移動用リフトの導入判断|抱え上げ介助を減らす評価と記録

臨床手技・プロトコル
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移動用リフトは抱え上げ介助を減らすための選択肢です

移動用リフトは、ベッドから車椅子、車椅子から便座などへの移乗が自力では難しい対象者に対して、身体をつり上げる、または体重を支えることで移動を補助する福祉用具です。リハビリ場面では「まだ立位移乗でいけるか」「スライディングボードでよいか」「リフトへ切り替えるべきか」を判断する場面で迷いやすくなります。

この記事では、PT / OT が現場で使いやすいように、移動用リフトの導入判断、立位移乗・スライディングボードとの使い分け、導入前の環境確認、介護職・家族への申し送り、記録例を整理します。福祉用具制度の網羅解説ではなく、「抱え上げ介助を続けないために、どの条件でリフトを検討するか」を決めるための記事です。

この記事で扱う範囲

この記事で扱うのは、移動用リフトの導入判断です。リフト機種ごとの製品比較や価格比較ではなく、対象者の状態、介助量、環境条件、介護職・家族の運用しやすさを確認し、どのタイミングでリフトを検討するかを整理します。

介護保険では、移動用リフトは福祉用具貸与の対象種目に含まれます。ただし、身体を包み込む「つり具部分」は貸与ではなく、特定福祉用具販売側で扱われます。制度上の細かな可否は、ケアマネジャー、福祉用具専門相談員、市区町村の判断とあわせて確認します。

導入判断は立位保持・座位保持・介助量で分けます

移動用リフトを検討するときは、最初から「リフトありき」で考えるのではなく、立位保持、座位保持、移乗時の介助量を分けて確認します。立位が安定していれば立位移乗を検討し、座位保持は可能だが立位が不安定であればスライディングボードなどの座位移乗を検討します。座位保持も不安定、協力動作が乏しい、介助者が抱え上げている場合は、移動用リフトを候補に入れます。

特に重要なのは、「できる・できない」だけで判断しないことです。1 回だけ立てる対象者でも、疲労、疼痛、膝折れ、皮膚トラブル、介助者の腰痛リスクが大きければ、毎日のケアとしてはリフトの方が安全に標準化しやすい場合があります。

移動用リフト導入を検討するための基本判断表
確認項目 立位移乗を検討 ボード等を検討 リフトを検討
立位保持 短時間でも安定して保持できる 立位は不安定だが座位は保てる 立位保持が困難、膝折れが強い
座位保持 端座位が安定している 端座位はおおむね可能 端座位保持に介助を要する
協力動作 足底接地、前方重心移動、合図理解が可能 上肢支持や体幹前傾は一部可能 合図理解が乏しい、急な伸展・抵抗がある
介助量 軽介助〜中等度介助で再現できる 2 人介助や座面差調整で可能 抱え上げ、持ち上げ、引き上げが必要
リスク 膝折れ・疼痛・皮膚ずれが少ない 摩擦・ずれに注意すれば実施可能 転落、疼痛、褥瘡、介助者腰痛のリスクが高い

立位移乗・スライディングボード・リフトの使い分け

移乗方法の選択では、「本人の能力を活かすこと」と「抱え上げ介助を避けること」を同時に考えます。立位保持が可能なら、足部位置、座面高、車椅子角度を整えたうえで立位移乗を検討します。座位保持は可能だが立位が不安定な場合は、スライディングボードやスライディングシートで水平移動に近づけます。

一方で、座位保持が崩れる、疼痛や拘縮が強い、介助者が毎回持ち上げている、トイレや入浴場面で事故リスクが高い場合は、リフト導入を検討します。リフトは「最後の手段」ではなく、対象者と介助者の双方を守るための方法変更として位置づけると、現場で受け入れやすくなります。

移乗方法の選び方。立位移乗、スライディングボード、移動用リフトを立位保持・座位保持・抱え上げ介助・リスクから判断するフロー図
立位保持、座位保持、抱え上げ介助、疼痛・褥瘡・腰痛リスクから移乗方法を整理する判断フロー。
移乗方法の使い分け:立位移乗・ボード・リフト
方法 向いている状態 注意点 記録のコツ
立位移乗 端座位、足底接地、短時間立位が可能 膝折れ、回旋時の崩れ、着座時の制動不足 足位置、座面高、介助者位置を残す
スライディングボード 座位保持は可能だが立位が不安定 座面差、皮膚ずれ、体幹崩れ、ボード抜去時の姿勢 座面差、移動方向、必要介助量を残す
移動用リフト 座位保持が不安定、重介助、抱え上げが発生 つり具のサイズ、装着手順、ベッド下スペース、着座位置 導入理由、使用場面、介助者数、再評価日を残す

