IPV(肺内パーカッション換気)とは
IPV(Intrapulmonary Percussive Ventilation:肺内パーカッション換気)は、高頻度の小さなガス流を気道内へ送り、パーカッションとネブライザーを組み合わせて、気道分泌物の流動化・排出補助や呼吸補助を行う治療法です。分泌物貯留、排痰困難、無気肺、換気・ガス交換の問題などに対して臨床で使用されています。
IPVで重要なのは、「何psiに設定するか」だけではありません。適応を確認する→禁忌・慎重適用を確認する→作動圧・頻度・時間を確認する→実施する→動いた分泌物を排出・回収する→再評価するまでを一連で考える必要があります。特に咳嗽力が低い患者では、痰を動かしたあとに回収できる体制まで先に整えておくことが重要です。
IPVを実施するときの基本
適応 → 禁忌・慎重適用 → 設定 → 実施 → 痰を動かす → 排出・回収 → 再評価の順で確認します。設定値だけを先に決めず、「今回IPVで何を改善したいのか」と「動いた分泌物をどう回収するのか」を明確にしてから開始します。
なお、IPVの設定・実施方法は、機種、インターフェース、患者の状態、治療目的によって異なります。この記事に示す数値をすべてのIPVへ一律に適用せず、使用機器の最新の添付文書・取扱説明書、医師の指示、施設プロトコルを優先してください。
IPVの適応|どんな患者・場面で検討するか
IPVは、気道分泌物の貯留や排痰困難があり、分泌物の移動・排出を補助したい場面などで検討されます。無気肺や換気・ガス交換の問題を伴う患者にも使用されていますが、疾患名だけで適応を決めるのではなく、今回の治療目的を明確にすることが重要です。
| 臨床上の問題 | IPVで狙うこと | 開始前に確認すること |
|---|---|---|
| 分泌物が多く排痰しにくい | 分泌物を流動化し、排出しやすい状態へ近づける | 咳嗽力、吸引の必要性、回収方法 |
| 無気肺・肺拡張不良がある | パーカッションと陽圧による呼吸補助を行う | 呼吸状態、画像・聴診所見、圧負荷のリスク |
| 換気・ガス交換の問題がある | 換気を補助しながら患者反応を確認する | SpO2、呼吸数、呼吸仕事量など |
| 神経筋疾患などで咳嗽力が低い | 気道内の分泌物を流動化・移動させる | 動いた痰を咳嗽補助や吸引で回収できるか |
2024年のスコーピングレビューでは、ICU、急性期病棟、外来などさまざまな場面でIPVが使用されていましたが、対象、設定、実施方法にはばらつきがあり、エビデンスに基づく統一された臨床ガイドラインを示せる段階には至っていません。そのため、「この疾患ならIPV」と機械的に決めず、目的と患者反応を確認しながら適用することが大切です。
IPVの禁忌・慎重適用|開始前に確認する
IPVでは陽圧やパーカッションが加わるため、実施前に気胸やair leak、出血、循環動態などを確認します。メーカー資料では未処置の緊張性気胸が禁忌として示されています。使用する機種の最新の添付文書・取扱説明書を必ず確認してください。
| 区分 | 主な状態 | 実施前の考え方 |
|---|---|---|
| 禁忌 | 未処置の緊張性気胸 | IPVを開始せず、気胸への対応を優先する |
| 慎重適用 | 気胸の既往、肺切除術直後、肺からのair leak、気縦隔、ブラ | 陽圧による影響を考慮し、適応を慎重に判断する |
| 慎重適用 | 肺出血、鼻出血など呼吸器系の異常 | 出血の状態を確認して適用を判断する |
| 慎重適用 | 血行動態不安定、心疾患が疑われる場合、心血管不全・冠灌流不全 | 循環動態への影響を含めて適応を確認する |
| 慎重適用 | 強い嘔吐、肋骨骨折、肺塞栓 | 振動・陽圧によるリスクと治療目的を再評価する |
| 慎重適用 | 気管内肉芽 | 刺激による影響を考慮する |
| 特に注意 | 神経筋疾患などで排痰力が低い | 流動化した分泌物による気道閉塞に備え、吸引などを準備する |
神経筋疾患は「IPVを使えない」という意味ではありません。分泌物の移動を目的として使用されることがありますが、IPVによって動いた痰を患者自身が排出できないことがあるため注意が必要です。国内添付文書でも、排痰力の乏しい神経筋疾患では、流動化した分泌物が気管・気管支を閉塞する可能性があるとして、吸引などの適切な処置が求められています。
IPVの設定|作動圧・頻度・時間はどう見るか
