ICU リハは「開始→中止→再開」を 1 枚の手順に固定すると安全に回ります
ICU の早期離床は有害事象が少ない一方で、現場で詰まりやすいのは「どこまでやるか」よりも、いつ開始し、どの条件で中止し、いつ再開するかが人によってブレる点です。結論として、開始→中止→再開を同じ判断軸で運用し、記録を監査できる粒度に揃えると、事故予防とチーム連携が一気に安定します。
本記事は“閾値の暗記”ではなく、安全チェック→実施→中止理由→再開条件→申し送りまでを SOP(標準手順)として整理します。関連する「教育体制・標準化の整え方」は、PT キャリアガイド(フロー)も参考になります。
安全管理が不安なときは、個人の頑張りより「型」を先に作るのが近道です。
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この SOP の対象と前提
対象は ICU / HCU / 急性期の重症患者で、離床レベルは関節可動域・座位・端座位・立位・移乗・歩行までを想定します。前提として、離床は単独行為ではなく、多職種で「中止基準」を共有して安全を担保します。
- この SOP が向く:担当者ごとの判断がブレる/中止理由が曖昧/申し送りで再開条件が抜ける
- この SOP だけでは足りない:ECMO 装着、特殊体位管理など高難度ケース(施設プロトコルを優先)
開始→中止→再開のフロー(これを 1 枚で固定)
迷いを減らすコツは、開始・中止・再開を「同じ観点(呼吸・循環・意識・ライン・その他)」で判断することです。以下の表を、そのまま病棟の手順書に貼れる形でまとめます。
| ステップ | 確認ポイント | アクション | 記録(最小セット) |
|---|---|---|---|
| 1. 事前ブリーフ | 今日の目的、禁忌・注意、ライン類 | 役割分担(見守り・ライン管理)を決める | 目標(例:端座位 5 分)、担当、注意点 |
| 2. 開始判定 | 呼吸・循環・意識・鎮痛・出血リスク | 開始 or 保留(理由を明記) | 開始可否、保留理由、再評価予定 |
| 3. 実施 | 段階的に負荷を上げる(座位→立位など) | 段階ごとに 30–60 秒で安全確認 | 到達レベル、介助量、バイタル推移 |
| 4. 中止判定 | 低酸素、血圧低下、頻脈、意識変化、ライン異常 | 中止し、原因対応(体位戻し・酸素調整など) | 中止理由(具体)、発生時刻、対応 |
| 5. 再開判定 | 原因が解消し、安定が確認できるか | 同日再開/翌日再開/段階を下げて再開 | 再開条件、次回の開始レベル |
| 6. 申し送り | 再開条件と“次にやる段階” | SBAR で共有(曖昧語禁止) | SBAR 要約、次回の目標 |
開始前の安全チェック(まず “保留条件” を決める)
開始基準は施設差があるため「絶対値の暗記」ではなく、保留すべき状況を言語化して記録するのがコアです。以下は成人の一般的なスクリーニング観点です(施設基準がある場合はそちらを優先します)。
| 観点 | OK の目安 | 注意(工夫して実施) | 保留(まず原因対応) |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | 呼吸困難が軽く、酸素化が安定 | 体位で改善する/分泌多い → 先に排痰・休息を挟む | 急な SpO2 低下、強い呼吸苦、呼吸パターン不安定 |
| 循環 | 血圧・心拍が安定し、末梢冷感が強くない | 起立性低下が疑わしい → 段階を刻む(端座位で様子) | 循環動態が不安定、重篤不整脈が疑われる所見 |
| 意識・鎮静 | 呼びかけに反応し、最低限の指示が通る | 不穏傾向 → 見守り強化、環境調整、課題量を落とす | 覚醒不十分/強い不穏で安全が担保できない |
| ライン・デバイス | 固定が良好で、動作計画が立てられる | 大腿部ライン等あり → 役割分担(ライン係)で実施 | 固定不十分、出血・漏れ疑い、抜去リスクが高い |
| その他 | 疼痛がコントロールされている | 疼痛あり → 先に鎮痛・ポジショニングを調整 | 活動で悪化する症状が強い/医師の中止指示 |
