ICARS・SARA・BARSの違い|運動失調評価は目的で選ぶ
ICARS・SARA・BARSは、いずれも運動失調の重症度を定量化する評価尺度ですが、項目数、評価する領域、実施負担が異なります。結論として、短時間で簡潔に全体像を確認したいならBARS、同じ尺度で経時変化を追いたいならSARA、複数領域をより細かく確認したいならICARSが候補になります。
「まずBARS、その後SARA、必要時ICARS」という固定された順序があるわけではありません。この記事ではPT・OT・ST向けに、3尺度の違いを比較し、今回の評価目的からどれを選ぶか、途中で尺度を変更したときにどう記録するかまで整理します。
運動失調評価の全体像から確認したい方へ
結論|3尺度は「何を知りたいか」で選びます
ICARS・SARA・BARSは、「簡易版→標準版→詳細版」と順番に使う尺度ではありません。最初に今回の評価で何を知りたいかを決め、その目的に必要な情報量と実施負担から選びます。
- BARS:少ないテストで失調重症度の全体像を簡潔に確認したい
- SARA:同じ尺度を繰り返し、失調重症度の経時変化を追いたい
- ICARS:姿勢・歩行、四肢、構音、眼球運動などを領域別に詳しく確認したい
SARAは現在広く用いられている運動失調の臨床評価尺度であり、Ataxia Global Initiative(AGI)の提言でも重要なClinROとして位置づけられています。一方、眼球運動まで尺度内で確認したい場合や、より詳細な領域別評価が必要な場合は、BARSやICARSを選ぶ理由が生まれます。
ポイント:「どの尺度が一番よいか」ではなく、「今回何を知りたいか」に対して必要十分な尺度を選びます。
ICARS・SARA・BARSの違いを比較
3尺度で特に差が出るのは、評価項目数、合計点、眼球運動を含むか、どこまで細かく領域を分けるかです。いずれも高得点ほど失調が重い方向を示しますが、尺度ごとに構成や各領域の重みが異なります。
※スマートフォンでは表を左右にスクロールできます。
| 尺度 | 構成 | 合計点 | 眼球運動 | 選びやすい目的 | 特徴 |
|---|---|---|---|---|---|
| BARS | 5テスト | 0〜30点 | あり | 短時間で全体像を確認したい | 歩行・上下肢・構音・眼球運動を少ないテストで確認する |
| SARA | 8項目 | 0〜40点 | なし | 経時変化を継続して追いたい | 比較的簡潔で、現在広く用いられている |
| ICARS | 19項目・4領域 | 0〜100点 | あり | 複数領域を詳しく確認したい | 姿勢・歩行、四肢、構音、眼球運動を領域別に評価する |

目的別の使い分け|どの尺度を選ぶか
尺度選択で迷ったら、項目数から考えるのではなく、今回の評価結果を何に使いたいのかから逆算します。ここでは3つの代表的な目的に分けて整理します。
短時間で全体像を確認したいならBARS
BARS(Brief Ataxia Rating Scale)は、ICARSを基盤として検討されたMICARSから、臨床的な制約を加えて5つのテストを抽出した尺度です。歩行、上肢運動、下肢運動、構音、眼球運動という主要な領域を含み、0〜30点で評価します。
そのため、多くの項目を実施するより、少ないテストで失調重症度の全体像を確認したい場面で候補になります。BARS原著でも、臨床目的に対して十分に迅速かつ正確な尺度として報告されています。
一方、BARSは「運動失調があるかどうかを判定するだけのスクリーニング検査」ではありません。運動失調の重症度を定量化する尺度として位置づけ、病型や原因の診断とは分けて考えます。
5テストの構成や採点・記録について詳しく確認したい場合は、BARSの評価方法・採点・記録で整理しています。
同じ尺度で経時変化を追いたいならSARA
SARA(Scale for the Assessment and Rating of Ataxia)は、8項目・0〜40点で運動失調の重症度を評価する尺度です。歩行、立位、座位、構音、上肢・下肢の協調運動などから構成されます。
原著では高い検者間信頼性や再検査信頼性が報告されており、その後も多くの運動失調研究で使用されています。AGIの提言でも、SARAは現在最も広く用いられている運動失調のClinROとして示されています。
したがって、同じ尺度で重症度を継続して評価し、経時変化を追いたい場合には有力な候補です。
ただし、SARAには眼球運動の評価項目がありません。眼振や衝動性眼球運動などの眼球運動所見が今回の評価目的として重要であれば、SARAだけで完結させず、別途必要な評価を行うか、BARS・ICARSを含めて尺度選択を考えます。