IPVの設定でまず押さえておきたいのは、本体の作動圧を示す「psi」と、患者側で確認する気道内圧「cmH2O」は同じものではないことです。作動圧の数値だけで患者への圧負荷を判断せず、気道内圧、胸郭の動き、呼吸状態、治療目的をあわせて確認します。
設定値の注意:以下は主にIPV-1C/IPV-1CFの国内資料をもとに整理しています。機種が異なれば操作方法や設定範囲も異なります。「IPVは必ず○psi」と固定せず、実際に使用する機種の添付文書・取扱説明書を優先してください。
| 項目 | 国内資料での目安 | 確認するポイント |
|---|---|---|
| 開始時の作動圧 | 成人では30psiから開始する手順が示されている | 患者の耐容性、胸郭運動、気道内圧を確認する |
| 作動圧 | IPV-1C/IPV-1CFの添付文書では35〜40psiが最適作動圧として記載 | 数値だけで固定せず、患者状態と治療目的に合わせて調整する |
| パーカッション頻度 | つまみをEASY方向で頻度増加、反対方向で頻度低下 | 分泌物の流動化・排出など、目的と患者反応を確認する |
| 標準位置 | 12時位置が標準として示されている | 導入後、患者状態を見ながら標準位置へ調整する |
| 実施時間 | 通常15〜20分 | 予定時間より、痰の移動や患者反応を優先する |
高頻度・中頻度・低頻度はどう使い分けるか
メーカー資料では、高頻度は分泌物の流動化、中〜低頻度は分泌物排出の活性化を目的とした使い分けが示されています。目安として、高頻度は約300回/分、中頻度は約200回/分、低頻度は約100回/分という整理です。
一方、2024年のスコーピングレビューでは、研究ごとにIPVの設定や用量にばらつきがありました。したがって、頻度だけで効果を決めつけず、使用機種の手順を基本に、痰の移動、胸郭運動、気道内圧、呼吸状態を見ながら調整することが重要です。
IPVは何分行うのか
IPV-1C/IPV-1CFの国内添付文書では、通常15〜20分の処置が示されています。ただし、「15〜20分続けること」そのものが目的ではありません。
実施中に分泌物が中枢側へ移動した、吸引が必要になった、呼吸状態が悪化したなどの変化があれば、予定時間の途中でもIPVを止めて排痰・吸引・再評価を優先します。

IPVの使い方|開始前から回収までの手順
IPVは、適応確認→禁忌確認→回収準備→機器・設定確認→患者へ導入→痰の移動を確認→排出・回収→再評価の順で進めると整理しやすくなります。IPV-1C/IPV-1CFでは具体的な操作手順が添付文書に示されているため、実際の操作は使用機器の取扱説明書を優先してください。
- 適応を確認する:分泌物貯留、排痰困難、無気肺、換気の問題など、今回IPVで改善したい問題を明確にします。
- 禁忌・慎重適用を確認する:気胸、air leak、出血、循環動態、嘔吐、肺・胸部手術歴などを確認します。
- 排出・回収方法を準備する:自力咳嗽、咳嗽補助、MI-E、口腔・気管吸引など、痰が移動した後の対応を先に決めます。
- 機器と呼吸回路を確認する:本体と回路、ガス源、ネブライザー、パーカッションの作動などを使用機器の手順に沿って確認します。
- 患者へ接続する:マウスピース、マスク、気管切開部など、患者と使用条件に適した方法で接続します。
- 患者反応を見ながら導入する:IPV-1C/IPV-1CFでは高頻度側から短時間のパーカッションで導入し、患者状態を確認しながら頻度・作動圧を調整します。
- 分泌物の移動を確認する:呼吸音、咳、痰の音・動き、胸郭運動、SpO2、呼吸数、心拍数、表情などを観察します。
- 痰が上がったら排出・回収を優先する:必要に応じてIPVを中断し、咳嗽、MI-E、吸引などで分泌物を回収します。
- 再評価する:呼吸音、分泌物、SpO2、呼吸数、呼吸仕事量などを確認し、継続・終了・他の方法への変更を判断します。
神経筋疾患では「痰を動かした後」が重要
神経筋疾患や重度の咳嗽力低下では、IPVによって末梢側の分泌物を動かせても、その痰を患者自身が気道外へ排出できるとは限りません。そのため、「痰が動いた=終了」ではなく、排出・回収までを一連の介入として考えます。
本記事で整理する3段階
IPVで分泌物を動かす → 咳嗽・咳嗽補助などで排出する → 必要に応じて吸引で回収する
国内添付文書では、排痰力の乏しい神経筋疾患では、流動化・移動した分泌物によって気管や気管支が閉塞する可能性があるため、吸引などの適切な処置を行うよう注意されています。
