座位mFRTとは?|座位で前方・側方リーチを測る評価
座位mFRT(Modified Functional Reach Test)は、立位でのFRTが難しい対象者に対して、座位のまま前方・側方へのリーチ距離を測定するバランス評価です。脳卒中では、前方と左右方向へのリーチを測定し、座位でどこまで姿勢を制御しながら到達できるかを距離として確認します。
ただし、「mFRT」「M-FRT」「座位FRT」という名称には、測定条件の異なる方法が存在します。この記事では、Katz-Leurerらが脳卒中患者で検討した座位Modified Functional Reach Testを中心に、開始姿勢、3方向の測定、試行回数、MDC、脊髄損傷(SCI)版との違い、再評価時の記録方法まで整理します。
先に結論:脳卒中版では、股・膝・足関節を約90°として足底を床へ接地し、前方・右側方・左側方を各3回測定します。1回目は練習として除外し、本記事と記録シートでは2回目・3回目の平均を代表値として残します。
原著の対象は、発症14〜21日後の初回虚血性脳卒中患者で、10秒間の非支持座位は可能である一方、30秒を超える非支持立位ができない患者を含んでいました。したがって、座位mFRTは「立位FRTをそのまま座って行う検査」ではなく、座位バランスを評価するために条件を変更した方法として理解することが重要です。
立位保持が可能で、立位での前方安定性を評価したい場合は、FRT(Functional Reach Test)の測定方法を確認してください。
脳卒中の座位mFRT|測定方法は3ステップで整理する
脳卒中版mFRTは、「開始姿勢をそろえる→3方向を測定する→各方向3回実施する」の順で行います。再評価で距離の変化を読むためには、毎回できるだけ同じ測定条件を再現することが重要です。

1.開始姿勢をそろえる
Rehabilitation Measures Databaseに整理されているKatz-Leurerらの方法では、椅子座位で股関節・膝関節・足関節を約90°とし、両足底を床へ接地します。開始位置は背部を椅子の背もたれへ接した状態で決めます。
- 座位:椅子座位
- 下肢:股・膝・足関節を約90°
- 足部:両足底を床へ接地
- 開始位置:背部を椅子の背もたれへ接して基準位置を決める
- 上肢:測定側上肢を肩関節90°屈曲位とする
- 測定器具:壁面へ水平に固定したメジャーやヤードスティックなどを使用する
研究値やMDCと比較する場合は、単に「座位でリーチした」という条件だけでは不十分です。椅子、足底接地、開始姿勢、測定方向などが前回と異なれば、距離の差に測定条件の影響が含まれます。
2.前方・右側方・左側方の3方向を測定する
脳卒中版mFRTでは、前方に加えて左右の側方リーチも測定します。前方では非麻痺側を壁側にして座り、側方では背部を壁側にして右方向・左方向への最大リーチを測ります。
| 方向 | 座る向き | 測定 |
|---|---|---|
| 前方 | 非麻痺側を壁側 | 前方へ最大限リーチする |
| 右側方 | 背部を壁側 | 右方向へ最大限リーチする |
| 左側方 | 背部を壁側 | 左方向へ最大限リーチする |
実際の記録・解釈では、右・左の結果を患者ごとの麻痺側・非麻痺側へ対応づけます。上の図版では、この臨床的な読み方に合わせて「前方・麻痺側・非麻痺側」と整理しています。
リーチ時は、できるだけ遠くまで到達しますが、体幹を回旋させて測定方向そのものを変えたり、壁へ触れたりしないようにします。開始位置から最大到達位置までの移動距離をcmで記録します。
3.各方向3回測定し、1回目は練習として扱う
各方向とも3回実施し、1回目は練習試行として最終結果から除外します。Rehabilitation Measures Databaseでは、試行間に15秒の休息を設ける手順が示されています。
Katz-Leurerらの原著では、3回測定したうち2回目と3回目を比較してセッション内信頼性が検討されています。本記事と新しい記録シートでは、再評価時の代表値を統一するため、2回目と3回目の平均値を記録する運用としています。
| 方向 | 1回目 | 2回目 | 3回目 | 代表値 |
|---|---|---|---|---|
| 前方 | 練習 | 記録 | 記録 | 2・3回目平均 |
| 麻痺側 | 練習 | 記録 | 記録 | 2・3回目平均 |
| 非麻痺側 | 練習 | 記録 | 記録 | 2・3回目平均 |
ここは、立位FRTで用いられる「練習2回+本測定3回」や、別の座位リーチテストで用いられる最大値採用と混同しないことが重要です。
座位mFRTのMDC|何cmの変化なら測定誤差を超える?