セッション中止基準(“曖昧語禁止” で統一)
中止基準は「転倒したら中止」では遅いので、悪化兆候(前兆)で止める運用が重要です。中止時は「何が起きたか」だけでなく、どの段階で、どんな対応をして、どれくらいで回復したかまで残すと、次回の再開判断が速くなります。
| 観点 | 中止のトリガー例 | その場の対応 | 記録の書き方(例) |
|---|---|---|---|
| 呼吸 | SpO2 低下が持続/呼吸困難の増悪/著明な頻呼吸 | 段階を戻す、体位調整、休息、必要なら医師へ報告 | 「端座位で SpO2 ○→○ に低下し持続。臥位へ戻し ○ 分で回復。次回は座位時間を短縮。」 |
| 循環 | 血圧低下・頻脈の持続/胸部症状/めまい・冷汗 | 段階を戻す、下肢挙上、休息、原因(脱水・薬剤)確認 | 「立位で血圧低下し、冷汗出現。端座位へ戻し回復。起立性低下疑い。」 |
| 意識・行動 | 強い不穏、危険行動、指示不能、意識レベル低下 | 環境調整、見守り増、必要なら中止し安全確保 | 「不穏でライン自己抜去リスク高。安全確保のため中止。再開条件:覚醒安定+見守り体制。」 |
| ライン・デバイス | 固定の緩み、出血・漏れ疑い、チューブ牽引 | 直ちに中止し固定確認、必要なら医師・看護へ連絡 | 「大腿部ラインの牽引を認め中止。固定再調整後、次回は役割分担を追加。」 |
| 疼痛・その他 | 疼痛の急増、悪心、失神前兆、強い疲労 | 休息、鎮痛調整、段階を下げて再開検討 | 「疼痛増悪で中止。鎮痛調整後に ROM へ変更。」 |
再開条件(同日再開/翌日再開を決める)
再開は「落ち着いたら再開」だと再現性がありません。中止理由に対応した再開条件(何が整えば OK か)を 1 行で決めて共有すると、次の担当者が迷いません。
| 中止理由 | 再開条件(例) | 次回の開始レベル |
|---|---|---|
| 酸素化低下 | 体位戻し後に安定、呼吸困難が軽減、推移が保てる | 段階を 1 つ下げる(例:立位→端座位) |
| 血圧低下(起立性) | 端座位で安定、めまい・冷汗が消失 | 端座位の保持時間を短く、段階を刻む |
| 不穏・危険行動 | 覚醒の安定、見守り体制確保、環境調整が完了 | ベッド上・座位中心から再開 |
| ライン問題 | 固定再確認、役割分担(ライン係)を設定 | 動作を簡略化し、牽引が起きない段階から |
監査できる「記録の最小セット」
ICU リハは安全管理が主役なので、記録が弱いと改善が回りません。最低限、開始可否・到達レベル・中止理由・再開条件の 4 点を残せば、担当が変わっても安全に積み上がります。
| 項目 | 書く内容 | 例 |
|---|---|---|
| 開始判定 | 開始/保留+理由、再評価予定 | 「開始可。注意:大腿ラインあり(ライン係設定)。」 |
| 到達レベル | 段階(座位/立位など)、介助量、実施時間 | 「端座位 3 分、介助:中等度、見守り 2 名。」 |
| バイタル推移 | 開始前→ピーク→終了時(必要最小限) | 「SpO2:○→○→○、HR:○→○→○。」 |
| 中止理由 | 具体(何が、どの段階で、どれくらい続いたか) | 「端座位で SpO2 低下が 1 分以上持続し中止。」 |
| 対応と回復 | 戻し方、回復までの時間 | 「臥位へ戻し 2 分で回復。」 |
| 再開条件 | 次回の開始レベル+条件 | 「再開:端座位 1 分から。条件:呼吸苦なし。」 |
申し送りテンプレ(SBAR:曖昧語を消す)
申し送りは、チームの安全管理を“次の担当”へ渡す工程です。テンプレは短くて OK なので、再開条件と次回の開始レベルを必ず入れます。
| 要素 | 書くこと | 文例 |
|---|---|---|
| S(状況) | 今日の実施と結果 | 「本日端座位まで実施。」 |
| B(背景) | 注意点(ライン等) | 「大腿ラインあり。ライン係 1 名で実施。」 |
| A(評価) | 中止理由(具体) | 「端座位で SpO2 低下が持続し中止。臥位で 2 分で回復。」 |
