MSA-PとMSA-Cの違いは「優位な運動症状」です
多系統萎縮症(multiple system atrophy:MSA)のMSA-PとMSA-Cの違いは、どちらの運動症状が優位かです。MSA-Pではパーキンソニズム、MSA-Cでは小脳性運動失調が前面にみられます。一方、起立性低血圧(OH)や排尿障害などの自律神経障害は両型で重要であり、MSA-Cだけの特徴ではありません。
また、MSA-PとMSA-Cは完全に別の病気ではなく、同じMSAの臨床型です。経過中にはパーキンソニズムと小脳症候が併存することもあるため、リハ評価では病型名だけで判断せず、現在どの症状が動作・ADL・安全性を制限しているかを確認します。
| 比較項目 | MSA-P | MSA-C |
|---|---|---|
| 病型 | Parkinsonian type | Cerebellar type |
| 優位な運動症状 | パーキンソニズム | 小脳性運動失調 |
| 目立ちやすい所見 | 動作緩慢、筋強剛、姿勢不安定、歩行障害など | 歩行失調、四肢失調、小脳性構音障害、眼球運動異常など |
| 自律神経障害 | OH、排尿障害などを確認する | OH、排尿障害などを確認する |
| 経過中の症状 | 小脳症候を併存することがある | パーキンソニズムを併存することがある |
| リハ評価の重点 | 動作速度、歩行開始、方向転換、姿勢反応など | 体幹・歩行失調、協調性、上肢操作など |
MSA-Pとは|パーキンソニズムが優位な病型です
MSA-P(MSA-parkinsonian type)は、パーキンソニズムが優位なMSAです。動作緩慢や筋強剛、姿勢不安定、歩行障害などが前面に出るため、動作場面では「動き始められるか」「方向転換で止まらないか」「姿勢を立て直せるか」といった点が重要になります。
ただし、「MSA-P=パーキンソン症状だけ」と考えるのは適切ではありません。自律神経障害や嚥下・発声の問題を伴うことがあり、経過中に小脳症候が加わることもあります。病型名だけで評価項目を限定せず、その時点で前面にある症状を確認します。
MSA-Pとパーキンソン病(PD)は同じではありません
MSA-Pはパーキンソニズムが前面に出るため、パーキンソン病(PD)と似た動作を示すことがあります。しかし、MSAとPDは別の疾患です。
MSAでは自律神経障害に加えて、比較的早期の姿勢不安定、進行の速さ、構音・嚥下障害、吸気性喘鳴(stridor)などが診断上の参考になります。また、2022年のMovement Disorder Society(MDS)診断基準では、ドパミン作動薬に対する持続的かつ大きな良好反応はMSAの診断を支持しない所見として扱われています。
ただし、PT・OT・STがこれらの所見だけからMSA-PとPDを診断するものではありません。リハでは観察した運動症状、自律神経症状、薬剤との時間関係、動作変化を記録し、医師を含むチームへ共有することが重要です。
MSA-Cとは|小脳性運動失調が優位な病型です
MSA-C(MSA-cerebellar type)は、小脳性運動失調が優位なMSAです。歩行失調、四肢失調、小脳性構音障害、眼球運動異常などが前面にみられます。
リハ評価では、単に「ふらついている」と記録するのではなく、体幹動揺、歩隔、歩行軌跡、方向転換、支持基底面、上肢の到達・操作など、どの課題で協調性が崩れているかを分けて観察します。
一方で、MSA-Cでも自律神経障害や嚥下・呼吸の問題を確認する必要があります。また、経過中にパーキンソニズムが併存することもあるため、「失調だけを追えばよい」とは限りません。
MSA-Cと脊髄小脳変性症(SCD)は失調だけでは区別できません
MSA-Cと脊髄小脳変性症(SCD)では、歩行失調や四肢失調など似た所見がみられることがあります。リハ場面で失調の見え方だけから疾患を区別することは困難です。
医療上の鑑別では、自律神経障害、パーキンソニズム、経過、家族歴、画像所見などを含めて総合的に判断されます。リハでは診断を行うのではなく、失調の程度と動作への影響を再現可能な条件で評価することが役割になります。
失調評価そのものを詳しく確認したい場合は、脊髄小脳変性症(SCD)の評価まとめも参考にしてください。
OH・排尿障害は両型で重要|嚥下・呼吸も病型を問わず確認します
MSA-PとMSA-Cを分ける基準は自律神経障害の有無ではありません。2022年MDS診断基準では、排尿障害や神経原性起立性低血圧(neurogenic OH)などの自律神経障害がMSAを考えるうえで重要な中核臨床所見に位置づけられています。
そのため、MSA-PでもMSA-Cでも、離床・歩行評価の前後には起立時の血圧変化や症状、排尿に関する情報を確認します。「MSA-Cはふらつきがあるから失調」と決めつけると、OHによる立位不安定を見落とす可能性があります。
さらに、嚥下障害、発声・構音の変化、吸気性喘鳴などの呼吸関連症状も病型を問わず注意が必要です。これらはすべてを「自律神経障害」と一括りにするのではなく、MSAで安全管理に関わる症状として並行して確認します。
両型で共通して確認したい項目