脳卒中の座位mFRTでは、前方3.7cm、麻痺側2.3cm、非麻痺側2.67cmというMDC(Minimal Detectable Change:最小検出可能変化)が報告されています。再評価では、まず同じ条件で測定できたことを確認したうえで、変化量を読むための参考にします。
| 測定方向 | MDC | 見るポイント |
|---|---|---|
| 前方 | 3.7cm | 同条件で3.7cmを超える変化か確認する |
| 麻痺側 | 2.3cm | 麻痺側方向への変化を確認する |
| 非麻痺側 | 2.67cm | 非麻痺側方向への変化を確認する |
ただし、この数値を「すべての患者で、これ以上伸びれば臨床的に改善した」という基準として使用することはできません。
これらのMDCは、Katz-Leurerらの脳卒中データをもとにRehabilitation Measures Databaseで算出された参考値です。対象には初回虚血性脳卒中発症14〜21日後の患者が含まれており、慢性期脳卒中や他疾患へそのまま一般化するものではありません。
また、MDCは測定誤差を超えた変化を判断するための指標であり、患者にとって意味のある最小変化量を表すMCIDとは役割が異なります。
再評価の順番:①同じプロトコルか → ②座位・足底・測定方向などの条件が同じか → ③距離がどれだけ変化したか → ④対象に合うMDCと照らす、の順で確認します。
結果は「距離・方向差・運動戦略」を分けて解釈する
座位mFRTは、距離が長いか短いかだけで評価する検査ではありません。前方と麻痺側・非麻痺側の方向差、前回からの変化、リーチ時にみられた運動戦略を分けて記録すると、結果を臨床へつなげやすくなります。
- 距離:同じ条件で前回からどの程度変化したか
- 方向差:前方・麻痺側・非麻痺側で到達距離に違いがあるか
- 運動戦略:体幹や肩甲帯をどのように使ってリーチしているか
- 条件逸脱:回旋や壁接触など、規定した測定条件から外れていないか
ここで、条件逸脱と運動戦略を同じ「無効」にしないことがポイントです。
たとえば、体幹回旋によって測定方向そのものが変わった場合や壁へ触れた場合は、規定した条件から外れた試行として再測定を検討します。一方、測定条件を保った範囲でみられる体幹・肩甲帯の使い方は、リーチ距離の背景を理解するための観察所見として記録します。
脊髄損傷のmFRTは脳卒中版と測定方法が異なる
脊髄損傷(SCI)で用いられるmFRTは、名称は同じでも脳卒中版とは別のプロトコルです。座位条件、測定方向、ランドマーク、練習回数、代表値の出し方が異なるため、両者の結果を同じ基準で扱わないようにします。
| 項目 | 脳卒中版 | SCI版 |
|---|---|---|
| 測定方向 | 前方・右側方・左側方 | 前方 |
| 座位条件 | 椅子座位・足底接地 | ベンチ/マット+約80°のバックボード |
| 測定ランドマーク | 手部の位置を基準に測定 | 尺骨茎状突起 |
| 練習 | 1回目を練習として除外 | 練習2回 |
| 記録する試行 | 2・3回目 | 本測定3回 |
| 代表値 | 本記事では2・3回目平均 | 3回の平均 |
SCIREでは、SCI版mFRTはベンチ座位で肩関節90°屈曲位とし、尺骨茎状突起をランドマークとして前方への最大リーチを測定します。非リーチ側上肢への荷重は認めず、2回の練習後に3回測定し、その平均をcmで記録します。
SCIにはSCIを対象としたMDCの報告もあるため、脳卒中版の前方3.7cm・麻痺側2.3cm・非麻痺側2.67cmをSCIへそのまま適用しません。
「座位mFRT」「M-FRT」「座位FRT」は同じ評価とは限らない
検索や文献確認では、評価名だけで同じ方法と判断しないことが重要です。日本語文献には、座位mFRTとは異なる方法でも「M-FRT」「座位FRT」という名称が使用されています。
M-FRTには伸縮式指示棒を使う立位法がある
森尾らは、壁へヤードスティックを固定する通常のFRTをより簡便に実施するため、伸縮可能な指示棒を用いたModified Functional Reach Test(M-FRT)を報告しています。
このM-FRTは立位で前方へリーチする方法です。本記事で扱う、立位が難しい脳卒中患者などを対象とした座位Modified Functional Reach Testとは別の評価方法です。