| R(提案) | 再開条件+次回レベル | 「次回は端座位 1 分から。条件:呼吸苦なし、SpO2 安定。」 |
現場の詰まりどころ(よくある失敗)と回避策
事故が起きやすいのは、スキル不足よりも「判断基準と記録の不統一」です。よくある失敗を先に潰しておくと、現場が回ります。
- 開始基準が人によって違う:開始前チェック表を共有し、保留理由を“言語化して記録”する
- 中止理由が「様子見」だけ:何が、どの段階で、どれくらい続いたかまで書く
- 再開条件が残らない:SBAR の R に「次回の開始レベル」を固定で入れる
- ライン問題で怖くて進まない:ライン係の役割分担と動作計画(牽引が起きない動線)を先に決める
- 段階を飛ばして不安定になる:端座位・立位など、段階ごとに 30–60 秒の安全確認を挟む
よくある質問(FAQ)
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Q1. 中止基準は「数値」で統一すべきですか?
A. 施設基準があるなら数値で統一するのが安全です。一方、現場では数値だけでは拾えない“前兆”もあるため、呼吸困難の増悪、冷汗、危険行動、ライン牽引など具体的な所見もセットで運用すると、判断が安定します。
Q2. 不穏がある患者は、離床を避けるべきですか?
A. 一律に避ける必要はありません。安全が担保できる条件(見守り、環境調整、段階の選択)が整うなら、ベッド上や座位など低リスク段階から実施できます。ただし、自己抜去リスクが高い場合は中止が妥当です。
Q3. いったん中止したら同日に再開しない方が良いですか?
A. 中止理由によります。原因対応で安定が確認できる場合は、段階を下げて再開できることもあります。再開する場合は「再開条件」と「次回の開始レベル」を明確にして共有します。
Q4. 記録を短くしたいのですが、何を残せば良いですか?
A. 最小セットは、開始判定(保留理由)、到達レベル(介助量)、中止理由(具体)、再開条件(次回レベル)の 4 点です。これだけ残せば、担当が変わっても安全に積み上がります。
次の一手(現場で回すための行動)
運用を整える → 共有の型を作る → 環境の詰まりも点検、の順で進めるとスムーズです。
無料チェックシートを開く(マイナビ)参考文献
- Hodgson CL, Stiller K, Needham DM, et al. Expert consensus and recommendations on safety criteria for active mobilization of mechanically ventilated critically ill adults. Critical Care. 2014;18:658. DOI: 10.1186/s13054-014-0658-y
- Nydahl P, Sricharoenchai T, Chandra S, et al. Safety of Patient Mobilization and Rehabilitation in the Intensive Care Unit. Ann Am Thorac Soc. 2017. DOI: 10.1513/AnnalsATS.201611-843SR
- Society of Critical Care Medicine. ICU Liberation Bundle (A-F)(E:Early Mobility and Exercise). 公式ページ
- 日本集中治療医学会.集中治療における早期リハビリテーション ~根拠に基づくエキスパートコンセンサス~(PDF).JSICM
- 日本集中治療医学会.重症患者リハビリテーション診療ガイドライン(J-ReCIP 2023).PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター 2 級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


