の状態、普段の値、院内基準と合わせて判断します。
休息後に実施を再開するか、負荷を下げるか、その日は中止するかという判断は初期対応後に行います。数値だけではなく、症状・変化量・回復経過・病態・医師指示を合わせて判断してください。
再測定では「数字を取り直す」前に測定条件を確認する
患者の安全が確保され、緊急性が高くないと判断したら、必要に応じてバイタルを再測定します。ここで重要なのは、単に同じ測定を繰り返すのではなく、測定条件と患者の状態を確認してから値を取り直すことです。
| 項目 | 確認すること | 比較する情報 |
|---|---|---|
| 血圧 | 体位、カフのサイズ・位置、測定中の体動 | 開始前値、普段の値、姿勢変化との関係 |
| 脈拍・心拍 | 測定値と患者の状態が一致しているか、急な変化か | 開始前値、運動負荷、症状、回復経過 |
| SpO₂ | センサー装着、体動、末梢循環、皮膚温など | 普段の値、酸素投与条件、呼吸状態、症状 |
| 呼吸 | 呼吸数だけでなく、努力呼吸、会話、呼吸パターン | 安静時との違い、負荷との関係、休息後の変化 |
血圧測定では、適切なカフサイズや装着位置などの測定条件が精度に影響します。3 また、パルスオキシメータは有用なモニタリング機器ですが、末梢循環、皮膚温、皮膚色素、爪の状態など複数の要因によって測定精度へ影響を受けることがあります。SpO₂の表示値だけではなく、呼吸苦や呼吸パターンなど患者の状態と合わせて確認します。4
単発値より「開始前からどう変わったか」を見る
再測定した値は、基準値との比較だけでなく、開始前や患者の普段の状態からどの程度変化したかを確認します。もともと低い・高い値で管理されている患者もいるため、単発の数値だけでは判断できません。
確認したいのは、何をしていたときに変化したか、症状を伴ったか、休息や姿勢変更で戻る方向にあるかです。開始前の情報が不足している場合は、カルテ、看護記録、医師指示なども確認します。
報告は「異常値」ではなく発生から現在までの経過を伝える
報告では、「血圧が低いです」「SpO₂が下がりました」だけでは次の判断につながりにくいため、発生した場面から現在までの経過を短くそろえます。
| 項目 | 伝える内容 |
|---|---|
| 場面 | 歩行、立位、端座位など、何をしていたときか |
| 症状 | 呼吸苦、胸部症状、めまい、意識変化、冷汗など |
| 数値・変化 | 開始前と変化後の血圧・脈拍・SpO₂・呼吸数など |
| 対応 | 中断、姿勢変更、休息、再測定など実施したこと |
| 現在 | 症状や数値が改善したか、残っているか |
| 相談事項 | 以後の実施可否や追加確認について何を判断してほしいか |
報告例:「歩行練習中に呼吸苦が出現したため中断しました。座位で安全を確保してSpO₂と脈拍を再確認しましたが、開始前よりSpO₂低下が続き、休息後も呼吸苦が残っています。看護師へ共有し、この後のリハ実施可否を確認したいです。」
施設でSBARなどの報告様式が決められている場合は、その様式を優先してください。
初期対応後に「続ける・負荷を下げる・中止する」を判断する
このページで扱うのは、異常に気づいてから状態を確認し、必要な報告を行うまでです。症状が軽快したから自動的に再開する、数値が戻ったから通常負荷へ戻す、という判断にはしません。
再開や負荷調整では、症状、数値の変化、回復の速さ、病態、医師指示、普段の状態を合わせて考えます。初期対応後の判断については、リハビリ中止判断|中止・軽負荷・経過観察の考え方で整理しています。
新人PTが避けたい3つの対応
初期対応では、異常の原因をその場で確定することより、状態悪化を見逃さず必要な共有へつなげることが重要です。特に次の3点は避けます。
- 患者よりモニターを見続ける:異常値が出たら、まず患者の意識・呼吸・症状・顔色を確認します。
- 正常値が出るまで測り直す:症状が強い場合は、再測定を繰り返すより応援要請・報告を優先します。
- 値が戻っただけで再開する:発生した症状や負荷との関係、回復経過を確認してから次の判断へ進みます。
よくある質問
Q1. バイタル異常が出たら、まず再測定すればよいですか?
A. 先に患者の安全と症状を確認します。明らかな意識変化、強い呼吸苦、胸部症状などがある場合は、再測定を繰り返すより介入中断と応援要請・報告を優先します。患者が安定している場合に、測定条件を確認したうえで再測定します。
Q2. 再測定で正常値に戻ればリハビリを再開できますか?
A. 正常値へ戻ったことだけでは再開を決めません。どの負荷で変化したか、症状を伴ったか、休息でどのように回復したか、普段の状態や医師指示を確認して判断します。
Q3. 症状はないものの、普段と違うバイタル値が出た場合はどうしますか?
A. 測定条件を確認して再測定し、開始前値・普段の値・直前の負荷と比較します。新たな変化が大きい場合や判断に迷う場合は、通常どおり進める前に看護師・医師などへ共有し、施設の基準や指示を確認します。
次の一手|症状別の初期対応へ進む
初動の順番を押さえたら、実際に遭遇しやすい症状ごとの確認ポイントへ進むと整理しやすくなります。
参考文献
- 日本リハビリテーション医学会 リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン策定委員会 編. リハビリテーション医療における安全管理・推進のためのガイドライン. 第2版. 東京: 診断と治療社; 2018. 日本リハビリテーション医学会
- 卯野木健, 林田敬, 河合佑亮, et al. 重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023. 日集中医誌. 2023;30(Suppl 2):S905-S972. doi:10.3918/jsicm.30_S905. J-STAGE
- Muntner P, Shimbo D, Carey RM, et al. Measurement of Blood Pressure in Humans: A Scientific Statement From the American Heart Association. Hypertension. 2019;73(5):e35-e66. doi:10.1161/HYP.0000000000000087. PubMed
- U.S. Food and Drug Administration. Pulse Oximeters. FDA. Accessed September 29, 2026.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

