脳卒中評価は「使い分け」で最短決定(急性期・回復期・生活期)
脳卒中リハでは「いま何を決めたいか」から逆算してスケールを選ぶと迷いません。急性期は 重症度と危険サイン、回復期は 機能回復のトラッキング、生活期は ADL と歩行の自立度 が主眼です。本稿は“まとめ”ではなく、現場の意思決定に直結する 選び方ガイド+おすすめ 5 選として設計しています。
各スケールの詳細手順やダウンロードは当ブログ内の個別解説・ハブに集約済みです。本稿では 所要時間・必要道具・判定のコツ・代表的な解釈ポイントを一目で比較し、症例文脈に応じた「組み合わせ例」まで提示します。評価フローの考え方は こちら(#flow) も参照してください。
選定基準:妥当性・再現性・所要時間・道具・天井/床効果
選定の軸は ①妥当性(対象と目的の適合)②再現性(同一患者・評価者間)③所要時間(忙しい現場で回るか)④必要道具(病棟にあるか)⑤天井/床効果(変化を拾えるか)の 5 点です。加えて家族説明のしやすさ、チーム共有の簡便さも重視します。
本記事の 5 選は、急性期の「重症度の客観化」、回復期の「機能回復の軌跡」、生活期の「体幹・歩行・ADL の安定化」を想定し、国内利用実績・ガイドライン言及・臨床研究の蓄積を基準に選定しました。
目的別アルゴリズム(最短ルート)
①初診:意識・バイタルの安定確認 → JSS で重症度 → ②麻痺・感覚・失行/失語などを SIAS で構造化 → ③上肢機能の回復見通しは FMA-UE → ④座位バランス/体幹は FACT → ⑤回復段階共有は BRS。ADL や歩行カテゴリは必要に応じてハブから併用します。
フェーズ別の目標設定:急性期=「合併症予防と離床安全」、回復期=「機能回復カーブの最大化」、生活期=「転倒予防と参加」。評価→目標→介入→再評価を 1〜2 週で回し、変化量と解釈ポイントで方針を見直します。
用途別おすすめ 5 選(要点)
- JSS(Japan Stroke Scale):急性期の重症度を加重点で定量化。初期方針と病棟共有に有用。
- SIAS:麻痺・感覚・高次脳・体幹など多領域を網羅。回復期の全体像整理に適する。
- FMA-UE:上肢機能の金字塔。介入効果の検出力が高く、研究と臨床で広く利用。
- FACT:体幹コントロールを短時間で。歩行自立や立ち上がりの予測にも関連。
- BRS(Brunnstrom Recovery Stage):回復段階の共通言語。家族説明やゴール共有に便利。
比較表(目的・時間・道具・解釈・再現性)
| スケール | 主な目的 / 対象 | 所要時間 | 必要道具 | 判定のコツ | 解釈の目安 | 再現性(概略) | DL / 解説 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| JSS | 急性期の重症度。初期対応・病棟共有。 | 3–5 分 | 特記事項なし | 事前説明→指示の標準化。片側無視・言語へ配慮。 | 総点の経時変化で治療反応とリスク把握。 | 急性期で信頼性・応答性の報告あり。 | 脳卒中ハブ |
| SIAS | 麻痺・感覚・高次脳・体幹の網羅評価。 | 10–20 分 | ピン・ハンマー等 | 項目順・姿勢条件を固定。動画活用で再現性↑。 | 領域別スコアでボトルネック特定。 | 領域横断の評価として妥当性・再現性の蓄積。 | 評価ハブ |
| FMA-UE | 上肢機能の回復トラッキング。 | 20–30 分 | 反射検査具 など | 学習効果が出やすい→標準手順で統制。 | 変化検出感度・MCID 報告多数。 | 評価者間信頼性が高い報告。 | 評価ハブ |
| FACT | 体幹コントロールの短時間評価。歩行と関連。 | 5–10 分 | 段差・台 など | 安全第一。骨盤制御と代償の観察を重視。 | 合計点と独歩獲得の関連報告。 | 近年の妥当性・予測研究が増加。 | 脳卒中ハブ |
| BRS | 回復段階の共有・目標設定の共通言語。 | 3–5 分 | 特記事項なし | 誘発・共同運動の出方を系統的に確認。 | 段階と ADL 予後の関連報告が多数。 | 古典的だが臨床信頼性の検討が豊富。 | 評価ハブ |
注)解釈は施設・対象で異なります。原著・レビューおよび当ブログ各解説をご確認ください。
症例シナリオ別「組み合わせ例」
- 急性期(右中大脳動脈・弛緩期):JSS → SIAS(感覚/高次脳) → BRS。離床安全は FACT の一部で補助。
- 回復期(上肢主体の機能回復):SIAS(運動)→ FMA-UE を主指標 → 体幹の遅れがあれば FACT を追加。
- 生活期(屋外歩行と転倒予防):FACT で体幹、必要に応じ歩行カテゴリやバランス系を併用。経時で SIAS の残存課題を再評価。
よくあるミスと回避策(再現性を下げないために)
- 手順の省略:所要時間短縮が目的でも順序・姿勢・声かけは固定する。
- 同日・同条件での再評価不足:時間帯・鎮痛・装具の影響をログ化。
- 天井/床効果の見落とし:FMA-UE 高得点帯や BRS 末期は別指標を追加。
- 「体幹抜け」のまま歩行指標評価:FACT を早期に入れて転倒予防を加速。
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FAQ(各項目名をタップすると回答が開きます)
各項目名をタップ(クリック)すると回答が開きます。もう一度タップで閉じます。
SIAS と FMA はどちらを優先すべき?
全体像の把握とボトルネック特定には SIAS、上肢機能の回復トラッキングと介入効果検出には FMA-UE を。初期は SIAS+JSS、回復期は FMA-UE+FACT を軸にすると迷いにくいです。
BRS は古い? まだ使う意味は?
回復段階を一言で共有できる利点は依然として大きく、家族説明にも有用です。詳細評価は SIAS や FMA で補完しましょう。
体幹を手早く見たい場合の代替は?
時間がない場面でも FACT の一部項目で代償や骨盤制御の質が見えます。離床初期は安全確保を最優先に。
関連リンク(同一タブ)
- 脳卒中ハブ(重症度・体幹・歩行・ADL の個別記事へ)
- 評価ハブ(評価スケールの索引)
- 脳卒中ガイドライン 2025(PT 更新メモ)
参考文献
- Chino N, Sonoda S, et al. Stroke Impairment Assessment Set(SIAS). Jpn J Rehabil Med. 1994;31(2):119–125. DOI
- Gotoh F, et al. Development of a Novel, Weighted, Quantifiable Stroke Scale(JSS). Stroke. 2001;32(8):1800–1807. DOI
- Gladstone DJ, et al. The Fugl-Meyer Assessment of Motor Recovery after Stroke: A Critical Review. Neurorehabil Neural Repair. 2002;16(3):232–240. DOI
- Sato K, et al. The Functional Assessment for Control of Trunk(FACT). NeuroRehabilitation. 2021;48(1):59–66. DOI
- Brunnstrom S. Motor Testing Procedures in Hemiplegia: Based on Sequential Recovery Stages. Phys Ther. 1966;46(4):357–375. DOI


