NIHSS・CNS・JSS は「評価の目的」で使い分ける
脳卒中の重症度評価は、治療の優先順位づけ・急変の早期検知・リハ介入の安全判断を「同じ言葉」で共有するための共通言語です。ただし、現場で迷うのは「どれを使えばズレないか」。そこで本記事は、 NIHSS / CNS / JSS を “ 採点の細部 ” ではなく “ 使いどころ ” で整理します。
ポイントは 1 つで、スケールは万能ではなく「目的が違う」ことです。目的が決まれば、評価時間・再評価頻度・記録の書き方まで自然に揃い、チームの判断がブレにくくなります。
結論:詳細化は NIHSS 、変化検知は CNS 、定量共有は JSS
まず結論です。症候を “ どこまで細かく分けたいか ” なら NIHSS 、病棟やリハ前後で “ 変化を早く拾いたい ” なら CNS 、急性期の全体像を “ 重み付きで数値化して共有したい ” なら JSS が向きます。どれも「点数が高い=重い」という方向性は同じでも、強みは別物です。
実務では、単回の点数よりも “ 同じ条件で繰り返してどう変わったか ” が価値になります。評価者・体位・補助具・眠気や鎮静などの外乱をできるだけ揃えるほど、点数は意思決定に使える情報へ近づきます。
3 スケールの比較早見表
NIHSS / CNS / JSS を “ 得意な目的 ” で横並びにすると、選択が速くなります。特に、失語・注意障害・鎮静などで「運動が出ない」日の扱いは、どのスケールでも判断が揺れやすいので、点数だけでなく “ 条件 ” を同時に残す設計が重要です。
以下は成人の急性期〜回復期を想定した、現場仕様の早見表です。病棟文化や診療科の運用に合わせ、まずは “ うちの標準セット ” を決めると、カンファレンスの再現性が上がります。
| スケール | 得意な目的 | 使う場面 | つまずきポイント | 一言メモ |
|---|---|---|---|---|
| NIHSS | 神経症候を “ 詳細に分解 ” して把握 | 急性期の評価共有、治療・検査優先度の議論 | 失語・無視・意識の影響で見かけの重症度が揺れる | 詳細化が強み。条件統一と所見の併記が要点 |
| CNS | 変化の “ 早期検知 ” と経時モニタ | 病棟での悪化検知、離床前後、回復期のトレンド | 疼痛・固定具・眠気・ ROM 制限など外乱の取り違え | 短時間で回しやすい。繰り返しに強い |
| JSS | 重み付きで “ 定量的 ” に全体像を共有 | 急性期の状態共有、経時変化の追跡、連携資料 | 部分的運用で価値が落ちやすい(条件が揃わない) | 点数の “ 変化 ” を見せると判断が揃いやすい |
5 分で決める:病期別の選び方フロー
選び方は「何を決めたいか」から逆算します。たとえば、急性期は “ 詳細な神経症候の共有 ” が重要になりやすく、回復期〜生活期は “ 介入前後の変化を拾う ” ことが価値になります。目的が定まると、スケール選択だけでなく、再評価頻度と記録の粒度まで決まります。
下表は、現場で迷いが出やすい状況を含めた最短フローです。まず 1 つ選び、必要に応じて “ もう 1 つで補完 ” する発想が、実務では破綻しにくいです。
| 状況 | まず使う | 併用/切替の目安 | 記録の要点 |
|---|---|---|---|
| 急性期で詳細に共有したい | NIHSS | 点数は変わらないが所見が変化したら、条件と所見を追記 | 点数+「どの症候が主か」を短く添える |
| 病棟で悪化を早く拾いたい | CNS | 変化が出たら、必要に応じて NIHSS で詳細化 | 評価条件(体位・眠気・疼痛)を固定して残す |
| 全体像を数値でトレンド化したい | JSS | 外乱が強い日は “ 点数解釈に注意 ” を明記して継続 | 単回より “ 前回比 ” を重視して共有 |
| リハ介入前後の変化を見たい | CNS | 介入の狙いが高次脳機能中心なら所見の文章量を増やす | 介入前後で環境と声かけを揃える |
詳しい評価手順は「各論」に渡す
親記事(総論)では、スケールの “ 使い分け ” と “ 運用 ” に絞るほどカニバりしにくくなります。採点や手順を詳しく確認したい場合は、各論の記事へ移動して “ そのスケールだけ ” を深掘りするのが最短です。
たとえば、 NIHSS の実施手順と採点のコツは、既存の各論記事にまとめてあります:NIHSS の評価方法| 11 項目の手順と採点のコツ。
現場の詰まりどころ:点数が “ 神経症候 ” を表していない日
よくある失敗は「動けない=神経症候が悪化」と短絡することです。実際には、疼痛・固定具・倦怠感・鎮静・せん妄・睡眠不足などで “ 出力が落ちる ” 日があり、スケールはその影響も拾ってしまいます。ここを区別できると、点数の読み違いが減ります。
