- 気切・人工呼吸器併用のカフ圧管理|「リークと誤嚥」と「粘膜障害」を同時に減らす結論
- 目標カフ圧の考え方|「数値」より「最小リークなし圧」を優先
- いつ測る?|「 8–12 時間ごと」+イベント後が基本
- どう測る?|触診や「入れた空気量」ではなく、圧を数値で管理
- リークが出たときの順番|「増圧する前」に 5 つ潰す
- リハ場面の安全管理|離床で崩れやすいポイントを先に決める
- 中止・相談の目安|「増圧」より先に止めるべきサイン
- よくある失敗と対策|“カフ圧の問題”に見えて別原因が多い
- 記録テンプレ|最低限これだけで「再現できる」
- よくある質問( FAQ )
- まとめ|「測る→原因を潰す→最小限調整→記録」で、カフ圧は安全に標準化できる
- 参考文献・資料
- 著者情報
気切・人工呼吸器併用のカフ圧管理|「リークと誤嚥」と「粘膜障害」を同時に減らす結論
カフ圧は、低すぎるとリークや微小誤嚥( VAP など)に傾き、高すぎると気管粘膜の虚血や損傷に傾きます。成人では、ETT のカフ圧を 20–30 cmH2O に維持する運用が広く示され、 20 cmH2O 未満は VAP リスク、 30 cmH2O は粘膜障害回避の上限目安として扱われることがあります。
一方、気管切開では「漏れを止める最小圧」という考え方が明確で、教育資料ではカフ圧を 15–25 cmH2O( 10–18 mmHg )に保つ推奨が示されています。したがって本稿の結論は、① カフ圧計で“測って合わせる”、② リーク時は“圧を上げる前”に原因を潰す、③ 離床・体位変換を含めた観察と記録を固定する、の 3 点です。
目標カフ圧の考え方|「数値」より「最小リークなし圧」を優先
まずは施設ルールが最優先です。施設で統一がない場合の“迷いにくい”目安は次のとおりです。
| 対象 | よく使われる目安 | 意図 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| ETT(経口・経鼻) | 20–30 cmH2O | 気道シールと粘膜保護のバランス | 20 cmH2O 未満はリーク・微小誤嚥に傾きやすい |
| 気管切開( TT ) | 15–25 cmH2O | 漏れを止める最小圧を狙う | 体位や固定でリークが増えるため「原因→最小限増圧」の順が安全 |
粘膜虚血はカフ圧と関連し、毛細血管灌流圧が 22–32 mmHg 程度で、側壁圧が高いと粘膜血流が低下する可能性が示されています。数字を“上限”として意識し、リークが出たらまず原因を潰すほうが安全です。
いつ測る?|「 8–12 時間ごと」+イベント後が基本
カフ圧は時間・体位・回路条件で変わります。運用としては、 8–12 時間ごとの定期チェックに加え、次のイベント後に再測定すると事故が減ります。
- 体位変換(特に頸部屈曲・伸展が変わる)
- 離床・移乗(端座位〜立位)
- 回路の付け替え、加湿・フィルタ・ HME の変更
- 強い咳込み、吸引後、分泌物が増えたタイミング
- リーク音・換気量低下・アラームが出たとき
どう測る?|触診や「入れた空気量」ではなく、圧を数値で管理
カフ圧は カフ圧計(マノメータ)で測ります。触診や経験的な注入量は再現性が低く、過圧や低圧を見逃しやすいです。チェックのたびに、測定値 → 調整 → 再測定までを 1 セットにすると安定します。
リークが出たときの順番|「増圧する前」に 5 つ潰す
リークのたびに増圧すると、粘膜障害リスクが上がり、根本原因(固定・体位・分泌物)も残ります。次の順番が安全です。
- 体位と頸部アライメント:屈曲・伸展でリークが増えることがあります
- カニューレ位置と固定:ホルダーの緩み、回旋、牽引を確認します
- 回路・接続・カフライン:接続の甘さ、ラインの折れ・抜け、バルブ不良を確認します
- 分泌物:痰詰まりで換気が乱れ、リーク様に聞こえることがあります(吸引・加湿を再設計)
- カフ圧計で再確認:数値が低いなら、必要最小限だけ増圧し、再測定します
それでも「上限付近まで上げないと止まらない」状態が続くなら、サイズ不適合やカフ形状、気道条件の見直しが必要です。増圧で“ごまかさない”ほうが安全です。
リハ場面の安全管理|離床で崩れやすいポイントを先に決める
離床・移乗では、頸部角度と回路牽引でリークが出やすく、同時に誤嚥・分泌物増加も重なります。PT が握ると強いのは「動作条件の統一」と「観察の固定」です。
| 観察 | 見方 | 崩れたときにまずやること |
|---|---|---|
| SpO2 | 急な低下、回復が遅い | 動作を止めて休止、回路牽引・体位・分泌物を確認 |
| 換気(アラーム) | リーク、換気量低下、圧変化 | 固定と接続を確認し、カフ圧を再測定 |
| 呼吸音・痰 | 粗さ、喘鳴、痰量・性状 | 吸引と加湿の再設計、離床前処置の見直し |
