- ST変化を認めたら、まずリハビリを中断して患者状態を確認します
- ST変化を見た直後は「中断→再評価→確認→相談」の順で動きます
- モニター心電図のST変化だけで心筋虚血とは断定しません
- ST低下1mm・2mmなどの数字だけで病棟リハの続行可否を決めません
- 12誘導心電図はモニターで気づいたST変化を追加評価する手段です
- ST変化に症状・循環変化が加わる場合は速やかに相談します
- 無症状のST変化でも、そのまま軽負荷へ変更して続けるとは限りません
- 報告は「ST変化があります」だけでなく、負荷・症状・バイタル・経過をセットにします
- 記録は「所見→患者状態→対応→その後」まで残します
- ST変化対応で避けたい3つの判断
- 次の一手|心電図全体の確認順と頻脈・徐脈の初動も整理する
- 参考文献
- 著者情報
ST変化を認めたら、まずリハビリを中断して患者状態を確認します
リハビリ中にモニター心電図で新しいST変化を認めた場合、PTが最初に行うのは「ST上昇かST低下かを診断すること」でも、「軽負荷なら続けられるかを決めること」でもありません。まず運動・離床をいったん中断し、胸痛・呼吸苦・冷汗・悪心・めまい・意識変化などの症状と、血圧・脈拍・SpO₂・呼吸数を確認します。
そのうえで、体位や電極など測定条件の影響がないか、以前からある所見か、新規・増悪した変化かを整理し、必要に応じて12誘導心電図や医師・看護師への相談へつなげます。モニター上のST変化だけから「通常継続」「軽負荷」を機械的に決めないことが重要です。
負荷を中断 → 症状・バイタル確認 → 測定条件確認 → ベースラインと比較 → 必要時に12誘導・相談の順で整理します。再開できるかどうかは、ST変化単独ではなく患者状態、既往、医師指示、追加評価を含めて個別に判断します。

ST変化を見た直後は「中断→再評価→確認→相談」の順で動きます
新しいST変化を疑った場面では、波形を詳しく読み続けるより先に運動負荷を止めます。特に歩行・離床・運動に伴って出現した変化では、「何をしていたときに、どのような変化を認めたか」を後から確認できるよう、実施内容と発生時刻も整理します。
- 運動・離床をいったん中断する
歩行や運動を止め、転倒や循環状態の悪化を避けられる安全な姿勢を確保します。 - 症状を確認する
胸痛、胸部圧迫感、呼吸苦、冷汗、悪心、動悸、めまい、失神前症状、意識変化などを確認します。 - バイタルを再測定する
血圧、脈拍、SpO₂、呼吸数、顔色などを確認し、安静時・直前値と比較します。 - 測定条件を確認する
体位、電極の位置や接触状態、体動、基線動揺など、波形の見え方へ影響する条件を確認します。 - ベースラインと比較する
安静時波形や前回波形と比較し、以前からある所見か、新規・増悪した変化かを整理します。 - 必要な追加評価・相談へつなげる
新規・増悪した虚血性変化が疑われる場合や症状・循環変化を伴う場合は、施設手順に従って医師・看護師へ共有し、12誘導心電図などの追加評価につなげます。
胸痛、強い呼吸苦、冷汗、意識変化、著しい血圧低下などを伴う場合は、ST波形の詳細な鑑別よりも患者状態の安定化と院内の急変対応・エスカレーションを優先します。
モニター心電図のST変化だけで心筋虚血とは断定しません
モニター心電図は心拍数やリズムを連続して追えることが大きな利点ですが、表示されたST変化がそのまま急性心筋虚血を意味するわけではありません。体位変化、電極位置・接触、体動、基線動揺などによってST部分の見え方が変化することがあります。
| 確認領域 | 確認する内容 | 次の判断 |
|---|---|---|
| 患者状態 | 胸痛、呼吸苦、冷汗、悪心、めまい、意識変化 | 症状を伴う場合は速やかに対応・相談する |
| 循環・呼吸 | 血圧、脈拍、SpO₂、呼吸数、顔色 | ST所見と全身状態の変化を照合する |
| 測定条件 | 体位、電極位置・接触、体動、基線動揺 | 測定条件による見かけ上の変化がないか確認する |
| 経時変化 | 安静時、前回、運動前後との違い | 新規・増悪か、既知の所見かを整理する |
ここで重要なのは、アーチファクトや測定条件を確認することと、ST変化を軽視することは別だという点です。患者状態や経過と整合する新規変化が疑われる場合は、モニターだけで判断を完結させず追加評価へつなげます。
