閉鎖式吸引の手順|吸引圧・時間・カテーテル径・挿入深度

臨床手技・プロトコル
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閉鎖式吸引は「径・深さ・圧・時間」を先に確認して実施します

閉鎖式吸引では、人工呼吸器回路を外さずに吸引できますが、「閉鎖式だから安全」と考えるのではなく、カテーテル径、挿入深度、吸引圧、1回の吸引時間、吸引前後の患者反応をそろえて実施することが重要です。

成人の人工気道患者では、カテーテル外径は人工気道内径の半分以下が目安とされ、深い挿入は避けます。吸引圧は200 mmHg以下、1回の吸引時間は15秒以内が専門家意見として提唱されています。ただし、これらはすべての患者へ固定して適用する絶対値ではありません。患者状態、使用製品の添付文書、人工呼吸器・吸引装置の仕様、施設SOPを優先して判断します。

閉鎖式吸引で最初に確認する4点
  • カテーテル外径:人工気道内径の1/2以下を目安に選択する
  • 挿入深度:深く入れすぎず、抵抗まで押し込む深い吸引をルーチン化しない
  • 吸引圧:制限して使用し、成人では200 mmHg以下が目安として提唱されている
  • 1回の吸引時間:短時間にとどめ、15秒以内が目安として提唱されている
成人の閉鎖式吸引で確認する設定・手技の目安
項目 目安・考え方 注意点
カテーテル径 外径が人工気道内径の1/2以下を目安にする 太いほど吸引時の気道内圧・肺容量への影響が大きくなる可能性がある
挿入深度 深い吸引を避け、必要以上に末梢へ進めない 抵抗を感じても無理に押し込まない
吸引圧 吸引圧を制限し、200 mmHg以下が専門家意見として提唱されている 高い陰圧で「取り切る」ことを優先しない
1回の吸引時間 吸引時間を制限し、15秒以内が専門家意見として提唱されている 分泌物が多くても長時間連続で吸引せず、一度中断して再評価する
閉鎖式吸引の基本フロー。実施前確認、設定確認、短時間での吸引、再評価と中断を整理した図
図:閉鎖式吸引では、実施前確認→設定確認→短時間で吸引→再評価・中断の順に確認します。数値は一般的な目安であり、患者反応・製品情報・施設SOPを優先します。

閉鎖式吸引の手順|実施前から再評価までを6段階で確認します

閉鎖式吸引は、カテーテルを入れて痰を回収する操作だけでなく、必要性の確認→準備→吸引前酸素化→挿入→短時間吸引→再評価までを1つの手順として扱います。

  1. 吸引が必要か確認する:副雑音、人工気道内の分泌物、咳嗽、人工呼吸器波形や気道抵抗の変化などを確認します。
  2. 患者と機器を確認する:SpO2、呼吸状態、心拍数、循環動態、人工呼吸器回路、閉鎖式吸引システムの接続・固定、吸引圧を確認します。
  3. 必要に応じて吸引前酸素化を行う:患者状態と施設SOP、人工呼吸器の酸素化機能に従って対応します。
  4. カテーテルを挿入する:必要以上に深く進めず、抵抗を感じた場合は無理に押し込みません。
  5. 陰圧をかけながら抜去する:短時間で必要最小限の分泌物を回収し、患者反応を継続して確認します。
  6. 吸引後に再評価する:呼吸音、SpO2、呼吸パターン、人工呼吸器アラーム、分泌物、循環動態を確認し、追加吸引が本当に必要か判断します。

吸引を行うこと自体が目的ではありません。吸引後に分泌物貯留の所見が改善し、患者状態が安定しているかまで確認して一連の手技とします。

閉鎖式と開放式|閉鎖式は推奨されますが絶対的な選択ではありません

日本呼吸療法医学会「気管吸引ガイドライン2023」では、成人の人工気道患者に対して、開放式より閉鎖式で気管吸引を行うことが弱く推奨されています。一方、AARCの2022年ガイドラインでは、成人について閉鎖式・開放式のいずれも安全かつ有効に分泌物を除去できるとしています。