複数領域を詳しく確認したいならICARS
ICARS(International Cooperative Ataxia Rating Scale)は、19項目・0〜100点で運動失調を評価する尺度です。大きく姿勢・歩行、四肢運動、構音、眼球運動の4領域に分けて評価します。
SARAやBARSより多くの項目を含むため、「合計点が変わったか」だけでなく、どの領域に問題があるかをより細かく整理したい場面で候補になります。
ただし、項目数が多いことは「ICARSが常に最も優れた尺度」という意味ではありません。対象疾患によっては項目の重複や尺度構造上の課題も報告されています。必要な詳細度と評価負担を踏まえて選択することが重要です。
眼球運動を含むかは、3尺度を分ける重要な違いです
ICARS・SARA・BARSを比較するとき、見落としやすい違いが眼球運動評価の有無です。
- BARS:眼球運動を含む
- SARA:眼球運動を含まない
- ICARS:眼球運動を含む
そのため、「短い尺度がよい」「詳しい尺度がよい」という軸だけでは選び切れないことがあります。眼球運動所見まで同じ尺度内で扱いたいのかも、選択前に確認しておくと整理しやすくなります。
ただし、BARSやICARSに眼球運動項目があるからといって、専門的な眼球運動検査や前庭機能評価をすべて代替できるわけではありません。眼球運動異常そのものを詳しく評価する必要がある場合は、目的に応じて追加評価へつなげます。
3尺度の点数だけで運動失調の原因は決まりません
ICARS・SARA・BARSは、主に運動失調の重症度を定量化するための尺度です。点数が高いことから、原因疾患や病型まで決めるものではありません。
たとえば、患者にふらつきや協調運動障害がある場合でも、その背景には小脳性、感覚性、前庭性など異なる機序が関与する可能性があります。尺度を選ぶ前には、急な変化の有無、安全性、症状の特徴、実際にどの動作で崩れるかといった臨床評価が必要です。
つまり、「運動失調をどう評価するか」と「失調重症度をどの尺度で数値化するか」は別の判断です。尺度の点数だけを診断の代わりにしないことが重要です。
尺度を途中で変更したら、異なる合計点を直接比較しません
臨床経過の途中で、BARSからSARAへ、SARAからICARSへと尺度を変更すること自体は問題ではありません。評価目的が変われば、適した尺度が変わることもあります。
ただし、BARS・SARA・ICARSの合計点を同じ物差しとして直接比較しないことが重要です。3尺度では満点が違うだけでなく、項目構成と各領域の重みも異なります。
たとえば、BARS 10点とSARA 10点を「同じ重症度」と扱ったり、30点満点と40点満点を単純に百分率へ変換して比較したりすることは避けます。
尺度間の変換を検討した研究はありますが、特定疾患・特定集団の研究データに基づいた手法です。日常臨床で異なる患者へ一律に換算式を当てはめるものではありません。
rehabilikunblogでの実務上の整理
尺度を変更したら、旧尺度との数字合わせをするのではなく、「変更理由・変更日・新尺度の初回値」を残し、新尺度での初回値を次回以降の比較基準にします。
尺度変更時は「変更理由・変更日・新尺度の初回値」を残します
尺度変更後の再評価を分かりやすくするには、点数だけでなく「どこから物差しが変わったか」を記録しておきます。
※以下はICARS・SARA・BARSの公式記録様式ではなく、尺度変更時の混乱を防ぐための実務上の記録方法です。
| 残す情報 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 変更理由 | なぜ別の尺度を選んだか | 尺度変更を状態変化と混同しない |
| 変更日 | どの評価日から尺度が変わったか | 経時記録の境界を明確にする |
| 新尺度の初回値 | 変更後、最初に得た合計点・必要な内訳 | 次回以降の新しい比較基準にする |
たとえば、「眼球運動を含めて領域別に確認する必要が生じたため、9月1日よりSARAからICARSへ変更。ICARS初回○点を以後の比較基準とする」のように残します。
このように記録すれば、「前回SARA○点→今回ICARS○点」という異なる点数を無理に一本の時系列へ並べずに済みます。
再評価は同じ尺度を続けられるかも考えて選びます
初回に詳しく評価できても、その尺度を継続できなければ経時比較は難しくなります。そのため尺度選択では、今回の情報量だけでなく、次回以降も同じ尺度を実施できるかを考えることも大切です。