ST低下1mm・2mmなどの数字だけで病棟リハの続行可否を決めません
「STが何mm低下したら中止するのか」は迷いやすいポイントですが、数値の意味はどの検査・どの患者・どのプロトコルで使われている基準かによって異なります。
運動負荷試験ではST偏位を含む具体的な終了・中止基準が設定されています。また、心臓リハビリテーションでは病期、疾患、運動処方、医師指示、施設プロトコルに基づいて運動中止基準が定められている場合があります。
一方、一般病棟で歩行や離床中にモニター心電図の予期しないST変化へ気づいた場面を、運動負荷試験の数値基準だけで「この値未満なら続けてよい」と判断することはできません。症状、血行動態、基礎疾患、既知の心電図所見、変化の新規性、測定条件、医師指示を合わせて考えます。
数値の使い分け:運動負荷試験や心臓リハビリテーションでは、その検査・プログラムで定められた基準を使用します。一般病棟のリハビリ中に予期しないST変化へ気づいた場合は、「何mmだから続行」と機械的に判断せず、まず負荷を中断して患者状態と変化の新規性を確認します。
12誘導心電図はモニターで気づいたST変化を追加評価する手段です
モニター心電図で新しいST変化が疑われた場合、必要に応じて12誘導心電図で複数の誘導を確認します。特に胸部症状がある、変化が持続する、以前の波形と異なる、患者状態が悪化しているなど、急性冠症候群を含む虚血性変化が疑われる状況では、モニター1誘導だけで判断を完結させません。
また、心電図は時間とともに変化することがあります。臨床的な疑いが残る場合には、医師の評価のもとで以前の12誘導心電図との比較や、経時的な心電図評価が行われることがあります。
ST上昇・ST低下の診断基準や誘導ごとの読み方を確認したい場合は、新人PT向け12誘導心電図の見方で整理しています。
ST変化に症状・循環変化が加わる場合は速やかに相談します
ST変化を認めたときは、波形の形だけで緊急度を決めません。特に患者状態の変化を伴う場合は、波形診断を確定することよりも負荷中断・再評価・報告を優先します。
| 所見 | PTが確認すること | 初動 |
|---|---|---|
| 胸痛・胸部圧迫感 | 発症時刻、持続、運動との関係、随伴症状 | 負荷を中断して速やかに共有する |
| 強い呼吸苦・冷汗・悪心 | SpO₂、呼吸数、血圧、脈拍、顔色 | 患者状態を再評価して相談する |
| 意識変化・失神前症状 | 意識状態、血圧、脈拍、呼吸状態 | 院内の急変対応を優先する |
| 血圧低下などの血行動態変化 | 直前値・安静時との差、症状、脈拍 | 負荷を再開せず相談する |
| 新規・増悪したST変化が持続 | 前回波形、測定条件、中断後の経時変化 | 12誘導を含む追加評価へつなげる |
| 新規不整脈などを併発 | 心拍数、リズム、症状、血行動態 | PT単独で続行判断せず共有する |
施設独自の急変対応基準、心臓リハビリテーション中止基準、主治医指示がある場合は、それらを優先します。
無症状のST変化でも、そのまま軽負荷へ変更して続けるとは限りません
無症状だからといって、新しいST変化を安全と判断することはできません。一方、モニターにST変化が表示されたという理由だけで急性心筋虚血と断定することもできません。
無症状の場合も、まず負荷を中断し、体位・電極接触・体動などの測定条件を確認します。そのうえで安静時・前回波形との比較、血圧や脈拍などの患者状態を整理し、新規・増悪が疑われる場合は医師・看護師へ共有します。
「無症状だから軽負荷」という固定ルールではなく、ST変化の信頼性、新規性、患者背景、追加評価、医師指示を含めて再開可否を判断することが重要です。
報告は「ST変化があります」だけでなく、負荷・症状・バイタル・経過をセットにします
相談時には、ST上昇・ST低下という言葉だけでなく、何をしているときに変化し、患者がどう反応したかを伝えると次の判断につながります。
- ST変化を認めた時刻
- 安静時か、歩行・離床・運動中か
- 実施していた運動・動作と負荷
- モニター上で確認した変化
- 胸痛、呼吸苦、冷汗、悪心、めまいなどの症状
- 血圧、脈拍、SpO₂、呼吸数
- 負荷中断後に改善したか、持続したか
- 前回または安静時波形との違い
- 測定条件を確認した結果