そのため、閉鎖式を「常に優れている方法」と捉えるのではなく、人工呼吸器回路を維持したい状況、患者状態、感染管理、デバイス、施設の運用を含めて選択します。

閉鎖式吸引の位置づけ
視点 整理
回路 人工呼吸器回路を開放せずに吸引できる
ガイドライン 日本の2023年ガイドラインでは、開放式より閉鎖式を弱く推奨している
酸素化・呼吸状態 回路開放を伴わないため、吸引時の呼吸状態悪化を抑えられる可能性がある
VAP 閉鎖式で発生率が低下する可能性を示す報告はあるが、これだけで方式を決めない
苦痛・コスト 苦痛の優劣は明確ではなく、交換方法や吸引頻度によってコストも変わる

「そもそも気管吸引が必要か」という判断については、気管吸引の適応判定で詳しく整理しています。

実施前確認|「閉鎖式を使う」より先に患者状態を確認します

閉鎖式吸引を使用していても、不要な吸引を繰り返せば侵襲は増えます。実施前には、分泌物貯留の根拠と、吸引刺激に耐えられる状態かを確認します。

閉鎖式吸引前に確認する項目
確認項目 見るポイント
吸引の必要性 副雑音、人工気道内の分泌物、咳嗽、呼吸状態、人工呼吸器波形・気道抵抗の変化
酸素化・呼吸 SpO2、呼吸数、呼吸パターン、努力呼吸、人工呼吸器設定
循環 心拍数、血圧、不整脈、顔色、冷汗など
回路・人工気道 接続、固定、回路牽引、チューブ位置、閉鎖式吸引システムの状態
吸引装置 吸引圧、カテーテルサイズ、作動状態

特に、吸引前から酸素化や循環が不安定な患者では、「痰があるからそのまま吸引する」のではなく、吸引による益と状態悪化のリスクを比較しながら実施方法を調整します。

吸引前酸素化|全員を一律にFiO2 1.0へ上げるという意味ではありません

日本呼吸療法医学会「気管吸引ガイドライン2023」では、成人の人工気道患者に対する気管吸引前の高濃度酸素投与が弱く推奨されています。AARC 2022でも、成人の吸引前酸素化が推奨されています。

ただし、「吸引前は必ず100%酸素を一定時間投与する」と一律に固定するものではありません。もともとのFiO2、酸素化低下のリスク、人工呼吸器の酸素化機能、病態、施設SOPを確認し、必要な方法を選択します。

吸引前酸素化を行った場合も、酸素濃度を上げたことだけで安心せず、吸引中・吸引後のSpO2と呼吸状態を継続して確認します。

カテーテル径|外径は人工気道内径の半分以下が1つの目安です

カテーテルが太すぎると、吸引中に人工気道内を占める割合が大きくなり、肺容量や気道内圧への影響が増える可能性があります。一方で、細くすれば必ずよいわけではなく、分泌物を回収できるかも考慮する必要があります。

日本呼吸療法医学会「気管吸引ガイドライン2023」では、吸引カテーテルの外径を人工気道の内径の半分以下とすることを適切とする報告が紹介されています。

したがって、カテーテル径は単独で決めず、人工気道の内径、分泌物の量・粘稠度、患者反応、吸引圧、吸引時間などを合わせて選択します。使用する閉鎖式吸引システムと人工気道の組み合わせについては、製品情報も確認してください。

