FESとNMESの違い|脳卒中上肢では「目的と使い方」で整理する
脳卒中の上肢リハでFESとNMESを使い分けるときは、名称だけで二者択一にする必要はありません。NMESは電気刺激によって神経・筋を刺激し、目的とする筋収縮を誘発する方法として広く用いられます。一方、FESは電気刺激による運動を、把持・リリースなどの機能的な動作や課題へ結び付けて使う文脈で用いられます。
実務では、「何を改善したいか → どの動きを補助するか → 課題へどう組み込むか → 何を再評価するか」の順で整理することが重要です。本記事では、脳卒中上肢麻痺に対するFES / NMESの違い、適応、使い分け、刺激条件、安全管理、効果判定までをPT・OT向けに解説します。
FESとNMESの違い|完全に別の治療法として考えない
FESとNMESは「どちらが優れているか」で選ぶのではなく、電気刺激を何の目的で、どのように機能課題へ使うかで整理すると分かりやすくなります。
NMES(Neuromuscular Electrical Stimulation)は、末梢神経を電気的に刺激して筋収縮を誘発する方法です。脳卒中上肢リハでは、手関節・手指などの運動を引き出す目的や、肩関節亜脱臼への対応などで検討されます。
FES(Functional Electrical Stimulation)は、電気刺激によって生じる運動を機能的な活動へ利用する考え方です。たとえば手指伸展を物品のリリースへ同期させるなど、刺激を実際の課題へ結び付けます。ただし、FES・NMESという用語の使われ方は論文・ガイドライン・機器によって異なるため、名称だけで介入内容を判断しないことが重要です。
| 確認項目 | NMES | FES |
|---|---|---|
| 基本的な考え方 | 電気刺激で神経・筋を刺激し、目的とする筋収縮を誘発する | 電気刺激による運動を機能的な動作・課題へ利用する |
| 上肢リハでの例 | 手関節・手指の運動を引き出す、肩関節亜脱臼への刺激を検討する | 手指伸展を物品のリリースなどの課題へ同期させる |
| 主な確認事項 | 目的とする収縮・運動方向が得られるか、疼痛や皮膚反応に問題がないか | 刺激によって機能課題が成立し、反復練習へつながっているか |
| 注意点 | 用語の使われ方には幅があるため、名称より介入目的と実際の刺激方法を確認する | |

脳卒中上肢麻痺でFES・NMESを検討する場面
電気刺激を使うかどうかは、麻痺の重症度だけではなく、現在の問題と介入目的から判断します。
日本の「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕」では、中等度から重度の上肢麻痺、または肩関節亜脱臼に対して神経筋電気刺激を行うことは妥当とされ、推奨度B・エビデンスレベル中に位置付けられています。[1]
また、Canadian Stroke Best Practice Recommendations 2025では、上肢のFESを課題指向型練習と組み合わせることが、運動機能改善のために推奨されています。[2] 英国のNational Clinical Guideline for Stroke 2023でも、手関節・手指の筋力低下によって機能が制限される場合、FESを通常のリハビリテーションへの補助手段として検討し、刺激条件を対象者の状態と耐容性に合わせて個別化することが示されています。[3]
| 患者の問題 | 電気刺激の主な目的 | 実務で確認すること |
|---|---|---|
| 上肢麻痺が強く、目的とする筋収縮が不十分 | 筋収縮・運動出力を補助する | 目的とする運動方向が得られるか |
| 手関節・手指の弱さで課題が成立しにくい | 運動を補助し、機能課題へ参加しやすくする | 刺激によって課題遂行が変化するか |
| 把持・リリースなど特定工程で動作が止まる | 必要なタイミングで運動を補助する | 刺激と患者自身の運動意図を合わせられるか |
| 肩関節亜脱臼が問題となっている | 肩周囲へのNMESを介入候補として検討する | 上肢機能訓練とは目的を分けて評価する |
したがって、「重症ならNMES、軽症ならFES」と機械的に分類するのではなく、残存する随意運動、改善したい機能、目標課題、刺激によって得られる反応を合わせて判断します。
FES・NMESの使い分け|最初に「何を変えたいか」を決める
機器や刺激モードを選ぶ前に、今回の介入で改善したいものを明確にします。ここが曖昧なまま刺激条件を調整すると、「刺激によって筋収縮は出たが、何のために実施しているのか分からない」という状態になりやすくなります。