急変時の情報共有を整理したい場合は、SBARによる中止・相談の伝え方も参考にしてください。
記録は「所見→患者状態→対応→その後」まで残します
ST変化の記録では、診断名をPT単独で確定したように書くのではなく、観察できた事実と患者状態、実施した対応を分けて残します。
歩行練習開始後、モニター上で安静時には認めなかったST変化を確認したため歩行を中断。胸痛・呼吸苦・冷汗なし。座位にて血圧○○/○○mmHg、脈拍○○/min、SpO₂○○%。体位および電極接触を確認後も変化が持続したため看護師へ報告。医師確認後、本日の運動再開可否を再検討する方針となった。
「ST低下=心筋虚血」などと診断を確定するのではなく、どの波形変化を、どの状況で確認し、患者状態がどうで、何を行い、誰へ共有したかを記録します。
ST変化対応で避けたい3つの判断
新人PTで特に避けたいのは、数値や波形だけから介入可否まで一気に決めてしまうことです。
| 避けたい判断 | 問題点 | 修正方法 |
|---|---|---|
| 無症状だから軽負荷で続ける | 新規変化の意味を確認できていない | いったん中断し、新規性・測定条件・患者状態を確認する |
| ○mm未満だから安全と判断する | 異なる検査・プロトコルの基準を一般化している | 数値基準の出典と適用場面を確認する |
| モニターST変化=心筋虚血と断定する | 体位・電極・既存所見などを考慮できない | 患者状態、前回波形、必要時の12誘導などと照合する |
次の一手|心電図全体の確認順と頻脈・徐脈の初動も整理する
ST変化への初動が整理できたら、心電図全体をどの順番で確認するか、ST変化以外の心拍数・リズム異常をどう扱うかまで整理すると、病棟リハでの安全確認をつなげやすくなります。
参考文献
- Makita S, Yasu T, Akashi YJ, et al. JCS/JACR 2021 Guideline on Rehabilitation in Patients With Cardiovascular Disease. Circ J. 2023;87(1):155-235. doi: 10.1253/circj.CJ-22-0234.
- Sandau KE, Funk M, Auerbach A, et al. Update to Practice Standards for Electrocardiographic Monitoring in Hospital Settings: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2017;136(19):e273-e344. doi: 10.1161/CIR.0000000000000527.
- Fletcher GF, Ades PA, Kligfield P, et al. Exercise Standards for Testing and Training: A Scientific Statement From the American Heart Association. Circulation. 2013;128(8):873-934. doi: 10.1161/CIR.0b013e31829b5b44.
- Rao SV, O’Donoghue ML, Ruel M, et al. 2025 ACC/AHA/ACEP/NAEMSP/SCAI Guideline for the Management of Patients With Acute Coronary Syndromes. Circulation. 2025;151(13):e771-e862. doi: 10.1161/CIR.0000000000001309.
著者情報
rehabilikun(理学療法士)
rehabilikun blogを2022年4月に開設。急性期・回復期・療養病棟、介護福祉施設、訪問リハビリテーションでの臨床経験をもとに、理学療法評価、臨床手順、記録用紙、医療制度などの実務情報を発信しています。
現在は療養病院に勤務し、脳卒中、褥瘡・創傷ケア、リハビリテーション栄養、呼吸リハビリテーションを中心に臨床・教育活動を行っています。
保有資格
- 脳卒中認定理学療法士
- 褥瘡・創傷ケア認定理学療法士
- 登録理学療法士
- 3学会合同呼吸療法認定士
- 福祉住環境コーディネーター2級