挿入深度|「抵抗まで入れてから引く」を通常手技にしません

閉鎖式吸引では、カテーテルを深く入れるほど分泌物が取れるとは限りません。深い挿入では、気道粘膜への刺激や循環動態の変化などの侵襲が増える可能性があります。

日本呼吸療法医学会「気管吸引ガイドライン2023」では、吸引カテーテルを深く挿入する手技を行わないことが弱く推奨されています。

そのため、カテーテルが進みにくいときに力を加えて押し込むのではなく、まずカテーテル、人工気道、体位、回路、チューブ位置などを確認します。通常の吸引で分泌物除去が不十分な場合は、「もっと深く入れる」ことだけで解決しようとせず、原因から再評価します。

吸引圧と時間|「強く・長く」ではなく必要最小限にします

吸引圧と吸引時間は、分泌物を多く取るために上げる項目ではなく、患者への侵襲を抑えながら必要な分泌物を除去するために調整します。

吸引圧は200 mmHg以下が専門家意見として提唱されています

「気管吸引ガイドライン2023」では、吸引圧を制限することが弱く推奨されています。また、成人では200 mmHg以下が専門家による目安として提唱されています。

ここで重要なのは、「200 mmHgまで上げてよい」という意味ではないことです。分泌物が取れないときは、すぐに陰圧を上げるのではなく、カテーテル径、挿入位置、痰の粘稠度、加湿、体位なども確認します。

1回の吸引時間は15秒以内が専門家意見として提唱されています

同ガイドラインでは、1回の吸引時間を制限することも弱く推奨され、15秒以内が専門家意見として提唱されています。

分泌物が多く15秒以内に十分除去できない場合も、漫然と吸引を続けるのではなく、いったん中断して酸素化・換気・循環を安定させ、必要性を再評価してから次の吸引を検討します。

中断・再評価|状態が悪化したら「取り切る」より中断を優先します

吸引中に患者状態が悪化した場合は、分泌物の回収を続けることより、吸引を中断して原因を確認することを優先します。

閉鎖式吸引を中断して再評価する主な変化
変化 確認・対応
SpO2低下 吸引を中断し、酸素化、換気、回路、体位、人工気道を確認する
徐脈・頻脈・不整脈 吸引刺激を止め、循環動態と患者反応を再評価する
血圧の大きな変動 中断して全身状態を確認し、施設の急変対応手順に沿って対応する
強い咳嗽・苦悶 刺激を中止し、挿入深度や必要性を再確認する
血性分泌物 無理に続けず、気道損傷の可能性を含めて評価・共有する
人工呼吸器アラーム・回路異常 吸引を止め、接続・閉塞・牽引・人工気道位置などを確認する

中止の判断は一律のSpO2や心拍数だけで固定せず、基礎疾患、吸引前の状態、患者個別の目標範囲、変化量、回復の速さを含めて判断します。

うまく吸引できないとき|陰圧や深さを増やす前に原因を分けます

分泌物が十分に回収できない場合は、「もっと強く吸う」「もっと深く入れる」より先に、どこで詰まっているかを確認します。

閉鎖式吸引がうまくいかないときの確認順序
状況 先に確認すること
カテーテルが進まない 回路の屈曲、人工気道の位置、カテーテル径、患者体位を確認する
痰が取れない 分泌物の位置・粘稠度、加湿、体位、咳嗽・排痰能力を確認する
何度も吸引が必要 分泌物量の増加原因、加湿状態、感染、気道クリアランス方法を再評価する
吸引後も呼吸状態が改善しない 分泌物以外の原因を考え、人工呼吸器、無気肺、気道閉塞、全身状態などを再評価する

吸引だけで気道クリアランスを完結させようとせず、必要に応じて体位調整、加湿、咳嗽支援などと組み合わせます。

吸引後の再評価|「痰が取れた」だけで終了しません

閉鎖式吸引後は、分泌物の量だけでなく、吸引前に認めた異常所見が改善したかを確認します。

  • SpO2と呼吸数が吸引前の状態へ戻ったか
  • 呼吸音・副雑音が変化したか
  • 呼吸パターンや努力呼吸が改善したか
  • 人工呼吸器の気道抵抗・波形・アラームが改善したか
  • 心拍数・血圧など循環動態が安定しているか
  • 分泌物の量、色、粘稠度に変化がないか
  • 追加吸引が本当に必要か