さらに、流動化した分泌物の気管内への移動がIPV終了後10〜15分して生じることがあり、神経筋疾患では終了後30〜45分程度観察するよう記載されています。終了直後のSpO2や呼吸音だけで終わりにせず、その後に痰が上がってこないか、呼吸状態が変化しないかまで確認することが重要です。
人工呼吸器とIPVを併用するときの注意点
IPV-1C/IPV-1CFでは汎用人工呼吸器との併用方法も示されていますが、単独使用と同じ接続・設定のまま使用するものではありません。専用の呼吸回路を使用し、人工呼吸器側の設定やアラームも含めて確認する必要があります。
国内添付文書では、汎用人工呼吸器との併用時にはIPV側の作動圧を20psiに設定して開始する手順が示され、患者状態によって調整するとされています。また、必要に応じて人工呼吸器側の換気モードや吸入圧、アラーム設定などを変更し、併用終了後には変更した設定を元へ戻すことが求められています。
人工呼吸器との併用では、患者・IPV・人工呼吸器・回路を継続して監視し、異常があれば中止して適切な処置を行います。人工呼吸器併用はIPV単独使用の延長として自己流で接続せず、使用機器の専用回路と取扱説明書、医師の指示に従うことが重要です。
IPVとMI-Eの違い|「動かす」と「出す」で整理する
IPVとMI-Eはいずれも気道クリアランスに使われますが、主に担う役割が異なります。実際の使い分けは患者の病態や咳嗽力によって変わりますが、理解するときはIPV=分泌物を動かす側、MI-E=咳嗽を補助して出す側と整理すると分かりやすくなります。
| 比較 | IPV | MI-E |
|---|---|---|
| 主な役割 | 分泌物の流動化・移動、呼吸補助 | 咳嗽を補助して分泌物を排出する |
| イメージ | 痰を「動かす」 | 痰を「出す」 |
| 咳嗽力が低い場合 | IPV後の排出・回収方法を準備する | 咳嗽補助の選択肢として検討する |
例えば神経筋疾患では、IPVで分泌物を移動させたあと、患者の咳嗽力に応じてMI-Eや吸引などを組み合わせることがあります。MI-Eの適応や機種の選び方については、MI-Eの選び方・使い分けで詳しく整理しています。
IPVを中止・再評価する所見
IPV実施中に患者状態が悪化した場合は、設定を上げて続けるのではなく、いったん中止して原因を確認します。添付文書でも、機器または患者に異常が認められた場合は治療を中止し、適切な処置を行うことが求められています。
- SpO2の持続的な低下やチアノーゼ
- 呼吸困難・努力呼吸の明らかな増悪
- 著しい頻脈、不整脈、血圧低下など循環動態の悪化
- 新たな胸痛や気胸を疑う変化
- 喀血・肺出血を疑う所見
- 強い苦悶、不耐容、嘔吐
- 分泌物が移動したものの排出できず、気道閉塞が疑われる状態
- 人工呼吸器との非同調、回路異常、予期しないアラーム
これらは単一の数値だけで判断せず、開始前との変化、呼吸数、心拍数、表情、胸郭運動、呼吸音、分泌物の状態などをあわせて評価します。異常の内容によっては、その場で再開せず医師や関係職種へ相談します。
IPV後に何を再評価するか
IPV後は「痰が取れたか」だけではなく、治療目的に対してどのような変化が得られたか、有害な反応がなかったか、さらに排出・回収が必要ではないかを確認します。
| 項目 | 確認する変化 |
|---|---|
| 呼吸音 | 副雑音、換気の左右差などの変化 |
| 分泌物 | 量、粘稠度、色、移動・喀出の有無 |
| SpO2 | 開始前・実施中・終了後の推移 |
| 呼吸状態 | 呼吸数、呼吸仕事量、胸郭運動、表情 |
| 排出能力 | 自力で排出できるか、咳嗽補助・吸引が必要か |
| 耐容性 | 疲労、苦悶、疼痛、循環動態の変化など |
IPVの記録|次回再現できる情報を残す
IPVの記録では「IPV実施」とだけ残すのではなく、何を目的に、どの条件で実施し、どのような反応があり、どのように分泌物を排出・回収したかを残します。次回の設定や実施方法を再現できる情報を優先します。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 実施目的 | 分泌物貯留、排痰困難など今回の介入目的 |
| 使用条件 | 使用機種、インターフェース、体位 |
| 設定 | 作動圧、頻度設定、実施時間 |