| 表情・努力感 | 苦悶、冷汗、努力呼吸 | 中断し評価、原因が不明なら医師・看護へ即共有 |
関連:気道クリアランス全体の組み立て(前処置・体位・回収)は IPV の気道クリアランス手順 でも整理しています。
中止・相談の目安|「増圧」より先に止めるべきサイン
- 急な胸痛、呼吸困難の悪化、 SpO2 低下が回復しない
- 血痰の増加、強い咽頭痛、嗄声の悪化、強い不快
- 上限付近でもリークが止まらない/低圧でも苦痛が強い
- 循環変動(著明な頻脈・徐脈、血圧変動、冷汗)
この段階では「増圧で止める」より、原因評価とチーム共有のほうが安全です。
よくある失敗と対策|“カフ圧の問題”に見えて別原因が多い
| 失敗(よくある) | 起きる理由 | 対策 |
|---|---|---|
| リークのたびに増圧してしまう | 体位・固定・回路牽引を見ていない | 「体位→固定→接続→分泌物→再測定→最小限増圧」の順番をチームで固定 |
| 離床後にアラームが増える | 頸部角度変化、回路牽引、ホルダーの緩み | 離床前に固定・牽引を整え、離床後に必ず再測定 |
| 「測る人」が決まっていない | 担当が曖昧で抜ける | 勤務帯ごとの担当と記録場所を固定し、イベント後は“実施者が測る”運用へ |
| 分泌物が増えても運用が変わらない | 加湿・吸引・体位がセットで再設計されない | 吸引タイミングと前処置を見直し、離床の条件(時間帯・姿勢)を調整 |
記録テンプレ|最低限これだけで「再現できる」
記録は“誰が見ても同じ判断”ができる形が最強です。最低限、次の項目を固定します。
- 測定時刻(勤務帯の固定)
- カフ圧( cmH2O )
- リーク有無(安静時/陽圧時/会話時など)
- SpO2 /呼吸数、アラームの有無
- 痰量・性状(必要なら吸引量)
- イベント(体位変換/離床/回路変更の前後)
- 対応(体位・固定調整、吸引、増減圧、共有先)
よくある質問( FAQ )
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
Q1. 気切のカフ圧は、何 cmH2O を目標にすればいいですか?
施設ルールが最優先です。統一がない場合は、気切では 15–25 cmH2O を目安に「漏れを止める最小圧」を狙う運用が示されています。ETT では 20–30 cmH2O が広く使われる目安です。いずれも「数値ありき」ではなく、リーク時は体位・固定・接続・分泌物を先に点検します。
Q2. リークが出たら、とりあえず圧を上げてもいいですか?
安全のため、まずは「体位→固定→接続→分泌物→再測定」を先に行います。圧を上げるのは最後で、必要最小限にします。上限付近まで上げないと止まらない場合は、サイズ不適合などの見直しが必要です。
Q3. 離床・移乗でリークが増えるのはなぜですか?
頸部角度の変化、回路牽引、ホルダーの緩みでカニューレ位置が変わるためです。離床前に牽引と固定を整え、離床後に再測定すると事故が減ります。
Q4. 「咽頭痛や血痰」が出たらどうしますか?
中断し、評価と共有を優先します。粘膜障害や気道反応の可能性があるため、増圧で止めるのではなく、原因の除外とチームでの方針確認が安全です。
まとめ|「測る→原因を潰す→最小限調整→記録」で、カフ圧は安全に標準化できる
カフ圧管理の要点は、設定の正解探しではなく、測定の頻度、リーク対応の順番、離床イベント後の再測定、記録テンプレを固定して、誰がやっても同じ判断に寄せることです。低圧によるリーク・微小誤嚥と、高圧による粘膜障害の両方を避けるために、まずは “測って合わせる” をチームの共通言語にします。
参考文献・資料
- Tracheostomy.org.uk. Cuff Management. PDF
- Kim DM, et al. What is the Adequate Cuff Volume for Tracheostomy Tube? Ann Rehabil Med. 2020. PDF
- Mu G, et al. Reevaluating 30 cmH2O endotracheal tube cuff pressure. J Intensive Care. 2024. PMC
- Smith RPR, et al. Pressure in the cuffs of tracheal tubes at altitude. Anaesthesia. 2002. PDF
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3 学会合同呼吸療法認定士
- 栄養サポート(リハ栄養)に関する臨床発信
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下