体位変換や離床によって分泌物が移動することもあります。吸引直後だけでなく、その後の活動や体位変換で呼吸状態が変化した場合は、改めて必要性から評価します。

記録|「なぜ実施し、どう反応したか」を残します

記録は手技の実施証明だけではなく、次回の吸引判断につながる内容にします。毎回すべての機器情報を書き直す必要はありませんが、少なくとも必要性と前後の反応が分かるようにします。

  • 実施理由:副雑音、分泌物、波形変化など
  • 実施前:SpO2、呼吸状態、必要に応じて心拍数・血圧
  • 実施内容:吸引回数、吸引時間、通常と異なる設定・対応があればその内容
  • 分泌物:量、色、粘稠度、血性所見の有無
  • 実施後:SpO2、呼吸音、呼吸パターン、人工呼吸器アラームなどの変化
  • 異常時:中断理由、対応、報告・共有した内容

よくある質問

Q1. 閉鎖式吸引の吸引圧は必ず200 mmHgに設定しますか?

いいえ。200 mmHg以下は成人において専門家から提唱されている上限の目安です。「200 mmHgに設定する」という意味ではありません。患者状態、分泌物、使用機器、施設SOPを確認し、必要最小限の吸引圧で実施します。

Q2. 1回の吸引は必ず15秒まで続けますか?

いいえ。15秒以内は上限側の目安であり、15秒間吸引し続けることを求めるものではありません。分泌物が回収できれば早く終了し、患者状態が悪化した場合は時間にかかわらず中断します。

Q3. 痰が取れない場合は深く挿入してもよいですか?

深い吸引を通常手技として行うことは推奨されていません。まずカテーテル径、人工気道、体位、分泌物の粘稠度、加湿、排痰方法などを確認します。深い吸引が必要と考える場合は、患者状態と施設の手順に沿って個別に判断します。

Q4. 閉鎖式吸引なら吸引前酸素化は不要ですか?

不要とはいえません。閉鎖式でも吸引による酸素化低下は起こり得ます。成人の人工気道患者では吸引前の高濃度酸素投与が弱く推奨されていますが、酸素濃度や時間を全員に固定せず、患者状態、人工呼吸器の機能、施設SOPに応じて調整します。

Q5. 閉鎖式は開放式より必ず安全ですか?

一律にはいえません。日本の2023年ガイドラインでは閉鎖式が弱く推奨されていますが、方式だけで安全性が決まるわけではありません。患者状態、吸引手技、機器管理、感染対策、実施前後の評価を含めて判断します。

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参考文献・資料

  1. 日本呼吸療法医学会 気管吸引ガイドライン改訂ワーキンググループ.
    気管吸引ガイドライン2023[改訂第3版]―成人で人工気道を有する患者のための.
    呼吸療法.2024;41(1).
    日本呼吸療法医学会
  2. Blakeman TC, Scott JB, Yoder MA, et al.
    AARC Clinical Practice Guidelines: Artificial Airway Suctioning.
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    PubMed
  3. 佐藤隆平,河合佑亮,中根正樹.
    成人の人工呼吸患者に対する開放式気管吸引と閉鎖式気管吸引の有用性の比較―ナラティブレビュー.
    呼吸療法. 2026;43(1):74-82.
    doi:10.50903/respcare.43.1_74.
    J-STAGE
  4. Maggiore SM, Lellouche F, Pignataro C, et al.
    Decreasing the adverse effects of endotracheal suctioning during mechanical ventilation by changing practice.
    Respir Care. 2013;58(10):1588-1597.
    doi:10.4187/respcare.02207.
    DOI

著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度など、医療従事者の実務に役立つ情報を発信しています。

現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。

保有資格

  • 脳卒中認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター2級

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