導入前チェックは環境・車椅子・便座・つり具を分けて確認します

移動用リフトは、対象者の状態だけでなく、使用環境に大きく左右されます。ベッド下に脚部を差し込めるか、床走行式リフトが旋回できるか、車椅子のアームサポートやフットサポートが邪魔にならないか、便座やポータブルトイレで安全に着座できるかを事前に確認します。

つり具は、体格や身体状況に合っていないと、圧迫、滑り落ち、痛み、着座位置のずれにつながります。リハ職は単独で製品選定を完結させるのではなく、福祉用具専門相談員、看護師、介護職、家族と一緒に「どの場面で、誰が、どの手順で使うか」を確認します。

移動用リフト導入前チェック:環境と用具の確認
確認領域 見るポイント 詰まりやすい点 対策
ベッド周囲 ベッド下高、ベッド位置、左右の作業スペース リフト脚部が入らない、旋回できない ベッド位置変更、周囲整理、機種再検討
車椅子 アームサポート、フットサポート、座面高、ブレーキ 着座位置が浅い、フットサポートに接触する 車椅子設定、クッション、着座後姿勢を再確認
トイレ 便座高、手すり位置、脱衣動作、方向転換スペース 下衣操作が不安定、便座へ正確に下ろせない 使用場面を限定し、排泄手順を別途標準化
つり具 サイズ、支持部位、股関節・肩関節への負担 圧迫、痛み、滑り、装着ミス 福祉用具専門相談員と適合確認し、装着手順を固定
介助者 操作経験、人数、手順理解、緊急時対応 「時間がかかる」と使われなくなる 初回は練習日を設け、申し送りを 1 枚にまとめる

現場の詰まりどころ:導入しても使われない原因

移動用リフトは、導入すれば自動的に使われるわけではありません。現場で多い失敗は、リフトの必要性は共有されているのに、使用場面、手順、保管場所、つり具の選び方が曖昧なまま始まることです。その結果、「時間がかかる」「準備が面倒」「誰かがやり方を知らない」となり、結局抱え上げ介助に戻ってしまいます。

導入時は、対象者の能力評価だけでなく、介助者が再現できる運用に落とすことが重要です。リハ職は「リフトを使いましょう」で終わらせず、どの場面で使うか、何人で行うか、どこに置くか、使用後に何を記録するかまでセットで申し送ります。

移動用リフト導入後によくある失敗と対策
よくある失敗 起きやすい原因 すぐできる対策 記録のコツ
使う場面が曖昧 ベッド移乗、トイレ、入浴で判断が分かれる 「必ず使う場面」と「見守る場面」を分ける 場面別に方法を記録する
つり具装着で迷う サイズ、向き、支持部位が共有されていない 写真なしでも分かる手順文にする 装着時の注意点を 1 行で残す
着座位置がずれる 車椅子位置、リフト下降位置、骨盤位置が不適 車椅子角度と着座後の骨盤位置を固定する 着座後の姿勢修正量を残す
結局抱え上げる リフト保管場所が遠い、時間がない、操作不安がある 保管場所、担当者、練習日を決める 抱え上げが発生した理由を残す

現場の介助方法が属人化していると感じたら

リフト導入だけでなく、教育体制・記録文化・申し送りの標準化も見直すと、介助方法がチームでそろいやすくなります。

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記録例:導入理由・使用条件・再評価日を残します

移動用リフトの記録では、単に「リフト使用」と書くだけでは不十分です。導入理由、使用場面、対象者の反応、介助者数、環境条件、再評価日を残すことで、チーム内で方法がそろいやすくなります。

特に、導入直後は「安全に使えたか」だけでなく、「毎日のケアで続けられるか」を見ます。リフト使用に時間がかかる、つり具装着で迷う、着座位置がずれる、トイレでは使いにくいなどの情報は、次回調整の重要な材料になります。

