ハリスベネディクトの式とは?日本人・高齢者の必要エネルギー量

栄養・嚥下
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ハリス・ベネディクトの式とは?(役割と限界)

ハリスベネディクトの式( Harris–Benedict equation / HB )とは、体重・身長・年齢・性別から 基礎代謝量( BMR ) を推定する古典的な回帰式です。1984 年の 改訂ハリスベネディクトの式 と、1990 年の Mifflin–St Jeor( MSJ ) が現在の主流で、推定した BMR に 活動係数( PAL / activity factor )ストレス係数( stress factor ) を掛けて、1 日の 必要エネルギー量 を求めるのが基本的な考え方です。

ただし、ハリスベネディクトの式は欧米人データをもとに作られており、日本人や高齢者にそのまま当てはめると誤差が大きくなる場合があります。サルコペニアや低栄養、高度肥満・浮腫・切断など体組成が偏った症例では特に注意が必要で、本来は 間接熱量測定 が優先です。日本では 食事摂取基準 2025 の基礎代謝基準値 をベースにしつつ、ハリスベネディクトの式を「目安」として併用し、体重推移や摂取量で補正していく運用が現実的です(詳しくは 栄養スクリーニング運用 も参照してください)。

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式と計算手順(改訂 HB/MSJ/日本人の基準値)

成人では、改訂ハリスベネディクトの式、MSJ、そして 日本人向けの基礎代謝基準値 の 3 ルートを押さえておけば実務上は十分です。式はメートル法(体重= kg・身長= cm・年齢= 歳)で、W=体重・H=身長・A=年齢 とします。まず BMR を求め、EER(必要エネルギー量)≒ BMR × 活動係数( PAL ) を基本形として、必要に応じてストレス係数を乗じます。

基礎代謝推定の代表式と特徴(成人・ 2025 年時点の運用目安)
区分 男性 女性 メモ
改訂 HB( 1984 ) BMR = 13.397 × W + 4.799 × H − 5.677 × A + 88.362 BMR = 9.247 × W + 3.098 × H − 4.330 × A + 447.593 いわゆる「ハリスベネディクトの式」。標準体格では妥当だが、肥満・るいそう・浮腫では誤差が増えやすい。Roza & Shizgal 1984
MSJ( 1990 ) BMR = 10 × W + 6.25 × H − 5 × A + 5 BMR = 10 × W + 6.25 × H − 5 × A − 161 外来成人(肥満含む)で実測値とのずれが比較的小さいとの報告が多く、ハリスベネディクトの式の代替として広く使われる。Mifflin 1990
基礎代謝基準値(日本人) BMR ≒ 基礎代謝基準値( kcal/kg/日 ) × 体重( kg ) 日本人データに基づく枠組み。年齢・性別で基準値が異なり、栄養指導や診療報酬との整合性を取りやすい。食事摂取基準 2025

臨床現場の「簡易式」としては、BMR の計算を省略して 安静高齢者なら 25 kcal/kg/日 前後、ADL 自立+リハ介入ありなら 30 kcal/kg/日 前後など、体重 × 係数で必要エネルギー量をざっくり推定する方法も使われます。ただし、これはあくまでハリスベネディクトの式をさらに単純化した目安であり、体重・摂取量・浮腫の変化を必ずセットで確認 することが前提です。

計算例(高齢者: 65 歳・女性・ 155 cm・ 50 kg )

高齢者を想定した症例で、ハリスベネディクトの式・MSJ・日本人の基礎代謝基準値を比較します。いずれも四捨五入は ± 1 kcal 程度です。

  • 改訂 HB:約 1,109 kcal/日( 9.247 × 50 + 3.098 × 155 − 4.330 × 65 + 447.593 )
  • MSJ:約 983 kcal/日( 10 × 50 + 6.25 × 155 − 5 × 65 − 161 )
  • 基準値 × 体重:約 1,035 kcal/日( 65–74 歳女性 基礎代謝基準値 20.7 × 50 )

この高齢女性では、「ハリスベネディクトの式」「MSJ」「日本人の基準値」の違いは ± 100 kcal/日 程度に収まっています。活動係数( PAL )を「ふつう= 1.75」とすると EER ≒ 1,811 kcal/日( 1,035 × 1.75 )。「低い 1.5」なら約 1,553、「高い 2.0」なら約 2,070 kcal/日が目安です。リハ介入や活動量、栄養介入後の体重推移をみながら、2〜4 週ごとに必要エネルギー量を微調整します。

活動係数とストレス係数の考え方

ハリスベネディクトの式を用いる場合、最初に BMR を求め、次に 活動係数( PAL )ストレス係数 を掛けて必要エネルギー量を推定するのが基本です。成人の活動係数はおおよそ 低い= 1.5/ふつう= 1.75/高い= 2.0 が目安で、「ふつう」は自立 ADL に加えて一定の歩行・家事・軽運動を含んだ生活像を指します。

急性期や周術期では、炎症・発熱・創傷治癒・敗血症などに応じてストレス係数(例:軽度のストレス 1.1〜1.2、中等度 1.2〜1.3 など)を乗じることがありますが、施設の NST や診療科ごとのプロトコルが優先 です。ハリスベネディクトの式は「おおよそのレンジを掴む」ためのツールと捉え、最終的な投与量は血糖・電解質・窒素出納・体重などの経過を見ながらチームで決定しましょう。