国内の「座位FRT」にも別の測定法がある
国内では、脳血管障害患者を対象として「座位前方リーチテスト」を検討した報告もあります。これは前方への座位リーチを測定する方法であり、Katz-Leurerらの前方・左右3方向を測定するmFRTと完全に同一ではありません。
文献値を比較するとき:名称ではなく、「対象疾患・開始姿勢・足底条件・測定方向・ランドマーク・試行回数・代表値」を確認します。
記録は「距離+使用プロトコル+測定条件」を残す
座位mFRTでは、距離だけをカルテへ残すと次回の測定条件を再現できないことがあります。最低限、使用したプロトコル、座位条件、方向別の測定値、代表値をセットで記録します。
| 項目 | 記録する内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 使用プロトコル | 脳卒中版/SCI版/その他 | 異なるmFRTを混同しない |
| 座位条件 | 椅子・足底・背もたれなど | 再評価条件をそろえる |
| 測定方向 | 前方/右・左、または麻痺側・非麻痺側 | 方向差を確認する |
| 試行値 | 1回目・2回目・3回目 | 代表値の根拠を残す |
| 代表値 | 本記事では2・3回目平均 | 経時比較をしやすくする |
| 条件逸脱 | 著明な回旋、壁接触など | 測定値の妥当性を確認する |
| 観察所見 | 左右差、体幹・肩甲帯の使い方など | 距離の背景を臨床判断へつなげる |
カルテでは、たとえば次のように記録できます。
記録例:座位mFRT(脳卒中版)。足底接地、椅子背もたれ基準。前方18.4cm、麻痺側9.6cm、非麻痺側14.1cm(各2・3回目平均)。前回比:前方+4.2cm。測定条件は前回同様。麻痺側リーチで体幹回旋傾向あり。
座位mFRT記録シート|PDF・Excelをダウンロード
座位mFRTを同じ条件で再評価できるよう、記事の測定方法に合わせた記録シートをPDFとExcelで用意しています。使用プロトコル、測定条件、1〜3回目の結果、2・3回目平均、前回差、MDC参考値までまとめて確認できます。
印刷して手書きする場合はPDF版、PCで入力・保存する場合はExcel版を使用してください。Excel版では、2回目・3回目の平均値と前回差を自動計算できます。
記録シートに記載したMDCは脳卒中データをもとにした参考値です。疾患や測定プロトコルが異なる場合は、そのまま改善判定へ使用しないでください。
前回値と比較できない条件を確認する
再評価では、距離の差を見る前に「前回と同じ条件で測れたか」を確認します。測定条件が変われば、身体機能の変化と環境条件による変化を分けにくくなります。
次のような場合は、前回値との単純比較を避けるか、変更した条件を必ず記録します。
- 椅子・座面高・クッションなどが前回と異なる
- 足底接地の有無が変わった
- 背もたれを基準とした開始姿勢が異なる
- 測定方向や測定側を変更した
- 使用するランドマークを変更した
- 脳卒中版からSCI版など、使用プロトコルを変更した
- 試行回数や代表値の算出方法を変更した
- 疼痛、疲労、痙縮などで通常と異なる測定条件となった
肩関節を90°まで挙上できない場合など、原法と同じ開始姿勢を取れないケースでは、無理に姿勢をそろえるのではなく、変更した条件を明記します。同じ変更条件で経時的に追跡することはできますが、原法で報告されたMDCや研究値との単純比較は避けます。
実施できない・中止する場合は距離より安全を優先する
mFRTは最大リーチを求める評価ですが、安全に座位を保持できない状態で最大距離を測る必要はありません。転落の危険や全身状態の変化がある場合は、中止・休息・条件変更または別の座位バランス評価を検討します。
- 座位を安全に保持できず、最大リーチで転落する危険が高い
- めまい、悪心、冷汗、顔面蒼白など全身状態の変化が出現した
- 疼痛が増悪し、同じ条件で反復できない
- 疲労によって試行ごとに開始姿勢を維持できない
- 指示理解が難しく、測定条件を一定に保てない
測定を完遂できなかった場合も、単に「測定不能」とするのではなく、座位保持、疼痛、疲労、指示理解など、何が測定を制限したのかを残すと次の評価につながります。
座位mFRTのよくある質問
Q1.座位mFRTは前方だけ測ればよいですか?