- 起立時の血圧低下、ふらつき、前失神・失神
- 尿意切迫、失禁、排尿困難、残尿に関する情報
- むせ、食事時間、湿性嗄声など嚥下に関する変化
- 構音・発声の変化
- 吸気性喘鳴など呼吸に関する変化
- 転倒、疲労、ADL低下と症状との時間関係
MSA-PとMSA-Cは経過すると症状が混ざることがあります
MSA-PとMSA-Cは互いに排他的な別疾患ではありません。MDS診断基準でも、MSA-PとMSA-Cは「predominant motor phenotype(優位な運動表現型)」に基づいて分類されます。
つまり、MSA-Pだから小脳症候が出ない、MSA-Cだからパーキンソニズムが出ない、という意味ではありません。同じ患者で両方の運動症状がみられることがあり、その時点でどちらが優位かによって臨床像を捉えます。
リハ評価でも、病型名を固定的なチェックリストとして扱うより、前回と比べて新しい症状が加わっていないか、これまでの主要症状の比重が変わっていないかを見る方が実用的です。
| 現在の所見 | 考え方 | リハで追加確認すること |
|---|---|---|
| MSA-Pでふらつきが増えた | 姿勢不安定だけでなく、小脳症候やOHなども確認する | 起立時反応、体幹動揺、歩行軌跡、方向転換 |
| MSA-Cで動作が遅くなった | 失調だけでなく、動作緩慢や筋強剛などの併存も確認する | 動作開始、反復動作、方向転換、ADL速度 |
| 両型で離床時に不安定 | 運動症状だけでなく自律神経症状を分けて確認する | 姿位変換、血圧・心拍、症状出現時刻、回復経過 |
リハ評価ではMSA-PとMSA-Cで「運動評価の重点」を変えます
病型によって変えるのは主に運動評価の重点であり、安全確認を片方だけに限定するものではありません。MSA-Pではパーキンソニズムが動作をどこで制限しているか、MSA-Cでは失調がどの姿勢・課題で増えるかを具体化します。
| 評価場面 | MSA-Pで見たい点 | MSA-Cで見たい点 |
|---|---|---|
| 起立 | 動作開始、前方移動、伸展、立位への移行速度 | 体幹軌道、支持基底面、立位後の動揺 |
| 歩行 | 歩行開始、歩幅、方向転換、停止 | 歩隔、左右動揺、歩行軌跡、ステップのばらつき |
| 姿勢制御 | 姿勢反応、立て直し、後方不安定性 | 体幹失調、静止立位と動的課題での動揺 |
| 上肢・ADL | 動作緩慢、反復動作、巧緻動作に要する時間 | 測定障害、協調性、到達・把持・操作の正確性 |
| 安全確認 | OH、排尿障害、嚥下、呼吸、転倒、疲労などは両型で確認する | |
評価結果を経時比較するときは、病型にかかわらず条件をそろえることも重要です。評価時刻、内服との時間関係、補助具、靴・装具、介助量、歩行課題などが変わると、症状そのものの変化と条件差を区別しにくくなります。
再評価時にそろえたい条件
評価時刻 / 内服との時間関係 / 姿位 / 補助具 / 靴・装具 / 介助量 / 歩行課題 / 疲労や食事との時間関係
UMSARSとSARAは目的を分けて使います
MSA全体の重症度と、失調の程度は同じ尺度で評価する必要はありません。UMSARSとSARAでは評価対象が異なるため、「どちらが優れているか」ではなく、何を経時的に追いたいかで選びます。
| 尺度 | 主な目的 | 使いやすい場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| UMSARS | MSAに伴う機能障害・運動症状などを多面的に評価する | MSA全体の重症度や経時変化を共有したいとき | MSA-P/MSA-Cの単純な判別尺度ではない |
| SARA | 失調の重症度を評価する | MSA-Cなどで失調の程度を経時的に追いたいとき | MSA特異的尺度ではなく、自律神経障害などMSA全体を評価する尺度ではない |
特にMSA-CではSARAが失調の経時評価に役立ちますが、SARAの点数だけで離床・歩行の安全性を判断することはできません。OHや嚥下・呼吸、転倒状況などは別に確認します。
よくある誤解|MSA-PとMSA-Cを分けすぎないことが重要です
MSA-PとMSA-Cの違いを理解するときは、病型ごとの典型症状を覚えるだけでなく、何が共通し、どこからは病型名だけでは説明できないかを押さえることが重要です。
| 誤解 | 整理 |
|---|---|
| MSA-PとMSA-Cは別の病気 | どちらもMSAであり、優位な運動症状による臨床型の違いです。 |
| MSA-Pには失調がない | 小脳症候を併存することがあります。 |
| MSA-Cにはパーキンソニズムがない | パーキンソニズムを併存することがあります。 |
| OHはMSA-Cで重点的に見る | OHなどの自律神経障害は病型を問わず確認します。 |
| MSA-Cのふらつきはすべて失調 | OH、筋力、薬剤、疲労など他の要因が重なっていないか確認します。 |
MSA-PとMSA-Cについてよくある質問
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MSA-PとMSA-Cは別の病気ですか?