対策はシンプルで、①評価条件を固定する ②外乱がある日は外乱を所見として残す ③点数に引っ張られず観察(左右差、再現性、反応性)を併記する、の 3 点です。下表は “ ズレやすい場面 ” の最小チェックです。
| よくあるズレ | NG 例 | OK の整え方 | 記録の一言 |
|---|---|---|---|
| 疼痛や固定具で動けない | 点数だけ記録して悪化扱い | 固定具・疼痛・ ROM 制限を確認し、条件を揃えて再評価 | 「疼痛(部位)と固定具の影響あり。同条件で再評価予定」 |
| 鎮静・眠気・せん妄 | 意識の揺れを無視して比較 | 評価時刻を固定し、眠気やせん妄の有無を併記 | 「眠気強く反応低下。点数の解釈に注意」 |
| 失語・注意障害で指示が通らない | 不随意=麻痺と決めつける | 声かけを単純化し、理解・表出・注意の前提を共有 | 「指示理解に波。模倣で反応確認し所見を併記」 |
| 点数は同じだが様子が違う | 「変化なし」で終える | 左右差・反応時間・疲労・代償の増減を短く補足 | 「点数同等だが反応遅延・疲労増。経過観察」 |
記録・再評価のコツ:点数だけで完結させない
スケールは “ 点数 ” が強い一方、点数だけでは臨床の意思決定に足りない場面が出ます。そこでおすすめは、点数に 1 行だけ “ 条件 ” と “ 主症候 ” を添える運用です。これだけで、他職種が読み違えにくくなります。
再評価では「前回と同じ条件」をどこまで揃えたかが結果を左右します。最低限、評価時刻・体位・補助具・鎮静や疼痛などの外乱の有無は揃え、揃わない日は “ 揃わなかった理由 ” を残すだけでも比較の質が上がります。
- 評価時刻を固定(例:朝の回診前、リハ介入前など)
- 体位と環境を統一(ベッド角度、端座位、車椅子座位など)
- 補助具条件を固定(装具、スリング、固定具、酸素など)
- 外乱を 1 行で残す(疼痛、眠気、せん妄、薬剤変更など)
- 点数+主症候(例:注意、言語、片麻痺など)を短く併記
よくある質問
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Q1. 点数が同じでも「様子が違う」と感じるとき、どう扱えばいいですか?
A. 点数が同じでも、反応の速さ、疲労の出方、代償運動、注意の散りやすさなどが変わることはよくあります。点数は “ 見取り図 ” と割り切り、変化を感じた要素を 1 行だけ所見で補完すると、経過が追いやすくなります。
Q2. 鎮静・眠気・せん妄がある日は、評価は中止した方がいいですか?
A. 中止よりも「条件が違う」と明記して残す方が実務的です。評価時刻を固定し、眠気やせん妄の有無を併記すると “ 点数の解釈の幅 ” が共有され、誤った悪化判定を減らせます。
Q3. 失語や注意障害が強いと、運動の評価が難しいです
A. 運動が出ない理由が「麻痺」なのか「指示理解・注意」なのかを切り分けるのが要点です。声かけを単純化し、模倣や視線誘導など反応が出やすい方法で “ できる条件 ” を探し、その条件を記録に残すと再評価が揃います。
Q4. リハ介入の安全判断に直結するのは、どこを揃えるべきですか?
A. 点数そのものより「前回比でどう変わったか」が安全判断に効きます。介入前後で体位・補助具・外乱(疼痛、眠気)を揃え、揃わない場合は理由を残す運用にすると、離床や訓練負荷の調整がブレにくくなります。
参考文献
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- Powers WJ, Rabinstein AA, Ackerson T, et al. Guidelines for the Early Management of Patients With Acute Ischemic Stroke: 2019 Update. Stroke. 2019. doi:10.1161/STR.0000000000000211(DOI)
- Kwah LK, Diong J. National Institutes of Health Stroke Scale (NIHSS). J Physiother. 2014;60(1):61. doi:10.1016/j.jphys.2013.12.012(DOI)
おわりに
重症度評価は「点数を付けること」よりも、条件を揃えて繰り返し、変化を早く拾って次の判断に繋げることが価値になります。目的に合わせて NIHSS / CNS / JSS を選び分けるだけで、チームの共有は驚くほどスムーズになります。
明日からは「目的を決める → 条件を揃える → 点数+ 1 行所見で残す → 再評価」のリズムで回してみてください。数値が “ 会話できる情報 ” になり、急性期の安全判断と回復期の介入設計が組み立てやすくなります。