本記事で扱う脳卒中版mFRTでは、前方・右側方・左側方の3方向を測定します。記録・解釈では右・左を患者ごとの麻痺側・非麻痺側へ対応づけます。前方のみを測定するSCI版mFRTや別の座位前方リーチテストとは区別してください。
Q2.3回のうち最大値を採用しますか?
脳卒中版では1回目を練習として扱います。原著では2回目と3回目を用いてセッション内信頼性が検討されています。本記事と配布する記録シートでは、再評価時のルールを統一するため2回目・3回目の平均を代表値として記録します。
Q3.前回より3cm伸びたら改善と判断できますか?
方向によってMDCが異なるため、一律に3cmで判断することはできません。またMDCは臨床的に意味のある改善量そのものではなく、測定誤差を超えた可能性をみる指標です。まず同一条件で測定できたかを確認し、そのうえで前方3.7cm、麻痺側2.3cm、非麻痺側2.67cmという脳卒中データ由来のMDCを参考にします。
Q4.車椅子でも実施できますか?
車椅子座位でリーチ距離を経時的に追跡すること自体は可能ですが、椅子を用いた原法とは座面、背もたれ、クッション、フットサポートなどの条件が異なります。車椅子で行う場合は条件を明記し、同じ条件で再評価してください。原法のMDCや研究値との単純比較は避けます。
Q5.肩関節を90°まで挙げられない場合はどうしますか?
原法と同じ条件での測定は困難になります。疼痛や可動域制限がある場合は無理に90°へ合わせず、変更した開始肢位を記録してください。同じ条件で経時的に追跡することはできますが、原法のMDCや他者の研究値とは条件が異なることを踏まえて解釈します。
次に確認するバランス評価
座位mFRTは、座位でのリーチ能力を距離として捉える評価です。立位保持が可能になり、立位での前方安定性を確認したい場合はFRTへ進みます。座位・立位・歩行を含めて「目の前の患者ではどのバランス評価から始めるか」を整理したい場合は、親記事で評価全体の選び方を確認してください。
- 立位で前方リーチを測る:FRT(Functional Reach Test)の測定方法
- 評価全体から選ぶ:歩行・バランス評価の選び方
参考文献
- Katz-Leurer M, Fisher I, Neeb M, Schwartz I, Carmeli E. Reliability and validity of the modified functional reach test at the sub-acute stage post-stroke. Disabil Rehabil. 2009;31(3):243-248. doi:10.1080/09638280801927830. PubMed
- Lynch SM, Leahy P, Barker SP. Reliability of measurements obtained with a modified functional reach test in subjects with spinal cord injury. Phys Ther. 1998;78(2):128-133. doi:10.1093/ptj/78.2.128. PubMed
- Duncan PW, Weiner DK, Chandler J, Studenski S. Functional reach: a new clinical measure of balance. J Gerontol. 1990;45(6):M192-M197. doi:10.1093/geronj/45.6.M192. PubMed
- Shirley Ryan AbilityLab. Functional Reach Test / Modified Functional Reach Test. Rehabilitation Measures Database. Web
- SCIRE Professional. Modified Functional Reach Test (mFRT). Web
- 森尾裕志, 大森圭貢, 川間健之介, 石黒友康, 松下和彦. 高齢者における指示棒を用いたFunctional Reach Testの妥当性の検討. 理学療法学Supplement. 2005;32 Suppl 2:D1186. doi:10.14900/cjpt.2004.0.D1186.0. J-STAGE
- 寺垣康裕, 新谷和文, 臼田滋. 脳血管障害患者における座位前方リーチテストの臨床的有用性の検討. 理学療法科学. 2008;23(1):151-155. doi:10.1589/rika.23.151. J-STAGE
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