いいえ。どちらも多系統萎縮症(MSA)であり、優位な運動症状によってMSA-PとMSA-Cに分けます。MSA-Pはパーキンソニズム、MSA-Cは小脳性運動失調が優位です。
MSA-PからMSA-Cへ変わることはありますか?
MSA-PとMSA-Cは完全に排他的な分類ではなく、同じ患者でパーキンソニズムと小脳症候が併存することがあります。経過によって臨床像の比重が変わることはありますが、「別の病気へ変わった」と捉えるより、その時点でどの運動症状が優位かを見ることが重要です。
起立性低血圧(OH)はMSA-Cの方が重要ですか?
病型だけで分けません。OHや排尿障害などの自律神経障害はMSA-PとMSA-Cの両方で重要です。立位・歩行時のふらつきを運動症状だけで説明せず、姿位変換に伴う血圧や症状の変化も確認します。
MSA-PとMSA-Cはリハ評価だけで判定できますか?
リハ評価だけで診断・病型判定を行うものではありません。PT・OT・STは、現在みられるパーキンソニズム、小脳性運動失調、自律神経症状、嚥下・呼吸などを観察し、動作やADLへの影響をチームへ共有します。
UMSARSとSARAはどちらを使えばよいですか?
目的で使い分けます。MSA全体の重症度・経時変化を捉えるならUMSARS、失調の重症度を詳しく追うならSARAが候補になります。特にMSA-Cでも、SARAだけで自律神経障害や嚥下・呼吸を含むMSA全体を評価できるわけではありません。
まとめ|MSA-PとMSA-Cは「違い」と「共通点」をセットで見ます
MSA-PとMSA-Cの最も重要な違いは、MSA-Pではパーキンソニズム、MSA-Cでは小脳性運動失調が優位なことです。一方、OHや排尿障害などの自律神経障害は両型で重要であり、嚥下・発声・呼吸についても病型を問わず確認します。
また、両型は完全に別の病気ではなく、経過中にパーキンソニズムと小脳症候が重なることがあります。リハ評価では病型名だけで項目を決めず、現在の運動症状、安全性、ADLへの影響を整理して経時的に追うことが重要です。
参考文献
- Wenning GK, Stankovic I, Vignatelli L, et al. The Movement Disorder Society Criteria for the Diagnosis of Multiple System Atrophy. Mov Disord. 2022;37(6):1131-1148. doi: 10.1002/mds.29005(PubMed).
- Wenning GK, Tison F, Seppi K, et al. Development and validation of the Unified Multiple System Atrophy Rating Scale (UMSARS). Mov Disord. 2004;19(12):1391-1402. doi: 10.1002/mds.20255(PubMed).
- Schmitz-Hübsch T, du Montcel ST, Baliko L, et al. Scale for the assessment and rating of ataxia: development of a new clinical scale. Neurology. 2006;66(11):1717-1720. doi: 10.1212/01.wnl.0000219042.60538.92(PubMed).
- 日本神経学会, 厚生労働省「運動失調症の医療基盤に関する調査研究班」監修. 脊髄小脳変性症・多系統萎縮症診療ガイドライン2018. 東京: 南江堂; 2018. 日本神経学会.
著者情報

rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。
- 脳卒中 認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級
専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