| 今回の目的 | 考え方 | 再評価する項目 |
|---|---|---|
| 目的とする筋収縮を得たい | NMESを用いて目的とする運動方向が得られる刺激条件を探す | 筋収縮、運動方向、随意運動、疼痛、疲労 |
| 把持・リリースなどの課題を成立させたい | 刺激を課題の必要な工程へ同期させ、機能的に利用する | 課題遂行、所要時間、反復可能性、代償 |
| 反復練習への参加を増やしたい | 患者自身の運動と刺激を組み合わせ、反復可能な課題へ調整する | 自発運動、課題遂行、反復可能性、刺激への依存度 |
| 肩関節亜脱臼へ対応したい | 上肢課題とは分けて肩周囲への神経筋電気刺激として目的を設定する | 肩の状態、疼痛、上肢管理、皮膚反応 |
目的を先に決めることで、刺激の強さや設定値だけが介入の中心になることを防げます。
FESを課題練習へ組み込む|動作のどこを補助するか決める
上肢機能の改善を目的とするFESでは、電気刺激を機能課題や反復練習へつなげることが重要です。Canadian Stroke Best Practice Recommendationsでは、FESと課題指向型上肢訓練の組み合わせが推奨されています。[2]
課題全体を一度に刺激で補おうとするのではなく、まず「どの工程で動作が止まっているか」を確認します。
- 改善したい機能課題を決める:物品をつかむ、保持する、離す、移動させるなど、介入前後で確認できる課題を設定します。
- どの工程で動作が止まるか確認する:到達、把持、保持、リリースなどへ課題を分解します。
- 電気刺激で補助する運動を決める:目的とする運動方向が得られる対象筋・電極位置を確認します。
- 患者自身の運動と刺激を合わせる:可能な範囲で随意運動や運動意図と刺激を組み合わせます。
- 同じ課題で反応を再評価する:刺激中に動いたかだけでなく、課題遂行がどう変化したかを確認します。
| 課題工程 | 確認する問題 | 刺激を使う目的 | 再評価例 |
|---|---|---|---|
| 到達 | 対象物まで手を運びにくい、代償が大きい | 必要な運動を補助して課題参加につなげる | 到達距離、所要時間、体幹・肩の代償 |
| 把持 | 手を対象物へ合わせにくい、把持が安定しない | 必要な手関節・手指運動を課題へ結び付ける | 把持の成立、保持、落下の有無 |
| リリース | 手指を開きにくく、物品を離せない | 手関節・手指伸展をリリース動作へ同期させる | リリースの成立、所要時間、随意性 |
反復数を確保することは重要ですが、回数だけを介入効果にはしません。著明な体幹代償や肩挙上、疼痛、強い疲労によって課題の質が崩れる場合は、課題難度や刺激条件を見直します。
刺激条件|周波数やパルス幅を固定値で覚えない
脳卒中上肢FES / NMESには、すべての患者へ共通して適用できる唯一の刺激設定はありません。対象筋、介入目的、刺激装置、電極、肢位、感覚、患者の耐容性などによって必要な条件が変わります。
英国のNational Clinical Guideline for Strokeでも、FESの刺激プロトコルは対象者の状態と耐容性に合わせて個別化することが示されています。[3] 使用時は、使用機器の添付文書・取扱説明書と施設手順を優先します。
| 項目 | 確認すること |
|---|---|
| 対象筋・目的動作 | どの筋収縮・運動方向を得るための刺激なのかを明確にする |
| 電極位置 | 目的とする運動が得られる位置を確認し、次回も再現できるよう記録する |
| 刺激強度 | 目的とする反応が得られ、患者が許容できる範囲で調整する |
| 周波数・パルス幅 | 機器の仕様・推奨設定を確認し、得られる収縮と不快感をみながら調整する |
| オン・オフ時間 | 課題との同期、筋疲労、反復方法に合わせて設定する |
| 刺激開始方法 | 周期刺激、スイッチ、患者操作、筋電など、使用機器の方式と目的を確認する |
目的とする運動が得られないときに、刺激強度だけを上げ続けるのは避けます。電極位置、対象筋、関節肢位、刺激タイミング、課題設定を含めて見直すことが重要です。
また、設定を調整するときは複数の条件を一度に変えすぎず、「何を変更した結果、反応がどう変わったか」を追えるようにすると、次回の介入へつなげやすくなります。
効果判定|刺激中の筋収縮だけで終わらせない
FES / NMESの効果判定では、刺激によって筋収縮が生じたかだけでなく、上肢機能・課題遂行・実生活での使用へどうつながったかを確認します。