特に経時変化を目的とする場合は、できるだけ同じ尺度・同じ実施方法で繰り返します。一方、評価目的が変わり別の尺度が必要になった場合は、無理に旧尺度へ固定せず、変更理由を明示して新しい基準を作ります。
また、標準化尺度の採点と、日常場面での歩行条件・補助具・介助量などの臨床観察は分けて記録します。尺度の原法を独自に変更して条件をそろえるのではなく、尺度は定められた方法で実施し、臨床条件は別情報として残すと整理しやすくなります。
よくある質問
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. ICARS・SARA・BARSのうち、1つだけ選ぶならどれですか?
A. 一律に1つへ決めることはできません。短時間で簡潔に全体像を確認したいならBARS、同じ尺度で経時変化を追いたいならSARA、複数領域をより詳しく確認したいならICARSが候補です。まず評価目的を決めてから選びます。
Q2. SARAとICARSの大きな違いは何ですか?
A. SARAは8項目・0〜40点で比較的簡潔に運動失調の重症度を評価します。ICARSは19項目・4領域・0〜100点で、より多くの領域を細かく評価し、眼球運動も含みます。SARAには眼球運動項目がありません。
Q3. BARSはSARAより簡単なスクリーニング検査ですか?
A. BARSは5テストからなる簡潔な運動失調重症度尺度ですが、単に「失調があるか」を振り分けるだけのスクリーニング検査として開発された尺度ではありません。歩行、上下肢、構音、眼球運動を含めて失調重症度を評価します。
Q4. SARAとICARS、BARSの点数は換算できますか?
A. 日常臨床では単純換算を避けます。研究では特定集団を対象に尺度間変換が検討されていますが、尺度ごとに項目構成や各領域の重みが異なります。尺度を変更した場合は、新尺度の初回値を新しい比較基準として扱う方が分かりやすいです。
次の一手
ICARS・SARA・BARSを選ぶ前に、運動失調の初回評価そのものを整理したい場合は、安全確認から観察、尺度選択までの流れを確認します。
- 初回評価の進め方を確認する:運動失調の評価|初回評価の進め方と尺度選び
参考文献
- Trouillas P, Takayanagi T, Hallett M, et al. International Cooperative Ataxia Rating Scale for pharmacological assessment of the cerebellar syndrome. J Neurol Sci. 1997;145(2):205-211. DOI: 10.1016/S0022-510X(96)00231-6
- Schmitz-Hübsch T, Tezenas du Montcel S, Baliko L, et al. Scale for the Assessment and Rating of Ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. DOI: 10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92
- Schmahmann JD, Gardner R, MacMore J, Vangel MG. Development of a Brief Ataxia Rating Scale (BARS) based on a modified form of the ICARS. Mov Disord. 2009;24(12):1820-1828. DOI: 10.1002/mds.22681
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- Klockgether T, Synofzik M; AGI Working Group on COAs and Registries. Consensus Recommendations for Clinical Outcome Assessments and Registry Development in Ataxias: Ataxia Global Initiative Working Group Expert Guidance. Cerebellum. 2024;23(3):924-930. DOI: 10.1007/s12311-023-01547-z
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