臨床での使い分け(高齢者・日本人の実務目安)

日本の高齢者リハでは、日本人の基礎代謝基準値 × 活動係数 を起点にしつつ、ハリスベネディクトの式/MSJ を「補助的な確認」に使うイメージが安全です。特にフレイル・サルコペニアが疑われるケースでは、見かけの体重だけでなく 筋量・浮腫・褥瘡・創傷の有無 を合わせて評価し、「数値の正しさ」よりも 体重・筋力・ ADL の変化が改善方向に向かっているか を重視します。

一方で、肥満を伴う生活習慣病患者など、減量目的で必要エネルギー量を設定する場合は、MSJ やハリスベネディクトの式を用いた上で、栄養士主導の減量計画に沿うことが多くなります。いずれの場合も、EER はあくまで スタート地点。体重・体組成・浮腫・創部治癒・活動量の変化を見ながら、2〜4 週サイクルで見直していくことが重要です(回遊導線:MNA-SF×MUST×GNRI 比較)。

よくあるミス(チェックリスト)

  • 式の単位を混在させる( H を m で入れる/体重を lb で入力する など)。
  • 年齢を前年のままにして計算し続け、BMR の低下を見逃している。
  • 実際の生活像より高い活動係数を選び、必要エネルギー量を過大評価している。
  • 減量・増量の方針を明確にせず、現在体重と目標体重を混同してハリスベネディクトの式に代入している。
  • 推定 EER を一度決めたら固定し、体重・摂取量・浮腫・創傷治癒などの変化で見直していない。

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参考文献(一次情報中心)

  • Mifflin MD, et al. A new predictive equation for resting energy expenditure in healthy individuals. Am J Clin Nutr. 1990;51(2):241–247. doi:10.1093/ajcn/51.2.241. PubMed
  • Roza AM, Shizgal HM. The Harris Benedict equation reevaluated. Am J Clin Nutr. 1984;40(1):168–182. doi:10.1093/ajcn/40.1.168. PubMed
  • Frankenfield D, et al. Comparison of predictive equations for resting metabolic rate in healthy nonobese and obese adults: a systematic review. J Am Diet Assoc. 2005;105(5):775–789. doi:10.1016/j.jada.2005.02.005.
  • 厚生労働省. 日本人の食事摂取基準( 2025 年版 )関連資料. PDF
  • (参考)成人の身体活動レベル( PAL )の定義と代表値:総説(日本栄養・食糧学会誌)。J-STAGE

おわりに

ハリスベネディクトの式や MSJ は、スクリー二ング → 推定式での必要エネルギー量の算出 → 食事記録 → 体重・体組成の再評価 という一連の流れの「入口」を整えるツールです。特に高齢者や日本人では、式そのものの精度よりも、推定値を起点に 小さく試して小さく修正するサイクル を回せているかどうかがアウトカムを分けます。誤差を恐れて数字から目を背けるのではなく、「だいたいこのレンジ」という共通言語をチームで持つことが、リハと栄養の連携をスムーズにしてくれます。

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よくある質問

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ハリスベネディクトの式と MSJ、どちらを優先して使えばよいですか?

外来成人(肥満を含む)では、実測とのずれが比較的小さいとされる MSJ を優先する報告が多く、一方で日本の制度や栄養指導との整合性を重視する場面では 基礎代謝基準値 × 活動係数 を起点にし、ハリスベネディクトの式は参考とする使い方が現実的です。高齢者リハでは、まず日本人の基準値でレンジをつかみ、MSJ/HB は「数字の妥当性チェック」として併用するイメージが安全です。

高齢者やサルコペニア患者にハリスベネディクトの式を使っても大丈夫ですか?

高齢者・サルコペニア・サルコペニア肥満では、見かけの体重に対して骨格筋量が少ないため、ハリスベネディクトの式でも MSJ でも 実際より高めに推定されるリスク があります。そのため、式だけで判断せず、体重・筋力・歩行能力・浮腫・褥瘡や創傷の経過 をセットで観察し、2〜4 週ごとに必要エネルギー量を見直すことが重要です。迷うときは、NST や管理栄養士と相談しながら、やや低めからスタートして臨床経過を見て調整します。

ストレス係数は理学療法士がどこまで意識しておくべきですか?

ストレス係数(感染・術後・重症度に応じた上乗せ)は、最終的には主治医や NST の方針に従いますが、「どういう状態でエネルギー需要が増えるか」 を理解しておくとリハ介入の説得力が高まります。PT としては、発熱・炎症マーカー・創傷治癒・褥瘡のステージなどを観察しつつ、「現在の投与量で体重や筋力がどう推移しているか」をフィードバックする役割を意識できれば十分です。

著者情報

rehabilikun(理学療法士)

rehabilikun blog を 2022 年 4 月に開設。医療機関/介護福祉施設/訪問リハの現場経験に基づき、臨床に役立つ評価・プロトコルを発信。脳卒中・褥瘡などで講師登壇経験あり。

  • 脳卒中 認定理学療法士
  • 褥瘡・創傷ケア 認定理学療法士
  • 登録理学療法士
  • 3 学会合同呼吸療法認定士
  • 福祉住環境コーディネーター 2 級

専門領域:脳卒中、褥瘡・創傷、呼吸リハ、栄養(リハ栄養)、シーティング、摂食・嚥下

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