系統的レビューやメタ解析では、脳卒中後の上肢機能・活動に対するFES / NMESの効果が検討されていますが、対象者や刺激方法、介入内容は研究間で異なります。[4][5] そのため、臨床では「電気刺激を実施した」こと自体ではなく、介入前に設定した目的に対する変化を確認します。
| 評価する層 | 確認例 | 目的 |
|---|---|---|
| 心身機能 | 随意運動、運動方向、FMA-UE、疼痛など | 上肢運動障害そのものの変化を確認する |
| 活動 | ARAT、物品操作、把持・リリース、課題時間など | 実際の上肢課題が改善したか確認する |
| 実生活での使用 | 病棟・家庭で麻痺側上肢を使う場面、本人が設定した目標課題 | 治療場面だけの変化で終わっていないか確認する |
毎回すべての尺度を実施する必要はありません。介入中は同じ課題を用いて短く反応を確認し、一定期間ごとの再評価ではFMA-UEやARATなど、目的に合った標準化尺度を使用します。
上肢評価の選択に迷う場合は、上肢機能評価の種類と選び方|FMA・ARAT・WMFTで、運動障害・活動・巧緻性・実生活使用の違いを整理できます。
安全管理|開始前・実施中・終了後で確認する
FES / NMESでは、安全確認を刺激設定より先に行います。禁忌・注意事項は刺激装置や使用条件によって異なるため、使用する機器の添付文書・取扱説明書と施設手順を優先してください。
| 場面 | 主な確認事項 | 対応 |
|---|---|---|
| 開始前 | 皮膚状態、疼痛、感覚、患者の理解・意思表示、全身状態 | 安全に刺激できる状態か確認する |
| 医療機器・既往 | 植込み型電子機器など、使用機器で禁忌・注意・確認が必要となる条件 | 添付文書・施設手順を確認し、必要時は医師などへ相談する |
| 実施中 | 新規または増悪する疼痛、強い不快感、意図しない運動、疲労、課題の崩れ | 刺激を停止または調整し、原因を再評価する |
| 終了後 | 皮膚反応、疼痛、疲労、刺激後の運動・課題遂行 | 次回の刺激条件・課題設定へ反映する |
刺激によって大きな筋収縮が得られていても、疼痛や強い不快感を伴う、目的と異なる運動が生じる、課題の質が大きく崩れる場合は、単純に刺激強度を上げて対応しません。
記録|設定値だけでなく「目的・課題・反応」を残す
FES / NMESの記録では、刺激設定だけでなく、なぜ使用し、どの課題へ組み込み、患者がどう反応したかを残します。これにより、次回の再現性と多職種での共有が高まります。
| 項目 | 記録する内容 |
|---|---|
| 介入目的 | 例:手指伸展を補助し、物品リリース練習を成立させる |
| 対象・刺激条件 | 使用機器、対象筋・運動、電極位置、必要な刺激設定 |
| 実施した課題 | 物品、距離、姿勢、刺激を入れた工程など |
| 患者の反応 | 課題遂行、随意運動、代償、疼痛、疲労など |
| 安全面 | 皮膚反応、不快感、その他の有害反応の有無 |
| 次回の方針 | 継続、刺激条件の調整、課題変更、刺激なしでの再確認など |
記録例:手指伸展を補助し、コップのリリース練習へFESを併用。刺激によりリリース成立。後半は体幹側屈が増加したため課題距離を短縮。疼痛増悪・皮膚異常なし。次回は同条件で随意的なリリース開始を確認する。
このように記録すると、「電気刺激を実施した」という事実だけでなく、介入目的と臨床判断を共有できます。
よくある失敗|刺激条件より先に介入設計を見直す
FES / NMESがうまくいかないとき、原因が刺激強度だけにあるとは限りません。目的、電極位置、課題設定、タイミング、再評価方法まで含めて確認します。
| よくある失敗 | 問題 | 見直すこと |
|---|---|---|
| FESかNMESかの名称だけで選ぶ | 介入目的が曖昧になる | 先に改善したい機能・課題を決める |
| 刺激で動けば成功と判断する | 機能的な変化が分からない | 刺激後の課題遂行や標準化尺度を再評価する |
| 動きが弱いので強度だけ上げる | 疼痛・不快感や目的外の収縮につながる | 電極位置、肢位、対象筋、刺激条件を含めて再確認する |
| 毎回設定を変えるが記録しない | 効果の比較とチーム共有が難しくなる | 主要設定と患者の反応をセットで記録する |
| 反復回数だけを追う | 代償や課題の質低下を見逃す | 反復可能性と課題の質を同時に確認する |
よくある質問
FESとNMESは同じものですか?