移動用リフト導入時の記録例
場面 記録例 残したい情報
導入判断 端座位保持に軽介助を要し、立位保持は膝折れあり。ベッド⇄車椅子移乗で抱え上げが生じるため、移動用リフト導入を検討。 座位・立位・介助量・導入理由
初回使用 床走行式リフトを使用し、ベッド⇄車椅子移乗を 2 人介助で実施。つり具装着時に右股関節屈曲で疼痛訴えあり、支持位置を再確認。 機種、介助者数、疼痛、つり具適合
環境調整 ベッド下高はリフト脚部挿入可能。車椅子は左 30 度配置で着座位置良好。フットサポートは事前に開放する。 ベッド、車椅子角度、事前準備
申し送り ベッド⇄車椅子はリフト使用を標準とする。トイレ移乗は現時点では未実施。介護職 2 名で手順確認後、1 週間後に再評価予定。 使用場面、未実施場面、再評価日

A4 チェックシート化するならこの項目です

PDF 配布記事にする場合は、本文の要点を A4 1 枚の「移動用リフト導入判断チェックシート」に落とすと実用性が高まります。チェックシートは、評価用というよりも、介護職・家族・福祉用具専門相談員と同じ条件を見ながら話すための共有シートとして使うと便利です。

シートに入れる項目は、対象者の身体機能だけでなく、環境、つり具、介助者、使用場面、再評価日まで含めます。リフト導入は「使えるか」よりも「継続して安全に使えるか」が重要です。

移動用リフト導入判断チェックシートに入れたい項目
項目 チェック内容 記入例
身体機能 端座位、立位保持、疼痛、拘縮、認知面 端座位軽介助、立位保持困難、右股関節痛あり
移乗場面 ベッド、車椅子、便座、入浴、床上移動 ベッド⇄車椅子のみリフト使用から開始
環境 ベッド下高、作業スペース、床面、保管場所 ベッド左側スペース不足、家具移動で対応
つり具 サイズ、支持部位、装着しやすさ、皮膚圧迫 M サイズ候補、腋窩圧迫なし、股部支持要確認
介助者 人数、操作経験、練習日、申し送り方法 初回 2 人介助、介護職へ手順共有予定
再評価 導入後の使用状況、疼痛、時間、継続可否 1 週間後に使用場面と着座姿勢を再評価

よくある質問

各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。

移動用リフトは、どのタイミングで検討すればよいですか?

立位保持が不安定、座位保持に介助を要する、毎回抱え上げが生じる、疼痛・褥瘡・転落リスクが高い、介助者の腰痛リスクが大きい場合に検討します。特に「何とか立てる」状態でも、毎日のケアとして再現性が低い場合は、リフト導入を候補に入れます。

スライディングボードとリフトはどう使い分けますか?

座位保持が可能で、座面差や皮膚ずれを管理できる場合は、スライディングボードを検討します。座位保持が不安定、体幹が崩れる、疼痛や拘縮が強い、介助者が持ち上げている場合は、リフトを検討します。ボードで無理に続けるより、リフトに切り替えた方が安全な場合があります。

リフト導入後に使われなくなる原因は何ですか?

使用場面が曖昧、つり具装着に不安がある、保管場所が遠い、操作練習が不足している、着座位置がずれるなどが主な原因です。導入時は、対象者の評価だけでなく、介護職が再現できる手順、保管場所、使用場面、記録方法まで決めることが重要です。

トイレ移乗にもリフトは使えますか?

使用できる場合もありますが、便座高、手すり位置、下衣操作、つり具の形状、方向転換スペースを確認する必要があります。ベッド⇄車椅子では使えても、トイレでは使いにくい場合があります。最初から全場面で使うのではなく、場面ごとに安全性と再現性を確認します。

記録には何を書けばよいですか?

導入理由、対象者の座位・立位能力、使用場面、介助者数、つり具の適合、環境条件、対象者の反応、再評価日を残します。「リフト使用」の一言では、次のスタッフが同じ条件で再現しにくいため、場面と条件をセットで記録します。

次の一手

移動用リフトの導入判断は、単独で考えるよりも、移乗全体の流れの中で整理すると実装しやすくなります。まずは、立位移乗、座位移乗、リフト移乗のどこで詰まっているかを確認し、対象者の能力と環境条件を分けて記録しましょう。


参考文献

  1. 厚生労働省. 福祉・介護福祉用具・住宅改修. https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000212398.html
  2. 厚生労働省. 介護保険における福祉用具の選定の判断基準. https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001635548.pdf
  3. 厚生労働省. 職場における腰痛予防対策指針及び解説. https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001376468.pdf
  4. 厚生労働省. 職場における腰痛予防対策指針. https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/001376471.pdf
  5. Occupational Safety and Health Administration. Safe Patient Handling. https://www.osha.gov/healthcare/safe-patient-handling

著者情報

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rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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