| 開始前所見 | 呼吸音、SpO2、呼吸数、痰性状、咳嗽力 |
| 実施中の反応 | 胸郭運動、苦悶、SpO2・心拍数、痰の移動 |
| 排出・回収 | 自力喀出、咳嗽補助、MI-E、吸引、痰量・性状 |
| 終了後 | 呼吸音、SpO2、呼吸数、呼吸仕事量の変化 |
| 次回への申し送り | 有効だった条件、中止理由、次回変更する点 |
IPVでよくある質問
Q1. IPVの作動圧は何psiに設定しますか?
IPV-1C/IPV-1CFの国内添付文書では、成人は30psiから開始する手順が示され、患者の状態と治療目的に合わせて調整し、35〜40psiが最適作動圧として記載されています。ただし、これはすべてのIPVに共通する固定値ではありません。使用機種の添付文書・取扱説明書を確認し、患者側の気道内圧や反応とあわせて調整します。
Q2. IPVは何分行いますか?
IPV-1C/IPV-1CFの国内添付文書では、通常15〜20分が示されています。ただし、予定時間を消化することより患者反応を優先します。分泌物が移動して吸引が必要になった場合や、呼吸状態に異常がみられた場合は途中でも中止し、排出・回収や再評価を行います。
Q3. IPVとMI-Eはどちらを先に使いますか?
一律には決まりません。分泌物を流動化・移動させる必要がある場合にIPVを使用し、その後の排出能力が不足していればMI-Eや吸引などを組み合わせることがあります。痰の位置、咳嗽力、気道確保方法、患者反応から判断します。
Q4. 神経筋疾患ではIPV終了後すぐ離れてよいですか?
終了後も観察が必要です。国内添付文書では、流動化した分泌物がIPV終了後10〜15分して気管内へ移動することがあるとされ、排痰力の乏しい神経筋疾患では終了後30〜45分程度の観察が示されています。呼吸状態と痰の移動を確認し、必要に応じて吸引などを行います。
次の一手
IPVだけでなく気道クリアランスや呼吸理学療法全体から介入方法を整理したい場合は、呼吸理学療法の全体像を確認してください。
参考文献
- 医薬品医療機器総合機構. 人工呼吸器IPV(IPV-1C/IPV-1CF/IPV1C-DM)添付文書. 第5版. 2020. PMDA
- パーカッショネア・ジャパン. IPV®療法で排痰を効果的に行うポイント. 公式サイト
- パーカッショネア・ジャパン. 肺内パーカッションベンチレーター. PDF
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- Clini EM, Antoni FD, Vitacca M, Crisafulli E, Paneroni M, Chezzi-Silva S, et al. Intrapulmonary percussive ventilation in tracheostomized patients: a randomized controlled trial. Intensive Care Med. 2006;32(12):1994-2001. doi:10.1007/s00134-006-0427-8. PubMed: 17061020
- Reardon CC, Christiansen D, Barnett ED, Cabral HJ. Intrapulmonary percussive ventilation vs incentive spirometry for children with neuromuscular disease. Arch Pediatr Adolesc Med. 2005;159(6):526-531. doi:10.1001/archpedi.159.6.526. PubMed: 15939850
- Fraipont V, Kellens I, Weber T, Defraigne JO, D’Orio V, Marcelle R. Prospective randomised controlled study of use of intrapulmonary percussive ventilation with chest physiotherapy after cardiac surgery. Crit Care. 2004;8(Suppl 1):P15. doi:10.1186/cc2482
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