完全に同義として扱われるとは限りませんが、単純な二者択一でもありません。NMESは電気刺激によって筋収縮を誘発する方法として広く使われ、FESは電気刺激による運動を機能的な活動へ利用する文脈で使われます。論文・ガイドライン・機器によって用語の使われ方が異なるため、名称だけでなく実際の介入内容を確認します。
NMESは必ず課題練習と同時に行うべきですか?
必ずしもそうではありません。上肢機能改善を目的とするFESでは課題指向型練習との組み合わせが重要ですが、NMESは肩関節亜脱臼など別の目的で検討されることもあります。まず何を改善するための刺激なのかを明確にします。
周波数やパルス幅は何Hz・何µsに設定すればよいですか?
脳卒中上肢FES / NMESに共通する唯一の最適値は確立していません。対象筋、目的、刺激装置、電極、患者の耐容性などで変わるため、使用機器の説明書・施設手順を基準に個別調整します。設定値だけでなく、目的とする運動が得られているか、疼痛や不快感がないかを合わせて確認します。
次の一手|介入の選択と上肢評価を分けて整理する
FES / NMESをtDCS・rTMS・BCIなど他の手段と比較し、脳卒中上肢リハ全体の中で位置付けたい場合は、脳卒中上肢ニューロモデュレーション実務総論で全体像を確認できます。
本記事ではFES / NMESの違いと実装に焦点を当てました。実際には、電気刺激そのものを目的にせず、患者の目標に必要な動作をどこまで補助でき、その変化が刺激なしの運動や実生活の上肢使用へつながるかを継続して確認することが重要です。
参考文献
- 日本脳卒中学会 脳卒中ガイドライン委員会. 脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕. 東京: 協和企画; 2025. 改訂項目
- Heart and Stroke Foundation of Canada. Canadian Stroke Best Practice Recommendations. Rehabilitation, Recovery and Community Participation following Stroke: Delivery of Stroke Rehabilitation to Optimize Functional Recovery. 7th ed. 2025. Upper Extremity Function
- Intercollegiate Stroke Working Party. National Clinical Guideline for Stroke. 2023 ed. London: Royal College of Physicians; 2023. Arm function
- Loh MS, Kuan YC, Wu CW, et al. Upper Extremity Contralaterally Controlled Functional Electrical Stimulation Versus Neuromuscular Electrical Stimulation in Post-Stroke Individuals: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Neurorehabil Neural Repair. 2022;36(7):472-482. doi:10.1177/15459683221092647
- Kristensen MGH, Busk H, Wienecke T. Neuromuscular Electrical Stimulation Improves Activities of Daily Living Post Stroke: A Systematic Review and Meta-analysis. Arch Rehabil Res Clin Transl. 2021;4(1):100167. doi:10.1016/j.arrct.2021.100167
- Howlett OA, Lannin NA, Ada L, McKinstry C. Functional electrical stimulation improves activity after stroke: a systematic review with meta-analysis. Arch Phys Med Rehabil. 2015;96(5):934-943. doi:10.1016/j.apmr.2015.01.013
- Khan MA, Fares H, Ghayvat H, et al. A systematic review on functional electrical stimulation based rehabilitation systems for upper limb post-stroke recovery. Front Neurol. 2023;14:1272992. doi:10.3389/fneur.2023.1272992
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

